2015.10.14
「また組みたい」と思われる関係、築けてる?ニコ動発のクリエイター 清水誠一郎の処世術

「また組みたい」と思われる関係、築けてる?ニコ動発のクリエイター 清水誠一郎の処世術

ニコニコ動画発のクリエイター 清水誠一郎さん。現在は映像はもちろん、グラフィックやアニメなどのさまざまな表現に関わる注目の若手クリエイターだ。「ウデに自信がない」と話す清水さんは、いかにして実績を残し続けているのか。彼の”処世術”に迫る。

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ニコニコ動画で大ヒット!《中学星》の作者。

「ウデに自信があるというわけではないんです」。

そう話すのは、注目の若手クリエイター 清水誠一郎さんだ。もともとは自動車メーカーのデザイナーとして働いていたが、大学院の修了制作としてつくった《中学星》がニコニコ動画で大ヒット。フリーへと転身し、2014年にはWIRED主催の『CREATIVE HACK AWARD 2014』のムービー部門賞を、2015年には『CEDEC AWARDS 2015』優秀賞を受賞。直近では『怪獣酒場カンパーイ!』のキャラクターデザインを手がけるなど、活躍の場を広げている。

中学星スーパーデラックス【期間限定試食版】 / chu-gakusei


「自分はまだまだ」と語る清水さんは、いかにして今日のような実績を重ねてきたのか。清水さんが制作以外で気をつけていることを聞いてみると、世の中のクリエイターが知っておきたい"処世術”が見えてきた。


【Profile】
清水誠一郎 Seiichiro SHIMIZU
愛知県出身。静岡文化芸術大学大学院修了。修了制作として《中学星》を発表。スズキ株式会社へ就職し、カーデザインを手がける。2010年にニコニコ動画で《中学星》がヒットし、翌年に角川書店よりOVA『中学星 スーパーデラックス』、その翌年に『中学星UNIVERSAL すこやか』を発売。2013年にフリーランスへ転身する。

大企業を辞して選んだ、フリーランスの道。

― まずフリーに転身したキッカケから教えてください。ウデに自信がないと、大手企業を辞めるという選択はできないと思うのですが…。


自分のウデというよりも、自分の欲求に従って選んだという感じですね。

具体的には、自分のなかで“つくるだけの仕事になってしまっている”ことに危機感を覚えたのが大きな理由で。スズキくらいの企業だと、社内のどこかでクルマをつくることが決まって、僕の知らないところで開発スケジュールが組まれて、そこから仕事が割り振られるわけです。「このクルマのこのパーツをイイ感じにつくるミッション」みたいな感じで。

仕事ですからもちろんつくるんですけど、完成したときの達成感は得られないんです。自分のつくったパーツがいつの間にか完成品の一部になっていて、発売に至っても自分に関係あるものだとは思えなかった。そのとき、自分が夢中になり、大事にしたいものは「手応え」だったんだとハッキリわかりました。ここにいても手に入る気がしなかったので、わずかな自信を頼りに上京しました。


― 実際にフリーになってからはどうでしたか?


いざフリーになると、当初の欲求への意識は少し遠くにいってしまい、フリーランスの指南本や雑誌に書いてある 「追加の修正にはきちんと追加料金をもらう」とか 「自分が不利にならない立ち回りをしよう」みたいなフリーランスとしての立場を守ることに意識を支配されていました。

ある案件で、打ち合わせでのクライアントの言葉を形にして確認してもらって、あとから姿の見えない決済者からボツが出て、の繰り返しで先に進まないまま期日だけが迫っていくことがあったんです。そのときは 「とにかくなんでもいいから無事にこの仕事を終わらせる」 という自己保身に走っていました。打ち合わせでもそういう雰囲気が出てしまっていたと思います。

中学星_清水誠一郎

ものづくりの"気持ちよさ”を共有したい。

― その映像作品は無事に完成したんですか?


