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音楽に人生を賭けたロック少年が、なぜ統計分析を!?|サイカCEO平尾喜昭の生き方[1]

2014-04-10

音楽に人生を賭けたロック少年が、なぜ統計分析を!?|サイカCEO平尾喜昭の生き方[1]

誰でも簡単に使える統計分析ツール『xica adelie』が注目されるサイカ。Tech Crunch Tokyo 2013スタートアップバトルでマイクロソフト賞を受賞し、今年1月に1億円を調達…と話題だが、意外と知られていないCEO平尾喜昭氏のキャリア。実は音楽に人生を賭けたロック少年だった!?

大切なことは、バンドが教えてくれた。

平尾喜昭氏

バンド時代の平尾喜昭氏

バンドマン出身の経営者は意外と多い。たとえば、以前、CAREER HACKで取り上げたVASILY 金山裕樹氏もフジロックへの出演経験を持つ元バンドマンであるし、nanapi CTO和田修一氏も学生時代には音楽活動を行なっていたそうだ。

ただ、バンドマンから転向し、「統計分析」で注目される経営者は珍しい。そういった意味でも、サイカのCEO平尾喜昭氏は異色の存在だ。

サイカは、2012年に「統計分析コンサルティング」で創業したスタートアップ。自社開発アプリケーション 『xica adelie』をリリースし、今年1月に総額1億円の第三者割当増資を実施した。割当先の1社であるセールスフォース・ドットコムと連携し、営業人員向けに統計分析アプリケーションを開発していくプランもあるそうだ。

BtoB向けである『xica adelie』は、膨大なデータの相関関係を検証できるサービス。たとえば、WEBサイトのPVという「成果」があった場合、広告出稿数、天気、曜日など、さまざまな「要素」の影響が検証できる。「成果」と「要素」が関係しているか?無関係か?専門知識がない人でも簡単に使えることをテーマに掲げる。

CEOである平尾氏個人のキャリアでいえば、13歳から音楽をはじめ、バンドでは作詞・作曲・ボーカルを担当。現在、26歳だが、その人生のほとんどは音楽中心の生活だったという。韓国で開催された音楽イベントにゲスト出演し、日本のラジオやテレビで取り上げられるなど活躍をした。ただ、大学在学時に「統計分析」との出会いという転機が訪れるー。

なぜ、平尾氏はスタートアップという道を選んだのか。何を目的に働き、そして生きるのか。職種の枠を超え、平尾氏が歩んできた道から「生き方」の選択を考えてみたい。

「どうしようもない悲しみ」を音楽で何とかしたかった

― よく趣味でバンドをやる方は多いですが、平尾さんはプロを目指されていたんですよね。その経緯から伺ってもよろしいでしょうか。


平尾喜昭氏

サイカCEO 平尾喜昭氏

小さい頃から「大人になったら人はみんなミュージシャンになるもの」と思い込んでいたんですよね(笑)。というのも、両親がバンドでボーカルをやっていて、特に父の周りにはプロになった方もいて、いわゆる音楽一家で。

ローリングストーンズの東京ドームライブに行ったり、ロックの聖地みたいなライブハウスに遊びにいったり、それが当たり前の環境でした。

だからバンドを始めたのはすごく自然で。ただ、プロになろうと決意したのは、中学生の頃に出演したイベントがきっかけ。客席の最前列に、車いすの男の子がいて、すごくつまらなそうにしていたんです。でも、僕らのライブが始まったら、車いすから落ちそうになるくらい拳を振り上げて盛り上がってくれた。政治や経済は変えられないかもしれないけど、少なくともつまらなそうにしている男の子を変えられるかもしれない。

ちょうどその頃、父が勤めていた会社がニュースになるくらい大きな規模で倒産してしまった。父のまわりでもいろいろな悲しい出来事が起こり、子どもながらに「世の中にはどうしようもない悲しみがあるんだ」と感じました。そんなどうしようも悲しみも音楽ならどうにかできるんじゃないか、という気持ちもあったんですよね。

高校を卒業してから、もっと人生経験を積まないといい音楽がつくれないだろうと考えてカナダに留学をして。そこで、韓国人の友だちが徴兵に行くことになったり、戦争について考えたり、僕は僕で日本人としてのアイデンティティについて考えたり。

いろいろなカルチャーショックを受けて、日本でチャリティライブを主催することにしたんです。当然、今までやったことがないから思うようにいかない。どうすれば人に動いてもらえるのか…何もできなかったんです。そこで初めてしっかり勉強してみたいと思って大学に進学しました。

「そもそもの悲しみ」を起こさないための統計分析

― 大学に入ってもバンド活動は並行してたのでしょうか?


