2020.03.26
「後発だから勝てない」なんて信じなかった。宿泊予約『Relux』成長の裏側、篠塚孝哉と振り返る9年間

「後発だから勝てない」なんて信じなかった。宿泊予約『Relux』成長の裏側、篠塚孝哉と振り返る9年間

群雄割拠、宿泊予約サービスの後発としてグロースし続けてきた『Relux』。登録者数250万人超、予約流通額で200億円超。いかにポジションを築いたのか。2013年のローンチからKDDIグループ入りまで、その軌跡を篠塚孝哉さん(Loco Partners創業社長/2020年3月31日 代表退任)と追った。

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全2本立てでお届けします。
[1]「後発だから勝てない」なんて信じなかった。宿泊予約『Relux』成長の裏側、篠塚孝哉と振り返る9年間
[2]9年間のスタートアップ人生が僕に教えてくれたこと。篠塚孝哉が、Loco Partners 代表退任を決めた日

「どのホテルがおすすめ?」という相談が原点だった。

キュレーションに特化し、厳選された宿泊施設が予約できる『Relux』。もともとは篠塚さんが、旅行を計画する友人から「おすすめのホテル・旅館を教えてほしい」と相談される体験から生まれたというーー。

僕はもともとリクルートで働いていて『じゃらん』にいたのですが、友だちが僕に「旅館はどこがおすすめ?」っていつも聞いてきていたんですよね。

いつも「じゃらんを見ればいいのではないか」と思っていたのですが、みんなそうしないんですよね。「いっぱいありすぎてどれがいいかわからない」と。

僕が「予算いくら?」とか「誰と行くの?」とかヒアリングしながら、3つくらいおすすめの宿を出していって。

これってすごく面白いなと思って。一般的に宿泊予約って選択肢はいっぱいあればあるほどいいと言われていたのに、たった3つ提案すればだいたい決まったんですよね。とくに大切な人の誕生日や両親へのプレゼントなど「ちょっといい旅行をしたい」という時に重宝されました。

信頼できる情報ソースなら、選択肢は10も20もいらない。おすすめが3件あればいい。これを仕組みにしたい、と生まれたのが『Relux』だったんです。当時『じゃらん』『楽天』『一休』とありましたが、彼らとは違ったコンセプト。絶対市場に参入できるし、ニーズもあるだろうと踏んでいました。…ただ、現実はそこまで甘いものじゃなかったですね。

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【プロフィール】 篠塚孝哉 2007年に株式会社リクルートに新卒入社、旅行カンパニーに配属。2011年9月に株式会社Loco Partnersを創業し、代表取締役に就任。2013年3月、宿泊予約アプリ「Relux」をローンチ以降、毎年約250%の成長を実現。2015年4月よりグローバル展開を開始し、2017年2月にはKDDIグループに参画。現在の会員数は240万人を突破し、うちグローバル会員は56万人にのぼる。2020年3月、代表取締役の退任を発表。

わずか20施設しか載っていない謎のサービスだった。

リリースまもない『Relux』はなぜ全く伸びなかったのか。そこには根本的な問題があったと振り返るーー。

自信はあったんですけど、全然通用しなくて。じつはリリースしたとき、宿泊施設が20件しか載ってなかったんですよ。もちろんすべて各エリアを代表するような最高級の旅館で、満足度にも自信がありましたし、こんな無名のサービスに掲載してくださった感謝もあったので私たちにとっては貴重で重要な施設様ばかりでした。そんな厳選された20件さえあれば、必ず予約は入ると思っていたのですが…。理由は「宿に詳しい僕らがおすすめしてるんだから」と。

ただ、99%の人からしたら全く意味のわからない予約サービスだったんですよね。「プロが満足度の高い高級宿を厳選してます」とだけ書いてあるが、完全に無名の私たちがまず誰なの? という問題があり、怪しいサイトに見えていたはずです。

