2016.08.02
オフィスをオシャレにしても革新は起こせない! ロフトワークと考える“イノベーションを生み出す場”の定義

オフィスをオシャレにしても革新は起こせない! ロフトワークと考える“イノベーションを生み出す場”の定義

富士通やパナソニックなど「イノベーションが生まれる空間を作りたい」と考える企業が場づくりに挑戦している。しかし、「場」を作るだけで画期的なアイデアが生まれることはない。イノベーションの芽を生み出す「創造空間」の設計が必要である。「創造空間」には一体何が必要なのだろうか?

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「オフィスの再発明」とは?

近年、富士通やパナソニックなど、日本企業が組織内外の多様な人が集い、アイデアを出し合って実践していく「場作り」に挑戦している。しかし、ただの「場」だけでは何も生まれない。イノベーションの芽を生み出す「活動」を作るには、ソフト面での設計も必要である。

7月上旬、ロフトワーク主催で行われた「A CREATIVE SPACE for INNOVATION ー 未来をカタチにしていく創造空間のつくり方」では、働き方や仕事を変える「オフィス再発明への挑戦」について語られていた。オフィスを考えることは「働く」を考えることにもつながっている。今まで、さまざまな企業とともに「創造空間」を仕掛けてきたロフトワーク。彼らに学ぶ「働く」を変えるオフィスの再発明とは?


[登壇者]
・株式会社ロフトワーク イノベーションメーカー 棚橋弘季
・株式会社岡村製作所 マーケティング本部ソリューション戦略部 未来企画室 室長
 WORK MILL編集長・エバンジェリスト 遅野井宏

「イノベーションが生まれる場」とは?

棚橋さん

株式会社ロフトワーク 棚橋さん

冒頭に挙げた企業以外でも、今、イノベーションが生まれる場が求められている。では、アイデアをイノベーションという結果に繋げるためにはどのような環境が必要なのだろうか。

ロフトワークの棚橋弘季さんによると「イノベーションが生まれる場をつくるポイントは、さまざまな企業、部門で活動していたものを1つにすること」だという。また、場作りをする上で棚橋さんは「多様性の高いコミュニティをメインに作ること」を重視しているそうだ。イノベーションの種は従来とは異なる組み合わせから生まれる。多様な人々が集うコミュニティの場はそうした新結合が生じる可能性を秘めているのだという。

実は過去にはそうした仕事の場が存在したのだと棚橋さんはいう。

そもそもオフィスの起源は、17世紀のイギリス。当時、船舶ニュースや保険などを取り扱っていたコーヒーハウスという社交場が、株式会社の仕組みの誕生とともに“オフィス”として活用され始めたのが始まりと言われています。(棚橋さん)

そんなカフェのような多様な人々が出会う可能性をもった空間がいま改めてイノベーションを求める企業にとって必要とされるようになってきている。

例えば、富士通とロフトワークが共同で行ったプロジェクト「Knowledge Integration Base PLY」でも多様な人々が集う場をどのような形で実現するかが議論された。その際、どんな空間にするかということよりも前に、「何を目的とした活動をする場なのか」「今のやり方をどのように変えていくか」ということから議論したという。従来の仕事のやり方の延長線上にあるオフィスを考えるのではなく、新しい働き方そのものも“場”と一緒にデザインしたのだそうだ。

PLY

FUJITSU Knowledge Integration Base PLY

私たちの間ではこのようなプロジェクトを“オフィスの再発明”という表現をしています。オフィスという空間を発明しているわけではないのです。新たな価値を生み出す仕事が行われる場を再発明するために、どんな活動をしていくかを記したマニュアルを作ったり、コンセプトを伝えるためにコンセプトブックを作成したりしました。空間を作る仕事をしていて感じるのは、「仕事をすること=いろんな人とつながること」。組織という枠組みを超えた場にこそ、発明があります。(棚橋さん)

場は、ハードだけでは機能しない。ソフト面で如何に機能させるか。

遅野井さん

株式会社岡村製作所 遅野井さん

続いて、ゲストセッションに岡村製作所の遅野井さんが登壇。前段のセッションで棚橋さんが「アイデアを生み出す場=さまざまな企業、部門で活動していたものを1つにすること」と定義したものに加え、実際にオフィスで必要となる要素について語った。

当然ながら、時代ごとに働き方もオフィスの空間構成も変化し続けている。岡村製作所の予測では、今、オフィス全体の面積が減りつつあるという。今後は執務室や役員室、会議室そのものが縮小し、一方で受付やロビーといった「リフレッシュできる場」が拡大していくのではないかと話す。

受付やロビー、エントランスルームは社内外の人が自由に入って使うことができます。セキュリティ外なところでクリエイターと打ち合わせしたり、社員がくつろいだり。必ず席に座っていなければいけない人以外は、どんどんフリーアドレス化していくのではないかと思っています。(遅野井さん)

