6兆円の市場規模を誇るも、旧来の体質が残る印刷業界。ここにテクノロジーで風穴を開けているのがラクスルだ。GREEなどそうそうたるインターネット企業を経てジョインしたメンバーが多い同社。代表の松本さん曰く、会社のエンジンとなっているのは“ビジネス感覚”を備えたエンジニア・クリエイターの力だという。
6兆円と言われる印刷業界の市場規模。ここ数年は縮小傾向にあり、今後は大きく成長していくイメージが持ちにくいのが、一般的な認識だろう。
そんな業界に風穴を開けるべく、ITの力を取り入れることで様々な改革に取り組んでいるラクスル。「仕組みを変えれば、世界はもっとよくなる」「印刷業界をITの力で効率化をする」というヴィジョンを掲げ事業を展開。不透明が故に凝り固まっている印刷業界の業界構造に、インターネットで風穴を開け、効率化と需要の創出を実現。結果、順調に売上も拡大しており、人材の採用も活発化しているという。
今回お話を伺ったのは、ラクスル代表の松本恭攝氏。大手コンサルファームを経た彼が、なぜ、市場の成長イメージが持ちにくい印刷業界を主戦場とする決断を下したのか?いかにしてテクノロジーで既存業界に変革を起こしているのか?その真意に迫った。
─ まず、なぜ成長業界とは言えない“印刷業界”での起業を志したのですか?
変えることで大きなインパクトを与えられると思ったからです。あと、仕組みを変えることでチャンスが多い業界だなとも思いました。僕は、新卒で外資系コンサルファームである、A.T.カーニー社に入社したんですが、ちょうどその年にリーマンショックが起こり、各企業がキャッシュを貯めるといった流れが生まれました。
A.T.カーニー社はコスト削減に強みを持つ会社だったので、自分もいちコンサルタントとして、色々な会社のコスト削減に携わったんです。開発、メンテナンス、ロジスティクス、プロモーション、賃料、光熱費など、様々なBtoBの間接材をチェックしていたんですが、印刷コストが一番削減率が大きかったんです。
ラクスル代表・松本恭攝さん
詳しく調べてみると、印刷業界の市場規模は6兆円。その市場で大日本印刷と凸版印刷の大手2社が市場の半分を持っていて、残り半分のシェアを30,000の印刷会社が奪い合っている…ちなみにコンビニが日本に40,000店舗あると言われていますから、明らかに供給過多ですよね。
ただ、インターネットが上手く活用されていない状況でしたから、視点を変えてみると、チャンスがある業界なんじゃないかと思いました。インターネットを使うことによって、このいびつで非効率な業界を変えられるんじゃないか。歴史ある業界だけど、こういう業界だからこそ変えるチャレンジができるのではないか。ネットの力を使って変えるとインパクトが大きいんじゃないか、と。
今や世界的な大企業となったAmazonも、決して目新しいことをやって成長したわけじゃないですよね。一言でいえば本屋さんで、そこにインターネットを持ちこむことによって、世界中の流通構造を変えたわけじゃないですか。仮にAmazonが電子書籍をやっていたら、ここまでのインパクトは生めなかったと思います。楽天だって、そうです。
既存産業にインターネットの力を用いることで、その産業の裏側の仕組みを変えることができる。印刷業界のように、リアルと結びついた産業なら尚更です。インターネットによって構造・仕組みがガラっと変えることができれば、世の中にものすごいインパクトを与えられますよね。
― 今、ラクスルにはどのような経歴のエンジニアやクリエイターが入社されているのでしょうか?
つい最近、ソーシャルゲームのプラットフォームを手掛けていたエンジニアやクリエイターが入社してくれました。他には、学生がインターンで参加したりしてくれている状況です。
― 彼らが入社したことによって、どのような変化がありましたか?
まず、開発スピードが劇的に向上し、結果的に売上が10%あがりました。あと、彼らが入ってくれたことによって、このGoogle Maps APIを活用した簡単見積もりサービスも提供することができるようになりました。
これは規模の小さな企業でも、自分たちでマーケティングを打てるように、ポスティング、デザイン、配送の料金も含めたトータルの金額をオンライン上でシミュレーションできるようにしたものです。たとえば、中野区。会社から半径700mの範囲にB4の両面印刷のチラシを8,900枚撒く場合、印刷代と折込代ふくめて、85,000円でトータルにできるというものです。
― 「折込チラシを打つのは高額」、というイメージがありましたが、思っていたよりも手頃な価格ですね。
これまでは広告代理店が入り、印刷会社が入り、配布する場所を決めて業者を決めてと、いろんな手間がかかり、さらに最低でも50万円からでないとできなかった。だから、自宅に届く新聞に入っているチラシはユニクロだったりヤマダ電機だったり、大手企業のものばかり。
ここにITの力を取り入れることで、たったの5万円や10万円で折込チラシが打てるようになったんです。なぜここまで安くできるかと言うと、印刷会社の非稼働の時間を活用して印刷しているからなんです。
印刷会社の稼働率って、40%と言われていて、フツーに考えたら潰れてしまいます。そこにラクスルが介入することで印刷会社の稼働率の向上を実現し、そしてユーザー側としては小ロット、低コストで印刷周り全般のマーケティングを実現できるようになったんです。
― それはすごい!
最近入社した2人のエンジニア・クリエイターに共通して言えることは、ビジネス感覚を持っているというところですかね。
エンジニア、デザイナーという職種柄、新しいUIを手がけたり、新しいシステムを考えたり、技術的なチャレンジに注力することも、もちろん大切なことだと思います。
ただ、ラクスルをはじめ、既存業界でチャレンジしている会社が目指しているのは、その業界の仕組みを変えるということ。ですから、ただエンジニアとしてクリエイターとして技術的な部分を追求するだけではダメ。「自分は顧客に何を提供できるのか?」「どうやれば顧客の利益に繋がって、自分たちの利益となるのか?」ということまでを自ら考えて、実践できることが、大切かと思います。
あと、これはエンジニアやデザイナーに限った話ではないんですが、「業界を変えよう、風穴をあけよう」という想いはやはり大事だと思います。自ら変化を生み出して、世の中を変えていこうというマインドが、IT・WEB業界とは異なるフィールドで働く上では欠かせません。
― なるほど。要求されるレベルは高そうですね…。
サーフィンを楽しむイメージですよ。穏やかな波では何もできませんし、面白くない。高い波がくることでこそ、その波を楽しむことができる。人生にも波があると思うんですけど、それを楽しめるか、怖がるかで自分のキャリアも大きく変わると思いますね。
(つづく)
▼ラクスルCTO・山下雄太氏へのインタビューはコチラ
GREEを辞めてでも、挑む価値はあった─《ラクスル》CTOが語る、既存業界をテクノロジーで変える醍醐味。
[取材]松尾彰大 [文]後藤亮輔
編集 = CAREER HACK
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