2019.11.21
人生に「バグ」を。陳暁夏代のスタンス

人生に「バグ」を。陳暁夏代のスタンス

何事も「選べる」は重要だ。仕事でもそう。「個」として立ち、心からやりたいと思える仕事と出会い、選び取れるようになっていくためにーー。お話を伺ったのは、日本と中国を拠点に活動する陳暁夏代(ちんしょう なつよ)さん。若年層マーケティング、ブランディングで引き合いの絶えない彼女の仕事論とは。

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陳暁夏代の仕事哲学
・仕事は「需要」への対応
・「本音」は武器になる
・極めれば極めるほど強くなる
・街を見よ
・たった一人の熱狂が「着火」を生む
・壮大な「無駄」をつくりたい
・自分の人生を、狂わせてあげよう

仕事は「需要」への対応

中国に進出したい日本企業、または日本に進出したい中国企業向けにコンサルティング業務を手がける陳暁夏代さん。クライアントは、toCを中心に化粧品メーカー、レコード会社、IP関連企業など。企業は彼女に何を求めるのか。

外部のコンサルやプランナーを雇う場合、普通に「違う視点」や「どこにもない最新の情報」が知りたい、ほしいから入れるんですよね。

私のようなオリジナルの切り口を持った人が社内にいたらいいのだろうけど、あまりいない、いても立場上同一化してしまう。特に日本の大手企業だとまだまだ終身雇用の仕組み上、大多数の社員さんたちは今いるその世界のことしか知らない。自分の仕事に毎日追われていて外部の情報を摂取する時間も余裕も、興味のない人が大半です。

ただ、世界のトレンドは毎日すごいスピードで変わっています。たとえば、中国でアイドルを発掘し、プロデュースするといったプロジェクトがあるとしますよね。当然、音楽業界は日本だけの話じゃない。世界レベルで流行り廃りがある。より一歩、対象のコンシューマーに近づき、業界でのポジショニングを世界規模で考えないと成り立たない。

私はそういった案件の際に日頃広く業界を分析しているので頼っていただけることが多いです。それは対中国といった1ヶ国に限った話ではなく、世の中の時流と文脈の話なので日本国内であっても見る範囲は同じです。

基本は案件は社会的需要の有無で判断し対応しています。その商材が今、もしくはこれからの社会にとって有意義であればあるほどやる気が出ますね。

お断りするのは、ビジネス側のエゴで深く考察せず「ただやって見たい」というケース。シンプルにお試しであれば自由にやっていただければ良いので、お任せする場合が多いです。本当に厳しいものはどれだけ手を加えても滑るので、流行りコアの思想や商材のクオリティーが一番根幹になります。

また、ビジネス側は気付いていないけれど、コンシューマー側に需要がある物事は、積極的に企業側に伝達するようにしています。私の強みはユーザー目線に極限まで立てることなので、その視点を作り手にインプットすることは多いです。

「本音」は武器になる

自身の判断軸で仕事を選び、そして期待超える成果で応える。こういった仕事をしていく上で、陳暁さんが大切にしているポリシーについて伺えた。

SNSでも、リアルでも、本音しか言わないようにしています。本当にいいと思ったものしか褒めない。忖度やお世辞はどんどん削ぎ落としています。捨てる勇気は必要ですが、それを重んじる人ほど本質を見ているので信頼していただけます。

そうやっていくと会話でも、仕事での動き方でも「真実」だけになっていくんですよね。相手も、信じてみようと思ってくれる。この人の話には「真実」しかない、と。

私にいただける仕事は、定量ではなく定性から導くような企画が多いです。もちろん可視化される一定の基礎情報は必要ですが、この情報社会で、世の中の定量データは誰もが見れて、知れる時代。その上で「穴」や「風向き」を見出せるか、その次が一番肝心になってくると思います。そういった点で「独自の視点を持ち、本音で向き合う」というポリシーを貫いています。

伝えるべく人に伝わればいい。それくらい割り切っていて、だから尖ったことも言えるんですよね。みんなに向けて何かを伝えようとすると、言葉は薄まってしまう。

その結果、面白いと思ってもらい信頼が高まっていく。それが何かを捨てて「嫌なことをやらなくていい人生を選ぶ」ということなのだと思います。削ぎ落とした分、洗礼されていくので得るものは大きいです。

