2015.06.23
エンジニアの才能を活かしたいなら、会社として環境を用意すればいい|DMM.comラボ CTO城倉和孝

エンジニアの才能を活かしたいなら、会社として環境を用意すればいい|DMM.comラボ CTO城倉和孝

オンデマンド配信はもちろん、オンラインゲーム、EC、英会話、FX、3Dプリンター、ロボットなど事業を拡張するDMM.com。そんな技術の中枢を担うのがDMM.comラボだ。CTOを務める城倉和孝さんは多くのエンジニアのマネジメントを担当。城倉さんが考える優秀なエンジニアとは?育成・評価の方針とは?

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[プロフィール]DMM.com ラボ CTO城倉和孝
SIerにてプロダクト開発や事業開発など多岐にわたり従事。その後、自身が立ち上げた事業での分社化を実現した。ソフトウェア、エンジニアリングのバックボーンとマネジメント・経営における実績が買われてDMM.comラボにジョイン。現在、CTOを担っている。

そのコードは誰のために書いているのか?

― 技術にせよトレンドにせよ変化が激しい時代、何が理想的なキャリアなのか、どのようなエンジニアが生き残っていくのか。こういったテーマで様々な方にお話を伺っていまして…早速ですが、城倉さんが考える「優秀なエンジニア」の定義はあるのでしょうか。

私達は事業会社なので、一言で言うと「事業にコミットができる」というところですね。どんなものをつくるにせよ、そこには必ず制約があります。特に「その制約下で要望を超えるものがカタチにできる」という部分が重要だと考えています。

得てしてエンジニアはこだわりの塊ですから、自身がやりたいこともたくさんあると思うんですね。ただ、プロジェクトによってはコストであったり、納期であったり、優先されるべきものがある。その理解が重要な要素だと捉えています。


― そういった優先順位が理解できる人、できない人の違いは、どこにあるのでしょう?


事業の目的を把握しているかですね。何を目的とし、何を納めなきゃいけないのか。ただやりたいだけなのか、目的に向かってやるべきと判断して言っているのか。ちょっとした会話でもわかるものです。たとえば、納期優先のプロジェクト、柔軟な対応が求められる場面で、「テストコードはコード網羅率を100%にすべき」と杓子定規な考えだけで進めてしまうとプロジェクトの障壁になりかねません。結局、そのコードは誰のために書いているのか?ここが大事になりますよね。


― …とは言え、技術者にとって「こだわり」も重要ではありますよね。


そうですね。バランスはむずかしいところだと思います。ある意味、器用にベクトルを合わせられることが大事で。言い換えると「何をやっても楽しめるエンジニア」と言えるかもしれません。

トラブルは辛いですが、障壁を取り除いて解決に持っていく達成感を楽しむことができたり。あるいは保守でも自分がひたすらコードを書くのではなく、自動化したり。楽しめるポイントっていくらでもあると思うんですよね。エンジニアに備わってる好奇心と、事業の目的、この両方のベクトルを自然に合わせられるエンジニアは成長も早いですし、実際活躍しています。


― それは資質や性格の問題もあるのでしょうか?


素直さと言ってもいいかもしれません。当社だとチームで仕事をすることがほとんどですから、メンバー同士でも意見を素直に聞けたほうがいいですし、特にリーダーになると、エンジニア以外の職種ともかなりの頻度でコミュニケーションを取ります。さまざまなステークホルダーの立場、想いをちゃんと理解して、吸収できる素直さは必要な資質だと考えています。

突き抜けた才能を活かすために、会社側が環境を用意

DMM.com ラボ_CTO_城倉和孝さん

― 事業の目的にそって判断できることと、自身のこだわり、両方のバランスが大事だと。たとえば、自分のこだわりが突き抜けていて、高い能力を持った方だった場合はどうでしょうか?


ケースバイケースという気がしますね。もう、こだわりが突き抜けすぎて人の話をなかなか受け入れないタイプは、やはり事業にとってプラスにならない場合も。同時に才能が凄すぎて、会社のほうがその人を輝かせることができないこともあるでしょう。そういった場合は、そのエンジニアのために活躍できるポジションと仕事を会社として用意することが必要でしょうし。


― 優秀なエンジニアなら「取り敢えずは入ってもらって…何かやってくれれば」そういった期待だけでは採用しないということでしょうか?


私達はそういうやり方は取らないですね。明らかに活躍できる能力を持っているのであれば、活躍できる場を会社として作ればいいだけですし。企業それぞれの考えだと思うんですけど、面接ですごいスペックだと判断しても、入社後に活躍できるポジションがなければお互い不幸ですよね。

エンジニアを育てるために大切なのは「経験させること」

― ここまで採用によった話を伺ってきました。次はどう優秀なエンジニアに育てていくか、教育の観点なのですが、何か方針などあるのでしょうか?


