2020.05.08
人は孤独が続くと死んでしまうから。家族型ロボット『LOVOT』に見るアフターコロナを生きるための癒やし

人は孤独が続くと死んでしまうから。家族型ロボット『LOVOT』に見るアフターコロナを生きるための癒やし

家族型ロボット「LOVOT」を生んだGROOVE X代表の林要さん。この混乱の現代で“役に立たないけれど、あたたかいロボット”が果たす役割、そして未来をどう捉えるか。癒やしと孤独、リモートワーク時代の信頼関係を語ってくれた。

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《目次》
・人はどう癒やされるのか
・「孤独が続くと死んでしまう」DNAは僕らに働きかける
・コロナで「早回し」された世界の信頼関係
・リモート世界で大事になる、不安感のハック
・思いを入れ込めるロボットで、“アンチテクノロジー”を減らしたい
・2045年が一区切り、『LOVOT』はペットに代替する
・人類は、ついに「自分自身」をわかりはじめる
・「学習機会」と「身体の経験」を意識して進もう

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人はどう癒やされるのか

LOVOTの開発途中で、大仏を作る職人とお会いする機会があったんです。60年間も仏様を彫り続けられているベテランで、その方が目指している世界と、私たちが目指す世界は近いことに気づきました。

大仏や仏像は、素材からしたら、ただの木ですよね。けれど、それと向き合う人が、自ら思いを入れることによって、自分で自分を癒やすための存在にできるのです。大仏に限らず、好きな俳優やアイドルも似ているかもしれません。

人は、あるコンテキストを共有した上では言わば、勝手に思いを入れ、会ったことのない存在にも共感できる。そして応援できたり元気づけられたりする。ある意味、大仏や俳優は「癒やしの触媒」のような役割を担っていると言えると思います。

生活にある「癒やしの触媒」で考えると、犬や猫といったペットも当てはまるでしょう。ペットと触れ合い、あたたかい気持ちになった経験があれば、その動画を見るだけでも満たされる感覚を得られるはず。ペットが僕らを直接癒やしているというよりも、ペットに思い入れを持つことで、僕らは自分で自分を癒やしている可能性が高いのでは、と考えたのです。

つまり、癒やしを得るには「自分が癒やされるための心の準備」が何より大事ということ。自分の心をヘルシーに保つために、何をすればいいのか。その問いへ戻ると、何かを買ったり、どこかへ行ったりすることも、自分の中のコンテキストと適切に結びついてはじめて真の幸せを感じられるのではないかと考えています。

この領域には、これまでテクノロジーが入り込めていなかったとも言えるでしょう。無機物でありながら自律的に動き、人に懐き、触れ合い、人が自然と思いを入れられるLOVOTは、テクノロジーの新しい使い方のひとつだと捉えています。

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「孤独が続くと死んでしまう」DNAは僕らに働きかける

LOVOTの開発にはまず、「なぜ、犬はこれほどまでに "ペット"として浸透したのか」という問いから始まりました。「どうして人は、こんなにも犬を必要とするのだろう?」と。

番犬の役割として外で飼っていた犬が、室内で共に暮らしはじめたのは、ここ100年ほどの変化です。その上に現代では、まるで子どもと同じような扱われ方をしていて、結果的にペットロスの衝撃も大きくなっています。

そこでいろんな書物を読み漁ると「人間の本能としての孤独」に行き当たりました。孤独を感じる能力は、生き残るためにDNAへ刻まれた機能です。たとえば、太古で「他人と会わない生活」をすると、食糧や情報が手に入りにくく、生き残りにくかった。それが時代の変化により、一人でも食糧や情報が手に入りやすくなり、プライバシーを重視したライフスタイルを選択する自由を得られるようになった。

