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こんなアホがいた! 会員数500万人以上の転職サイト、成熟期プロダクトのPMが失敗から得た教訓

2016-12-16

こんなアホがいた! 会員数500万人以上の転職サイト、成熟期プロダクトのPMが失敗から得た教訓

あの転職サイトも過去に失敗が!? 2016年03月期売上高(連結)で261億円超、海外7カ国に展開する総合人材サービスのエン・ジャパン。主力である『エン転職』は2016年オリコン転職情報サイト 男性ランキング1位と好調。この成功の裏には過去の失敗、そこから得た教訓があった。

転職サイトの大規模リニューアル、その失敗で学んだこと

※2016年10月に開催された「Japan Product Manager Conference 2016」よりレポート記事をお届けします。

2000年創業、インターネット黎明期より総合人材サービスを提供してきたエン・ジャパン。CAREER HACKの運営会社でもあり、現在は転職サイト『エン転職』を主力に多岐にわたるビジネスを展開。2016年03月期の売上高(連結)では261億円超、海外7カ国に進出するなど成長を続けている。

2016年8月には、独自の採用ページが作成でき、エン転職会員にスカウトがおくれる新サービス『 engage(エンゲージ)』をリリースした。全ての機能・サービスが無料で利用でき、たった1週間で1万社以上の登録があった。

engage(エンゲージ)

採用サイト作成・応募者管理・転職意向者へのスカウト機能を持つ採用支援ツール『engage(エンゲージ)』


このエン・ジャパンにて、プロダクト開発の全体統括を担っているのが寺田輝之だ。寺田いわく、今でこそ500万人以上(※2016年12月現在)と転職サイトで日本屈指の会員数を誇る『エン転職』だが、必ずしも順風満帆ではなかったという。

寺田が「Japan Product Manager Conference 2016」で語ったのは、2011年におけるリニューアルプロジェクトの失敗。そこで得た学び、成熟期のプロダクトにおいてマネージャーが見失ってはいけない姿勢を紹介する。

避けられないプロダクトのコモディティ化

まず「失敗」についてこう言及し、寺田の講演はスタートした。

本日は「こんなアホがいましたよ」といったお話をします。失敗事例を共有することで、みなさんの教訓にしていただければと思っています。失敗したことに気がつき、ピボットしてからはぐんぐんと成長しているので、本当に今だからこそ語れる内容です。


今回のカンファレンスでは、導入・成長期プロダクトの事例や、そのプロダクトマネージャーに求められることが多く語られた。その中で、『エン転職』はインターネットの世界で21年にわたって運営を続けてきたプロダクト。中長期的にプロダクトを育てていくときにぶつかる壁、リアルな失敗談が共有された。

寺田が語ったのは、2011年のリニューアルプロジェクトについて。当時のことを「多くの転職サイトが、プロダクトライフサイクルにおいて成熟期を迎えていた時期」と振り返る。

2011年頃、HR領域でさまざまなサービスが出てきていました。転職サイトはコモディティ化していて、どのサイトも見た目だけでいえばほとんど同じという状態。求職者からすると「結局、何が違うんだろう」という感じだったと思います。マーケティングやプロモーションで勝負するしかない? 成熟期を迎えた中でどう勝負していく? もう一度プロダクトを次なる成長に持っていくために何をすべきか、さまざまな話し合いを行なっていました。


機能やトレンドを重視したフルリニューアル…その結果は?

そして、選択した道は「機能やトレンドを重視したフルリニューアル」だった。

結論からいえば、大失敗でした。


リニューアルの背景を寺田はこう語る。

「求人サイトなんてもうレガシーだ」 「イメージを刷新しよう。機能やトレンドを重視しよう」といった考えに至り、従来大切にしてきた世界観を全面的に否定。新しいものをつくろうとフルリニューアルを実施しました。


具体的に、当時のプロジェクトで『エン転職』が行なった施策はこうだ。

Japan_Product_Manager_Conference


[1]強みであった「情報の質」よりも「量=件数」に振った。
もともと正直で詳細な求人情報の提供が『エン転職』の強みでした。すべての企業で取材・撮影をして「いいところ」と同時に「そうじゃないところ」もヒアリングする。社内のコピーライターたちがライティングする。コストを惜しまず、こだわって一つひとつの求人情報を届けていたんです。でも、「それよりも件数(量)が多いほうが喜ばれるのではないか」と、質よりも量に振ってしまった。ここに大きな落とし穴がありました。自社の強みを希薄化させてしまったんです。


