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プログラマを一生の仕事にするためのステップとは?―ソニックガーデン倉貫氏が描く、IT業界の理想形。

2013-09-11

プログラマを一生の仕事にするためのステップとは?―ソニックガーデン倉貫氏が描く、IT業界の理想形。

周囲に目を配ると、優秀なエンジニアが大勢いることに気がついたソニックガーデンCEOの倉貫氏。しかし彼らは、生活のために人月商売の中に身を置いていた。世の中を変える可能性を持った人たちが、くすぶっている現状。プログラマと業界のステイタス向上に向けて、新しい試みを開始する。

▼ソニックガーデン代表倉貫氏へのインタビュー第1弾
“納品のない受託開発”とは何か?―ソニックガーデン代表 倉貫義人氏が全貌を語り尽くす。

▼ソニックガーデン代表倉貫氏へのインタビュー第2弾
“プログラマは職人、力なければ淘汰されて然るべき―ソニックガーデン倉貫氏が問う、プログラマの覚悟。

いかにして、業界の地位を向上させるか。

「納品のない受託開発」を展開し、顧客から厚い信頼を得ているソニックガーデン。CEOの倉貫氏は、顧問CTOという新しいエンジニアの働き方を確立した。これにより、顧客もエンドユーザーもエンジニアも、誰もが満足でき、正しい方向へビジネスを導けるという。業界とエンジニアの地位を高めたいと考える同氏は、このスタイルで働くエンジニアをどのように生み出していくのか。

師匠と弟子。仕組みでつくり上げたエンジニアの徒弟制度。


― エンジニアの採用について教えてください。継続して一定数の採用を行なっているんでしょうか。もしくは大量に採用する計画があるとか。


継続はしていますが、いきなり何名も増えることはありません。そもそも従業員が何名もいる会社にしたいと思っていないんですよ。小さな会社でいることが重要だと考えていますんで。エンジニアに最大限の生産性を発揮してもらうためには、究極のところ管理を一切しないことだと思います。あれこれ制約をつくったりすると、どんどん窮屈になっていく。そうじゃなくて、自由な発想でいられないと、クリエイティブな仕事はできません。

人数が多くなるでしょ。そうすると、彼らを管理する人が必要になる。けどマネージャーが100人いるのとプログラマが100人いる組織だったら、どっちがモノをつくれるかを考えたらわかるんですが、マネージャーなんていらないんですよね。ナレッジワーカーに管理は必要ない、というのが経験から導いた持論です。

ただし、高いスキルを持つエンジニアを簡単に採用できるわけがありません。当社の場合だと、だいたい半年くらい時間をかけています。


― 半年ですか。


その後の教育にも時間が必要なので、お客さんを持つまでに1年や2年かかることもあるんです。それまでは、既存エンジニアの弟子として働いてもらいます。ここでもポートフォリオが活きていて、師匠の仕事の半分は自社サービスですから、お客さんをつけない仕事を手伝いながら学んでいくことができるんです。


― 完全に徒弟制度なんですね。本当に高いレベルのエンジニアだけでビジネスしていると。


はい。エンジニアとしては、スキルアップすればするほど、多くの企業を受け持つことができ、報酬も上がっていきます。最初は1社しか担当できなかったのに、スキルを磨くことで2社、3社と顧問契約が増えていく。もしくは、自分の好きな開発に時間を割いたり、勉強することができるんです。もともとエンジニアとして技術を高めることに価値を感じているわけですから、自己研鑽に際限はありません。


― 磨き抜いた技術が顧客への価値となり、エンジニアとしてのモチベーションとも直接つながっているんですね。


そうです。システムをつくってゴールではないからこそ、提供できる価値というものもあります。

例えばお客さんが思いつきで要望する機能追加。普通でしたら、すぐに見積もりを作成して商売にする。でも私たちは、相手のビジネスに必要だと思えなかったら断わります。つくらない提案をするというのは、他ではなかなかないんじゃないかな。そんな機能よりも、優先するのはこちらですよ、と。それでもつくりたいと言われたら、他の部分の優先順位を下げるなりして、プログラマの負担が増えることはありません。それが成果で契約しているということです。

