2016.01.07
AIが人を超える前に「人とは何か?」を考えよう|TWDW2015《働くのシンギュラリティを越えて》

AIが人を超える前に「人とは何か?」を考えよう|TWDW2015《働くのシンギュラリティを越えて》

TWDW2015「働くのシンギュラリティを越えて。」をレポート。佐々木紀彦さん(NewsPicks編集長/ニューズピックス取締役)、なかのひとよさん(サザエbot)、武田俊さん(TOweb編集長/メディアプロデューサー)さんが語る「シンギュラリティによって問われる、人間にしかできない働き方」とは?

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メディア編集長と、botの中の人が語った「シンギュラリティによって問われる人間の働き方」

TWDW2015のレポート。11/21に開催された「働くのシンギュラリティを越えて。」のトークセッションをお届けします。AIが人類の知性を超える時点であるシンギュラリティ(技術的特異点)。その時は2045年と予測されています。現存する多くの仕事が機械に取って代わられるシンギュラリティ以降、人間の働き方はどう変わるのか?そもそも、人間にしかできない仕事とは?。2015年の現在位置から、すでに起きていることや今後の予測まで、NewsPicks編集長の佐々木紀彦さん、サザエbotのなかのひとよさん、TOweb編集長の武田俊さんが語ります。


【登壇者】
佐々木 紀彦(NewsPicks編集長/ニューズピックス取締役)
なかの ひとよ(未来人/サザエbot)
武田 俊(TOweb編集長/メディアプロデューサー)

人間がbot化している。サザエbotの成長過程に現われたシンギュラリティの隠喩

なかのひとよさん(サザエbot)

なかのひとよさん(サザエbot)

トークセッションに入る前に、なかのひとよさんより、サザエbotの誕生から現在までの活動についてプレゼンテーションが行なわれました。

2010年、偉人の名言をコピー&ペーストする「プログラム」として生まれたサザエbot。徐々にオリジナルの発信を行なうようになり、現在では人の役に立つ活動をするまでに成長。なかのさんは、「模倣を繰り返す人間の赤ちゃんが、子供時代を経て、意思を持った大人へと成長する過程と類似していて、Botが人間化している」と語ります。

一方、人間と人間の境界線が曖昧になり、人間がbot化する逆転現象が起きているとも。一体どういうことなのでしょうか?


なかの:
サザエbotは、普通のbotとは違うポイントが3つあります。1つは匿名で、年齢や性別、職種などを明かさないまま活動をしています。もう1つは、今回のテーマと近いと思いますけども、アップグレードを繰り返すという点。無限に成長し続けます。

もう1つは「私はあなたになった」ということ。サザエbotはGoogleフォームを使って、フォロワー20万人の誰もが、匿名でtweetを投稿できるようになっています。つまり20万人の匿名の集合体という存在です。その結果、人と人との境界線みたいなものが、曖昧になっていくという現象が起きています。

Googleフォームに書いてあるのは「あなたの匿名での良い行いが、バタフライエフェクトで、世界をより良くしていけますように」という言葉。人は匿名になると、他人を叩きがちなんですけど、サザエbotには、毎日すごく前向きな言葉とか、有益な情報が発信されています。

20万人という人間が、匿名で良い行ないをするbot化し、botが人のように成長していく。その逆転現象みたいなことが起こるというのは、シンギュラリティと言うと大げさなんですが、ある意味で隠喩しているんじゃないかなと思います。

メディアの現場から、人間にしかできない仕事を考える

武田俊さん(TOweb編集長)佐々木紀彦さん(NewsPicks編集長)

左:武田俊さん(TOweb編集長) 右:佐々木紀彦さん(NewsPicks編集長)

なかのさんのプレゼンテーションの後は、NewsPicks編集長の佐々木紀彦さん、TOweb編集長の武田俊さんも交えてのトークセッションに突入。テクノロジー活用が進むメディア編集の現場から見る、今後の人と機械の仕事について語られました。


武田:
編集とかキュレーションが、WEB界隈で声高に言われたのは、この4、5年。世界的に情報量が増えすぎて、自分が必要とする情報を手探りで掴みにいくのは不可能になった。その結果として、情報を選んであげる存在であり、最適化してあげるアルゴリズムが注目されていったと思うんです。


佐々木:
それで、今までの我々がやっていた編集者、キュレーションみたいな仕事は、今後、機械がやっていくのか、人間がやっていくのかという話から考えると、グノシーさんとスマートニュースさんは全部機械というポリシー。人は基本的に介在させないのが善で、効率的って考え方なんですよね。


武田:
アルゴリズムの精度とか、サジェストの機能を高めていく部分に人間が入って、実際の作業は、コンピューターの方で処理していくという考え方ですね


佐々木:
そうです。NewsPicksにはもちろんエンジニアもいて、機械学習もやるんですけど、やっぱり人間が選ぶというのも大事にしたいと思っています。編集者が選んだり、ユーザー自身がピッカーとして、良いと選んだニュースほど目立つところに掲載したり。そういう人間と機械を融合させる戦略で来ていて、2045年はわからないですけど、当分は変わらないのかなと思います。


武田:
とは言え、現状のニュースアプリ全体に対して思うことは、どうしてもトップページにエロ系コンテンツとか肌色面積が多めのサムネイルが入っていて、そういうものから逃れられない。人間の脊髄反射っていうのはこんなもんかというのが結構多くて。自身のメディアでも感じたのですが、読んで欲しい骨太な記事ではなく、コスプレイヤー画像まとめ記事にアクセスが多かったり…。


