2018.06.04
任天堂がデザインする、ゲームと親子の関わり方|娯楽のUI 公式レポート #3

任天堂がデザインする、ゲームと親子の関わり方|娯楽のUI 公式レポート #3

任天堂の「みまもりSwitch」は、こどものニンテンドースイッチでのプレイ状況がスマホで見守れるアプリ。何時間遊んでいる? どんなゲームをやっている? そんな親が抱く心配を解消する。「監視」ではなく「みまもり」に。任天堂がこだわったのは”親子の関係性”だ。

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[目次]
・安心して、こどもに渡せるゲーム機であるために
・親子の関係性をデザインする
・こどもとの会話のきっかけを生むための3つの工夫
 [1]一瞬で把握できるように
 [2]「良い・悪い」を押し付けない
 [3]アラームと中断モード
・大切なユーザー体験は、アプリの外にある
・迷ったら、より「嫉妬」を感じる方へ


※ 2018年4月に開催された「UI Crunch #13 娯楽のUI - by Nintendo -」のレポート記事としてお届けします。

※全3回にわたって『娯楽のUI - by Nintendo -』公式レポートをお届けしています。
任天堂が新人研修で伝えている、あそび心のデザイン|娯楽のUI 公式レポート #1
任天堂『スプラトゥーン』UIデザインの舞台裏|娯楽のUI 公式レポート #2

安心して、こどもに渡せるゲーム機であるために

『Nintendo みまもり Switch』

これは「Nintendo Switch(以下、ニンテンドースイッチ)」と連動し、スマホから簡単にゲームのプレイ状況を、みまもることができる無料アプリだ。

約束したプレイ時間が経過すればアラームが鳴る。さらに何のゲームで遊んでいるかも確認できる。「お子様に安心して渡すことができるゲーム機」——そんなニンテンドースイッチのコンセプト実現のために開発された。

『Nintendo みまもり Switch』のUI/UX設計を担当した藤野洋右さんはこう語る。

「娯楽品は夢中になってしまう特性があります。そのため、ついつい夢中になりすぎて宿題を忘れてしまうこともあるかもしれません。保護者からすれば、楽しんでもらうために買ってあげたゲームで悩みが増えてしまっては本末転倒。娯楽品は単純に楽しんでくれただけで終わらないのが難しいところです」

藤野さんが意識したのは、親子間の会話のきっかけを生み出すこと。親子の関係性をデザインすることだった。


藤野 洋右

[プロフィール]藤野 洋右 (FUJINO YOSUKE)  UI/UX デザイナー
京都市立芸術大学で彫刻を学んだ後、2008年任天堂入社。 『ニンテンドーeショップ』のUI/UX設計、Switch をより便利に使うためのスマートデバイスアプリ『Nintendo みまもり Switch』『Nintendo Switch Online』など、オンラインサービス分野でもUI/UX設計を手がけている。 多くの関係者の意見や複雑な導線を、丹念なヒアリングで整理しUIとして構築することを得意とする。

《担当プロダクト》Nintendo みまもり Switch(iOS/Android, 2017)/Nintendo Switch Online(iOS/Android, 2017)/ニンテンドーeショップ (Nintendo Switch/ニンテンドー3DS/Wii U)

親子の関係性をデザインする

『Nintendo みまもり Switch』開発当初のことを、藤野さんはこう振り返る。

「お母さんやお父さんがスマホでプレイ時間を監視したり、ゲームを強制終了したりできれば、保護者としての悩みは解決できます。正直に言いますと、最初はそれらを単純にスマホで出来るようにすればいいのかな、とも考えていました」

ただ、そこには葛藤もあった。

「ただ、それが実現できても、こどもが悲しい気持ちになるだけだと思ったんです」

強制終了させられたら、こどもの娯楽体験は損なわれ、親子関係に亀裂が入ってしまうかもしれない。

「家族のあり方はさまざま。そのため、ユーザーの可視化、ユーザーの行動分析、家族ごとにタイムラインの見える化など、サービスデザイン思考を愚直に重ねていきました」

そのプロセスは、サービスそのものを設計したといってもいい。


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その結果、わかったのは、一方通行にゲームを制限してしまう原因は、保護者が“こどもの状況やゲームについてわからない”ということ。

「理想は、こどものプレイ状況が気になった時、自然な会話が生まれること。一方的に制限や監視ではなく、ゲームにまつわる親子間の関係を『みまもり』としてデザインしていくこと。保護者も自分がわからないことにはどんなことを話していいかわからないので、まずはゲームの状況がわかること、そこから会話のきっかけを提供しようと考えました」


