2018.01.31
深夜バイトに疲弊する外国人を救いたい。25歳の起業家が描く、日本を「外国人にやさしい国」にするシナリオ

深夜バイトに疲弊する外国人を救いたい。25歳の起業家が描く、日本を「外国人にやさしい国」にするシナリオ

「日本はまだまだ外国人にとって生活しづらい国だと思うんです」こう語ってくれたのが、金村容典さん(25)だ。彼は外国人たちが日本でもっと稼げるようしたいと英語学習アプリ『フラミンゴ』を立ち上げた。日本の現状を変えていく、彼の挑戦に迫った。

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[プロフィール]金村容典|株式会社フラミンゴ代表取締役CEO
立命館大学大学院法学研究科に在学中。2013年~2014年にVC、2015年春には文科省EDGEプログラムの一環でシリコンバレーを訪問しチャットワーク株式会社でインターンを経験。2015年夏には、インターンとして株式会社ディー・エヌ・エーの新規事業である"Anyca"のマーケティングに従事したのち、株式会社フラミンゴを立ち上げた。多文化共生社会の実現に貢献するため、カフェに外国人を呼んで、外国語のレッスンを受ける事ができるアプリ「フラミンゴ」をリリース。

外国人就労者は過去最高。…でも、日本は外国人が稼ぎづらい国?

日本における外国人就労者の人口は約128万人(*1)となった。届け出が義務化された2007年より過去最高を更新。ただ、今回取材した金村容典さんはこう語る。

「まだまだ日本は外国人にとって生活しづらい国。とくに留学生のなかには、睡眠時間を削って深夜バイトで食いつないでいる人もいます」

その問題の背景には、就労ビザも関係しているという。留学生の多くは学業優先であるため、就労ビザを取得することはほとんどない。そのため、アルバイトの活動許可は1週間で28時間以内(*2)。時給1000円、週28時間でフルに働いたとしても、約11万2000円の収入しか得られないのだ。できるだけ稼ごうと思うと、時給が高い深夜コンビニバイトなどが選択肢となってくる。

その限られた収入のなかで学費を賄ったり、生活費を工面したり、ギリギリの生活をしている留学生も少なくない。近年、コンビニや居酒屋など、留学生バイトが働ける場も増えてきたとはいえ、余裕をつくれるだけの収入が得られないのが現状だ。

「留学生をはじめ、もっと多くの外国人が安心して暮らせる国にしたい」

こんな問題を解決すべく、金村さんは英会話学習のマーケットプレイスサービス『フラミンゴ』を立ち上げた。『フラミンゴ』は英語を教えて収入を得たい外国人と、教わりたい日本人をマッチング。近くのカフェなどで会って、英会話を教えてもらえるアプリ。アプリをつくろうと考えた背景、そして金村さんの挑戦に迫った―。

(*1)「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(平成29年10月末現在)|厚生労働省
(*2)資格外活動の許可(入管法第19条)|入国管理局


フラミンゴサービス画像

英会話学習のためのマッチングアプリ『フラミンゴ』。講師ユーザーは2000人を突破。生徒ユーザーもどんどん増え、質の高い英会話プラットフォームへと進化している。

低賃金で働く外国人たちに、もっと稼げる場を。

― 『フラミンゴ』は外国人とマッチングし、英会話を教えてもらえる便利なアプリですが、そもそも、なぜこういったサービスをつくろうと?


日本で暮らす外国人、とくに低賃金で働いている外国人の方々がもっと稼ぐことのできる場をつくりたいと思ったのがきっかけです。

じつは厚生労働省のデータ(*3)でみていくと、外国人労働者数は約128万人で、1年間で18%も増えているんですよね。多くの人が、コンビニや居酒屋でアルバイトをしてる外国人が増えたという実感があるのではないでしょうか。

ただ、苦しい生活を強いられている外国人もたくさんいて。たとえば、母国の家族に仕送りをしていたり、留学生で学費を自分で払っていたり。なかには日本で起業したいと夢を持って学びに来ている人もいる。ただ、外国人が自由な時間に働けるようなバイトは限られているし、バイトに消耗しちゃう人も多いんです。

たとえば、大学院に通っていたとき、知り合いの留学生たちが選んでいたのが深夜朝方までのコンビニバイトでした。夜に働き、翌朝9時から1限目の授業にくる。それが毎日続くわけです。選択肢があるのはいいことですが、まだまだ少ない。夢を持って日本に来ている彼らが過酷な状況に追い込まれるのは間違ってると思ったんです。晴れやかな気持ちでチャレンジできるようにしたい。ここをどうにか解決できないかと『フラミンゴ』の構想を練っていきました。

(*3)「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(平成29年10月末現在)|厚生労働省

英会話業界は、大きく改善できる余地がある

金村容典


― どのように構想を形にしていったのでしょうか?


