UI Crunch #3 「今、プロトタイピング開発に求められること」のイベントレポート。プロダクトの開発における、プロトタイピングの在り方とは?クックパッド、グリー、Standard Inc.のデザイナーたちの実践とプレゼンテーションを中心にお届けします。
最初に登壇したのは、クックパッドの元山和之氏。「チーム開発におけるKeynoteを使ったプロトタイピング」というテーマで、非デザイナーにも馴染み深いKeynoteを使ったプロトタイピングをデモを実践しながら、メリット、デメリットを含めて紹介した。
まず、プロトタイピングを「製品やサービスを作る前に早期に完成形に近い試作品を作って、問題点を検証したり精度を高めたりする手法やそのプロセス」と定義付けた元山氏。
その上で、Keynoteを使ったプロトタイピングのメリットとして、デザイナー以外でも気軽に使えるグラフィックツールであること、トランジションやアニメーションも表現できること、インタラクティブな動作も可能なことを挙げた。
「プレゼンテーションツールとして馴染み深いKeynoteには、アプリやウェブサービスのデザインやUIを表現・設計する上で欠かせないトランジションやアニメーションを表現する基本機能が備わっている。クリッカブルな領域を設定しシート同士をリンクさせることも可能で、用途によっては非常に使い勝手の良いプロトタイピングツールとなる。」(元山氏)
一方で、同時にデメリットとしてあげたのが複雑に作りこむことの難しさだ。
「複雑な画面遷移などをすべてKeynote上で管理するのは無理がある。また他の手法も考えられるが、Keynote単体ではデバイス確認に向いていない。」(元山氏)
そのためクックパッドでは、KeynoteとProttなどのプロトタイピング専用ツールを併用して、プロジェクト毎に最適なプロトタイピングを行なっているという。
会場への質問でもあったが、Keynoteだけではなく、PowerPointやGoogleApps(プレゼンテーション)でもほぼ同様の用途が可能だ。プロトタイピングの文化を草の根的に広げていくためにも、ツール導入ハードルの低さや非デザイナーにとってのとっつきやすさも大きなポイントとなると感じられたプレゼンテーションだった。
※元山氏が紹介したKeynoteでのプロトタイピングは2014年のWWDCでも同様のプレゼンテーションが行われている。
https://developer.apple.com/videos/wwdc/2014/#223
https://developer.apple.com/wwdc/resources/sample-code/
多様なプロトタイピングツールが数多くリリースされる中、「ただプロトタイピングツールを導入すれば、成功するものではない」と述べたのは、Standard Inc.で主に受託開発を手がけるデザイナーの吉竹 遼氏。「プロトタイピングの助走と飛躍」というテーマでプレゼンテーションを行なった。
「プロトタイピング=試行錯誤、トライ・アンド・エラーこそプロトタイピングの工程。試行錯誤は勇気を伴わないとできない。例えば、デザイナーにはある程度のクオリティまで持っていかないと他人に共有しない人も多いが、早い段階で共有してフィードバックを得たり、そのフィードバックに対してどう反応するかという勇気が必要。」(吉竹氏)
吉竹氏のいう「助走(いま)」とは、スケジューリング、企画提案、アイデア出し、ユーザーテスト、ビジュアル、実装などかなり広範囲に及ぶ、プロトタイピングのフェーズだ。
「すべてをマスターし1人で全部100%やろうとする必要はないが、いずれ意識せざるを得ない時代になる。まずは、なんとなくやるプロトタイピングではなく、考えて実行し続けるプロトタイピングを心がけるといいのではないか」(吉竹氏)
そして、「プロトタイピングの飛躍(これから)」を考える上で、改めて問いなおしたのが「そもそも”私たち”は”何”をデザインしているのか?」ということだった。
「現在はデザインしているインターフェイスに応じて職種名が付けられていることが多いが、おそらくこういった縛りも次第に薄まっていく。デザインする主体とは、プロダクトやサービス、機能ではなく「体験」や「物語」であり、WEBやアプリはそれらを伝えるためのインターフェイスに過ぎない。
近年は3Dプリンタやオープンソースハードウェアなどが登場しており、考える範囲がより一層広がってくるのではないか。そうなった時に起点となる考え方となるのは、おそらく人間そのものへの興味。体験や物語を届ける主体は人間。人への興味を持ち続けることがすごく大事なことなんじゃないか。」(吉竹氏)
「プロジェクト進行、管理の視点から考えるプロトタイピング」というテーマで発表を行ったのは、グリーでUXデザインチームのマネージャーを務める村越 悟氏。
「プロトタイピングの手法を、どの段階で活用すべきか」を考える上で、組織進化モデルの一つであるタックマンモデルに沿ってプロトタイピングの段階を再考してみたという。タックマンの5段階モデルはformning(形成)、storming(混乱)、norming(定着)、performing(成熟)、adjourning(散会)からなるが、プロトタイピングの段階を成熟期までを切り出して紹介した。
「それぞれの段階で、チームメンバー間にズレが生じるもの。例えば、形成期のタイミングに企画書で『スッと指でなぞるだけの爽快パズルゲーム』と表現されていても、共通のイメージを持てるかというと難しい。このタイミングではまず、ペーパープロトタイピングを行なうことがグリーでは多い。このように、定着の段階では、ProttとSketch、成熟の段階ではUnityと段階に応じてプロトタイピングツールを使い分けている。
ゲーム特有かもしれないが、グリーではある機能だけを切り出して紙でボードゲームのようなものを作る事がよくある。ここでパラメータの調整やレベルデザインを行なうことも多い。」(村越氏)
また、プロトタイピングとはある意味で言語であり、プロトタイピングのプロセスはチームの成長過程でもあると語った村越氏。
「プロトタイピングも闇雲にやればいいというわけではなく、チームの成長過程に沿った最適なツール、手法を選択することが重要になってくるのではないか。言語化されていない「頭の中」を具現化することでデザインコンテクストを共有することが可能になる。それがさらには、文化が生まれ、文化から良いプロダクトが生まれる。」(村越氏)
「プロトタイピングを実務で実践している人はどのくらいいますか?」
会場に対して投げかけられたこの問に対して手を挙げたのは3割程度。UI Crunchに参加するような感度の高いデザイナー、エンジニアの中でも「プロトタイピング」が市民権を得ているとは言いがたい状況を表していた。しかし、「プロトタイピング」の重要性や有用性を強く感じている参加者は多く、会場の雰囲気からも今後「プロトタイピングは常識になる」という未来が近い将来到来すると確信することができたイベントだった。
毎回十数分で参加申し込みが定員に達するほど濃密なコミュニティに成長しているUI Crunch。今回もイベントの模様はschooでアーカイブ公開されているので、気になった方はぜひご覧頂きたい。本レポートでは言及できなかった、国産プロトタイピングツールとして注目を集めるProttを開発したGoodpatch CEO土屋氏による開発裏話やトークセッションは必見です。
https://schoo.jp/class/1951
[取材・文] 松尾彰大
編集 = 松尾彰大
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