インターネットによる技術進歩もあり、テレワーカーなど、外にいても働けることが当たり前になっている。そんな中、コワーキングスペースやフューチャーセンターのような新たな場も登場した。

では、先述の棚橋さんが話していた「アイデアを生み出す場」を作るため、共創空間にはどのような要素を備えるべきなのだろうか。遅野井さんは共創空間に求められる空間要素、機能要素を提示した上で、「関心・互恵・秩序」といった人間的要素があることに気づいた。

関心・・・新たな事業を起こす、進めるためのエネルギー。ともに働いていたり、クリエイティブな場を共有していたりする仲間が「何をやっているのか」がわかり、ゆるやかにつながっている
互恵・・・お互いにとって利益のある活動をし、それを通じて信頼関係を持つ。「あなたがいつか力になってくれると思うから、今あなたの力になろう」という活動が存在している
秩序・・・どんな性格の人間が訪れているのか、どのような活動が奨励されているのかが“場”に蓄積し、形成され、結果、空間そのものの価値につながる。また、その秩序を守る役割を果たし、利用者をつなぐ人が存在することが望ましい。

空間を作れば、そこからとんでもないものが生まれ、自然と場が盛り上がるわけではありません。また、やみくもに人を集めればいいわけでもありません。上記のような要素がちゃんとつながっていないと、場は貧しくなっていきます。私たちのような場作りの仕事をしている人間はもちろん、様々な企業・組織においてもこういった要素を揃えるためにトライアルし、先に進めていくことが必要です。(遅野井さん)

「交流さえあればイノベーションが起こる」わけではない

オープンセッション

オープンセッションでは、Loftwork COOOP、FabCafe、FabCafe MTRLの空間設計を手がけた、古市淑乃建築設計事務所の古市 淑乃さんと、空間デザイナー/岩沢兄弟(兄)の岩沢 仁さんを交えてトークが行われた。

ありがちなイメージとして「他者と交流できていれば、イノベーションが起こりやすいのでは?」がある。これについて遅野井さんは「イノベーションには、普段会わない人とのコミュニケーションが必要」と語る。

1960年代のアメリカの有名な研究に、弱い紐帯の強みという発見があります。『普段、顔を合わせている人たちとの間にある情報は均一化してしまうため、イノベーションの種にならない。だが、なかなか会わないけれどゆるくつながっている人との間での情報には、イノベーションの種がある』というものです。このことから、通常の業務プロセスで会う可能性が低い人とのコミュニケーションが必要なことがわかります。『あの人が、ああいうことを言っていたな』と、ふと思い出せるような新しい要素を取り入れることが大事なのです。(遅野井さん)

これについて、棚橋さんはFabCafeで行われているイベント「ロボカップ」を例に挙げる。ロボカップとは、ロボットで行うサッカーイベントだ。毎年、定期的に行われていく中、だんだんとコアメンバーができ、内容が高度化しているという。

普段はバラバラに研究している人たちが、ロボカップという共通ができ、一体性が生まれています。交流に+αを与えたとき、新結合が起こります。(棚橋さん)

とはいえ、普段から関わりがある人との強いつながりも必要である。これは、イノベーションが起こったあとにスケールするための力にもなる。

また、実際に場を作るときには、アイデアだけでなく、プロによる実装も必要だ。どのタイミングで、プロに依頼するのがいいのだろうか。

アイデアを広げるためには、考える脳の数が多いほうがいい。なので、様々な分野の人に早めに入ってもらうのがおすすめ。(岩沢さん)

新しい場を使いこなすためにも、運営していく人を巻き込んで、その場を作る目的や目指すべきところを共有しておくべきです。多機能な場を最大限に活用するのは難しかったりします。使い方のイメージが共有されていて、存分に使われていく空間は効果と魅力が共に出ているなと思います。(古市さん)

早い段階からプロが関わることのメリットが語られたが、現在の日本型の意思決定では、社内で意思を固める→あいみつ(相見積もり)をとる→プロを選定する→依頼する、といったプロセスが主流だ。そのため早いタイミングでプロジェクトに参加してもらうのは難しい可能性も現状としてあることも事実だろう。場作りは、短期的な視点で直接利益として還元されるものではなく、中長期的な視点での投資となる。このことを決裁者に理解してもらう段階で苦悩している担当者も実際に多いのではないだろうか。

イノベーションを起こせる要素を考えることはもちろん、同時にHow部分での課題をクリアにすることへと繋がる。働き方、仕事を変えるオフィス再発明は、そのプロジェクトに関わる人たちの「働き方」をも再発明していると言えそうだ。

(おわり)


文 = 福岡夏樹
編集 = 大塚康平


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