2014.04.14
ITmediaと考える|テクノロジーの台頭が及ぼす、メディア企業で働くエンジニアへの影響。

ITmediaと考える|テクノロジーの台頭が及ぼす、メディア企業で働くエンジニアへの影響。

テクノロジー企業が既存企業を飲み込む勢いで、メディア運営に触手を伸ばし始めた。新興メディアの台頭と、テクノロジーを駆使したニュースキュレーションなどの存在。そのとき、老舗のメディア企業はどう戦うのか。そこで働くエンジニアのキャリアに変化があるのか。アイティメディア株式会社取締役の斎藤氏に聞く。

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テクノロジーとメディアの融合は、エンジニアのキャリアを変えるか。

昨今、優秀なエンジニアを抱えるテクノロジー企業が、メディア企業を飲み込む事例が目につく。

アマゾンがワシントンポストを買収し、圧倒的なテクノロジーとデータを活かした新しいメディアのカタチをつくり始めた。ハフィントンポストや新興メディアであるVox Mediaも、独自の技術力を武器に急成長を遂げている。GunosyやSmartNews、NewsPicksなど、ニュースキュレーションサービスも元気だ。

テクノロジーとメディアが融合していく中で、各社で働くエンジニアやクリエイターにとって適応すべき変化はあるのか。

今回は、『ITmedia』や『@IT』を運営するアイティメディア社を取り上げる。メディアの大変革期ともいえる今、老舗のメディア企業は何を見るのか。技術面にも精通し、新サービスの立ち上げを行なってきた取締役の斎藤氏に話を聞いてみた。


【プロフィール】
斎藤 健二/取締役 スマートコンシューマー事業部長
1996年、前身のソフトバンク出版事業部に新卒入社。雑誌編集を経て、初期『ITmedia』の興隆に尽力。『ITmedia +D Mobile』『誠 Biz.ID』の立ち上げに従事し、現在はスマートフォン向けメディア『ONETOPI』などを手掛けるスマートコンシューマー事業部の責任者。

テクノロジーの台頭を脅威と考えず、利用するものと捉える。

― メディア企業にとって、近年はテクノロジー企業の台頭という変化が起きていると思います。新興メディアや国内のニュースキュレーションの存在について、脅威に感じる部分はあるのでしょうか。


脅威かと聞かれれば、ある意味で脅威だと思います。ただ「Contents is king」という言葉が、最近になってまた言われるようになりましたよね。時代遅れという見方があるかもしれませんが、当社はそれを信じてます。結局のところ、テクノロジーを活用したメディアのキュレーションサービスっていうのは、コンテンツがあってこそ成立していると思うんです。なので当社としては、脅威だと捉えるのではなく、どうやって上手く付き合っていくか考えているところです。


斎藤健二さん


コンテンツをどのように流通させるかを考えたときに、強い力を持っているのがキュレーションサービスであるのは事実です。当社の得意とするコンテンツをつくる部分と、それをテクノロジーや仕組みで届ける部分とを、分断するということではなく、役割として分けて考えることはあるかもしれませんね。

ちょっと昔の話になりますけど、アイティメディアの創業当時は、ヤフーが現在よりも圧倒的なパワーをもっていまして。ヤフトピに載るとトラフィックが集中し過ぎてサーバが落ちるなんてこともあったじゃないですか。当社も対応に苦労していたのですが(笑)、それだけ影響力が強かったということがわかりますし、WEBサーバの技術がこなれていなかったということでもあります。その頃から当社は、インフラ回りへ多めの投資を行なっていまして。頑丈な仕組みを整えていた方ではあると思います。インフラだけじゃなく、CMS(コンテンツマネジメント・システム)も内製しているんですが、「Contents is kingだよね」と言いながらも、それを支える部分に手を抜いていませんでした。

コンテンツそのものと、それを届けるテクノロジーや仕組みの重要性を理解した上で、あとはどこまで自前でやるか、どこからを外部にお願いするか、というパートナーシップの位置づけかなと思っています。

また、メディアをビジネスという軸で考えると、当社の基本的な収入源は「広告」なんですが、最近伸びているのはBtoB向けにリード情報を提供するモデル(リードジェネレーション)なんですよ。当社でも拡大していまして、稼ぎ頭になっています。コンテンツはメディアの基盤ですが、テクノロジーがあってこそできるものなので、内部に開発者をおいて力を入れて開発してます。

テクノロジーと人力の、相乗効果が起こる仕組みづくり。

― ビジネス上のメインとなる広告部分について、テクノロジーの活用はいかがでしょうか。GunosyやSmartNewsであれば、大量のデータからユーザーに最適な広告を配信する仕組みを構築しようとしていますよね。


斎藤健二さん


コンシューマー分野でも広告の仕組みにデータ分析の活用を始めてます。ただし、まだ広告商品としては試行錯誤の段階ですね。かなりのボリュームがないと収益にはならないと思います。例えば当社のサイト全体で考えると、PVは1億くらいあるのですが、顧客が望む粒度にすると凄く小さいものになってしまう。それが10万PVだとビジネスになりません。サイト全体が100億PVあれば、同じ粒度でも1000万PVくらいまでになるでしょう。

