2015.12.22
東京糸井重里事務所が「おもつらい仕事」を重視する理由|TWDW2015

東京糸井重里事務所が「おもつらい仕事」を重視する理由|TWDW2015

書籍『アライアンス』監訳者であり、東京糸井重里事務所CFOの篠田真貴子さん、リクルートエグゼクティブエージェントの佐藤雄佑さんのトークセッションをお届けします。(働き方の未来をつくる7日間 TOKYO WORK DESIGN WEEK 2015「『人と企業』の新しい関係について話そう!」より)

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実践者が語る「人と企業」の新しい関係

「働き方の未来をつくる7日間」として、今年で3回めの開催となったTWDWのレポートをお届けします。

勤労感謝の日、23日(月)の午後に開催されたのは「『人と企業』の新しい関係について話そう!」をテーマにしたトークセッション。書籍『アライアンス』の監訳者で東京糸井重里事務所(※以下「糸井事務所」)のCFOである篠田真貴子さん、リクルートエグゼクティブエージェントの佐藤雄佑さんが、独自の人事制度やそれぞれのキャリア観について語り合った。

ふたりの話を引き出したのは、国内外300社を超える採用事例の研究を元にノウハウを提供するコヨーテの代表 菊池龍之さんだ。

コヨーテ_菊池龍之さん

(コヨーテの代表 菊池龍之さん)


個人の「動機」と「自己管理」で仕事を生み出す

企業と社員の関係性にスポットをあててヒットした書籍、『アライアンス』では、「シリコンバレー発展の秘密は、その地の企業と社員の関係にあり、その根拠となる事例や具体的なノウハウ」がふんだんに紹介されている。

この日は、「日本にも社員との良い関係を事業の原動力にしている企業」について、具体的な取り組み・事例が語られた。

同企業に共通する特徴は、仕事の出発点に「個人の思い」があるということだ。糸井事務所の場合、働き方の大原則は「自己管理」にあり、何をするかについて個人の裁量がとても大きい。同社のCFOである篠田真貴子さんはこう語る。

「『経理部は経理以外しないでください』というように、部署によって役割が限定されているのが一般的な会社ですよね。でも、糸井事務所ではデザイナーとか経理だとかの肩書は基本的な守備範囲を示すものでしかない。『これ面白そうですね。やりましょうか』と言ったら、『全部あなたがやってください』が原則なので、特に大企業を経験してきた人はびっくりしますよね」


糸井事務所では、「社員ひとりひとりの動機を大切にする」ということを単なるスローガンではなく本気で実践している組織であるということ。とはいえ、好きなことを好きなようにやればよいということではないようだ。

「仕事の良し悪しを決めるのは、自分ではなく周りの人たち。これは不変の原則ですよね。その上で、糸井事務所では自己評価を一番のベースにします。これはどういうことかというと、『よそ様が自分の仕事をどう見ているかをわかっとけ』という話なんです。自分がやったことで周りがどれだけ嬉しいのかというのを認識しないと、自己評価はできない。これを糸井は、『舞台の向こうから、こっちがどう見えているかを理解する、そういう目玉を持ちなさい』と言っています。こういうところは、フリーランス出身の糸井が作った組織ならではなのかな、と思います」


自分のキャパシティや他者からの評価も見極めた上で何をやるか、どのようにやるかを決める。「自己管理」という言葉にはそこまでの厳しさが含まれているのだ。

代表の糸井重里さんは、そういう仕事のあり方を、面白いけれどつらさもあるということで「おもつらい」と表現するそうだ。

糸井重里事務所_篠田真貴子さん

(糸井重里事務所CFO 篠田真貴子さん)


起点は個人の意思、未経験の現場で成長を促す

リクルートも、個人の動機を非常に重要視する組織。それをしくみとして担保しているのが「Will Can Must」という制度で、個人の目標設定をする際、上司と本人が一緒になり、Will(本人の意思)、Can(今の強みや、必要となる能力)、Must(仕事上の目標)を順に考える。1時間の面談でWillの確認に終始し、Must(仕事上の目標)にたどりつかないこともしばしばだそう。

「冗談みたいな本当の話で、『お嫁さんになりたい』とか『パン屋さんになりたい』みたいなWillが出てくることがあるんですよ」


と、佐藤さん。それらをどう仕事へのモチベーションにつなげて組織の力にしていくかは、上司の力量だという。

リクルートエグゼクティブエージェント_佐藤雄佑さん

(リクルートエグゼクティブエージェント 佐藤雄佑さん)


また、「人は(研修ではなく)現場で育つ」、「どこに行っても通用する変化対応力が大事」という考えから、変化が余儀なくされる「おもつらい」環境を次々に与えていくということを、人事が意図的にやっているそうだ。

自分が何をやりたいかなんて、仕事をしてみなければわからない

今はそれぞれ、おふたりならではのビジョンを持って働く篠田さんと佐藤さんだが、若いころは個人よりも企業の論理優先で働いてきたという。

「子どもが生まれるまでは『生産性なんてくそくらえ』。鬼のように長時間労働をしていました」


こう語る篠田さんは、新卒入社した銀行で、数少ない女性総合職として順風満帆の20代を過ごす。しかし外資系大企業を複数経験した30代は、結果を出せずに退職したり、2度の出産を経て育児との両立に苦心したりと葛藤の連続。やがて大企業で昇進していくことに「全く燃えない」自分に気づき、途方にくれたという。

そんな篠田さんが「40代にして初めて、イニシアチブを持って仕事ができた」と感じたのは、糸井事務所に転職して4年ほど経ってからのことだったという。

佐藤さんも、「35歳くらいまでは『社畜か!』というくらい、お客さんや会社のためにがむしゃらにやってきた」そう。会社やお客さんの期待に応えてがんばるという形で、営業支店長や人事マネージャーとして尽力してきた佐藤さん。自分の意志で手を挙げてコンサルタントに転身したのは、子どもが生まれて半年間の育休をとったことがきっかけだった。主夫生活をしながらじっくり自分と向き合う時間をとった結果、より自身の強みや方向性に合う仕事がしたいと考えるようになったのだという。

この話を受けて篠田さんは、

「個人が企業と良い関係を築くためには「自分が何で貢献できるのか」に自覚的になる必要があります。それは実際の仕事における他者との関係の中で得られるもので、ひとりで内省を繰り返していても見つからない。見つけるために機会を求めて行動すること、様々な選択肢があることを知り、会社の言いなりではなく「自分で道を選択している」と思える状態を作っていくことが重要です」


こう力説した。個人は仕事の中で自分の貢献のあり方を模索し、企業はその模索を後押しするような場を提供する、そんな関係性が、これからの企業と個人の一つのあり方なのかもしれない。

文 = CAREER HACK
編集 = やつづかえり


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