平尾喜昭氏

その頃も「全てバンドのために」という感じ。音楽関係者がライブを見てくれて、それがきっかけで韓国のイベントにゲスト出演できたり、プロのスタジオでレコーディングをさせてもらったり。で、ここから大学で専攻した「経済政策」につながるんですけど…。

日本だと知らないバンドが出演するとだいたいお客さんは後ろのほうで腕組みしてるじゃないですか。韓国だと逆にお客さんが前に来てくれて、ウケればすごく盛り上がる。ただ、盛り下がると 日本以上に冷たい。海外文化やコンテンツをちゃんと評価する土壌が小さなライブハウスにあると感じたんです。

そもそも外国人である僕らがなぜ向こうにいけたか。小さなライブハウスでもなぜ海外からアーティストを呼べるのか。辿っていくと、そもそも経済政策が日本と全然違うことに気がつくんです。

自国の芸能コンテンツや芸能人を海外に送ったり、誘致したり。コンテンツの捉え方が日本と違うし、海外発信に使う文化予算も桁違い。だから、KARAや東方神起が日本で売れている。そんな政策に僕らも少しだけあやかることができた。そう思った時に、目の前の人を感動させることも大事ですが、政治や経済を含めたバックグラウンドを知らないと、本当の意味でお客さんは獲得できない、と。

それで、SFC(慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス)の竹中平蔵ゼミで経済政策を勉強しようと出願論文を出しました。論文には音楽のことばかり書いていて…今でもゼミに入れたことは奇跡だと思います(笑)。


― そこで起業のきっかけになった統計分析と出会った、というわけですね。


そうですね。半期に一回、自分なりに経済政策を考えて発表する会があって。世の中にはAという問題意識がある、問題解決のためにBという政策をやる。Bの政策によってどれだけAの問題が弱められるか?と定量化していく、という感じで。

たまたま一緒にチームを組んだ人がもともと統計分析を学んでいた。彼が「公的金融の貸付が1%増えると、中小企業のパフォーマンスが数%減る」みたいな分析結果を出したんです。

今でもその時の衝撃を忘れらないんですけど、「え?この分析をちゃんとやっていれば父親の会社は潰れなかったよね?」と。極論を言えば、経営者の経験と勘で上がり続けるはずのない土地を買い続けた結果、その会社は失敗して倒産してしまった。分析できれば、負債になる可能性に辿りつけたはずなんです。

もう、パラダイムシフトですよね。それが実践できていれば、音楽で解決したかった「どうしようもない悲しみ」は、そもそも生まれなかったかもしれない。全てとは言わないけど、1%でも起こさないことができるかもしれない。

これが統計分析との出会いで…じつは起業してからもバンドを並行したのですが、最終的にはよりたくさんの人をハッピーにできるほうを、とバンドを辞めました。

統計分析の「ありがたみ」を無くし、人々をよりクリエイティブに

― 「悲しみ」を癒やすのではなく、「悲しみ」を起こさないアプローチが統計分析だったということですね。ただ、どうしても「統計分析」は無機質で冷たく、一方で「音楽」はクリエイティブで温かみがある、という印象もあります。


平尾喜昭氏

そう思われがちですが、統計分析が身近になれば、人々は創造性や経験、勘、感性をもっと発揮しやすくなると思っているんです。

今はデータが流行っているから、「経験、勘、度胸みたいなものってアホじゃん」と思われているけど、じつは逆で。経験や勘から科学をしていき、可能性に賭ける度胸がすごく大切になってくる。


― 具体的には、どういったことなのでしょうか?


そうですね、たとえば、WEBサイトのPVと、WEB広告の関係でいえば、普通に考えればリスティングの出稿数を増やせば、PVが上がるけど、逆にPVが減ったとします。

そうすると「雨が降ったから?」「他社が出稿数を増やしたから?」と仮説が立つ。この仮説を立てるのは「人」ですし、統計分析で見えてきた相関から示唆を導くのも「人」です。

で、もし統計分析がすごくライトになり、誰でもパッとできたら、何が起こるか。データから意味を探しにいく、そして、その後に発生するクリエイティブな活動のための時間が増える。

たとえば、野球選手がパフォーマンスをあげるために、仮説を立てて、食事や練習量などと自身のパフォーマンスの相関を自分で把握できたら、より効率的で本質的なトレーニングができるかもしれません。ビジネスでも、音楽でも、芸術でも、同じことがいえると思います。仮説を持つ本人がカンタンに分析できれば、それが一番素晴らしいことですよね。


▼サイカCEO平尾喜昭氏 インタビュー第2弾
バンドに人生を賭けたことで見えた、チームビルディングの本質|平尾喜昭の生き方[2]

[取材・文]白石勝也




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