「右を向いても、左を向いてもFinTech…金融業界の革命、そのカギを握る…ずばりデザインだ!」そう声高々に宣言したのは、オンライン証券会社『FOLIO』の広野萌さん。超ハイテンションプレゼン、そこに込められた燃えたぎる思い、届けたいメッセージとは?
創業からβ版リリース前までに、合計21億円の資金調達を行なった『FOLIO』。FinTechスタートアップだ。
展開しているのは10万円から投資ができるオンライン証券サービス。「ドローン」「宇宙開発」「人工知能」などテーマごとに興味によって「投資したい先」を選択できるのもユニークなポイント。若い世代から、投資が身近に感じられると支持を集める。
今回、ご紹介するのが、そんな『FOLIO』で働くCDO(Cheif Design Officer)の広野萌さん(25歳)。彼はFinTech×デザインに並々ならぬ情熱を注ぐ。
「デザインの力で金融革命を起こす!」
ドラマチックなプレゼン、熱のこもったトークで会場を圧倒。難しいイメージの金融をわかりやすく伝え、金融の在り方そのものを変えていく。白熱のプレゼン、彼がデザイナーたちに届けたいメッセージとは!? 書き起こし形式でお届けする!
※2017年9月に開催された「UI Crunch #11 金融業界に革命を起こす、FinTechスタートアップのUIデザイン」よりレポート記事をお届けします。
今回は、FinTechスタートアップが避けては通れない「法」のお話ができればと思います。
まずは「コンプライアンス」という概念についてです。コンプライアンスとはカンタンにいえば「法を守る」ということ。
私たちはオンライン証券会社ですので、コンプライアンス担当者が社内にいます。彼らは法律のもと正しく業務が行われているか、サイトにしても必要事項が記載されているか、きちんとチェックしていくのが役割です。
たとえば、UIについてもチェックをしてくれるんですね。
最も効率がいいと思われるやり方は彼らがつくった「金融商品取引法に基づく免責事項」や「注意事項」をコピペしてサイトに貼り付けておわり。
あとはデザイナーから「つくりました」とコンプライアンス担当に投げてチェックしてもらう。ただそれだけです。
…ちょっと待ってください。
ホントにこれでいいのでしょうか?
たしかに法律について最も詳しいのはコンプライアンス担当者です。私たち、デザイナーが口をはさんでもどうしようもないようにも思えます。
しかし、それは大きな間違いなのです。「効率がいい」という事実に間違いはありませんが、「コンプライアンス担当を通しておけばOK。言われたとおりにやればOK」は単なる思考停止です。
ここで、社内で起こったある事件についてお伝えしましょう。
あるスタートアップのイベントに出ることになりました。そこでサービスUIを紹介する資料をつくろうと。動画キャプチャを入れ込むことになり、私が資料を作成しました。
ただ、こういったちょっとした動画資料でもコンプライアンス担当にチェックをしてもらわないといけません。
「チェックをお願いします」
私がデータを渡して返ってきたのは、こんな返答でした。
「動画を流している最中、ずっとこの文言を表示させつづけてください」
…恐る恐るもらったテキストを開いてみると、この分量です
「人が読める14ptサイズ以上でお願いします」
ということだったので…ひとまず動画に入れると…こうなります。
…肝心の動画がほとんど見えません。
私はコンプライアンス担当のもとに質問にいきました。なぜその文言が必要なのか。すると次のように理由を教えてくれたんです。
噛み砕くと、ちょこっとサービス紹介するだけでも「営業行為」になる可能性があるので、表示が必要だと。
ここで思考停止になってはいけません。それらの理由一つひとつに対して、質問と提案をなげかけていきました。
これはごく一部で、考える限り、あらゆる対応策を議論し合っていきました。
すると、いくつかの条件付きではありますが、最終的にここまで免責事項を減らせるようになりました。
デザイナーは、専門家の意見をただ聞いて実装するのではなく、自ら提案していく。
こここそが重要だと私は考えています。
金融サービスには、免責事項の掲載が欠かせません。免責事項とは、なにか問題やトラブル、事態が発生したとき、責任を免れるための注意書きのようなもの。必須とはいえ、必要以上に書いてしまうことがあります。
昨今、デザインの世界でも「理由なきUIは滅ぶべし」という風潮がありますよね。法に固められた領域の証券サービスにおいては、理由なき免責事項も滅ぼさなければなりません。
「とりあえず、この注意文を入れておけば大丈夫」という思考停止が、サービスを使いにくくし、そして分かりにくくする。「難しそう」と言われている証券サービスを生み出している。そのことを私たちは心に刻まなければなりません。
安全に寄せていると言えば聞こえはいい。ただ、正直「出しときゃいい」といった心構えにも感じ取れますよね。
