恋愛メディア「AM」の編集長だった鍬のどかさん。彼女は編集という枠を超え、プロデューサーとして恋愛応援アプリ「Poiboy(ポイボーイ)」をリリースした。編集時代に培ったスキル・知見はどうアプリに活きたのか?キャリアの可能性を広げるためのヒントとは?
女性が好みの男性を、左右にフリック。「ポイ」することでをお気に入り登録&会話がスタートできるのが、恋愛応援アプリ「Poiboy」だ。
女性同士で気になる男性をオススメしあったり、気になる人にアプローチしてみたり。新しい時代の恋愛コミュニケーションといえるこのアプリ。プロデュースしたのは恋愛メディア「AM」(Diverse運営)で編集長を務めていた「鍬のどか」さん。鍬さんはPoiboy開発のきっかけをこう語ってくれた。
「肉食系女子など恋愛に積極的な女性像にスポットがあたっているが、まだまだ自分のこととなると恋愛に受け身になってしまう人のほうが多い。出会いのもっと手前にある“気になる人が見つかるきっかけ”を提供したい」
このような女性心理の考察は彼女が編集時代に培ったもの? 彼女はなぜ編集職からプロデューサーに? キャリアの可能性を広げるヒントに迫る!
― まずAMの編集長になった経緯から聞きたいのですが…もともとはアルバイトでAMに加わったと伺いました。
はい、新卒で入社した小さい出版社を辞めて、そのあとフリーターになるのもいいかなと思っていた頃にAMのアルバイト募集を見つけて。軽いノリで応募したら1ヶ月後に契約社員、気づいたら3ヶ月後に編集長に…という感じでした。
― もともとアルバイトで入って3ヶ月で編集長ってすごいですよね。軽いノリだったはずが…。
のんびりしたいと思ってフリーターになったのに、入ってみたら立ち上げだったのでスゴく忙しかったんですよ(笑)ただ、企画会議がとにかくおもしろかったんですよね。
たとえば、自分が出した企画に「もっとおもしろくするには」とカブせてきてくれる人たちにはじめて出会えて、それが衝撃で。切り口も刺激的でおもしろい。出版社で働いていた時はスナップ雑誌の編集だったんですけど、編集長に企画を出しても「おもしろいからやる」「つまらないから却下」このどちらかだったんです。
何か与えられたテーマにそって作るのが得意…というか、好きなんだなということも改めて感じました。美大出身ではあるのですが、私自身アーティストの素質がなかったのか、「自分を表現することってちょっと恥ずかしいな」みたいな気持ちもあって。それより「人にちゃんと刺さるかどうか」がすごく気になるんですよね。特に自分が「この人はおもしろい」と思える人たちに刺さるような企画をガンガン出したいと思うようになっていきました。
― 鍬さんが「この人はおもしろい」と感じる人ってどういう人ですか?
予想もしなかった角度から新しいネタや企画を放り込んでくる人だと思います。Webの世界って真似しようと思えばいくらでもできるけど、あえてそこをやらないというか。もっと言うと「わけのわからないもの」「誰も評価しようがないもの」に一生懸命になれる人。
学生時代を振り返っても、“教授が絶句する作品”を出す学生がたまにいるんですよね。「いいか悪いか今の私じゃ判断できない」と教授に言わせる絶妙なラインがある。
誰もジャッジできないもの、説明がつかないものに真剣に取り組むって情熱がないと無理で。つくった本人は「これいけるでしょ」と信じ込んでいて、かっこいい。私たちに見えない「何か」が見えていて…その「何か」を見てみたくなるんですよね。
― そこから、どのような経緯で「Poiboy」のプロデューサーになったのでしょう?
当初は、キラキラ系のWeb企業で働いているような女性をプロデューサーとして採用しようという話もあったそうです。ただ、恋愛の根深い問題、女性の心理について考えるのが好きで、会社として真面目に恋愛・結婚に取り組んできた背景やビジョンがわかって。そういう人を外から探すのってすごく大変だったみたいで。
「AMをずっとやってきたし、まあ鍬でいいんじゃない?開発のスキルはなくてもいいから、企画してみて」とアサインされました。だから、大抜擢というより「まあいいじゃん」っていう感じですね(笑)
― ある意味、大きなキャリアチェンジですよね。話をもらった時はどう思いました?
ちょうど新しいことをやりたいと思っていたのでワクワクしました。イチから自分が思うとおりに作っていいという話だったので。…ただ、失敗した時のリスクについてはすごく聞きました。失敗したときに、左遷されたりとか、辞めさせられたり…大丈夫ですか!?って(笑)
― ポシャった時に自分はどうなっちゃうのか?…まぁ普通気になりますよね。
そうなんですよ。だから「どうなるんですか?」と聞いたら、「静かにAMに戻るだけ」って言われて「じゃあやります」と(笑)まぁ半分冗談交じりでそういう話もしたのですが、アプリ開発のことなんて全くわからない私がチャレンジできるよう、いろいろと環境をつくってもらえて、フォローもあってすごくありがたかったです。
― 実際のところ、AMでの経験は「Poiboy」の企画に活きましたか?
女性の恋愛観、心理というところですごく役に立ったと思います。どんなにかわいい人でも、きれいな人でも、劣等感を抱えていたり、好きな人を前にすると冷静さを欠けたり。「Poiboy」を考える時も、なぜ女性から男性に積極的にアピールできないのか? ずっと考えていたんですけど、“ブスのくせに調子に乗っていると思われたくない”という意識がどこかに刻み込まれているのかもって思ったんです。
多くの女性が自分のことを「かわいくない」と思いこんでいて、ぜんぜん積極的になれていない。そんな人たちの背中を押してあげたいというAM時代からの思いが「Poiboy」の原点になっています。
― メディアだけでは手の届かなかったところに、アプリで挑戦されるイメージですね。…ちなみに鍬さんはご自身のことを「何屋さん」だと思いますか?
うーん…むずかしいですね。編集者じゃないかもしれないです。プランナーが近いのかも。理想でいえば、ひとつのサービスをずっと運用するのではなく、複数のサービスの企画をどんどんやりたいって思うんです。普通にテレビを観ながら「あのタレントがこのドラマに出たらすごくヘンな感じになっておもしろそう」とか、「こんな脚本にしたらどうだろう」とか、そういう妄想の延長というか。もちろんサービスやメディアは数字を追うプレッシャーがあるんですけど、企画をカタチにして、人の反応を見るのが好き。だから雑誌でも、Webメディアでも、アプリでも、何でもいいんですよね、本当に。
― 最後に、キャリアの可能性を広げるために大切だと思うことを教えてください。
ぜんぜん人に語れる立場じゃないんですけど…好きならこだわれるし、頑張れますよね。だから「好きなことの側にいること」が仕事の幅を広げるきっかけになると思います。「スキルやキャリアのためにやる」だと、その先に望んでいたことが本当に待っているか分からないのて。
就活中や新卒の頃は「何者かにならなきゃ」みたいな気持ちが強くあったし、歳をとることがすごく恐かったんですよね。最初にちゃんとしたところに就職しないと負の連鎖が生まれて、ワーキングプアになるとか言われていましたし。でも、意外と何者にもならなくても大丈夫なんだなって。苦手なことはずっと苦手なままですし(笑)好きなことの近くにいれたらいい、そのくらいの温度でちょうどいいのかもしれませんね。
― 肩書きや職種よりも「何が好きか」と向き合う、すごく大切な視点をいただけた気がします。それが鍬さんにとっては“企画”だったと。これからもステキな企画、楽しみにしています。本日はありがとうございました!
文 = 白石勝也
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