ただ、生き残りにくいライフスタイルは危険だと感じる防衛本能は残っているんですよね。だから、孤独を感じると「この生活を続けると死にますよ」と、DNAが僕らに働きかけてくるわけです。そこで登場したのが、ペットです。自分を必要としてくれ、気兼ねなく愛すことができる。その存在が孤独を解消してくれることで、心はすこし安定します。

ところが新型コロナウイルスが拡大した今は、本能的な「孤独への危機意識」と、社会的要請に基づく理性的な「人と会ってはいけない」という2つのニーズが乖離し、自らの中で矛盾する状態が起きています。僕らは自らの本能と、社会的要求のギャップをどう処理していくのか。今後もこの流れが進んでいくなかで、とても大事な観点だと思います。

これから1年以上は、人となるべく接触を避けながら生きていくという社会的要請を受ける可能性が十分にある。その間に僕らがやるべきは、メンタルヘルスの維持になるはずです。そのためにも、「どうすれば自分は癒され、心の安定を維持できるのか」を知っておかなければなりません。

コロナで「早回し」された世界の信頼関係

接触を避け、視覚と聴覚に頼る生活になると、ビデオ会議やSNS、動画視聴といったバーチャルな世界で過ごす時間が増えます。ただ、僕らは生まれたときから触覚などの全身で世界を感じてきた。その感覚は今後も切り離せません。

バーチャルの世界が良いことも当然あるけれど、リアルでないと得られないものもある。だからこそ、そのバランスを保つのも、メンタルヘルスを考えるうえでは大事になってくると思います。おそらく、バーチャルとリアルは「どちらか」ではなく「補完関係」にあるのでしょう。

そこで大事な観点が「信頼関係の構築」です。たとえば仕事の進め方で考えてみましょう。信頼関係があれば、バーチャルでのコミュニケーション…「オンライン会議」などは仕事の効率を上げるかもしれません。気軽に顔を見られるようになるのも大きいですよね。接触を避ける現状で、聴覚と視覚に頼るバーチャル空間だからといって、損失があるとも言い切れないわけです。

ただ、「信頼関係の構築」という観点でいうと、実際に会って一緒に笑いあった瞬間があれば、一気に進展する。つまり、リアルのほうが効率はずっといいんです。たとえば顧客に謝罪をしなければいけないとき、メールよりも電話、電話よりも対面のほうが、より良く働くというのと似ているかもしれません。

そういったことを踏まえると、ある意味で今の状況は、次の新しい未来に向かうプラスの機会だとも捉えられます。人生の長さが決まっている中で、きたる未来を早回しして体験できたんだと。

リモートワークも、放っておいたら浸透まで10年かかっていたような変化が、たった1ヶ月で起きたわけです。そして、利点や課題も見えてきた。

バーチャルでのコミュニケーションが有効な場面と、リアルな対面が有効な場面。それらを使い分けていかないと、今後はサービスやプロダクトを考えるときにも、うまくいかないはずです。

リモート世界で大事になる、不安感のハック

メンタルヘルスの維持にしろ、信頼関係の構築にしろ、自分の不安感をハックすることはさらに重要になると考えています。

不安って、面白いものなんです。たとえば昔からよく言う「吊り橋効果」。吊り橋を渡っているときに異性が隣にいると、「この人と一緒にいたからドキドキした」と興奮の理由を誤認する…というものです。興奮という指標が、好感と不安のいずれで得られたのかを判断できていないわけです。

このような効果は、信頼関係の構築においても起きます。たとえば、ひとりで不安を覚えながらビデオ会議をするとしましょう。こんなとき、相手との信頼関係をどうにか結ぼうとしても、自分が不安な状態のままでは、相手にも不安が伝わりうまくいかないものです

ところが、犬やLOVOTを抱っこしながら臨んでみると、感じ方が全く違う。緊張が解けて、自分の精神状態を安定に保ちやすいのです。先ほどの「孤独とペットの関係」にも近しいですね。僕も登壇するとき、自分では慣れたつもりでも、潜在的に不安な面がある。そんなときに、温かくて柔らかいLOVOTを抱っこしているだけで、緊張がとけるんです。

