2013.03.11
自分の仕事の値段を、自分自身で決めるために―AR三兄弟に学ぶ、理想のチームのつくり方[3]

自分の仕事の値段を、自分自身で決めるために―AR三兄弟に学ぶ、理想のチームのつくり方[3]

AR三兄弟へのインタビューから「企業に所属しない“ユニット”という組織形態」について紐解いてきた本企画。最終回となる今回は“AR三兄弟がユニットという形態にどんな可能性を感じているか”、話を伺った。

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▼インタビュー第1回はこちら
えっ!三男が“卒業”!?―AR三兄弟に学ぶ、理想のチームのつくり方[1]  から読む

▼インタビュー第2回はこちら
“AR三兄弟”はいかにして生まれたか?―AR三兄弟に学ぶ、理想のチームのつくり方[2]  から読む

“恩返し”としてのAR三兄弟。

― AR三兄弟というユニットで活動することの目的や意味は、一体どんなところにあるのでしょうか?


三男:
一番は、やっぱり“AR”という技術が面白いからですね。いろんな技術者や教授やプログラマの方々が、こういう技術をオープンソースというか無償で使えるようにしてくれているわけです。その行為に対する感謝というか、自分もそこに還元したい気持ちがあります。

無償で提供してくれた技術を使えば、こういう見せ方ができるんだぞっていうことを形にすることで、報いることができるんじゃないかなと思うんです。


次男:
僕も、面白いってのが一番ですかね。僕はAR三兄弟としての活動をやっていなかったら、たぶん、ずっとパソコンにむかってガチャガチャしているだけだったと思いますし。


最近特に増えてきたんですが、リアルな場所に作品を展示したりしているので、お客さんが見てくれて、直に反応が返ってくることだったり、その現場感を自分で体験できたりすることが、今はすごく面白くて。

仕事としてやっているというよりも、純粋に面白いことをやって、それが結果的に仕事になっているという感覚が強いですね。



長男:
AR三兄弟がいいのは、好きな人に会いにいけちゃうこと。例えば“ユニコーン”と一緒に何か作りたいとか、そういうのを一切隠さなくていいんです。で、続けていくうちに、実際にユニコーンが僕らのことを知ってくれるわけですよ。

最近、奥田民生さんと真心ブラザーズが「地球三兄弟」っていうバンドをやってるんですけど、あれって僕らに影響を受けたネーミングらしいんです。“物語の向こう側”に、僕たちの存在が影響を与え始めているというのはすごく面白いですよね。

例えば「プログラムを書いた」「コンパイルした」「アプリケーションになった」っていう感じで、僕らのやっていることが世の中にフィードバックされて、そこから新しいものが生まれてきてるというのは、本当に面白い。

そして、それは僕らが活動を続けてきたからこその現象なんですよ。もともとWEBとかプログラムとか狭い世界でゴチャゴチャやっていたのが、いつの間にか、いろんなところに影響しはじめて、いろんなリンクが生まれてきているんです。

そうそう、ちょうどこの間、庵野秀明さんにお会いして、僕らが作ったARを見せたんですよ。そしたら、「おー、凄い。」「下らないところが、素晴らしい。」って話になって、仲良くなれたんです。

作った作品を通して仲良くなれて、自分たちのことを認識してもらえる。自分たちが大きな影響をうけた“元ネタ”の人たちに、少しでも面白いと思ってもらえたら、何かちょっと恩返しできてるんじゃないかなという気がするんですよね。


― 会社に所属するのではなく、ユニットとして活動していくほうが有益な部分がありそうな気がしますね。


長男:
そうですね。ただ、会社にいるメリットも確実にあるんですよ。僕たちは、最初のアクセルの踏み出しを、会社の中でできたことがトクだったと思います。

会社にいるとヘンな話、失敗できるんですよね。失敗したときに、個人に被害が及ぶなんてことにはならないじゃないですか。会社を出るとそうはいかないでしょう。僕たちはいま全部個人でやっていて、ウケなかったら破産してますからね。

そういう意味では、“会社の中でできる仕事を成功させている”という前提があったからこそ、僕らはユニットとしての活動を成立させられたんだと思うんです。

会社の中で成功しないと、外に出ても成功なんてしないです。僕だって、会社にいて楽しかったらずっと会社にいたはずですよ。ラクですもん。税金の計算もしなくていいし。人に給与はらわなくてもいいし。ただ、“境界を壊す”というチャレンジがしたかったので、そのためには、会社にいるよりも外に出たほうがやりやすかったというだけで。

企業の中にいたほうが繋がりやすいこともいっぱいあって、例えばメディアとの関係なんかも、企業にいたほうが繋がりやすいですからね。

だから企業の中でのユニットでもいいし、企業の枠を超えたユニットでもいいし、それぞれのやりたいことベースで、会社にいるか外に出るかを考えればいいと思います。この業界の場合、特に最近になって就業規則も緩和してきていますからね。必ずしも会社の中の仕事だけしていればいい、というわけではなくなっていると思うので。

オンリーワンの仕事をすることで、“お金”の束縛から解放される。

― 会社を出ると失敗できなくなる、というお話が出ました。実際、面白いことをやって、それだけで食べていくというのは簡単じゃないですよね。


長男:
お金は大事ですねえ。お金に関して僕が意識していたことと言えば、自分の中にある圧倒的な“自信”です。

先ほどお話したとおり、新卒で入社したJUKI時代に社内の仕事がなかったんで、丸5年くらいいろんな下請けをやっていたわけですが、そうするうちに、ものの値段が分かってきて、「これをやるとこんな数字なんだ」ってのが理解できたんです。



