2019.11.18
ブロックチェーンの社会実装は、すでに不可逆|bitFlyer Blockchain 加納裕三

ブロックチェーンの社会実装は、すでに不可逆|bitFlyer Blockchain 加納裕三

ブロックチェーン技術の発展と普及に努める加納裕三さん。bitFlyer 共同創業者、bitFlyer Blockchainの代表取締役だ。「日本ブロックチェーン協会」を設立するなど、ブロックチェーンの社会実装を推し進める。彼が見据える2020年以降の世界とは。

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連載『AFTER 2020』2020年からの「10年」をどう生きるか
時代は平成から令和へ。そして訪れる「2020年以降」の世界。2020年からの「10年」をいかに生きていくか。より具体的に起こすべきアクションのヒントを探る連載企画です。お話を伺うのは、常に時代・社会の変化を捉え、スタートアップと共に"一歩先”を見据えて歩まれてきた投資家のみなさんや、未来を切り拓く有志者のみなさん。それぞれが抱く「これから10年間で現実的に起こり得ること」と「新しい生き方」の思索に迫ります。
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《目次》
・もう「戻れない世界」までやって来た。
・ブロックチェーンが起こした3つの革命
・BBSのようなシンプルな領域から浸透していく
・あらゆる「ID」をたった一つにまとめる試み
・世の中のあらゆるサービスはもっと「簡単」にできる
・個人情報をめぐる炎上、その本質とは。
・努力した人が評価される社会を作る




もう「戻れない世界」までやって来た。

まず少し遡ると、仮想通貨については2010年からずっとモニタリングしてきて、2013年には世の中として巻き戻せない「インフレクションポイント」を超えたと確信しました。

当時、アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)議長であったベン・バーナンキさんがビットコインの可能性を評価し、容認した。その瞬間、ビットコインの価格が10倍以上になり、「もう戻れない世界に来たな」と。

そして、『bitFlyer』を創業したのが2014年。「新しいお金」で金融の根底が覆り、世界が変わる、ここから絶対に新しいものが出てくるという確信がありました。ただ、当然のように誰からも相手にされませんでしたね。ビットコインも興味を持たれず、詐欺とさえ言われました。

ただ、「不可逆的」であることは疑いようがありませんでした。「戻れない」大きな理由としては、基幹となるブロックチェーンがオープンソースであり、技術的に止められないからです。

たしかに一般的なシステムなら違法に認定されれば止まってしまうのですが、結局のところ、オープンソースはそれでも進み続けていく。

確信を得た当時の僕は、Facebookに「ブロックチェーンで世界が変わる」と投稿したのですが、誰ひとりとして「いいね!」はつけてはくれませんでした(笑)。それでも僕は、誰も気付いていないブルーオーシャンの発見に立ち会い、とても興奮したのを覚えています。

ブロックチェーンが起こした3つの革命

僕はブロックチェーンについて、社会に実装され、インターネットのようになっていくと捉えています。「記録が改変できないこと」などの技術的な新しさに加え、データや価値に対する概念そのものを革新したのが注目に値するところ。要点だけお伝えすると、大きく3つの革新性があります。

まずは、価値が複製不可になったこと。これまでの複製不可の手法は「コピーワンス」や「ダビング10」といったDRM技術によるデータの暗号化が基本でした。暗号の解除には鍵が必要になりますが、ハッカーが鍵を見つけ出すと、いくらでも複製可能になってしまう。ところがブロックチェーンは常にセキュリティ機能が備わっているようなもので、複製不可なんです。

次に、価値をインターネットで送れること。ビットコインが一例です。それが株券でも現金でも、資産の表現を書き換えるだけで何でも送れるようになる。しかも、届くまでに10分とかからない。誰でも簡単にできるのも革命的です。

そして、データが信頼可能になること。これまでのインターネットは、データの即時取得を可能にしたといえます。ただ、企業秘密をはじめ、世に出ていない情報の取得は困難なままで、その信頼性も担保できていません。たとえば、面接時に相手が履歴書に記載する学歴や資格についても、それぞれの機関などに真偽を当たらなくてはいけない。ブロックチェーンを用いれば、それらを複製不可で唯一性のある情報にできる。つまり、「情報の証明書」を個人でも発行することで、データの信頼性が高まるわけです。

僕も何百人と採用面接をしてきましたが、提示されたキャリアや話しぶりを見て評価するしかなかった。それが、これまで本当に何を成し、いかに周囲の信頼を集めたのかまで、ブロックチェーンを用いた情報提供でわかってくるはずです。

善良な市民としては、自分の行いが正しく評価されやすくなりますから、情報の公開にも前向きでしょう。もし、公開が何らかの理由で出来ないのであれば、提示させる義務はないにしても、見る側は「なぜ出さないのか?」と思いをめぐらすようになると思います。

BBSのようなシンプルな領域から浸透していく

ここから5年や10年ほどをかけて、ブロックチェーンの社会実装は加速していくはずです。データを資産化するニーズが高いであろうコンシューマー向けゲームの領域では、3年以内の実装もあり得るのではないでしょうか。ただ、直近でも金融庁がガイドラインを公表するなど、この分野は規制との調整が今後も必要になってきます。

最もヘビーな金融系や社会インフラの領域は、何度も大きな検証を行った上で、システム更改は8年に1回実施されますから、そのタイミングでの切り替えかもしれません。実際、僕らはシステム更改を検討するお客様とお話する機会は多いのですが、メインのシステムをブロックチェーンに置き換えるのはドラスティックすぎる、と言われることがあります。

