2014.04.16
マイクロソフトが描く未来と、そのアプローチ方法。

マイクロソフトが描く未来と、そのアプローチ方法。

IT化が進み、数年前では想像もできなかった物事が現実となった。この技術革新を支える企業のひとつであるマイクロソフトは、数年後にどんな未来を夢見るのか。日本マイクロソフトで『Microsoft Azure』のエバンジェリストを務める大森彩子氏に話を聞き、マイクロソフトが目指す世界観を探る。

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マイクロソフトだからこそ描ける未来とは。

マイクロソフトが『Microsoft Azure』を正式リリースしたのは2009年のこと。2014年2月には、東日本と西日本に新たなデータセンターが稼働。『Microsoft Azure』の他に展開しているサービスをみても、クラウドストレージサービス『OneDrive』を拡充したり、『Office』のデスクトップアプリケーションに加え、グループウェア機能を併せ持つクラウドサービスである『Office 365』をリリースしたりと、クラウドプラットフォーマーとしての色合いが一層強くなっている印象を受ける。

なぜマイクロソフトは、このタイミングでクラウドに傾注し始めたのか。そして、クラウドサービスを通じ、エンジニアやクリエイターたちにどんな価値や利便性、ひいては未来を提供しようとしているのか。『Microsoft Azure』のエバンジェリスト 大森彩子氏へのインタビューを通じ、マイクロソフトが描く“未来図”を明らかにしたい。

マイクロソフトはなぜ、近年クラウドに注力しているのか。

― 2月25日に、日本国内のデータセンターが稼働するという発表がありました。日本国内のエリアに二つのデータセンターを開設したことや『Office Online』の一新など、クラウドサービスに力を入れてきたなという印象があります。なぜ、このタイミングなのでしょうか?


大森彩子氏

日本マイクロソフト・エバンジェリスト 大森彩子氏


大森:まず、『Microsoft Azure』の日本データセンター開設についてですが、セキュリティやコンプライアンス、そしてDR(災害対策)の観点も含めて、日本のお客さまからの強いご要望を数多くいただいていました。そういったご要望にお応えできるように日本マイクロソフトから米国本社への強い働きかけを行ない、数年前から社内で検討が重ねられた上で計画、実現する運びとなりました。無事に、しかも2拠点同時に稼働開始となって本当に良かったな、と思っています。

また、「マイクロソフトが最近クラウドに力を入れているという印象がある」というお話ですが、『Office365』の各種デバイス版のリリース、『OneNote 2013』の一部無償化やクラウドAPIの提供など、最近の発表を受けてのことかと思います。でも、実際はこのタイミング、特に2014年に入ってというわけではないんです。マイクロソフトが自社のデータセンターを初めて開設したのは1989年のことで、1990年代より『Hotmail(現Outlook.com)』や『Messenger(現在Skypeに移行)』などのオンラインサービス、今で言うところのクラウド型のサービスをリリースしています。例えば、『Outlook.com』は全世界で4億以上のアクティブアカウントにサービスを提供しているのですが、20年以上そういった大規模クラウドを提供してきた歴史と実績があります。これまでも「マイクロソフトってクラウドは後発でしょ?」って言われることがあって、心外だな、と(笑)。

2014年1月に日本マイクロソフトの年頭所感として「『デバイス&サービスの会社』への変革」という方針が掲げられていますが、”デバイス&サービス” の意味するところ、そしてクラウドの役割についても示唆しているイメージビデオがありますので、ご覧いただけますでしょうか。実際に今すぐ実現できますというものではありませんが、ITによって実現される将来的な方向性、「こんな世の中にしていきたい」という想いが込められています。

― すごいですね。まるでSFやアニメで描かれるような世界観です。


大森:こちら実は2009年に作成されたものなのですが、当時最初に見たときは私もビックリしました。この会社は何がしたいんだろうって(笑)。でも、今日2014年の世界ではデバイスの形は違えども、タブレットやスマホを利用することで、ビデオのワンシーンに近い世界が築かれつつありますよね。ビデオが製作された5年前に考えられていた世界に向かっているんです。このビデオには、壁や机などを含めた身の回りのあらゆる媒体で人と人の繋がりを支援する、という希望が込められている、と私は考えているのですが、そういった ”デバイス” と、より豊かな生活を実現する ”サービス” をサポートしていきたいという想いの中で、クラウドは不可欠なものになっているのです。ちなみにこのビデオは2011年版も公開されされていますので、ぜひご覧ください。

クラウドサービスでまた一歩、未来へと近づいている。

― ちょっと失礼な質問になってしまいますが…『Microsoft Azure』ですと、Amazonの提供する『Amazon Web Service(以下:AWS)』と比較されることが多いかなと思うんです。立ち位置の違いがあるのは理解しているんですが、やっぱりそこは聞いてみたいなと。


大森彩子氏


大森:前提として、AWSさんと仲が悪いわけではないんですよ。弊社の事業分野によってはパートナー企業ですし、担当者の方ともお知り合いなので普通にお話ししたり、一緒に飲んだりも。社外から対決を煽られている印象は大いに受けるんですけどね(笑)。

