「ダイバーシティ」をテーマにしたGoogle日本法人へのインタビュー第1弾。多様性のある組織であるためには、インクルージョン(受容性)を社員間で養い、それぞれが主体性を持って声をあげられる環境を整える事が重要だという。
近年、様々な業界において「ダイバーシティ:多様性」というキーワードを掲げ、取り組みを行おうとしている。
ことWEB・IT業界では国内企業であっても国籍を問わない優秀なエンジニアを迎え入れる動きが加速している。企業がダイバーシティに注目する理由は様々だが、何よりイノベーティブなプロダクトを生み出すための土壌とすることが一つの大きなお題目であろう。
今回、「ダイバーシティ」というテーマで注目したのがGoogle。
Googleの日本法人では、ChromeやGoogleマップなど世界中で使われている製品の開発を世界各地の拠点と連携しながら行なっている。
働きがいのある企業ランキングで堂々3年連続1位でもあるGoogleが組織構成の上で重要視し、長年取り組んでいることが「ダイバーシティ:多様性」のある組織で在り続けることだという。
ただ一言にダイバーシティと言っても、どのような状態が“ダイバーシティが成立している”と呼べるのだろうか?そして、多様性のある組織であることが一体どのような効果・結果を生むのだろうか?
Googleにてダイバーシティの取り組みを推進している人事部の千谷(チタニ)裕子さんへのインタビューから、世界で最もイノベーティブなテクノロジーカンパニーが実践するダイバーシティのある組織の秘密を伺った。
― Googleでは創業当初からダイバーシティに対して、様々な取り組みをされているそうですね。
ラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンがGoogleを創業した時、二人はまだ大学院生。自分たちとは異なる様々な立場、バックグラウンドの人たちと一緒に働くということに対し、当初から真剣に向き合っていました。
女性エンジニアが出産後に復帰できるよう産休制度を整えたり、妊娠中やお子さんがいるスタッフ向けの駐車場を充実させたりと、ひとりひとりが働き続ける上で必要な、様々な配慮を行なう必要がありました。二人は、優秀なエンジニアやスタッフが抱える小さな問題を一つ一つ解決できなければ、彼らはGoogleを去っていってしまうと考えたんです。
実はGoogleではダイバーシティとともに、「インクルージョン:受容性」という考えを大切にしています。いろんな人がいるだけではなく、Googleにいる人々それぞれが自分らしさを表現でき、お互いの違いをリスペクトする。本当のダイバーシティはインクルージョンなしに成立しないのです。
ある意味、Googleのダイバーシティとインクルージョンに対する考えは、優秀なエンジニアやスタッフであれば、どんなバックグラウンドを持っていても迎え入れ、彼らがストレスなく、長く働いてもうための環境を生み出す手段や考え方の中心にあります。
― では、多様性と受容性が成立した組織であると、プロダクトやサービスにどのような影響を与えるのでしょうか?
Google社内では、「ユーザーは自分たちの想像を超えてプロダクトを利用している」と考えています。
Googleのサービスは世界中のあらゆる環境、バックグラウンドを持った方々に利用いただいてますが、例えば、アフリカにフィーチャーフォンからでしかインターネットにアクセスできないユーザーがいることを、多様性や受容性の概念がなくては理解できないですよね。
さらに言えば、まったくインターネットにアクセスできない人々に、Googleはどんなサービスを提供できるのか?を考える際、自分たちの世界しか知らない人たちには想像ができないと思います。
このように、私たちが提供したいと考える価値は、ダイバーシティとインクルージョンの理解を大前提としているんです。
― ダイバーシティの組織形成に必要なこととは一体何なんでしょうか?
いま特に注目しているのは、「Unconscious Bias」つまり、「無意識の偏見」というテーマです。
例えばこんな研究結果があるんです。ある国では、音楽学校に通っている生徒は女性のほうが多いのにもかかわらず、オーケストラの楽団のメンバーは圧倒的に男性が多いという事実がありました。そこに疑問を持った人が、まずオーディション時にステージのカーテンを閉めて誰が演奏しているかわからないようにする実験を行なったところ、女性の選考通過率が少し向上したそうです。さらに今度はステージに上る際の靴の音に注目して、全員裸足でカーテンをかけてオーディションをしたところ、男女比がほぼ半々になったそうなんです。
つまり、審査する人は、ハイヒールの音で、無意識に“女性が演奏している”という印象を抱いていたということ。もちろん彼らが悪意を持って女性だから、と低い評価を与えていたわけではありません。
この実験からわかるのは、誰しも“無意識のうちに偏見を抱いてしまっている”という事実です。このUnconscious Biasを誰もが持っているという認識を、社員に浸透させることから取り組み、ダイバーシティとインクルージョンを組織に醸成するための土壌を整えています。
― 数多くの企業がダイバーシティに関わる取り組みを行なっていますが、名ばかりで、なかなかうまくいっていない状況も伺えます。社員の目線を合わせていく肝ってなんなんでしょうか?
Googleの場合だと、ひとりひとりに“声”があることを伝えることでしょうか。そして、実際声を上げれば変えていける環境であること。
平社員だからといって、できないことなんてほとんどないですし、世界中どのオフィスに居る人であってもCEOであるラリー・ページに直接コンタクトを取ったり、全社員の前で質問することだってできます。
また、Employee Resource Groups(ERGs)という共通の問題やバックグラウンドを持った社員間の草の根的な活動が世界中のオフィスで積極的に行なわれています。Googleで一番古いグループが“Women@Google”という女性社員のグループ、その他には“Gayglers”というLGBTのネットワークや“Mothers”という母親グループもあります。
こうしたグループが社員を巻き込んでイベントを開催したり、管理部門に直接働きかけて、より良い環境や制度や仕組みを自らが主体者となって整えていく活動を積極的に行なっています。
実はこうした活動は勤務時間に行なえるんです。会社としても、トップ自らこうした活動を推奨し、優秀なスタッフが、どんな人でも気持ちよく働けて、受け入れられる企業にしていこうとしています。
― 日本企業におけるダイバーシティというと、やはり男女の問題が中心となるように思います。グーグルの日本法人においては、どのような課題を抽出しているのでしょうか?
仰る通り、やはり中心となるのは、女性の働きやすさという点ですね。
というのも、世界的に見ればダイバーシティに関する問題は人種、言語、性や宗教など、かなり幅広い分野を包括するものです。しかし日本では、他国と比較しても際立ってシニアのポジションになればなるほど女性が減っていき、結婚や子育てでキャリアが断絶する人がかなり多いと言われています。
そんな中で、Googleでは、女性に対するケアや制度の用意だけでなく、男性の育児参加(パタニティ休暇)を促すことで、ご家族に配慮した環境を整えるようにしています。
加えて、Googleはテクノロジー企業ですので理系学生向けの取り組みに力を入れています。具体的には、現在検討しているオフィスツアーの開催やコンピュータサイエンスを専攻する女性や障がいのある方を対象としたインターンシップの実施です。
昨年そのプログラムに参加し、現在通常のインターンシップにも参加している女子学生がいるのでぜひ直接話を聞いてみてください!
(つづく)
▼Google日本法人へのインタビュー第2弾日本におけるダイバーシティのあり方とは?Googleインターンの女子学生が見た、職場の理想形。
[取材・文] 松尾彰大 [撮影] 城戸内大介
編集 = 松尾彰大
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