2014.05.15
作業屋はリプレイスされる|セカイラボに聞く“グローバル開発の時代を生き抜くエンジニア”

作業屋はリプレイスされる|セカイラボに聞く“グローバル開発の時代を生き抜くエンジニア”

グローバルソーシングの新旗手『セカイラボ』が注目されている。設立2ヶ月にして依頼案件総額2億円を突破。国境を越え、世界中の優秀なエンジニアや開発チームを発掘できるのが特徴だ。グローバルソーシングの潮流は、国内エンジニアの価値をどう変えていくのか?セカイラボ代表取締役の大熊一慶氏と共に考えていく。

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グローバルソーシングは、エンジニアの価値をどう変える?

クラウドワークスやランサーズが急成長し、海外でも多くのクラウドソーシング・プラットフォームが立ち上がった。WEB開発の領域でも、国境を超え、優秀なエンジニアに業務を委託できる時代になってきた。

この波は、いよいよチーム単位に及ぶのではないか?そんな予兆をグローバルソーシングの新旗手 『セカイラボ』の躍進は感じさせる。設立わずか2ヶ月で依頼案件総額は2億円を突破。登録エンジニアも世界8カ国で約1200人を超え、多様なニーズに対応している。

セカイラボ


セカイラボが目指すのは、海外のハイレベルなエンジニアチームと仕事ができる開発プラットフォーム。日本企業の「可能な限り開発コストを抑えたい」という要望に応えていく。

委託できる海外開発チームは、いずれも過去に国内WEBサービスの開発実績を持つ。日本に拠点を置くベトナムや中国の開発会社も多く、日本語を話せる担当者がいるのも特徴だ。また、国内でのセキュリティチェックやデバッグなどオプションも充実。顧客の「海外に依頼するのはコミュニケーションやクオリティが…」という不安も解消する。

国内のWEB開発会社やエンジニアにとって脅威にも感じられるサービスだが、彼らはグローバルソーシングをどう捉えているか?また、その浸透によって国内のエンジニアの価値はどう変容するのか?代表取締役の大熊一慶氏に話を伺った。

ハイレベルな海外チームと低コストで開発できる時代へ

大熊一慶

― まずは『セカイラボ』を立ち上げた背景から伺ってもよろしいでしょうか。


一番大きいのは、WEBサービスの開発において国内のエンジニアが不足しているということですね。今、日本における9割以上の企業が「エンジニアが不足している」と回答していて。

需要の拡大に、供給が追い付いていないのが現状です。たとえば、インドだと年間約200万人のコンピュータサイエンスを専攻した学生が輩出されており、中国では約100万人のエンジニアが輩出されていると言われています。しかし、日本で輩出されるのは約2万人。プラットフォームさえあれば、「海外に開発を依頼したい」といった日本国内のニーズに応えられるのではないかと考えました。


― 企業がグローバルソーシングを活用する最大のメリットは、やはりコストですか?


それは大きいですね。あるiPhoneアプリの例でいえば、国内では開発費約2000万円の見積もりだったのですが、海外で開発して約700万円で抑えることができました。

なぜ、これだけ安くなるとかといえば、圧倒的にプログラマの人件費が安いから。日本だと人月で70万円や80万円といったこともありますが、ベトナムでは20万円というケースもある。もちろん、安くても質が悪ければ利用してもらえないので、日本語でコミュニケーションが取れる体制にしたり、セキュリティチェックを万全にしたり、サービスを拡充させています。


― つまりはコストパフォーマンスを上げていくということですよね。


今はそういったニーズに応えている、というカタチですね。ただ、別のニーズもあるんですよね。たとえば、日本ではまだまだUnityを使ったゲーム開発の経験者が少ないけど、中国にはたくさんいる。「安いから中国でつくる」というより、「Unityに強いエンジニアがいるから中国で開発する」というケースも増えています。

生き残るための3つの道

― グローバルソーシングが広まれば、どうしても「国内エンジニアの食いぶちが少なくなる」ということにも?


大熊一慶

難しいところですが、全てグローバルソーシングに移行するとも考えにくいですよね。場合によっては国内でやり取りしたほうが早く仕上がったり、都合が良いこともある。

ただ、二次請け、三次請けでひたすら開発だけ…という方は、正直厳しいかもしれない。海外の人材にリプレイスされてしまう恐れはあると思います。


― リプレイスされないためには、どうしたらいいのでしょうか?