ギリギリでできあがった映像に関しては喜んでもらえたので一安心でしたが、 完成までの過程を振り返ったときに、もう少しポジティブに取り組めなかったのかと少し申し訳ない気持ちになりました。自分を使ってもらっていることへの感謝も足りなかった、と。

自分も作業を外注することがあるんですが、クライアントは仕事を依頼するクリエイターの実績はわかっていても人柄や相性まではわからないじゃないですか。使いやすさというか。そういう不透明なものに対して高いお金を払うわけですから、何かしらの不安が前提としてあると思うんです。

だから仕事の過程で「この人に頼んでよかった」と安心してもらうことも頼まれる側の大事な仕事だという意識が大きくなってきています。 最終的なアウトプットさえよければ万事オッケーというわけではないと。成果物はもちろんのこと、それを一緒につくり上げていく楽しさや 気持ちよさみたいなものも共有して「この人と仕事できてよかった。楽しかった」と思ってもらえるように意識して行動するようになりました。今年取り組んだ仕事では、その反省が活きている手応えがあります。


― 仕事するときの考え方を変える転機になった、と。


そうですね。自分のやり方が定まってきた感じです。 はじめは「フリーランスの鉄則」みたいなものに意識を取られていましたが、ひとまずそういうのはニの次に置いといて、素直に行動していこうと。

「とにかくみんなが楽しい仕事をしたい」のが素直な気持ちなので、少しでもフランクな雰囲気で意見を言い合えるように意識して立ち回っています。そういう雰囲気の方が最終的な成果もいいものになる可能性が高い気がして。

もともと人としゃべることが好きなので、関係者にかなり話しかけるようになりました。冗談とかも織り交ぜつつ「あ、この人にはここまで言えるんだな」とか(笑)。特にクライアントと話せる時間って限られているから、そのなかでいかに「こいつとしゃべって面白かったな」と思ってもらえるかは大事にしています。全神経を集中させて、自分のキャラも受け入れてもらいつつ、頑張って会話に神経を使っていることを悟られないように自然に…。その結果が「また仕事をしたい」につながったらいいな、と。

フリーになったからこそ気づけた自分の本音。

― 「自分はまだまだ」とおっしゃっていたことも、そういう考え方に行き着いたことと関係しているんですか?


関係無いと言えば嘘になります。上を見れば果てしなく高い所にいるクリエイターもいますし、「みんなで楽しく」なんて考えていることが何だか恥ずかしくなるほど圧倒的なウデを誇る人も割と身近にいます。そういう力には憧れていますが、自分の属性を考えるとそこで戦うには分が悪い。かといってウデを磨くことをサボっては肝心の成果物の質を上げることはできないので、そういう面でもしっかり自分を強化していきたいです。バランスが大事ですね。


― これからの話が出ましたが、最後に今後の目標を教えてください。


ひとまず今お話ししたスタンスを大事にして、一つひとつ仕事を積み重ねていきたいです。 クライアントワーク以外にもオリジナルコンテンツ をつくっているので、こちらも積極的に展開していきたいと思っています。どちらかに絞ることは考えてないですね。僕にとってクライアントの仕事は関係者に喜んでもらうものづくり、オリジナルコンテンツは自分を喜ばせるものづくりなので、得られる満足感が違うんです。

それと、ここ1年半くらい母校で教壇に立つ機会を与えてもらっているんですけど、かなり面白いんですよね。ものづくりと同じくらい。自分が設計した授業を通じて手応えがある回もあれば、ない回もある。自分の狙い通りの反応をもらえたときは、やっぱり嬉しいですよね。だから、人に教える能力をもっと高めたいと思っています。いろんなところで手応えを求めていきたいです。…野心がなくてすみません(笑)。

中学星_清水誠一郎

― いやいや。お話をうかがって、関係者を巻き込み、目線を合わせていく力もクリエイターにとって欠かせない能力であることを強く感じました。仕事でのコミュニケーションがうまくいっていない方には学びの多い内容だったと思います。本日はありがとうございました。



文 = 田中嘉人


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