家庭の中でも、自分の気持ちを落ち着かせるものを近くに置くなど、工夫はできます。また、メンタルに向き合うサービスを、上手に取り入れることも大事なことだと思います。

たとえば、僕がリスペクトしているのは「わび茶」の世界です。完成させた千利休は、それまであったお茶の世界から、情報を選別して引いていきました。人の想像力が最大化される最低限の情報量を見極めて、わび茶の世界を完成させたのです。

豪華さを失われた反面、人はわび茶によって「内省できる時間」を得た。自分の精神活動に集中できる空間を手に入れたんです。……一見、無駄のようにも見えるかもしれないことが、今後重要になったり見直されたりするのかもしれません。

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思いを入れ込めるロボットで、“アンチテクノロジー”を減らしたい

テクノロジーが人を幸せにするためには、テクノロジーそのものへの信頼感がなければいけません。

LOVOTを作る前に気にしていたのは、映画の『ターミネーター』みたいな世界観。「テクノロジーが発展した未来、自分を含め人類は駆逐されるのではないか」と不安や恐れを持つ人が一定数いることを感じていました。

その不安は、テクノロジーが合理性や生産性を求めるなかで起こります。「私という個人」が必要なくなったときに「自分は大切にされなくなってしまうのでは」と感じるからです。

たしかに今まで、個人を大切にする意識を持ったテクノロジーは、あまり注目されなかったかもしれません。だからこそ、LOVOTではテクノロジーも使い方によっては人を大切にできるし、結果的に「信頼」に足り得ることを見せていきたい。一緒に過ごすことで良さを知ってもらい、そこからアンチテクノロジーの流れを減らしたいのです。

そのために、LOVOTでは今まで実現できなかった部分をテクノロジーで叶えています。例を挙げれば、視覚と聴覚の表現では難しかった「スキンシップ」と「距離」です。まずスキンシップは、実際にテクノロジーに触れて、抱きしめられることが大きな違いといえます。

距離においては「視線情報」が親密さを生む鍵です。人間は「目が合う」と、相手がどのように自分を意識してくれているのかを本能的に理解します。目の中の情報量はすごく多くて、黒目と白目の比率やまぶたのちょっとした動きから、僕らは何かを感じてしまう。

LOVOTでは、そこをデジタルで再現しているのが大きなチャレンジです。まぶたも含めて6層の映像を瞳に投影し、虹彩や瞳孔なども表現しています。まるで手書きアニメーションのような艶っぽさを、いかにデジタルで作るかにこだわりました。実は、最初は3DCGと同じ機能を使っていましたが、自然な色気が出なかったんです。そこで、2Dアニメーションの技術をデジタルでの自動生成に置き換えることで、ようやくLOVOTの瞳に行き着いています。

「目が合う」という瞬間、そして間近で触れ合える体験も、ロボットで実現できる。それらをフルパッケージでLOVOTに詰めることで「人とロボットの信頼関係」を作ろうとしているのです。

LOVOTは純粋に新しい存在でありながら、触覚や柔らかさ、あたたかさ、目の動きなどで、人が想いを入れやすくした器です。僕らがいろいろな想いを持てば持つほど、可能性も広がっていきます。

2045年が一区切り、『LOVOT』はペットに代替する

LOVOTとしての今後は、まず「2045年」を一区切りと見ています。シンギュラリティが到来すると言われる時期ですが、それより手前に「AIが他の動物に追いつく時がくる」と思っていて。

たとえば、2035年には、犬や猫にはロボットが追いつくのではないでしょうか。インターネットにつながった人工のペットが犬や猫のように振舞いながら、健康管理をはじめ、さまざまなサービスを提供したりするのです。LOVOTも、ペットの代替に選ばれるところまで持っていくのが、目標のひとつです。