ただ、新規ビジネスの場合は失敗にも寛容なところがありますし、実装にも前向きです。たとえば、インターネットでも初期に流行したのは「BBS(電子掲示板)」でした。掲示板に書き込むだけなら誰も損をせず、社会的な問題も起きにくい。そういったところから浸透が始まり、今ではネットバンクなど社会システムの根幹を担うほどに、普及しています。

bitFlyer Blockchainが開発中のブロックチェーンIDシステムの「bPassport」も、3年以内には浸透させていきたいと考えています。

あらゆる「ID」をたった一つにまとめる試み

「bPassport」のモットーは「お財布の中を空っぽに」なんですよね。今って、お財布には現金だけでなく、クレカ、キャッシュカード、運転免許証などのIDカード、さらにはポイントカードがたくさん……と、あらゆるカードが入っていますよね。

でも、現代において、こんなにカードは要るのでしょうか。カード内の磁気ストライプに含まれているのは、単なるID番号だけだったりします。つまり、IDさえ簡単に伝えられれば、どの端末からでも、カード無しにコミュニケーションできるはずなんです。

「bPassport」は、基本的にソフトウェアでこれらのIDを全て格納し、それにIDを発行してまとめる構想です。

たとえば、誰かの物を特定するために、現在ならマイナンバーカードさえあれば可能なように思えます。でも、それはできません。なぜなら、マイナンバーカードの個人番号12桁は「日本国民であること」を暗黙の前提としているからです。当然、アメリカに持っていっても、マイナンバーカードは使えません。

つまり、マイナンバーカードは「日本国民」で「個人番号」という2つの情報が揃って唯一性を発揮する。この手法を専門用語で「複合インデックス」と呼びます。bPassportは、マイナンバーの個人番号でもFacebookのIDでも、あらゆるものをブロックチェーンを用いた「ユニークなインデックス」で括れるようになります。

世の中のあらゆるサービスはもっと「簡単」にできる

家電量販店でポイントカードを作ったりする際にも、氏名、性別、住所、生年月日という「基本4情報」を何かしらの手段で伝えるだけで済むようにしたいんです。

買い物した際に「ポイントカードを作りますか?」と言われたら、QRコードやFeliCaなどを介して、bPassportからインターネットを経由して基本4情報を加盟店へ送信する。それだけで、加盟店側の登録サービスと連携し、ソフトウェア上でカードを発行できるようになるわけです。bPassportはユニークなインデックスで括っていますから、加盟店の読み取り機とスマホを通信するだけで、最適なアプリが自動的に立ち上がることも可能でしょう。

複合インデックスを用いたアプリの面倒なところは、利用者側が使うアプリをその都度選択しなければならないことです。「何で支払いますか?」「PayPayで」みたいなやり取りが毎回必要になる。そうではなく、ユニークなインデックスで、どこでも無人店舗のAmazon Goのごとく、簡便にやり取りが済むようにしたいわけです。

世の中をもっと簡単にするためには、複合インデックスが当たり前である概念を変えなければいけません。そのためには、グローバルで通じるユニークなインデックスへの切り替えが必要だと考えているのです。

個人情報をめぐる炎上、その本質とは。

ここで大切なのは、「個人情報の提供を許可した人間のみ」が恩恵を受けられることです。

これまで個人情報をめぐる炎上は、行動履歴などの情報を本人の預かり知らぬところで勝手に取得してしまうようなことをするから起きていました。しかし、社会活動におけるアクティビティのほとんどは、自分が許可して個人情報を与えているんです。病院で診察券を発行するために個人情報を渡すのも、同意した上ですよね。おそらく診察は受けられませんが、渡すのを拒否することもできます。

つまり、「bPassport」では、それらのシチュエーションにおいて、自分から個人情報を提供する許可を、ソフトウェアを通じて行うためのツールともいえます。相手から「基本4情報」を求められたら、「bPassport」を通じて提供すれば手続きが滞りなく進み、その後の利用も簡便になるのです。

そのやり取りの実現は比較的容易ですから、3年以内くらいには可能だと思います。そして、5年や10年、あるいは20年後には、あらゆる領域の延長線上にブロックチェーンがあり、それらの基盤となっていることでしょう。

努力した人が評価される社会を作る

「bPassport」のようなツールの話をすると、中国のような管理社会を思い浮かべられる方がいます。でも、僕は監視や管理をされる世界を望んでいるわけではありません。

僕は、努力した人が評価される社会がいいな、と思っているんです。「努力した人が報われる」と口に出すと、当然のようにも感じます。特に僕がいた外資系企業では、当たり前の環境でした。努力をした人、才能がある人、結果を出した人が評価されて、相応の報酬を得る。そうでない人は、残念ながら会社にも居場所がありません。

では、今の日本がその環境にあるかといえば、必ずしもそうではない。自分の実力が評価されない、能力があるのに地方にいて稼げないといった声も聞く。たとえば、クラウドソーシングでも何でも、仕事の経験値がしっかりと個人に紐づき、それが正しく開示されれば、埋もれてしまっている人材を地域差なくピックアップしやすくなるかもしれない。

個人が評価される社会を作りたい。そのためには大変なことも多々あるけれども、それ以上に使命感を持ち、仲間や機会に恵まれた自分たちが働くには、今がいちばんに良い世代だとも思っています。世の中を変えて、みんながハッピーになっている姿を見るのが、僕はやっぱり嬉しいんです。


編集 = 白石勝也
取材 / 文 = 長谷川賢人


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