極めれば極めるほど強くなる

この数年「好きを仕事に」は呪いのように、さまざまな場面で耳にしてきた言葉だ。特にキャリアの浅いうちは「何が好きがわからない」もしくは「どんなに発信しても仕事にならない」ということも。それは叶うものか。叶えるための考え方とは。

好きを仕事に、つまり趣味を仕事にするということは「好きなことしかやらずに生きていく」ということですよね。食べていけるだけの「お金を稼ぐ」とセット。ということはお金が稼げない趣味は「好きを仕事に」には当てはまらない。

仕事って「お金を稼ぐ」と「ToDo」の2つのパーツで成り立っていて。「ToDo」のほうで「自分がやりたいこと=好き」を主軸におけるかどうか。やっぱり若いうちは厳しいし、一部の人にしかできないと思っています。あとその”趣味”と収入源を無理に合体させる必要もないです。向き不向きがあるので。収入源は収入源、趣味は趣味でも全然良いと思います。

ただ、「何かに突質して強い人」はいつか絶対にそれは仕事になるし、需要は必ずあるのでした方がいい。専門領域は極めれば極めるほど強くなる。エンジニアもそうだし、ダンサーもそう。そう思うと極めた先に「お金」はついてくるんですよね。当たり前ですが。今世の中にない領域でも、お金を払ってでもその領域を作れば、いつかお金に変わります。

なので私も「自分の思想」を極めれば極めるほど仕事になっていくはず。それでうまくいった先人たちを見てきたし、「このままでいいんだ」と思えているのであまり焦りもなくて。

今はまだまだ、本当に好きなことはお金に変えられていない。

これからですね。私の「好きを仕事に」は。

街を見よ

陳暁さんが高く評価されるのは、審美眼。そして圧倒的な情報収集、精度の高い分析だ。購買行動の法則が見出しづらく、既存のマーケティング手法が通用しづらくなっている近年。彼女のインプット術とは。

私、すごい街を歩くんですよね。昼も夜も、みんなが何をしてるか、何が流行ってるか、リアルで見てみないとわからないです。

いいと思うアイテムを見つけたり、「このお店、絶対くるな」と思ったり。若い子たち間で流行りそうな行動を観察したり。

ファッションでいえば、「あの服装、飽きられてきてるよな」とか、逆にグループのなかで一人だけ浮いてる服を着てる子がいたら「新しいからこれから流行るかも」とか。

「飽きられてきた」とか「これからきそう」とか情報をプールし、量を増やしていく。すると傾向は自ずと見えてくるもの。

流行ってじつはいきなりくるものじゃないんですよ。気づいていないだけで、どこかで着火し、じわじわくる。それを見つけて眺めているのが楽しい。幼いころからずっとやり続けてきた変な趣味ですね、これは。

やり続けていると「これは流行る」と思ったものが本当に流行るんです。「くる」と思っていたファッションがパリコレで発表されて「ほぼ同時だったなー」とか。

こういう成功体験が蓄積され、「自分のセンス」が信頼できる精度になっていった。やっぱり「流行る前のもの」を見つけるのは楽しい。流行ったものって、あとは終わっていくだけなので。飽きの周期なので。

たった一人の熱狂が「着火」を生む

若者たちにおける爆発的な流行は、どのようなメカニズムで起こっていくのか。とくに着火点について。陳暁さんが注目するのは、たった一人の熱狂だ。

流行の着火点は「数」で見ていると遅いんですよね。たとえば、私がセンスが良いと思っている人、その一人が熱狂したらその人をフォローしている周りのみんなが追随する。その波形で輪が広がっていきます。波形の”震源地”を見つけては動向を追いかけています。

これって人物相関図(コミュニティー)や世の中の流れである程度図式化出来はするんですが、人物相関を構成するコミュニティーにも流行り廃りはあるので、常に見ていないとわからない。