とにかくたくさんの外国人たちと知り合い、話をきいていきました。たとえば、毎日6~7名の留学生に対してインタビューを行なっていきました。あとはホームパーティーを開催して友達をつくったり、外国人の大学教員にヒアリングしたり、英会話教室の先生に話をきいたり。なかには労働組合の代表の人にもアポを取ってお話が伺えた。1年で200~300名くらいの外国人と出会ったと思います。

そこで、わかったのが、英会話の業界は大きく改善できる余地があるということ。たとえば、大手の英会話教室だと、外国人講師の給与がだいたい時給1500円~2000円くらい。決して高くないんですよね。その理由の一つはコスト。駅近くの良い立地に教室を構えていたり、授業以外のところでとんでもないコストが掛かっています。必然的に講師に対する給与はさがってしまう。

教室も設けず、広告宣伝費もテクノロジーで最適化する。先生とはWeb上でのマッチングして、レッスンの日時も調整できるようにする。そうすることで『フラミンゴ』では、だいたい約3000~4000円くらいの時給を外国人講師のみなさんに渡すことができるようになりました。

アプリより前につくった、外国人が集まる「コミュニティ」

外国人講師の登録数

2018年1月、外国人講師の登録数が2200人を突破した。


― そこからいよいよプロダクトづくりに入るわけですが、いきなり作ったところで講師も、生徒の数もほぼ登録はないですよね。どのようにユーザーを増やしていったのでしょうか。


ユーザーを集める手法として、まずぼくらがやったのはコミュニティづくりですね。Meetupと呼んでいるのですが、毎月2~3回開催していました。現在でも継続していて。去年だと年間1200人ぐらい参加してくれました。アプリを作っていなかった当時は、ひたすらMeetupをする集団でしたね(笑)

アプリができてからは、Meetupで築いたコミュニティからユーザー登録に誘導しました。アカウントを開設してくれたら1drink FREEにしたりもして。ありがたいことに、その場で登録してくれる人がほとんど。さらに50%くらいの外国人が継続して利用してくれるようになりました。

『フラミンゴ』はいわゆるCtoCのマーケットプレイスと言われるもの。つまり英会話を教えたい講師ユーザーと、教えて欲しい生徒ユーザー、2種類のユーザーに支持されることが欠かせません。まずは「講師ユーザー」がいないことにはなにも始まらない。コミュニティにいる外国人の数が一定規模に達し、事業としてやっていける見込みが立ってから、アプリの開発をはじめました。


― イベントを毎月開催し、リアルなつながりをつくる。地道なプロセスがあったんですね。


そうですね。イベントをやり続けるのはラクではないですが、続けるメリットも大きいと感じています。たとえば、アプリをつくりはじめてからも、どうすればもっと使い勝手がよくなるか、直接ヒアリングできるとてもいい機会に。講師ユーザーのみなさんと一緒に考え、一緒にサービスをつくっていく。ここがぼくらのスタンスですし、強みといってもいいと思います。


meetupの写真

Meetupの様子


― もうひとつ、マッチングするアプリということで「安心してつかえるのか」というところがポイントになりそうです。


そうなんですよね。とくに見知らぬ外国人に英語を教えてもらうということに抵抗感を持つ日本人も多い。だからこそ、安心できるというのは一番注力しているところです。

たとえば、外国人講師に関する事前情報を充実させる。レビューを含めて、講師の方に対する評価をしっかり行なう。講師のことが具体的に知れるよう、プロフィールやレビューの充実は欠かせないですね。フラミンゴでは、一切課金をせずとも先生の情報を閲覧することができるようにしています。

もちろんアプリとしての信頼性もめちゃくちゃ大切で。たとえば、講師を選んで、レッスンを受ける日時・場所を決める。このプロセスだけでも「カフェ代ってどうなるんだろう?」「交通費の支払いって別?」など気になるもの。できるだけつまづくポイントを減らし、ストレスや疑問を最小限にする。気持ちよくレッスンが受けられるようにする。ここも日々改良をしています。

ぶつかった大きな壁。外国人講師たちから寄せられたクレーム

― 伺っているとかなり順調、着実に成長をしてきたのかなと感じます。


いえいえ、もう壁だらけでしたよ(笑)2016年10月にiOSアプリをリリースしたのですが、はじめの頃は「生徒がぜんぜん来ない」と外国人講師たちからクレームが入る時期もありました。ずっと課題になっていたのが、どう生徒ユーザーを獲得していくか。外国人の講師ユーザーは増えてくれたけど、マッチングするためには、生徒ユーザー数はその何倍も必要になる。まったく生徒ユーザーの獲得が追いついてない状態がつづきました。


― その問題はどのようにクリアしていったのでしょうか?


ここもかなり泥臭いですね。集客のノウハウは無いし、お金も無い。人手も足りない。だから、Facebookページで「英語を勉強する会」というイベントをつくって開催したり、直接声をかけたり。ひたすらに生徒ユーザーを増やす方法ばかり考えていた。…あの時期は本当に大変でした。

ただ、講師の質の高さに関してはすごく自信があった。そこを信じて一人ずつ使ってもらうなか、少しずつですけど、リピーターさんがついてきてくれて、クチコミもあってユーザー数が増えていきました。同時にまだまだ講師ユーザーの数に比べて、生徒ユーザーは足りていない。ここはこれからの課題でもありますね。


― 最後に。少し先の未来、どういったところを目指したいと考えているのか、伺わせてください。


将来的には、社会で通用する「信用」を作っていきたいと考えています。たとえば、フラミンゴで講師をやってくれた外国人で評価の高い方が、お金が借りやすくなったり、クレジットカードがつくりやすくなったりしたらいいですよね。『フラミンゴ』で稼いだお金が信用されれば、レバレッジかけやすくなるような仕組みも作れるかもしれない。良い人材だからヘッドハントされやすくなって、新しいキャリアを進むケースが出てきたら最高ですよね。

そのためにもまず、外国人がもっと稼げるようにしなければいけない。ここはブレないところ。自分がやりたいと思える仕事で稼げる環境を整えていく。外国人が経済的な不安を感じること無く、チャレンジできる社会を『フラミンゴ』というプロダクトを介してつくっていきます。


金村容典


文 = 大塚康平


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