世の中を大きく変える可能性をもったエンジニアがたくさんいる。


― 実際のところ、そういうスタンスのほうが顧客から喜ばれるのではないですか。


その通りです。以前に、お客さんからこんな声をいただいたことがあるんです。

「ソニックガーデンなら、素人が迂闊なことを言っても平気。いらないものはいらないとはっきり言ってくれるので、安心して対話ができる」と。

こういう評価をいただけたのも、私たちができる範囲で、定額で、ベストエフォートでサービスを提供しているからだと思うんです。同時に、プログラマがお客さんとやりとりするので、褒められる場合も叱られる場合も、直接聞くことができる。叱られることだって、成長の機会として必要なことですからね。


― 確かに。一生プログラマとして高みを目指すための、最適な環境と言えそうですね。残念なのは、職人を育てるまでに時間が必要なことでしょうか。


そうですね。実際に相談をいただいても、すぐに対応できないことが多いですからね。経営者としては、やはり困っているお客さんがいれば何とか協力したいと思うもの。これまで2年ほど「納品のない受託開発」というスタイルを続けてきて、お客さんとWin-Loseの関係ではなく、共存共栄の関係が築けると確信しましたからね。

そこでこの関係を、より多くのお客さんとプログラマで実現できないだろうか、ということを考え続けました。周りを見渡すと、優秀なエンジニアがたくさんいるんです。でも彼らは、生活のために受託開発をやっている。人月で幾らという仕事をせざるを得ない。自社サービスを開発して世の中に広めていきたいのに、日常業務で疲れきってしまい時間が取れないわけです。世の中を変える可能性を持っているのに、それを発揮する余裕がない。

経営方針から刷新して実現する、エンジニアの理想的なキャリア。


― もったいないことですね。


はい。業界のステイタスを上げていくためにも、彼らがプログラマを一生の仕事にできる環境を用意しなくてはいけないと思いました。そこで始めたのが、『ソニックガーデンギルド』という仕組みです。簡単に言うと、暖簾分けですね。当社がやっているビジネスを、他のエンジニアとお客さんでやってもらう。

ギルドメンバー(※ソニックガーデンギルドに加盟する開発会社)には、お客さんと直接契約してもらいます。当社には加盟料をお支払いいただくだけ。これを出来高のようにしてしまうと、頑張ったらがんばった分だけ支払いが増えてしまう。それは共存共栄の関係にはなりませんからね。ギルドメンバーの成果はギルドメンバーのもの。

ただし、相応のスキルが求められますし、経営方針もガラリと変えなくてはなりません。必要と判断したら、私が社外取締役として経営に参加します。当社のプログラマたちも、ギルドメンバーの顧問として技術的な支援や顧客折衝のノウハウを提供していきます。つまり、当社と同じ働き方で同じビジネスモデルを、自社でもできるということです。


― 成功したビジネスを他社にも広めることで、自社、顧客、技術者にとっての本質を追求できる業界に近づいていくわけですね。最後に、エンジニアにとって理想の環境はこれだ!というものを一言で教えてください。


自分で自分のビジネスをコントロールできて、かつ安定したビジネスモデルでお客さんがついて、自分のサービスをつくっていけること。それがエンジニアにとって理想のスタイルだと思っています。


― 倉貫さんのお話は、多くのエンジニアに勇気を与えることになると思います。また、どこかで諦めの気持ちを持っていたプログラマたちもいて、でも彼らが「好きで始めた仕事をもっと追求していこう」と思うきっかけになるのではないでしょうか。貴重なお話をありがとうございました。


(おわり)


[取材]松尾彰大 [文] 城戸内大介



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