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こどもとの会話のきっかけを生むための3つの工夫

こどもとのゲームを通じた会話のきっかけを保護者に提供する。そのために行なった工夫を、藤野さんは3つ紹介してくれた。


[1]一瞬で把握できるように


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「これは子供の遊んだ時間を確認できる画面です。保護者の欲求に答えるだけであれば、遊んだ情報を優先すべきですが、こどもが直近でプレイしたゲームのアイコンが、まず目に飛び込んでくるようにしています」

狙いは、保護者にもゲームに興味を持ってもらうこと。

「ゲームに興味がない保護者も『このゲーム面白いの?』と、会話のきっかけが生まれていく。パッケージイラストはゲームの内容が端的にわかるので、その力を借りています」

こどもとの会話は「曜日」をもとに会話が行われることも多い。たとえば、「水曜日は塾じゃないの?」といったように。そこにも工夫がある。もともとは「日付」を表示するUIだったが、この気づきをきっかけに「曜日」に変更したという。


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[2]「良い・悪い」を押し付けない

藤野さんはボツ案も公開してくれた。それが「よかった」や「ざんねん」のマークが表示されるという画面。最終的には取り入れなかったそうだ。


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「例えば”ざんねん”のマークの日。実はお父さんとお子さんが楽しくゲームを遊んで、いつもより長くプレイしていたのかもしれません。このような事情を考慮せず、アプリによる機械的な評価をしてしまうと、保護者とこどもの会話の誤解やノイズになる可能性もあるため、採用を見送りました」

また、こういった時間を計ったり、データを貯めていくアプリにありがちな「グラフ表現」もプレイ時間には使っていない。

「たとえば、数値の比較し、グラフにしてしまうと、“遊んだ時間”にのみに保護者の意識が向いてしまう。それでは保護者がゲームのことを知る機会がどんどんなくなってしまいますよね」



[3]アラームと中断モード

もうひとつユニークな機能が、あらかじめ設定しておいた時間になったら「時間ですよ」と知らせてくれるアラーム。そして、設定された時間になると「もうあそべません」と強制スリープする中断モードの導入。


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特に、中断モードを設定するためのUIデザインにはこだわった。

「中断モードのON・OFF設定は、あえて少し見つけにくいところに設置しています。これは、こどものことを想像して一度話してみるきっかけを生み出すことが狙いです。約束を破ったこどもに対して、保護者がいきなり中断するのではなく、会話をしてほしい。そんな思いを込めています」


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「中断モードのON・OFF設定」のUI。みまもり設定のTOP階層ではなく、あえて一段深い場所に設置されている。


そこにあったのは、「ゲームと保護者の接点」と同時に、その先にある「親と子の接点」の設計だった。

大切なユーザー体験は、アプリの外にある

これらの工夫によって、完成した『Nintendo みまもり Switch』。

ニンテンドースイッチの発売と同時にスマートフォンアプリとして、66カ国でリリースされた。結果は、各アプリストアで高評価を獲得。実際に親子の会話にもつながった、といったレビューも多数寄せられている。


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「親子にとって、安心とは笑顔でいれることです。Nintendo Switchがあることで、家族みんなが笑顔になる。このアプリのいちばん大切な体験の軸は、アプリの中ではなく、アプリの外にあります。この光景がNintendoみまもり Switchで考えた娯楽の体験です」


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迷ったら、より「嫉妬」を感じる方へ

最後に、任天堂チーフデザイナーの正木 義文さんから「娯楽のUI/UX」の指針について語られた内容で締めくくりたい。


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「『娯楽のUI/UX』で迷ったとき、わたしは、より『嫉妬』を感じる方を選ぶようにしています。嫉妬とは、感情が動いている状態のことです」

「無難なUIだと嫉妬の感情は起きない。とはいえ、奇をてらいすぎても理解できないから嫉妬の対象になりにくい。その嫉妬の量が多ければ実行する価値があり、あたらしい娯楽体験に繋がると思います」

「あとは嫉妬したアイデアの実現を本気でやるか、やらないか。それで商品として形になるか、ならないかが決まります。やらない理由を見つけるのは簡単です。嫉妬する方を選び、実現したときに驚きの連続の体験が生み出せるのかも知れません」


※全3回にわたって『娯楽のUI - by Nintendo -』公式レポートをお届けしています。
任天堂が新人研修で伝えている、あそび心のデザイン|娯楽のUI 公式レポート #1
任天堂『スプラトゥーン』UIデザインの舞台裏|娯楽のUI 公式レポート #2


文 = 新國翔大
編集 = CAREER HACK


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