「どこよりもカンタンな講座開設」と謳いながら、感じ方には個人差があって。ものすごく極端にいえば、「よくある質問」というページをつくって、「※よくない場合もあります」と書いていたり(画像参照↓)。
このような“過剰な予防線を張る”のは、ユーザーに対して逆に失礼に当たりますよね。
リスクを恐れ、過剰に予防線を張って「免責事項は表示しているし、ユーザーはそれを読んだことにしろ」と楽観的になるのも怠惰です。安全策ではありません。
こういった問題を避ける、その最前線にいるのが、私たちデザイナーなわけです。
IT業界におけるほとんどのデザイナーが金融商品取引法に関しては素人ですよね。同時に、今まで金融業界一筋でやってきたコンプライアンス担当の方も、ITに関して詳しいわけではありません。
私たちは「コンプライアンス担当が言っていたから」とただ言われたとおりやっていてはいけないのです。そのコンプライアンス担当の発言はどのような法律を背景にして出た言葉なのか、本当に欲しいものはなんなのか、見極めなければなりません。
これは普段、デザイナーである私たちが行なっている「インサイトを探る」といった作業と似ています。
ユーザーテスト・レビューなど「ユーザーの声」をそのままフィードバックとして反映はしませんよね。なぜそのように思ったか?本質的な課題は何か?見つけることが重要なのです。
最もやってはいけないのは、コンプライアンス担当とデザイナーがお互い対立し合ってしまうこと。両者は敵対関係にありません。
それぞれの責任者が主張を言語化し、理解し合うことで、お互いの価値が最大限発揮できるのです。
ここで少し音楽の話をさせてください。パッフェルベルのカノンや、バッハのフーガに代表される作曲技法に「対位法」というものがあります。
2つの独立的なメロディーが主旋律が奏で、相互に組み合わさる音楽理論のこと。「かえるのうた」みたいなものだと言えば分かりやすいでしょうか。
僕はこの「対位法」が、法律とクリエイティブの関係に近いと考えています。2つが密接に絡み合い、お互いのメロディーを補完し合い、高め合って共鳴し、一つの作品、プロダクトができあがる。
一見、対立構造に見えるけれども、決してそうではありません。対立ではなくて対等。だからこそ、一方的な独奏ではなく、お互いの領域に踏み込んで理解し合うことが求められるのです。
実際に『FOLIO』ではデザイナーも「約款」「契約締結前交付書面」などの書類作成に携わります
一般的に「サービスの利用規約」は、ほとんどのユーザーが細かいところまで見ませんよね。文字だけのお堅い文章を作るのも、華々しい仕事ではありません。
しかし、僕たちはそんな細かいところも、どうすれば見やすいか、どうすれば理解しやすいか、コンプライアンス担当の作り上げた文章をベースに一語一語考え抜いていく。
「よくある質問」ページなども同様に、ユーザーが困り得るあらゆるケースを一番把握しているデザイナーがリードする。カスタマーサポートと連携し、一語一語、こだわって作りあげました。
コンプライアンス担当者に相談するとき、もし、デザイナーが法律のことが何ひとつわからければ、議論にさえならないですよね。「そういうものなんだ」と思考停止してしまう。
そうならないために、FOLIOでは、IT業界上がりのクリエイターも全員が「証券外務員資格」を取得しようという動きがあります。私も先月受かり、正式に外務員登録されました。
金融商品取引法、もとい税金の仕組みなど、最低限把握する。その上で自分なりの法的解釈とセットで、コンプライアンス担当者に相談をしに行くように心掛けています。
コンプライアンス担当は、長年の知識と経験から、このように言います。
「前例がない、誤認をあたえる可能性がある、金融庁から突っ込まれてしまう」
ただ、デザイナーは諦めてはいけません。前例がなければ作ればいい。情報が多すぎると、逆に誤認どころか頭に入ってきません。
金融庁から突っ込まれても問題ないようなスタンスを明確にしておけばいい。
コンプライアンス担当も、コンプライアンスの立場から見て、絶対の基準をもとに判断しているわけではありません。逆に言えば、そんなに簡単なものではありません。
どのようなスタンスであればそのインターフェースに対して会社としてOKを出せるか。金融に関する世の中の見方、考え方、時代、情勢、テクノロジーの動向…常に流動的に考えなければならないのがコンプライアンスです。
コンプライアンスのスタンスがそうである以上、クリエイティブのスタンスが「法律は詳しい人に任せて、あとはよろしく」であっていいはずがありません。
特にFintechのデザイナーである以上、自分のサービスに関する法律の解釈を持つこと。これは必須だと僕は考えています。
正直…既存の金融商品取引法、その解釈と習わしには、やや古い部分もあります。
「こんなことさえやってはいけないのか!」と驚愕することもあります。
古臭い慣習、面倒な手続き…これらをユーザーに強制しなければならない。嫌気が差すことだってあります。
多すぎる要素はUIから削ったほうがいいと明らかなのに、何度も議論を重ね、多くの時間を費やす。うんざりすることもあります。
それでも!
