2018.02.08
ガチでCTOを殴った?あわやチームも崩壊寸前…女性起業家がプライド捨てて守った「感情伝えるVR」の夢

ガチでCTOを殴った?あわやチームも崩壊寸前…女性起業家がプライド捨てて守った「感情伝えるVR」の夢

アメリカでも注目されるFOVE CEO、小島由香さん(30)が挑むのは世界初*視線追跡システムを搭載したVRヘッドセット『FOVE0』の世界展開だ。2015年にKickstarterで話題を集めた彼女。「この3年は壮絶でした」と振り返る。じつは会社崩壊の危機も。彼女はどう答えのない困難に挑んだのか。挑戦の物語を追う。

* FOVE社調べ

世界初「視線追跡VR」は、CTOとのガチバトルを経て生まれた。

VRヘッドセットが視線の動きを感知。映像と連動していく―。

今、北米を中心にVR市場で大きな注目を集めるVRヘッドセットが『FOVE0』だ。

たとえば、身体的なハンデキャップがある方が、視線だけで物体を操作できたり、遠隔ロボットを操縦できたり、ゲームの世界を堪能できたりもする。さらに感情をも表現すると言われる目線・視線の動き。リアルタイムで感情を読み取り、映像を変化させるなど、その可能性は大きい。VRにおける「360°映像視聴」「インタラクティブな映画表現」の可能性を次なるレベルに引き上げるプロダクトといっていいだろう。

筑波大学の特別支援学校との共同プロジェクト『Eye play the piano』。手や腕をつかわずに、目の動きとまばたきだけでピアノを演奏することができるソフトを開発し、筋ジストロフィーの男の子が卒業式でピアノの演奏を実現した。


そんな『FOVE』を指揮するのが、小島由香さん。2015年のKickstarterで一躍脚光を浴び、メディアにも引っ張りだこに。ただ、世界展開に至る現在まで、その道のりは決して平坦ではなかった。立ちはだかったのは組織的な課題。天才エンジニア、オーストラリア人CTO「ロキ」とのガチバトルもあったという。彼女のnoteにはこう記されている。


共同創業者には一度も喧嘩しないタイプと徹底的に喧嘩するタイプがいるが、うちは後者。実は最近、そのCTOをグーで殴ってしまった。今となっては二人とも笑い話にしてるけど、あの時はとてつもなく怒っていたのだ。(なお、殴っていい、との許可はもらった。)つまりまぁ・・・共同創業者は殺し合い寸前の喧嘩を散々やるものだ。互いに互いじゃなかったらとっくに弊社は解散してると思う。全力でやりあえるのは、互いのスキルセットが全然違って、そこの領域での判断を互いに信頼していることと、最後は仲直りできることがわかっているから。(『note』より)


彼女はいかに答えのない困難・難問に挑み続けてきたのか。そして『FOVE0』を世に送り出したのか。彼女を突き動かす原動力と共に、挑戦の物語に迫っていこう。


【プロフィール】
FOVE, inc CEO 小島由香

目の動きで仮想世界を自在に操作する、世界初の視線追跡型VR用ヘッドセット「FOVE0」を開発中。ソニー・コンピュータエンタテインメントのゲームプロデューサーとして、プレイステーション3、PSP、プレイステーションVita、Move向けゲームの制作リードを務める。物語の未来はゲームの双方向性にあると信じ、視線追跡と顔認識技術を最大限利用した仮想世界での非言語コミュニケーションを提唱。2015年5月から始まった、KickStarterキャンペーンで48万ドル強を集め、サムスン・ベンチャーズ、Honhai、コロプラからの資金調達を実施した。「Forbes 30 Under 30 Asia 2017」、日経Woman「ウーマンオブザイヤー2017」選出。

社員の3割が去り、自己嫌悪した日々。私は「プライド」を捨てた。

小島さん写真

―現在、アイトラッキング(視線追跡)におけるVR技術で注目される『FOVE』ですが、2015年当時、小島さん自身もメディアで注目され、時の人でもあったと思います。そこから約3年が経ちます。この3年で何があったのか、ぜひ伺えればと。


正直、プロダクトを世の中に出す、ちゃんと流通に乗せていくことがここまで大変だと思っていなかったですね。今だからお話できることですが、もう何回、心がくじけそうになったか(笑)じつは会社が続けられなくなる、本当に寸前のところ、危機的な場面もありました。


― 決して綺麗事だけではなかった、と。一番つらかったのは?