エンジニアを育てるために大切なことは「経験させること」だと思っています。とにかく経験させないことには教育も何もない。たとえば、エンジニアがやってみたいことが明確にあれば、会社としてそれを用意すればいいだけですよね。勉強会でもセミナーでもいい。ただ、「やりたいことが漠然としている」、「やってみたいんだけど口に出せない」というケースも多いです。そういう時には、トップダウン的なやり方で「勉強のためにもコレをやってみよう」と落とすこともあります。

たとえば、現在プラットフォームのリプレイスプロジェクトを進めていますが、ベタにやると既存のシステムを新しい技術で置き換えるだけになりがちですよね。ただ、プラットフォームは恒久的に使うものなので、エンジニアのこだわりとしてキレイにつくりたい。そこでコンサルティング会社さんを手配し、DDD(ドメイン駆動設計)を体験させました。そうしたら最初は半信半疑だったエンジニアもハマってしまい、業務にとどまらずプライベートな飲み会の席でも、自動販売機をモデリングして盛り上がっていたりしてました(笑)


― 結果的には主体性を引き出すことができた、と。


そうですね。他にも主体性を刺激するような環境づくりは意識しています。

昨年は新人エンジニアの研修の一環で金沢の観光アプリを作りました。先輩1名と新人2人に1年間専任でやってもらいました。この取組は新人からの提案が発端でした。金沢のアプリコンテストに出場してグランプリを取ることがゴール。じつはエンジニアリングだけではなく、企画からディレクション、マーケティング、デザインまで全部やってもらったんですよ。


― デザインもですか?


はい。デザインに関しては、さすがに最終的にデザイン部にヘルプを出したのですが、他は3人で全部やってもらいました。プロモーションも地元のゆるキャラを訪ねて、ブログで宣伝してくださいとお願いしたり、ラジオ放送に出演したり。SNSでの拡散、ビラ配り…。ホントに全部ですね(笑)

結果としてグランプリの次点、金沢市長奨励賞をいただくことができました。ただ、彼らは2位をすごく悔しがっていました。今はそれぞれの事業部に配属となり、事業のことを考慮出来て、主体的に動けるエンジニアとして、プロジェクトの中心メンバーとして活躍しています。


― 全ての職種を自分たちが体験することで、事業にはどんな人が携わるのか?こんな視点も育まれる気がしますね。事業サイドの視点といいますか。


そうですね。やはりサービスは自分たちが愛情、思い入れを持って作ったほうがお客様にとっても価値のあるものになります。言われたものをただ作るのではなくて。自分たちが主体者となって面白がってつくる。これは社風だと思います。私自身も亀山(DMM.com会長)に裁量をもらって色々経験させてもらっているので、社員にも同じように経験をさせてあげたい。そういう意味だと会社の全体の方針、考え方があるからこそかもしれません。

エンジニアは得意分野で評価をされるべき

DMM.com ラボ_CTO_城倉和孝さん

― 続いてエンジニアの評価について伺いたいのですが、DMM.com ラボではどのような指針があるのでしょうか?


まずはエンジニアとしての基礎を身につけ、そこからマネジメントが得意な人はマネジメント、コードで勝負する、技術で勝負する人はスペシャリストとコースを分けています。で、それぞれの軸でちゃんと評価されることを実現したい。なんとなく課長や部長など役職がつかないと偉くなれない、給料があがらない、そう印象を持つ人も多いと思うんですよ。でも、エンジニアの集団なんだから、コードを書く人がきちんと評価されるべきですよね。


― マネジメントラインに乗らないとなかなか給与が上がらない、これは多くの会社における現状だと思うんですけども、そもそも、そうなる背景に何があるのでしょうか。


社会的に見て「指示する側が上位」という固定観念が影響しているのかもしれません。でも、それはレポートラインの話であって、絶対的な価値とは別だと思っています。

私がエンジニアにプライドを持ってほしいのは、「創れる職種」であるということ。エンジニアがいなければどんなに素晴らしいアイデアも実現できません。プロダクトの完成度やクオリティは、そのエンジニアがどれだけこだわるかにかかっているわけです。

そして、エンジニアの価値とは事業に対してどのような貢献ができているかだと思っています。

よくある話ですが、「お金をください」って言えないエンジニアが意外と多いんですよね。自分が持つ技術や興味は雄弁に語れるんですけど、いざお金の話になると「お任せします」と。ある種の美徳とも言えますが、これは自分の価値、すなわち事業への貢献度を意識できていないからかもしれません。 会社としては、事業に対する価値が高いエンジニアは評価すべきだし、同時にエンジニアも事業に対する自分の価値を客観的に意識する必要があります。


― 報酬についてもちゃんと話し合い、不要に自身の価値をさげるようなことは避けたほうがいいですよね。なかなか自身のパフォーマンスや能力、価値を客観的に判断するのは難しいところですが、キャリアを考えるためにも重要な視点を伺えたと思います。本日はありがとうございました!


文 = 白石勝也


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