2016.11.29
Cerevo CEO岩佐琢磨が語る「IoTハードウェアのPMが注意すべきこと」

Cerevo CEO岩佐琢磨が語る「IoTハードウェアのPMが注意すべきこと」

「グローバルニッチ」を自称し、世界中のコアユーザーの心をつかむIoTハードウェア企業、それがCerevoだ。CEOを務める岩佐琢磨さんは、これまでの経験と自社の取り組みを通じて「IoTスタートアップにおけるPMの役割と注意すべきこと」を語った。

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グローバルニッチで活躍する日本初IoTハードウェア企業

※2016年10月24日に開催された「Japan Product Manager Conference 2016」よりレポート記事をお届けします。

スロベニア、ウクライナ、ラトビア……中東欧やバルト三国をはじめ、売上の半数が海外からの発注という日本発のIoTハードウェア企業がある。株式会社Cerevoは、大手家電メーカーを退職した岩佐琢磨さんが創業して8年目を迎えた。

これまでのプロダクトを振り返ると、プロジェクタ搭載のホームロボット、センサー内蔵自転車、インターネット配信用機材、スマホから操作できる改造ミニ四駆キット、アニメ作品の近未来兵器を模したスマートトイ……これらのラインナップをそろえるのは、Cerevoが「グローバルニッチ」な顧客層を狙っているからだという。


1カ国100個の売上だとしても、100カ国で売れば1万個になる。それを100プロダクトつくれば100万個のビジネスになる。


現在、社員96名のうち76%がエンジニア職に就くCerevoでは、一般的なIT・Web企業とはPMの役割も異なる。正しくは、異なるというより「ハードウェアならでは」の必要となるスキルや領域があるようだ。


[プロフィール]
岩佐琢磨/株式会社Cerevo CEO

1978年生まれ、立命館大学大学院理工学研究科修了。2003年からパナソニックにてネット接続型家電の商品企画に従事。2008年より、ネットワーク接続型家電の開発・販売を行なう株式会社Cerevo(セレボ)を立ち上げ、代表取締役に就任。世界初となるインターネットライブ配信機能付きデジタルカメラ『CEREVO CAM live!』や、PCレスのライブ配信機器『LiveShell』シリーズなどを開発し世界50カ国以上で販売。2016年にはフル可動式ドミネーターを発売するなどその業務範囲を広げている。

ハードウェアのPMはアプリよりも守備範囲が広い

スマートフォンアプリを例に取った場合、アプリエンジニア、デザイナー、インフラエンジニアの3名がいれば一応の制作環境は整う。しかしながら、ネットワークにつながるIoTハードウェアを作ろうとすると、「デザイン、メカ、回路設計、アートワーク、組み込みソフトウェアエンジニア、生産技術、部品調達、品質管理」と、必要になる職能や担当が一気に増えることになってしまう。そのため、アプリと同じように一筋縄ではいかない

Cerevoでは社員を5〜6名ずつのチーム構造に分けて、各チームが1つずつのプロダクトを受け持ち、リリースするような体制を取る。その際、「デザインとメカで1名」「回路設計とアートワークで1名」など、“一人何役”を務めている。その中で、PMの役割は「生産技術、部品調達、品質管理」を主として務めており、社内エンジニアのみならず、社外折衝の業務も多く、守備範囲が広いという。

その上で、一般的なPMとは異なる「ハードウェアならではの知見」も必要となってくる。今回は岩佐さんが話したものから2点をピックアップしてみた。

1.「10円、100万円、1000万円、1億円の法則」を知る

Cerevoにおけるものづくりは、まず使用する「部品選定」を定めた後、「設計→試作→評価」の手順を3回繰り返した後に、「量産」し、「出荷体制」が取られる。この時、特に大切なのが「部品選定」と「設計1」の段階だ。なぜなら、この段階での問題がスルーされてしまうと、後々のリコールや再設計が起きた場合、それまでの行為がすべて赤字になってしまうからである。

岩佐さんはそれを「10円、100万円、1000万円、1億円の法則」と呼んでいる。


たった10円の部品を入れなかったために大きな設計トラップにつながったとします。


「試作1回目」を走らせた後に気づければ100万円の損害で済むかもしれませんが、「量産」するための部品を買った後なら1000万円の損害に膨らみます。さらに「出荷体制」まで進んでしまう、あるいは集荷後にリコールで回収という事態になれば、損害は1億円になる。つまり、10円で済んだ問題が1億円の損害になることを、常に意識しなければなりません。


ですから、いかに最初の「部品選定」と「設計1回目」で、問題を発見できるかが大切であり、求められるセンスでもあるわけです。


ソフトウェアであれば「修正パッチ」の配布など、リリース後の対処も効くが、ハードウェアの場合は一度出荷するとすべてに費用が大きくかかる。リコールはなんとしても避けなくてはならないわけだ。

2.昭和のサラリーマン的な仕事もある

Cerevoは設計やデザインはすべて日本のオフィスで行うが、生産はすべて中国など諸外国で行っている。そのため、PMにとって必要な仕事には「工場の特性を知ること」が含まれてくるという。


「この幅を5mmにしてくれ」と言えば「10mmでないとできない」と相手は返してくる。「できないじゃない!こうすればできる」と説得すると「やったことない」とまた返してきたら、そこで「やらないのをやるのが開発だ!」というくらいに、ちゃんと怒る時も必要です。生産の進捗をこまめに確認するのも大事。


日本では取引先に「バカヤロー!」と詰め寄るというか、発破をかけることは少ないかもしれませんが、それくらい言わないと望んだものは作れない。でも、「バカヤロー!」と言ったあとで「今日は晩飯をおごるから」となだめて、その後に夜遅くまで飲み明かすこともある。ある意味で、“昭和のサラリーマン的な仕事”も一部ではあります。


とはいえ、工場選定にもコツがあるそうで、岩佐さんは「Cerevoには未経験の人もたくさんいるので、先輩の横で見ながら学んでいくことで、うちらしい仕事が積み上がっていきます」と言う。実際に経験値を貯めることに勝る学びはないということだろう。

スピードで勝負するために「まずは仕様を決めよ!」

最後に、岩佐さんは「ハードウェアのスタートアップをやってみようと考える人へのアドバイスを贈った。それは「まずは仕様を決めてから試作に入ること」。

岩佐さんのもとに寄せられる相談も含め、「試作を作ってから仕様を決める」と考える人が多すぎ、たいていはうまくいかないという。しかし、仕様が決まらなければコードも書けないため、岩佐さんは「スタートアップはスピードで勝負。ともかく仕様を決めて動き出しましょう!」と呼びかけた。

岩佐さんのセッションからは、ひと口にPMといえど、ソフトウェアとハードウェアでは大きく仕事が変わる姿が見えてきた。今後、関わろうと考える人は、スキルセットが異なることを頭に入れておきたいところだ。

(おわり)

文 = 長谷川賢人


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