“クラウド”がバズワードとして認知され始めたのは2010年頃かと思うんですけど、実際「何がいいの?」「どこがいいの?」「それって美味しいの?」(笑)みたいな声も多く寄せられました。クラウドの魅力、新しい価値観とも言えるかもしれませんが、ITの”所有”から”利用”に変化することによるメリットがユーザーに伝わっていないという点が、クラウド業界全体が共通で抱える悩みでしたね。クラウドベンダー同士でクラウド業界を盛り上げる試みは限定的になってしまいますが、ユーザーレベルでは例えば『クラウドごった煮』というコミュニティイベントが定期開催されているんです。そこでは、『Microsoft Azure』はもちろん『AWS』や『ニフティクラウド』『GMOクラウド』などを利用しているユーザーの方々が、意見交換を含めて交流を深める取り組みがなされていまして。そういった場ではベンダー側としては率直なフィードバックに耳を傾けて機能追加や改善を続けること、そしてユーザーの間でメリットや使い方が浸透させていく、ということが重要ではないかと考えています。


― そういう各社の改善があり、すごくクラウドがお手軽で使いやすいものになっていますよね。


大森:この10年ほどでインターネット接続がすっかり当たり前の世の中になりましたよね。少し前の“シンクライアント”とはまた異なり、サーバー側とクライアント側の使い分けを自由にできる時代になったというか。クライアント端末本体には必要最低限のデータだけを入れておいて、状況に応じてインターネット経由でサーバー側のデータを呼び出すという使い方が可能になりました。

実はクラウドはみなさんが思っていらっしゃる以上に身近な存在なのですが…、実例を挙げた方がわかりやすいですよね。例えば千葉県柏市の柏の葉スマートシティで導入されているデジタルサイネージの運用システムとして『Microsoft Azure』が使われています。行政機関の情報や交通状況など、さまざまな街の情報を集約してどのサイネージにどの情報を出すかをコントロールして、災害時には緊急情報を表示することもできます。今後の使い方として、地域の天気予報と連動させるのも便利ですよね。今夜の天気を表示して、傘を持っていかなきゃとかがわかるような。

あとは他にも『クラウドトマト』の名称でお聞きになったことがあるかもしれませんが、明治大学の黒川農場などでITを活用した農業の実証研究が行なわれています。農地にセンサーを置いて、気温や湿度、地中の温度やpHなどのデータをすべて取得して『Microsoft Azure』上に蓄積し、高品質でより効率的な栽培方法を分析します。計測結果や分析結果はタブレット端末で現場で見られるようになっており、水や肥料の量を最適に調整して、収穫量を増やす・品質を向上させるという取り組みなんですね。さまざまな情報がビッグデータとして蓄積され活用できるため、これまで難しかった、農家の方の経験やノウハウの次世代への継承が、より円滑に行なわれることが期待されています。それこそ先ほどのイメージビデオのような未来が見えてきませんか?

クラウドプラットフォーマーの価値と、ユーザーと共に描く未来。

― わくわくするような具体例をふたつ挙げていただきました。各種のクラウドを通じて、マイクロソフトは世の中にどんな価値を提供しようと考えているのでしょうか。スマホやタブレットの普及で未来が近づいたように、貴社が描く未来のカタチや実現のさせ方みたいなものを聞いてみたいです。


大森彩子氏


大森:マイクロソフトはプラットホーム側、ITサービスのベースとなるインフラ的なアプローチで製品やサービス、テクノロジをご提供していますが、ユーザーさんはそれぞれ特色あるサービスの発想をお持ちで、お話しさせていただくと「こういうことがしたい」といったアイディアをたくさんお伺いします。最近、IoT (Internet of Things) という言葉が注目されていますが、さまざまなモノが繋がって相互に作用する世界をつくっていく、まさにイメージビデオの世界なんです。イメージビデオに登場したサービスやデバイスをそのまま今すぐ実現するのは無理ですが、現在ある技術やデバイスで代替すれば実現することは可能ですよね。それをより不自然でない状態で、自然な形に実現できるような技術をご提供していくのがマイクロソフトの役目だと思います。

もしかしたら冒頭にお話が出た「マイクロソフトが最近クラウドに力を入れている」と感じていただけるようになったのも、気がついたら使っていたという状態に、すごく自然な形でクラウドが浸透してきたことの表れかもしれませんよね。使わずにいられない便利な物になったというか。


― 私のような一般のユーザーが使うレベルでも、驚くような未来のサービスではないけれど、便利なものってありますもんね。日本交通さんのタクシー配車アプリとか。


大森:あの『全国タクシー配車』アプリも『Microsoft Azure』で動いていますが、アプリ経由で25億円以上の売り上げにつながっているそうです。それだけ利用されている、みなさんにとって便利なサービスということですよね。どんな場所にいても「ココ!」ってタクシーを呼べる便利さを実現しているこのサービスも、数年前から考えたら未来のサービスではないでしょうか。

ITって、その宿命として社会インフラになってゆく、コモディティ化していく一方だと思っているんですが、そういう意味でも当社が提供するようなクラウドサービスをより多くの方々に使いこなしていただきたいですね。ITは色々な可能性を実現できる凄い技術だと常々思っています。最近では個人プログラマの方がスマホやタブレット向けのアプリを開発してヒットさせるなど、事業を小さく始めて、ユーザーの声を聞きながら改善し、より多くのユーザーに対応できるようにスケールアップさせていくことが可能になりました。個人やスタートアップでも、未来に近づくサービスを生み出せる環境が整ったということです。今後も、企業規模に限らずお持ちのアイディアをITを使って世に送り出せるような環境を、マイクロソフトはご提供し続けていきたいと思っていますし、そういう意味でも、マイクロソフトが描く未来というものは、未来への道のりを共にし、夢を一緒に叶えようとしてくださるパートナーさんと実現していくものなんだと思います。


― 冒頭に紹介いただいたムービーのような世界が待っていると思うと、想像しただけでワクワクしますね。


[取材] 城戸内大介 [文] 田中嘉人



文 = 田中嘉人
編集 = CAREER HACK


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