色々あったので(笑)一番はこれと言い切れないのですが、一時、約3割の社員が会社を去ってしまったことですね。日本的マネジメントスタイルが欧米の社員に合わず、リードエンジニアをはじめ、エンジニアメンバーたちもどんどん辞めていきました。当時は、自分の経営力不足にすごい自己嫌悪をしていて。すべて自分がわるいんだ、と。感情的だったし、ちょっと自暴自棄になっていた。人格としても未成熟だったと思います。

で、ダメ押しとして共同創業者だったCTOのロキまで「辞める」と言いはじめて。誰が辞めても共同創業者だけは最後まで一緒だと思っていたのに、その衝撃は大きかったですね。

昔はよく互いに怒鳴りあっていたし、オーストラリア文化かCTOもけっこう口も悪かった(笑)なんというか…FOVEに対してお互いに譲れない。だからこそ許せないっていう感情があったと思います。

同時に、彼は『FOVE』の技術の中枢を担う人。彼抜きでこれからの『FOVE』はあり得ないというのも自覚していました。決して手前味噌ではなく、天才。最後まで折り合いがつかなかったCTOとの経営方針も、それが通らなかったらCTOが辞めるというなら、イエスでした。とにかく、FOVEを先に繋ぎたかった。その前じゃ、私のプライドや経営スタイルなど既存の価値観は瑣末なことでした。

そう思うと吹っ切れて、やるべきことも明確になって。なりふり構わず動いていくようにしました。

いかなる状況でも前へ。

小島さん写真

― なかなか自分の価値観を変えたり、周りの人の考えを受け入れるって難しいと思うんです。折り合いがつかなくても食らいついていく。なぜそれができたのでしょう?


自分の価値観より、価値を感じられるものが自分にはある。そして、不変の価値観なんて存在しない。ここに気づくことができたのが一番大きな変化だったと思います。じつはCTOであるロキとの経営方針の違い、価値観の違いって、彼も認めるところだと思うのですが、じつはずっと課題に感じていたんですよね。ただ、問題はすごくシンプルだった。私のモノサシや価値観で彼を縛ろうとしていただけなんですよね。

もしかしたら、どこか彼に対する嫉妬があったのかもしれません。私はコードも設計も書けない。クリエイターだと言い切ることができなかったから。

ただ、私はいつも「FOVEで物語の世界を変える」と言いつづけてきた。そのためなら、私の価値観やこだわりは捨てたらいい。

だから彼の意見を最大限に尊重しますし、最優先に考える。時には、社員たちにとって私が彼の言いなりになっているだけのように映っていたかもしれません。私に、嫌気がさしてしまったメンバーもいたはず。

今でもなにが正しいのか、どの道が正解だったかなんて、全くわからないんです。CTOのことも、自分自身ですら理解できない部分が多いすぎる(笑)

でも、会社として「生きるか、死ぬか」は、最後の最後には、「やるか、やめるか」という自分たちの意思だと思っていて。まだまだ道半ばなんです。成功するまでやる。きっと困難に立ち向い、答えを見つけた人たちが本当の成功者になれると思っています。

私が好きなニーチェの言葉に「力への意志」というのがあります。私は勝手に、人間の価値観はどんどん流転していくけれど、何か素晴らしいものに向けて進み続ける習性、意志があるといった解釈をしていて。わけの分からない状況でも、とにかく前に進み続けよう、それでいいんだって。

逆算しない生き方を。「わからないままでいい」を抱えて突き進む選択。

小島さん写真

― 小島さんご自身の女性としてのキャリア、仕事観についても伺っていきたいです。もともとソニーに4年いらっしゃって、その後GREEへ。27歳で起業。先が見えないこと、わけが分からない状態って不安にならないですか?


もちろん、不安もあります。割り切れないことも多い。自己否定感みたいなものが、強烈に襲ってくることもあります。でも、まあそんなときにはアニソンを聞くんです(笑)もともとオタクなんですけど、そのなかでも大好きなアニメが『少女革命ウテナ』。主題歌のサビで「潔くカッコよく生きて行こう」というフレーズがあって。私今すごいみっともないな、プライドないのかな、と思うこともあるんですが、私なりの潔さに向けて進むしかないなって思うんです。

同時に、30歳になった今と、20代とでは考え方も少し変わったかもしれません。当時は目標が達成していないことへの罪悪感があったし、何もできずに流れていく時間が怖いと感じていました。

女性って出産というライフイベントがあるし、自分でタイムリミットを意識しちゃったりもして。いつまで仕事して、ここまでに結婚して…と逆算がありました。でも「なんで自分の首を絞めているんだろう?」と思って、この考え方をパタッとやめたんです。

結局、今この瞬間、望んでいないことは本当にほしいものじゃないのかも知れない。数年後の自分の価値観なんて予測できない。だから、瞬間瞬間の気持ちに従っていけばいい。この会社だって私が思っていたよりもずっと面白いことになっているんですよ。わけのわからないことはたくさん起こるけど、とにかく凄いことになっていく。「わかる」に定義してしまうのは簡単で安心することなんですが、「わからない」からこそ想像を越えていける。「よくわからない」をただただ承認し続ける、これが最近の私のテーマなんです。

今、私がここにいるということは「前に進みたい。ここで投げ出したくない」という意志の結果で、ほぼそれだけですね(笑)あとは「あなたについていってもいいよ」っていう人たちがまわりにいてくれる。応援してくれる人もたくさんいる。ものすごく幸せなことですよね。もしかしたら、その時々で一緒に走ってくれる人たちは変わる。ただ、それも含めて「とにかく前へと進んでいく」意志が、尊いということなのかもしれません。

(おわり)

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