別の意味でいうと、Gunosyのような商品だとしたら、付加価値をつけて高価格で提供しないと、商売としては成立しません。将来性はあると思いますので、手を出さないわけじゃない。アルゴリズム開発やエンジニアのクリエイティビティで、パフォーマンスを最大化する余地があると思っているんです。ただし、ここのテクノロジーに関しては、自前でつくるというよりも、得意な会社と協力し合えればと考えています。


― テクノロジーへの対応は、内製と外部をバランス良くということですね。ではテクノロジーを取り入れる中で、工夫している点はあるんでしょうか。例えばハフポであれば、解析システムを活用して、カットすべきコメントやピックアップすべきコメントを判断していますよね。


当社の場合、特殊なことはやってないですね。テクノロジーと手作業のセットが重要だと思います。最近のキュレーションサービスにおいては、可能な限りアルゴリズムで処理するという考えが主流という印象があります。でも当社においては、人だから活きる力があると思っているので、「人力×アルゴリズムの最適な組み合わせはどこにあるんだろうか」というのを常々考えています。

『ONETOPI』のようなキュレーションを企画したときも、元々アルゴリズムだけのキュレーションは最適解にならないんじゃないか、という考えがあったんです。人の考えや思惑を入れるほうが、より精度を高められるんじゃないか、より面白くなるんじゃないかって。

ただし、プラットフォームはシステムとしてつくらなければならない。ここでも重要なのは、テクノロジーを切り離す思想ではないんです。「人力をどう活かすか」「人力を支えることができるシステムやアルゴリズムってどういうものなのだろう」と両軸で考えることが多いですね。

当社はコンテンツをつくる人に価値を置いてきた実績がありますので、コンテンツを活かすことがこれからもアドバンテージになると考えています。それが唯一、素晴らしい数学力と技術力を駆使する新興サービスに対抗できる手段かなと。

余談ですが、ITmediaのTOPページは「人力」で選んでます。TOPだけで月に500万PVくらいあるんですよ。ソーシャルメディアが浸透してコンテンツが分断される中で、かつ専門メディアのトップページがこれくらいのボリュームって、悪くないんじゃないですかね(笑)。

ビジネスの組み立て方を理解できるエンジニアは、価値が高まっていく。

SmartNewsが登場して業界が一斉に反応したみたいな時って、変革が来ている証拠だと思っています。新しいものを頭から否定するのではなく、「どう組むか」「どうエッセンスを取り込むか」を意識する必要があるでしょうね。


斎藤健二さん


2005年頃の話なんですけど、今でこそ「はてブボタン」とか「ツイートボタン」が当たり前になっているんですが、あれって一時期まで論外だったんです。その中で、僕が知っている限りですが、はてなブックマークのボタンを商業サイトに初めて導入したのは当社です。はてなの川崎さん(現ミクシィ役員)と話して、「進めましょう!」と取り組んだんですよ。あとは、RSSの全文配信もいち早くトライしました。iPhoneアプリもそう。他社よりも早く、iPhoneが日本で出てスグにリリースしました。


― かなり早い段階から着手しているんですね。正直、驚きです。


こういう技術トレンドをキャッチアップしていくことは、避けて通れません。昔ながらの価値観を否定することはないですが、守らなければいけないコアの部分と、その周りで時代に合わせて変わらなければならない部分とがあると思っています。「どうビジネスにするか」という観点よりも、「世の中のトレンドはどこか」を見定めて動き出すということも大切なんだと思います。新しい技術が出たりトレンドが移り変わるときには、「取りあえず試そうよ!」とか「ここにチャンスあるかもよ!」という姿勢を失いたくないですね。


― テクノロジーの導入に積極的な印象を受けますね。そんな貴社をはじめ、メディア企業で働くエンジニアの未来、働き方の変化というのはあるのでしょうか。


斎藤健二さん

例えば、最近グロースハッカーというワードが流行っていますよね。どういう役割かというと、「システムつくります」というよりも、それによって「ビジネス的なKPIを伸ばすことに責任を持つ人」「そのための仕組みは自分で調整します」みたいな概念だと捉えています。仕組みのところだけでなく「どうコンテンツに絡ませるか」とか「俺ならビジネスをこう組み立てる」という考え方をできるエンジニア。そういう人材はニーズが高いでしょうね。

現状の当社においても、リードビジネスのシステム領域やコンテンツを流通させるデリバリー領域ではエンジニアが主役です。ここから、もっと開発力をコンテンツ部分に踏み込んで活かしていかなければと考えています。コンテンツづくりをテクノロジーに落とし込むときに、もっとユーザーのディマンドを浮かび上がらせる仕組みを考えるとか。一例として、コンテンツのビックデータ解析を各社が行なっていますが、事例として参考になるものがまだまだ少ないと思います。まさにテクノロジーが力を発揮できる領域なんじゃないかと。よりビジネス的な思考や、テクノロジーの活かし方を理解することが求められていくんでしょうね。


(おわり)


[取材] 梁取義宣 [文] 城戸内大介



編集 = CAREER HACK


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