2018.09.20
ミラティブ 赤川隼一の失敗に学ぶ、愛されるプロダクトの作り方

ミラティブ 赤川隼一の失敗に学ぶ、愛されるプロダクトの作り方

ミラティブ 赤川隼一氏が失敗から学んだのは「派手なPRに潜む弊害」「高い目標よりユーザーの熱量を重視する」など。「愛されるサービスづくり」のポイントを解説!

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ミラティブ 赤川隼一が「愛されるサービスづくり」のポイントを解説!

車のコミュニティアプリ『CARTUNE』、コスメのクチコミコミュニティアプリ『LIPS』、スマホ一台でゲームのストリーミング配信ができる『Mirrativ』の3社合同で実施されたトークイベントの内容をお届けします。


「僕が盛大に踏んできた地雷を共有したいと思います」

そういってミラティブ代表の赤川隼一さんは話し始めた。

「コミュニティサービスは反・直感的」(直感的・ロジック的には正しそうなことが往々にしてアンチパターンになる)と語る赤川さんが経験してきた数々の失敗。そこから逆説的に得た教訓を明かしてくれた。

・教訓①「初期の派手なマーケティングやPRの弊害を理解する」
・教訓②「バイユーザー(投稿者兼閲覧者)を大事にする」
・教訓③「ユーザーの熱量とその伸びを指標にする」
・教訓④「Y Combinatorのような集合知に向き合う」


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『ミラティブ』の特徴としては、アクティブユーザーの20%以上が配信者。とにかく投稿、配信のハードルが低い。皆で配信し合う世界観が醸成されている。アクティブユーザー1人あたりの配信時間・視聴時間が毎日平均100分。先月には、スマホ1台だけで誰でもバーチャルYouTuberのようにアバターを着て生配信ができる『エモモ』という世界初の機能もリリースした。

関連記事:スマホ1台で誰でもVTuberに、アバター機能『エモモ』の衝撃

教訓①「初期の派手なマーケティングやPRの弊害を理解する」

初期のコミュニティサービスにおいては、ユーザーの母数よりも、少数でも「とうとう俺のためのサービスができた」と異常な熱狂と熱量を持つユーザーが生まれることがとても重要だと思っています。

とにかく小さくリリースして、ユーザーの反応を見ながら、なにがどこに刺さっているかを検証する。そして刺さったポイントにアジャストしていくべきです。

PRやマーケティングを派手に打つと検証がしづらくなります。ターゲットではないユーザー(ex: 業界関係者)がサービスに入ってくるからです。初期のコミュニティサービスは、プロダクトマーケットフィット(以下、PMF)するために、サービスがオーガニックできっちり伸びていく構造をつくることが最も重要なポイントです。

同時にこの「オーガニックで伸びる」(マーケティングコストをゼロにしてもアクティブユーザーが伸びる)構造づくりが最も難しいところでもあります。ニュースリリースで聞くと良さそうなサービスでも、PMFせずに死んでいくサービスは多い。立ち上げ初期はPMFだけにフォーカスすべきです。

『ミラティブ』初期に忘れられないユーザーの反応があります。

とある高校生ユーザーが「50フォロワー達成記念配信」をしていた。「みんな本当にありがとう!」って。まだ50フォロワーやぞ、みたいに思うかもしれないですけど、その50という数字でもすごく熱狂してくれていた。

「YouTubeでもツイキャスでもスターになれなかったけど、ここなら俺はスターになれるかも」と感じてもらうことにフォーカスしていく。そういったユーザーをどんどん増やしていくことが賢明だと思います。有名YouTuberにも初期は「50」の時期が必ずあったわけですから。

もちろん有名人を起用したマーケティングでうまくいく例もあります。ただ注意しなければいけないのは、「有名人がいるなら自分は投稿しなくていいや」「自分の出る幕じゃない」という気持ちになりやすいこと。

ペイドで買ってきた有名人の投稿を見る目的で来るユーザーが増えると、逆にペイドマーケティングが止まったときには、閲覧専門ユーザーが逃げていってしまいます。

派手なPRとか有名人マーケティングはイケてるサービスに見えてかっこいいんです。それがターゲット的に正解のプロダクトもあると思います。でも、プライドをグッとこらえて、まずはコミュニティの根幹を作ってくれるユーザーさんとだけ向き合う。初期のコミュニティにとって大事なことだと思っています。