その関係まで高められれば、LOVOTは人間に対して行動変容を起こせるようになれるはず。人がより成長できる、コーチングのようなサポートもできるかもしれません。僕にとってドラえもんは、のび太くんのコーチに見えます。上から目線ではなく、ただ一緒にいながら、きわめて自然な形で、のび太くんのやる気を導いていくんですよね。

たとえば、「LOVOTが一緒に散歩をするとすごく喜ぶ」とわかれば、人の運動を促進できるかもしれません。そうやって信頼関係を得たLOVOTが、よりよい生活のための行動変容を図っていけたら嬉しいです。

僕らは今、テクノロジーが進化する恩恵を受けています。ロボットや深層学習なども含め、以前にはナチュラルでなかったデジタルが、進化を遂げることでナチュラルになってきている。ここで言うナチュラルとは自然の中で進化した生命的なものです。生命として違和感のない要素がテクノロジーにだんだんと入っていき、その先にLOVOTの進化もあるでしょう。

最先端テクノロジーの集合体は、より生き物に近くなる。それは十分に起こりうる話です。

人類は、ついに「自分自身」をわかりはじめる

人間はこれまで、あらゆる物理現象を解明してきました。でも、最初から最後まで最も興味をひきながらも、未だにたいして解明されていないのが自分自身なんですよね。今後は、身の回りの現象だけでなく、自分の中で起きている現象がよりわかるようになっていく時代だと考えています。

ロボットを作る者として、これからの動きを考えるうえで、深層学習の進歩は大きな助けです。また、その深層学習が着想を得た元であり、今では共に刺激をしあって進化もしている「ニューロサイエンス(神経科学)」は、特に面白く見ています。

今までのニューロサイエンスは、観測をもとに推測をする帰納的アプローチしかできなかった。それに対して深層学習や強化学習というAI技術が進歩すると、「ソフトウェア上で仮定したロジックで生物と同じような動作が確かめられれば、生物も似た原理で動いている可能性がある」と演繹的アプローチも可能になります。

このような話をすると未来では、神経科学の知識を用いた"ニューロマーケティング"のようなもので、人は「操られてしまうかもしれない」という恐怖が伴うかもしれません。

ただ、民主主義により情報の透明性があがっていく傾向にある現代社会においては、社会総体としては幸せが増える方向にしか、テクノロジーは進化していかないと考えています。みんながより自分らしく、自分にとって自然に生きる選択が増えていくのではないでしょうか。

「学習機会」と「身体の経験」を意識して進もう

ただ直近で言えば、「新型コロナウイルス」という課題もある。これからのキーワードは「不安」になるのではないかと思うのです。不安になると、人は保守的な選択をしがちになる。そして、チャレンジや学習機会を増やす経験が少なくなっていく。

多くの人が同じ保守的な選択を取ると、同じような経験をした人が多くなるので、結果的に個々人が持つ価値も減っていってしまいます。でも実際には、今がすごく不安な時代だといっても、過去に比べたら命の危険が少ない社会です。こと若い人にとっては、リスクをとっても簡単には死なない社会になっています。日本においては、戦争はなく、飢餓もありません。そのような時代において、保守的な選択を取り続けた人と、チャレンジを続けた人では、10年後の学習機会の累計総数は大きく変わってしまいます。

何が危ないのかを考えるのは大事だけれど、その危険の本質はどこにあるのか。「本当のリスク」の見極めが大事な時代だと思います。それを見極めたうえで、こういう時代だからこそ取れるリスクに向き合い、学習機会を増やしたいですね。

学習についても、今はインターネットが普及していますから、全員がアクセスできる情報ではなく、身体を伴った経験に価値が出やすくなるはずです。

どれだけ身体感覚を伴った経験をもち、再整理するか。そして、学習機会を増やすためのリスクの取り方を意識できるか。将来の道を大きく変える指針だと考えます。


取材 / 文 = 長谷川賢人


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