勢いがあったコミュニティーもある時収束したり。ただ新人に関しては、その人の表情を見てめちゃくちゃのめり込んでいたら「くるかもしれない」と。現場で確かめてみる感じですね。私は「濃いN1の波及理論」と呼んでいるのですが。その濃さが濃ければ濃いほど、長く続くし、周りに普及していってくれる。

「個人」で見てもそうですよね。「個の時代」と言われていますが、個が濃いほど、濃い熱狂的なファンが生まれ、そこから着火し、フォロワーが増えていく。

私のことも、世の中全体でみると知ってる人なんてほとんどいない。ただ、濃いファンみたいな人は何人かいてくれて。その人たちがまわりの人に「私」を広めてくれたら「私」は流行る。そういう感覚を常に時流視点と自己視点で持ち合わせ、研ぎ澄ましています。

壮大な「無駄」をつくりたい

そして伺えたのが「2020年以降」について。彼女が見据えるのは「需要に応える働き方」ではなく「好きを仕事に」フェーズ。陳暁さんの野望とは。

エンターテイメントを自分で作る、そういったことをやっていきたいと思っています。今まで全然手をつけてなかったので、最近ようやく始められたところ。心の余裕も出来てきたので、完全にシフトします。

エンターテイメントってそもそもどういったものか。私の中では、世の中に与える刺激と問いだと捉えていて。サービスではないんですよね、むしろ壮大な「無駄」だと思う。生きていく上では無くてもいいもの。

「タピオカドリンク」にしてもそうですよね。存在しなくて誰も死なないし、なくても誰も困らない。なのに、みんなが熱狂して楽しんでいる。あれもエンタメだと思うんです。

無駄を生み出して、見た人たちが怒ったり笑ったり、そこは何でもいい。たとえば、いま目の前の道路で、急に象が歩いてきたら、びっくりするし、おもしろいですよね。そういうサーカス団みたいなものをこの時代に本気でつくりたい。

お腹が空いたからご飯を食べる、天気が寒いから服を着る。明確な需要のように、人間の潜在的な欲望を救うもの。急に降るスコールのような現象を世の中に生み出せていきたいと思ってます。

これまでは「分析」が仕事の一つだったわけですが、「分析」ってつじつまが合うから成り立つもの。点と点を線にするのがマーケターの仕事。それを10年間やってきたんですが、終わりにしたい。

もう急に「点」をドン!と置きたい。文脈も何も無しに、つじつまの合わないことがやりたいなと。

いまの状況は、私が文脈をハックし、少し目立っただけ。文脈の需要に応えてるだけなんですよね。自分が求める、自分の理想像とは全然かけ離れている。だから「本当の陳暁夏代」になるのはこれからなのだと思います。

自分の人生を、狂わせてあげよう

「つじつまのあわないことがやりたい」その根本には、彼女自身の「予定調和を壊したい」という生き方に対するスタンスがあった。

私は、私自身がおもしろいと思えることが世の中の総意だと昔から思っていて。それは世の中に対しても、自分に対しても同じ観点で見ています。今年の誕生日を迎えたタイミングで、その鎧を脱ぎました。もう自分に飽きたのかもしれない。10年もやっているので…この仕事を。

自分に飽きることないですか?だから、人生、狂わせたいんですよ。予定調和を壊しにいく。わかりきった道を歩まない方がおもしろいと信じている。自分を、人生を、ハッキングしたい。強制的に。

過去の成功体験も、そうしろと言っていて。何かが「壊れた時」の方が楽しい。予定調和の鎖が外れた時が一番イキイキしている自分がいることを知っていて。どんどんそのサイズを大きくしたいですね。

「何か」を思い切り捨てないとできないことが必ずあって。この連載(7HACKS)に出てくる人たちも、おそらく何か捨ててきたみなさんで。捨てたものが大きい人の方が、あたる確率は大きい。

みんなに出来ることじゃないから、羨ましいし、そうはなれないから映画の主人を見るみたいに憧れていく。そういう「捨てられる人たち」にどんどんファンがつく。だから「捨てられる人」になれる人からなっていった方がいい。そういう人に時代はついてくるものです。


文 = 白石勝也
取材 = 黒川安莉


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