教訓②「バイユーザー(投稿者兼閲覧者)を大事にする」

初期のコミュニティサービスにおいて最も重視するべきユーザーは、投稿者と閲覧者の両方である「バイユーザー」だと思っています。投稿ユーザーと閲覧ユーザー、それぞれ別々で獲得しようとすると難しいことが多い。

ダメな例は、「有名YouTuberに『ミラティブ』を使ってマインクラフトのゲーム実況をしてもらい、それと同時に、閲覧者の受け皿になるようなマインクラフトの掲示板をつくる」というようなものです。いかにもロジカルな人が考えそうな戦略の例です(笑)。

クックパッドができて1年目の頃を想像してみると良いと思います。レシピを検索してもほとんど出てくるはずがない。食べログも同様で、最初は見ていて価値があるコンテンツなんて揃っていないです。コミュニティが立ち上がるときに一番適しているユーザーは、例えば「レシピが書きやすいサービス」だという理由で、見る人が少なくてもレシピを書いてくれる人。

さらには自分のレシピを見てほしいから他のユーザーのページを見に行って、足跡やいいねをつけて、自分へのフィードバックを待つ人。

発信者でもあり閲覧者でもあるユーザーにとって居心地が良い場所を目指していくと、対象クラスターがひとつになるのでサービスが立ち上がりやすいです。

教訓③「ユーザーの熱量とその伸びを指標にする」

「成長率」と「ユーザーの熱量」に関わるKPIを追うことに、とにかくこだわっていました。

「毎週7%」伸ばすことをきっちり追いかけるべきです。最初のアクティブユーザーは、100ユーザーでもいい。それが翌週は110ユーザーになった、というときに、110しかいないと考えるか、週10%も伸びてる、と考えるかは大きな差です。何も施策を打たなくても、オーガニックで伸び続ける構造になっていればサービスが死ぬことはない。

今は資金調達の環境も良いですから、どこかでブレイクスルーするという構造になります。

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これは初期の『ミラティブ』のアクティブユーザー推移です。

よく見ると迷走期は右肩に下がっています。先ほどのPRなどの弊害です。でも焦らず地道にやってると、1円も使わなくても右肩上がりで伸びていく。コミュニティというのはこういう立ち上がり方で良いと思っています。

例えば1ユーザーあたりの配信時間が伸びてるといいサービスになっていると考えていました。良いサービスは時間が経つにつれてユーザーはハマっていきます。

逆に悪い目標の立て方は、高い目標数値を設定して、絶対数ありきでやっていくようなことです。1ヶ月で3万ウィークリーアクティブユーザー(WAU)にいきましょう、みたいな。

強引にマーケティングすればいくかもしれないですけど、あまり本質的ではないことが起きます。

教訓④「Y Combinatorのような集合知に向き合う」

僕の経験上、初期のスタートアップにとってY Combinatorが言っていることは多くが正しいです。トライアンドエラーの母数がシリコンバレーは多いので、その分集合知が溜まっている状況です。サービスをつくっている側は、「自分たちだけは例外の存在だ」と考えがちなのですが、集合知の正解例を愚直にやるとうまくいくことは多いです。Y Combinatorの創設者であるポール・グレアムが「スケールしないことをし続けることが一番重要だ」と話をしてるのですが、まさにコミュニティの鉄板だと思います。いきなりユーザーを集めようとマーケティングを行うのではなく、ユーザー一人ひとりに向き合い熱量の高いコミュニティをつくることに徹するのです。

東京大学の馬田隆明さんが大量に書かれているY Combinatorの翻訳系のDeckはかなり参考になります。サービス立ち上げには流派があるものですが、いろんな流派を薄く広く取り入れて混乱するよりは、これだと思うものを徹底的にインプリする方がよいと思います。僕はたぶん100回くらい馬田さんのスライド読んでます。