たとえば仕様の検討から入れたり、新しい技術にチャレンジできたり、そういったところに身を置いて、スキルを磨くしかないのかもしれません。


― 具体的には、どういったスキルがより求められていくと?


特に、実践でこそ得られるスキルは重宝されますよね。具体的には大きくは3つの方向があると考えています。

まずは「技術に特化する」という道です。学び続けて国内外で必要とされる存在になっていく。「その人がいれば技術で勝負できる」というレベルになれれば強いですよね。

もう一つは、海外チームとコラボができるスキルを身につける。日本企業と海外チームの間に立って調整できる方って全然足りていないんです。語学力があることはもちろん、文化の違いやコミュニケーションの取り方など、経験を通じて理解していなければできないことでもあって。


― 「語学」という話がありましたが、やはり英語がメインでしょうか?


今後…という視点で言えば「中国語ができる日本人のエンジニア」って少ないので、そういった方はすごく価値があると思います。

今、起こりつつあることで、中国から日本に仕事が流れていて。島根や沖縄だと中国の都市部よりもエンジニアの人件費が安かったりもする。先々どうなるかわかりませんが、そういった時にブリッジSEとしての役割が担える人は貴重ですよね。

で、最後の道になるのですが、一番ニーズが高まっているところで、「企画から提案できるエンジニア」を目指す。顧客のニーズは、ほとんどが抽象的なものからのスタートです。ディスカッションして企画をかためて、仕様に落とす。つまりマーケットやサービスのことがわかった上で、技術的なことに落とせる方は、活躍の場が広がっていくと思います。


― そういったマーケット視点は、どうすれば身につくのでしょうか?


「仕事における境界線を曖昧にする」ということが大事なのかもしれません。エンジニアであっても営業と顧客先に行く、企画を提案する。そういった意味でスタートアップやベンチャーはいい環境なのかもしれません。

セカイラボでもエンジニア向けの研修をやるのですが、この「3つの道」はすごく意識していて。汎用的なスキルを身につけていこう、と。まだ構想なのですが、エンジニアの教育などをサポートできる事業も展開していければ、と考えています。グローバルソーシングが浸透した時、海外と国内の間に立てたり、企画が出来る日本人エンジニアの存在は必ず求められていくはずです。

「責任感の強さ」は武器になる?

― ここまで「スキル」といった部分でお話を伺ってきました。たとえば「資質」などで日本人エンジニアが武器にできることはあるのでしょうか?


大熊一慶

良いことか悪いことかわかりませんが、日本人の方だと、仕事に対するコミットメント力というか責任感はすごく強いですよね。

たとえば、お客さんの都合で〆切が短くなったとしても、日本なら必ず期限までに高品質でつくってくれるイメージがある。こういった信頼は武器になるのかもしれません。


― たとえば、日本と海外のエンジニアで「熱量」の違いみたいなものはあったりするのでしょうか?


そうですね、急成長しているアジア諸国のエンジニアは「前のめり感」は凄くありますね。どんどん国として豊かになっていて。ベトナムでいえば、医者や弁護士の次に尊敬される職業がエンジニアであるといった話も。国としてエンジニア育成にチカラを入れていますし、努力すればするだけ給料もあがりますし。


― そういった海外のエンジニアと勝負していくことになる、と。


ただ、あまり悲観的にならなくても、日本でスタートアップにいる方の熱量もすごくあって、そういった方と仕事をするとすごく刺激を受けますよね。

スタートアップやベンチャーだと「どうキャリアを築くか」ではなく、「何がしたいか」を大切にする気がして。私の話で恐縮なのですが…もともと音楽配信サービスを提供する『モンスター・ラボ』に入社して、半年間プログラミングを勉強して、営業もして、ディレクションも企画もやって…と色々やったのですが、ずっと「新しい事業を立ちあげたい」と公言していたんです。

顧客先で「良いWEBサービスなのに予算が足りないから実現できない」という場面があった。そのアイデアが世界を変えたかもしれないのに消えていく。

そう思った時に「少ない予算でも実現できるようにすればいい」と『セカイラボ』を立ちあげました。

将来的にもやってみたいことがあって、それはセカイラボでやるかもしれないし、別の場所かもしれない。結局は「何をやりたいか?」が先にあることが大切なのかもしれません。


― 「グローバル化で食いぶちがなくなるのでは?」という危機感は大切ですが、「自分は何がやりたいか?」と考えることも重要なのかもしれませんね。本日はありがとうございました!


(おわり)

[取材・文]白石勝也



編集 = 白石勝也


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