20施設しか載っていなかったのですが、有料広告やPRは試したりして。ただ、その20施設ともほぼ関東だったので、北海道や九州の人たちに会員登録してもらっても使えないんですよ。それはそうですよね、九州の人って箱根の宿にはなかなかいかない。九州の人が行きたいのは九州地方の宿なのに、Reluxにはないからそのまま去ってしまう。そんな当たり前のことすらきちんとできていませんでした。

創業期、多少数字が積み上がっているように見えるのですが、じつは…僕や創業メンバーが自分で予約して旅行したり、友だちにお願いして予約をしてもらったりして。3ヶ月超は実質、予約は0件でした。

とくに2013年頃ってスタートアップはtoCアプリ全盛。フリマアプリなどまわりから「リリースしてすぐカスタマーサポートセンターが爆発して泣いた」というエピソードも耳に入ってきたりして。

僕らの場合は、爆発どころか電話さえ鳴らないし、問い合わせすらない。予約が本当に入らなくて泣きたいくらいでしたね。当時はただただ泥臭いことをずっとやっていたと思います。

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1メートル先も見えない暗闇を、ただただ走っていた。

全く予約がない状況からいかにして『Relux』はグロースをしていったのか。「銀の弾」があったわけではない、と振り返る。

半年くらい経って夏が近づくとポコポコ予約が入り始めて。1日1件入るくらいだったと思います。自然に予約が入るような感じになってきたんですよね。ほとんどずっと積み上げ。一歩ずつ歩いていったらだんだん予約が増えた感覚が一番正しいと思います。

やっていたのは、ちゃんとリボンモデル*のカスタマーサイドを拡大させるために会員数を増やし、適切な機能を提供していくこと。並行してクライアントサイド、宿泊施設の登録をバランス良く積み上げること。それだけ。確か2013年の秋頃には営業チームや開発チームの努力も功を奏し、全国で100施設様くらいに登録してもらえていた。それくらい施設数があると全国をカバーできはじめ、会員が増えても予約したい宿が見つかりはじめる。ここが大きなポイントでした。

*リボンモデル...リクルートによって提唱されたサービスデザインモデル。カスタマー(個人や一般消費者)とクライアント(企業や事業者)のベストマッチングを生み出す仕組みのことを指す。

このあたりから少し光が見えてきたって感じですかね。真っ暗な森のなかを闇雲に走っていたなかで「あれ?なんかあっちに光があるかも」みたいな。少し方向性がわかってきた瞬間でした。

たぶんメンバーたちも「予約入んないけど…大丈夫か?」みたいな不安はあったと思うんです。ただ、口にすることはなかった。会社の空気も悪くなかったんですよね。とにかく目の前の改善事項が多すぎた。それにもう明け暮れる毎日でした。

1メートル先も見えない暗闇を、猛ダッシュしていく感覚。走らないと何も改善していかない。怖い気持ちを捨ててとにかく走っていた。「今はこういう状況だけど絶対に伸ばす」とも言い続けてきました。たとえば、「月の売上が100万円しかないけど、年末までに1,000万円にしよう」など、むちゃくちゃな目標を掲げ続けていました。大体は目標が高すぎて外すんですけど(笑)ただ、一般的な成長カーブより高いところに着地させる。この繰り返しだったかもしれないです。今でも不思議なのですが、「絶対なんとかなる」と根拠のない自信はずっとありましたね。

+++「目新しさをうまくブランドとして作れなかった。ここも悩んでいたポイントでした」と当時を振り返る篠塚さん。ピッチコンテストも連戦連敗、その悔しさも原動力になったという。「コンテストなんて意味ない。カスタマーに愛されてなきゃだめ…と強がっていた気がします。優勝したこともないのに口だけって今思うとかなりかっこわるいですね。ただただ悔しかったんでしょうね」

30社以上のVCに出資を断られた。

ローンチから1年が経とうとする頃、ユーザー数、施設数は順調に増えていった。ただ、難航したのが資金調達ーー2014年春から夏にかけてのことだ。

いろいろなVCや事業会社の方々と話をさせてもらったのですが、ほぼ全滅でした。30敗くらいしたと思います。一番多くあったのが、「もうすでに『じゃらん』『楽天』『一休』とあって、これ以上は伸びないと思う」という話でした。