法という大きな壁に圧倒され、萎縮するのではなく。その法の壁が建設された背景を知る「勇気」と「情熱」を持たなければならない。
法との対話を諦めず、仲間と建設的な議論を交えなければならない。
常にユーザーの立場に立って考える?そんなことでは生ぬるいのです。
先人たちが築き上げてきた法という偉大なる遺産を譲り受け、我々はあらゆる権利と財産を守らなければならない。
命の次に大事な「お金」を取り扱う、それ相応の覚悟と責任を背負わなければならないのです。
オンライン証券会社が一般的になり、飛躍的に投資が便利な世界になりました。それにも関わらず、投資に対して日本では「胡散臭い」「難しそう」「お金に汚い」というイメージが跋扈していると思います。
するとどうでしょう。証券サービスは「新規顧客」を捕まえることに力を使うより、どんどんヘビーユーザーである既存の投資家に対してのみ優しくなり、サービスが排他的になっていく。
このようにして「難しそうで、複雑で、いろいろできるけれど、なにができるか分からない。「百徳ナイフ」のような証券サービスができ上がってしまうのです。
さて、ここで問いたい。
こんな状況を変えられもののはなんでしょうか。
スマートフォンの誕生は、誰もが膨大な情報にいつでもどこでもアクセスできる時代を到来させ、さまざまな分野に革命を起こし、人類の行動を変革した。
あらゆる分野のビジネスモデルが改変されつつある今、次は。重い腰を上げ、人の最もセンシティブな領域の一つ「金融」に革命がやってくる。
Fintechだ、Fintechだと騒がれている今、なにが、その百徳ナイフな状況を打破できるでしょうか。
セキュリティの強化でしょうか?
金融商品の拡充でしょうか?
最新ネットワーク技術の導入でしょうか?
違いますよね。
考えてみてください。
『Kyash』や『paymo』は簡単な個人間送金を現実のものにしました。
バンク(CASH)は目の前にある自分のものを一瞬で現金に変えるという仕組みを作り上げた。
CAMPFIREは『polca』で友だち同士で気軽にお金を貸しあえるできる場所を作り上げた。
世間を騒がしている『VALU』もいろいろ問題は抱えているにしろ、個人の価値を視覚化し、売買するという革命的なプラットフォームを成立させた。
『マネーフォワード』はその圧倒的な使い勝手の良さで、日本において「お金を管理する」という行動の代名詞になった。
『freee』は会計管理や登記のシステムを簡易化し、日本の企業家の人数を間接的に、だが確実に増加させている。
彼らの共通点…それは、ユーザーの行動、体験ベースでプロダクトが作られているということです。
どんなに複雑なシステムだとしても、ユーザーには簡単に見えてしまう。そのデザインの力、構造が強い。
一方で、法律を二の次にしないことが重要です。みなさん目の前の「法律」に対して、愚直に向き合っている。ユーザー体験と法律、この二大旋律がお互いを邪魔することなく、奏でられている。
この「法とクリエイティブの対位法」を上手く設計できているのは、なによりも広義的な意味でのデザインの力。
Fintech業界におけるサービスの成功は、デザイナーこそが鍵だと私は思います。
中国史を描いた、かの有名な作品「キングダム」という漫画があります。そこでは「法とは、願いである」と記載されています。
国民に望む人間のあり方の理想、それを形にしたものが法である、と。私たちは、その願いを聞き、届けなければなりません。先人たちが築き上げてきたこの願いを叶えなければなりません。
ただし、プロダクト作りにおいて、ユーザーの声をそのまま受け取ってはならないように、法の表面だけを見たらいけません。その法の奥に潜む立法者の願い、国の願いを、インサイトとして読み解く。これがFintechのデザイナーの役目なのです。
金融商品取引法の一部に、その法の目的がこう記されています。
「もって国民経済の健全な発展、および投資者の保護に資することを目的とする」
国民経済の健全な発展、これは法だけの目的ではありません。私たちデザイナーが目指す、クリエイティブの最終的なゴールでもあります。
だからこそ「法とクリエイティブ」を皮切りに、我々は前のめりに攻め込んでいかなければならない。
それが、Fintechという大義名分でもって、デザインの力で金融革命を起こそうとしている、私たちデザイナーの使命なのです。
Fintechとは単なるディスラプト目的の革命ではありません。
政府、国会、銀行、その他の既存の金融機関と連携し、日本の金融を飛躍的に良くしていく単なるきっかけに過ぎないのです。
一つひとつの企業の成功、不成功なんかどうでもいい。Fintech業界を盛り上げようなんて話が小さすぎる。日本という国が、今後世界の中でどう台頭し、進化していくか。その一翼を私たちは担ってる。
ぜひとも、その覚悟をもって、今後も共に、日本を経済大国首位となる未来を築き上げましょう。
情報技術で遅れを取った日本が「デザイン」で世界をリードする日を夢見て、心よりそう願うばかりであります。
ご清聴ありがとうございました。
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文 = まっさん
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