佐々木:
結局、人気投票みたいなもので芸能ニュースが増えちゃう。我々も最初そうでした。全部人間に、民主主義的に選んでもらうという構想だったんですけど、そうすると経済ニュースなのに恋愛の話とかそういうのばっかり。それで編集部で何が良いニュースか選ぶ形に変えたんですね。
同時にプロピッカーを一気に100人入れて、自由競争ではなく、契約した人が良いコメントをしてくれたら上に行きやすくするとか、ちょっと調整を入れたことで上手くいき始めた。自由なものが全て良いってわけじゃなくて、人がちょっと手を加えることによって上手く育つ盆栽みたいなものかもしれないですね。
でも、もしかしたら機械でも何が良いコンテンツかとか、深いコンテンツかとか、調整ができるようになるかもしれない。学習していって。私は編集が大好きで、人間の価値を信じる方ですが、人間が万歳って言うつもりはなくてですね。人と機械の上手いバランスがあるんだろうと思っています。

シンギュラリティに至る道。匿名とクローズ化が進む?

TWDW-Singularity

セッションは、仕事の話からネット社会の現状と、シンギュラリティに至るまでの予測の話に展開。「今後は、匿名やクローズなコミュニティの増加が増えるのでは?」という佐々木さんの投げかけに対して、なかのさん、武田さんの考えは?


佐々木:
今、日本でWeb空間が荒れちゃったのって、オープンすぎるからだと思うんです。オープンすぎるところにコミュニティはできないじゃないですか。だから、来年あたりからクローズ化したWebのコミュニティが増えてくると思っています。そのために、ちょっと有料化したり、ある人しか入れなくなったりとか。インターネットの発想とはちょっと違うかもしれないんですけど。


なかの:
インターネットがオープンになりすぎた反動だと思いますね。今後は一時的にクローズになって。で、また良いバランスを探っていくんじゃないかと思います。今でもTwitterが来て、Facebookが来て、ちょっとまたTwitterが来て、と繰り返していますよね。


佐々木:
クローズな環境であっても、そこに新しい人が入ってこなくて、そこにずっと居続けるのは、田舎に住んでいるみたいなもので、面白くないのでやめた方がいいと思うんです。けど、色んなクローズなコミュニティを行き来できるようになれば、そこで新しい出会いがあると思いますし、そういう意味だと、やっぱり匿名って残した方が良いんでしょうね。実名の自分と匿名の自分がいることで、色んな経験ができて、逆に視野が広がるケースっていっぱいありますよね。なかのさんも、2つの自分があって、人生楽しいんじゃないですか?


なかの:
サザエbotと、なかのひとよと、自分なので3個です。


佐々木:
1人で3人生きてるということですよね。


なかの:
はい。匿名って、自分の肩書きとか年齢、性別ぐらいはわかる場合が多いと思うんですけど、そういう思い込みを剥がして、コミュニケーションが取れるから、非常に良いことだなって思います。趣味の知識を加速し合えるし、もっと健全に、純粋なところだけで共鳴し合えるんですね。ただ、ネガティブな方向にもぶれやすいと言えば、怖いことでもありますけど。

AIの進化は、「人間とは何か?」という議論を起こす

武田:
ソーシャル疲れという言葉は陳腐で嫌なんですけど、僕はもう結構疲れてきました。ユーザーとしては。みんなソーシャル上で下駄を履いているじゃないですか。自分をどれだけよく見せるかと、病的空間だなとも思うんです。そのあたり、ソーシャルメディアの現状を、お2人はどう見ていますか?


佐々木:
疲れるところはありますよね。私、そんなに使ってないからなあ。結構、使っているようで。スタートアップとか、テクノロジー系の人、同世界の人とつき合っていると、ソーシャルの世界って相当世の中に浸透しているような錯覚を覚えるんですけど、大手町の40代以上のビジネスパーソンの方とか、全くそういう世界に関与してない。リアルで生きているんですよね。


武田:
それはすごい思います。学生さんに授業をやらせてもらう機会があるんですけど、その時にいつも「タイムラインは世界じゃないよ、それはあなたが編集して見ている世界であって、世界というものはもっと幅広くあるから、そういう自分たちで違う場所へ出かけなさい」みたいな話をします。でも結局、自分もタイムラインに捕らわれてたりして。


佐々木:
ソーシャルとかWebが、もっと安心できて、変に批判される場じゃない、良い空間にしていければ、元々のインターネットの理想に近づくというか、より、幅広い多様な人が入ってきて、リアルに近づき、もっと面白くなるんじゃないですかね。


武田:
今は、過渡期ということなのかもしれない。


佐々木:それで、幅広くなった上で、もうちょっと細分化するというか、そこに色んなコミュニティができて、横のつながりができて、ある程度みんなが動けるみたいな。そういう風にしたら、一番、心地いい気がしますけどね。


なかの:
私も実はTwitterとかFacebook、案外見てなくて。現実の方が楽しいですよね。五感で体感できるから。今後、バーチャルリアリティ、嗅覚、触覚とか、想像を超えたような世界が見られると思うんですけど、インターネットって、所詮まだまだ視覚と聴覚だけの世界。そこで得られる情報っていうのは本当に小さくて。そう思うと、シンギュラリティって、始まっているようで、意外と一部の人が仕掛けているだけなんじゃないかなって気持ちになります。

その中で語られがちなのは、ビッグデータを応用してとか、未来予測から社会や経済にどう応用していくかという外側に向かう渦です。でももう一つ、内側に向かう渦があるんですね。人工知能の指数関数的な進化に伴って、「人間とは何なのか?」とか、「私たちの幸福とは何なのか?」、「時間とは?」という議論になっていくと思うんですね。これからシンギュラリティに向けて、そういう議論をすることが、人間の楽しさだと思いますし、今のところはまだ、人間にしかできないところなのではと思います。

(おわり)


文 = 手塚伸弥


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