上下関係を作らせないコミュニティがうまくいく

※ここからは、パネルディスカッションにて話された内容を編集してお届けします。


古参ユーザーが盛り上がっていたり、レベルが高くなっていたり。新規ユーザーが入りにくい雰囲気が生まれてしまうこともあるだろう。


ライブストリーミングサービスは仲良くなる速度が異常に早く、熱量が上がり過ぎる傾向があります。

リリースして3ヶ月後に「昔は良かった」と言い始めるユーザーが出始めていたほど。早くも古参問題が起こっていました。

でも様子をみていると、短期ですぐに熱くなりすぎるユーザーは意外と残らない。それよりも長く愛してくれる人にとって居心地のいい設計をしています。

例えば、あまりランキング的な発想をしないようにしています。上下関係で明確に煽っちゃうと短期で燃え尽きやすい傾向がある。

逆に、だれがすごいとか上下関係なんて極力無いような雰囲気をつくることで、古参も新規も関係なく楽しんでいただけていると思います。


ユーザーが増えれば、運営側の意図に反した行動をするユーザーもでてくる。コミュニティ内の治安維持をどのようにしているか。


利用規約違反者には平等なルールでフェアに対応するのが大前提です。そのうえで、「ユーザーに踊らされる感じ」がコミュニティ運営にとっては大事だと思っています。僕のコミュニティの師匠である元ミクシィ副社長の原田さん(現・DeNA取締役)に言われて長年意識していることです。コミュニティ系の施策は、運営側の仮説を過度に押し付けてしまわないように意識しています。

開発者のわたしたちが意図していなかった、予想外の使い方をユーザー自身が編み出し始める。それにアジャストして開発していくのが良いと考えています。『ミラティブ』をゲーム実況のために利用してもらいたいのに、ただ雑談を配信しているユーザーがいる。

雑談なら他サービスでもできるじゃん、と一瞬思いながらも、ユーザーがそう活用しているのであれば寄り添って「雑談タグ」をつけられるようにしてみたり。エモモのようにもっとそのコミュニケーションが豊かになるように発展させていく。

初期の仮説は持ちながらも、その仮説にこだわり過ぎずにユーザーの行動を観察して、それに対応していくことを意識しています。

今はコミュニティサービスに追い風の時代


『ミラティブ』のようなライブ配信サービスはサーバーサイドに大きな費用がかかる。なにもしなくてもキャッシュが減っていくなかどのようにビジネスに展開していくのか。


ライブ配信はお金がかかりやすい事業なのは事実。だからこそマーケティングコスト的な部分に頼らずサービスを伸ばすことにフォーカスして立ち上げてきました。また『ミラティブ』の場合、資金調達の環境に恵まれていた時期要因や、一番最初のしんどい時期にDeNAにお世話になったという側面があったのは幸運でした。

理想をいえば、マネタイズでは無いなにかを魅力に感じたユーザーが集まってくれて、サービスが立ち上がった上でマネタイズがさらに成長を加速させるのが良い。

例えばYouTuberは今でこそ稼げる職業になっていますけど、ヒカキンさんが出てきた頃まだアドセンスとかなかったと思うんです。最初はホームビデオの投稿サイト状態で、誰がこんなの見るんだと思われている状況だった。

じわじわと投稿者が増えていく過程の中で、呼応して見る人が増えていって、YouTuber的な商品レビュー動画を投稿する人が出てきたところに満を持してアドセンスでの収益還元の仕組みが出て爆発した。

『ミラティブ』も今後、マネタイズの仕組みを用意することを考えていますが、お金の切れ目が縁の切れ目にならないプロダクトにしたい、といつも考えています。

お金を積まれて、他のサービスにユーザーを持っていかれることもあります。でも行った先で居心地が悪かったりして結構帰ってくるんです。お金を稼ぐ目的ではないユーザーを獲得できてる。

そこに満を持して収益化するタイミングはそろそろかなと思ったりはします。マネタイズを優先するか、コミュニティの熱を優先するかは、タイミングを見ながら色々考えています。

コミュニティ=儲からない、というイメージがあるけども、もはやそれ自体が反証的になってきている。「Facebookって儲かるの?」って上場時は言われてたけど、そんなことなかったですよね。

mixi もあのカルチャーを維持し続けた結果、モンストを引き当てることができた。モンストはコミュニティ的な要素がうまく練り込まれた、絶対 mixi じゃないと作れなかったプロダクトです。

今となっては、コミュニティ的な感性なくして生き残るサービスを考えるほうが難しい。コミュニティサービスが好きな人たちにとっていい時代が来ていると感じています。


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文 = 大塚康平


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