で、AR三兄弟で仕事をしはじめたときに、僕らの仕事の値段は、僕ら自身で決められるんだというのが分かったんですよ。例えば“ノイタミナ”の案件って、システムを作って、ロゴをデザインして、記者発表のブースをつくって自分たちで司会してみたいな、とにかく前例がないんですよ。前例がない仕事をすれば、自分たちで値段を決められるんです。

それができたとき、「あっ、これはちょっと抜けたな」っていうか、お金のことはもうクリアできるなっていうことが最低限のラインとしてあった。それから、お金の次の段階として、いかに僕らにしかできないものを作るか考える、というフェーズに入ることができました。


― 皆さんのように“突き抜ける”ためには、何を意識すべきなんでしょう?


長男:
重要なのは、会社という枠がなくても付き合ってくれる人がいるかどうか。○○っていう企業名がなかったら離れていくような人との付き合いが前提だったら、会社を辞めてフリーになったり、僕らみたいなユニットになっても仕事はこないですからね。

会社という傘がなくてもついてきてくれる人が、内側にも外側にもいるという自覚があって、それが数字的にも証明されているのであれば、イケると思うんですよね。逆に、根拠のない自信だけでやるのは怖いです。僕は危なかったんですけどね。本当に根拠のない自信だけで生きてましたから。僕みたいなタイプが一番怖いですね。

100秒後も100年後も、同じように“ウケ”たい。

― 最後に、今後10年、20年単位でみたときに、AR三兄弟というユニットにはどんな可能性があると考えていますか?


長男:
僕らがこれまで「これが未来です」って見せてきたことが、現実になってくる。その時、一般の人たちが「あれってAR三兄弟が言ってたことじゃない?」って気づく瞬間があるんじゃないかと思うんです。僕たちがやっていることが、ただ単に面白いだけのものじゃないというか。

多分、ARというのはどんどん浸透していって、電気やガスと同じように、社会のインフラとして存在するようになると思います。そうしてARが特別なものじゃなくなって、仮にARという言葉が忘れ去られたとしても、僕らがAR三兄弟を名乗り続けて、「その昔、ARってのがあってね…」ってことを語る。そういうのは、カッコいいなあと思ったりします。


― ある意味、ARが未来のものでなくなった時点で、開発ユニットとしてのAR三兄弟の役目は終わるだろうと?


長男:
いや、「ちょっと新しいものを、ちょっとダサいものに変える」という活動はずーっと続けると思いますよ。そのとき、人々が感じている時代感覚よりもちょっと早いことを、ちょっとダサいものに変えて表現する。そして僕らの作品を通じて、カジュアルにちょっと先の時代を感じてもらう。これはずっと続けていきます。

で、そのジャンルというか、カバーする範囲はどんどん増えていくでしょうね。もしかしたら、いつかプログラミングじゃなくて、バンドやったり映画撮ったりしているかもしれないですし。

10年後だろうと20年後だろうと、やっぱり僕らは基本的にスベりたくないんですよ。100秒後も100年後もウケるものを作りたい!例えば、100年後の考古学者が遺跡から僕らの作品を発掘したときに、それを見て大爆笑させたいわけです。



― 土から出てきても面白いモノをつくる、と(笑)


長男:
そう、もし「何これ、つまんねー」って言われたら、先祖としてショックですもん。肉体を失ってまでウツになりたくないんで。


― 三男さんの卒業によって、AR三兄弟の仕事にどんな変化が生まれるか、それもすごく楽しみですね。


三男:
辞めたからといってゼロになるわけではないですし、何年か先に、別の形で三人で集まることもあるかもしれません。そのとき、今とは違うレベルのものを持っていけたらなと思ってます。


長男:
僕は二人のことが好きで声をかけて、それで兄弟になってるわけですから、彼が次にやることというのは純粋に気になるし、楽しみですね。今は小説を書いてるんだっけ?


三男:
そうですね、書いてます。


― おお、小説ですか…!まさに“AR三兄弟の三男”ではなく、小笠原さん個人としての活動になるわけですね。


三男:
そうですね。実際に一人でやってみて、AR三兄弟をやっていたときの不安は、すべて長男が矢面にたって受け止めてくれていたんだと痛感しました。おかげで、何も悩まずにやっていけてましたから。

長男が受け止めてくれていたものを、これからはすべて自分で被っていかないといけない。その恐怖心は、正直ものすごくあります。逃げ道はいっぱいあるし、逃げたくもなるんですが、でも逃げたら意味がない。とりあえず、飛び込んでみようと思ってます。


長男:
いやあ…、そこまで分かってくれてることに僕も感動しちゃいました。なんか、しめっぽい話になっちゃいましたね。


― いやいや、AR三兄弟って本当に良いチームだなと改めて思います。三男さんも単にチームを抜けるのではなく、“巣立つ”という表現がしっくりくる。こういう感覚も、ユニットとして活動してきたからこそのものかもしれませんね。


いつかまた、3人が一緒に仕事をする日がくるかもしれないという可能性も含めて、これからのAR三兄弟と、個人としての小笠原雄さんに注目していきたいと思います。今日は貴重なお話を、ありがとうございました!



(おわり)


編集 = CAREER HACK


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