もう少し補足すると、宿泊予約サイトって20年ぐらい歴史があるのですが、いわゆる「ど新規」の大手もたくさん参入したのですが、ことごどく失敗して、撤退していて。

この20年で立ち上がったのは『じゃらん』『楽天』『一休』、あとは昔からある大手旅行代理店のネット参入以外、一つもなかったんです。今もそうで、各社大変苦戦しています。

そういった状況のなかで「どう伸ばすのか?」と。正直、そこにクリティカルな答えを持っていたわけではありませんでした。

もちろん「宿泊予約は市場規模がかなり大きい。新興プレイヤーがほぼいない」とか「『じゃらん』出身のメンバーで創業していてチームとして強い」とか、「時代がSNSになっている。とくに集客はGoogleとかYahoo!のレッドオーシャンではなく、僕らが強みとするSNSで集客すれば予約が入る」とか伝えてはいたのですが、決め手がなく苦しかった。結局、僕らの力不足だったんですよね。

で、結局どうなったか。これも縁だと思うのですが、最終的にリクルートが手をあげてくれたんです。彼らとしては『じゃらん』をやっていたからこそ『Relux』のポジションがおもしろいと理解してもらえた。本当に最後の最後、首の皮一枚、3.3億円の資金調達となりました。

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KDDIグループ入り。その時、考えていたこと。

その後、順調にグロースを続けていった『Relux』。そして2017年2月、KDDIグループの仲間入りをすることになる。

一番のポイントは『Relux』としてより大きな勝負ができるんじゃないか。どういう経営スタイルが一番伸ばせるのか。

KDDIはグループとして営業利益が9000億円以上、au会員も約2600万人以上(2017年当時)。auペイの原資にもなっているauポイント、ウォレットポイントを駆使しながらau会員さんと『Relux』をマージしていく。

KDDIとしても「非通信領域」を強化していたタイミング。たとえば、電気、保険、eコマース、英会話…多岐にわたるのですが、おそらく「トラベル」というピースに『Relux』がハマったのだと思います。

もちろん、M&A以外の道も考えていなかったわけではありません。もともとは、IPOを目指して準備を進めていました。ただ、現実的に考えて、今年度の営業利益があり、翌年度の営業利益計画があり、その伸びしろの差分しか挑戦予算がない。縮小均衡な考え方になっていってしまうかもしれないと思えたんです。また当時、toC向けのサービスでIPOして伸ばしていっている会社が少なくて。もちろん少ないからやめるという意味では全く無いのですが、どちらのほうが『Relux』を大きくできるのだろう、どちらのほうが社会にとって価値あるサイズになるだろう。

徹底的に考え、最終的にKDDIグループに入る選択となりました。もちろん「もし今も自前で経営してたらどうなってたか」と考えることもあるのですが、数字は正直で。KDDIグループに入って、この3年ぐらいでサービスとしては5、6倍伸びていて。採用も2年で100人以上できた。そこにお金を使わせていただけたのも大きかった。予約流通額ベースでいっても200億円超と、国内の宿泊予約サイトでも上位には入っている。KDDIのアセットをマージしていくプロセスのおかげでここまで伸ばせていて。ここ20年、あらゆる宿泊予約系のサービスの立ち上がりは困難だったわけですが、その天井を破れた感覚はあります。

個人としても、買収してもらったおかげでできた体験がすごくたくさんある。上場企業の監査のレベル、経理、法務体制など日本でもトップクラスのガバナンスについて学ぶことができた。また意思決定のプロセスやマネジメント含めて、スタートアップでは体験できなかったレベルのことをやらせてもらっている。ものすごい勉強をさせていただきました。

KDDIグループに入ってから3年、2020年3月24日、篠塚さんは「Loco Partners代表退任」を発表した。その背景、思いの丈を伺った。(後編につづく)


取材 / 文 = CAREER HACK


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