[2]求職者に求められていない求人情報レコメンド
また、求職者に「受かりやすい求人」をレコメンドする機能をつけました。しかも、楽しく情報を届けられるようにカード形式にし、ゲーミフィケーションの要素を入れたりして。一見すると良さそうな機能ですよね。「あなただったらここは受かりますよ。まずは応募してみましょう」って。しかし、求人がただただ「受かりやすい」という理由だけでレコメンドされてきたらどうでしょう。今ならなんてアホなことをしてしまったんだと思うのですが、「仕事とのマッチングや、入社後のことより、ただ受かりやすい求人が届くほうがいい」という発想になってしまった。そうではなく、きちんと判断できる求人情報のもと、自ら求人を選択し、やりたい仕事に応募できる体験のほうがすばらしい。ユーザーのことが全く理解できていなかったと反省をしました。


[3]成功報酬モデルが企業ニーズの全てではなかった。
もともと『エン転職』は、掲載時に企業より料金をいただくモデルでした。ただ、採用が成功したら料金が発生する「成功報酬モデル」のほうが合理的なのではないか?と考えたんです。実際、多くの企業にヒアリングをしたら「賛成だ」とリサーチで判明。確かなニーズがあるとわかったので、ガラッと成功報酬に振ったんです。さて、どうなったでしょうか。じつは主要顧客にそっぽ向かれてしまったのです。クライアント企業は、全てがすべて成功報酬モデルを支持していたわけではありませんでした。キャッチアップできていると思っていたニーズはごく一部でしかなかった。「採用コストが高くなってしまうならやらない」という企業も多く出てきたのです。多くの顧客の「声」をもとに考えたサービスだと思ったのですが、必ずしもそれが市場に受け入れられるわけではない。頭で理解していたつもりだったのですが、苦い経験となりました。


プロダクトマネージャーは、ユーザー体験の設計に徹するべき

そして、寺田が言及したのは1985年の『コカ・コーラ』の例。自身が陥ってしまった「現状の否定」、その後、現在に至るプロダクトの成長、業績の好転につながった教訓を語った。

少し古い話で恐縮なのですが、マーケティングの世界で非常に有名な話ですけど、「ニューコークの失敗」というものがあります。1985年当時、『コカ・コーラ』のライバルである『ペプシ』は急速にシェアを伸ばしていました。そこで『コカ・コーラ』は思い切った商品をリリースしたんです。「おいしくてかっこいい新商品」として発売したのが『ニューコーク』でした。事前のブラインドテイストでも大好評で、「これはいけるぞ」と大規模プロモーションをバーンと打って。しかし、発売してみたら大不評だったんです。「俺たちのコークを返せ」と大ブーイング。不買運動まで起こったといいます。たった3ヶ月で従来の『コカ・コーラ』を『コカ・コーラクラシック』と謳って再発売して。結果として『ニューコーク』はその姿を消しました。


寺田が語ったのは、成熟期のプロダクトを担うとき、プロダクトマネージャーが抱える「不安」だ。それが「必要以上に現状を否定してしまう」といった選択につながるのだという。

成熟期におけるプロダクトマネジメントって「変化を起こそう」となりがちなんですよね。「この商品ってもう古いんじゃないか」「マーケットがなくなっていってどんどん違う形になっちゃうんじゃないか」と、自信がなくなり、いろんなことを否定してしまう。

でも、そうじゃないんですよね。現状を現状として正しく把握する。その上で適切な課題を設定する。あとは適切なトレードオフをしていけばいい。いままで上手くいっていたものを新しく変えようとしたとき、何かしらのトレードオフが必ず発生します。そこで何を選択するか。これはユーザー体験に基づいてプロダクトマネジャーがやるべき仕事だと思っています。


最後に語ったのは、成熟期を迎えたプロダクトをより成長させるためにプロダクトマネージャーがやるべきこと。それは端的に「ユーザー体験の設計」だという。ここに立ち戻ることで、その後の『エン転職』は飛躍的な成長を実現した。

ユーザーと約束していた世界観は何か。ユーザーは私たちに何を期待していたか。正しく把握せずに、自ら壊してしまった。ここが失敗の大きな要因だと捉えています。

成熟期にあるプロダクトのマネジメントで大事なのは、機能やトレンドに惑わされず、どんな素晴らしいユーザー体験を設計できるか。どんな体験を設計できればユーザーは素晴らしいと感じてくれるか。プロダクトマネジメントの仕事は、ここだけに徹したほうがいいですね。


Web業界そのものが成熟していくにあたり、もしかしたら10年、20年というスパンで運営されるプロダクトを若いマネージャーが担うこともあるだろう。技術革新がおそろしいスピードで起こり、トレンドや機能の移り変わるなか、いかに本質を見失わずに打ち手が打てるか。今回共有された失敗の事例は参考になるはずだ。

(おわり)



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