2016.09.07
植原正太郎って何者? 遊びと仕事、コミュニティ活動…すべてを諦めない「これからの働き方」のヒント

植原正太郎って何者? 遊びと仕事、コミュニティ活動…すべてを諦めない「これからの働き方」のヒント

植原正太郎さん(28歳)の働き方がおもしろい。greenz.jpのメンバーとして働きつつ、さまざまなコミュニティを立ち上げて活動。なぜ、遊びと仕事、そして「身近なところから社会を良くするプロジェクト」をごちゃ混ぜに働くのか。そこから見えてきたのはライフワークと仕事を近づけていくヒントだった。

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本業とコミュニティ活動、遊びに境界線を設けない?

読者からの寄付でウェブメディア「greenz.jp」を運営。驚きと学びのある企画を仕掛けることで、ソーシャルデザイン(※)を日本に根づかせていく。

こういったチャレンジをNPO法人グリーンズで行なっているのが、植原正太郎さん(28歳)です。

これまでのウェブメディアではあまり見たことのない寄付読者(greenz people)による非営利運営。月1000円で会員になれて、特典がもらえる仕組み。greenz.jpは2006年に立ち上がったメディアですが、この仕組みがはじまったのは2013年。現在、寄付読者数は650名を突破。支援者と共にメディア運営をしていくカタチとして注目されています。

そんな「greenz people」を担当する正太郎さんですが、じつは働き方がとてもユニーク。本業であるグリーンズ以外にも「身近なところから社会をよくするための活動・コミュニティ運営」を行ないます。

本業とコミュニティ活動、遊びに境界線を設けないとはどういうことなのか。いったいどんな活動をしており、正太郎さんを突き動かすものとは?

インタビューを通じて見えてきたのは、身近なコミュニティから社会を良くしていくというスタンス。そして人生において取り組みたいテーマと、仕事を近づけていく「これからの働き方」のヒントでした。


(※)ソーシャルデザイン…greenzでは「社会的な課題の解決と同時に、新たな価値を創出する画期的な仕組みをつくること」と定義している(出典:ソーシャルデザイン-社会をつくるグッドアイデア/グリーンズ編)

良い人間関係が「幸せ」かどうかの基準になる

― まずは正太郎さんが運営しているプロジェクトについて伺ってもよろしいでしょうか?


本業以外でいうと、武蔵小山ネットワーク、略して「MKN」というプロジェクトにチカラを入れています。武蔵小山に住む人たち同士が「お互いに困っているときには助けあえるメンバーになろう」というものです。


植原正太郎さん_MKN

MKNのメンバーたち。現在、武蔵小山在住の参加メンバーは20名をこえる。「ミッションは風邪で寝込んだときにおかゆを届けあう関係性づくり。同じ家に住むのはシェアハウスですが、MKNは同じ町に住むシェアタウンと言えるかも?」と植原正太郎さんは語る。

もともと、このコミュニティ運営がスタートしたきっかけは、ある時、友だちが風邪でぶっ倒れたこと。東京の一人暮らしって病気になっても助けを求める先がないんですよね。でも、武蔵小山だと自転車で行ける距離に仲間がいた。すぐに薬を持っていったり、看病できたんです。

同じ町に住んでいるのに、挨拶できる人がいなったり、病気になっても一人ぼっちだったり、東京だとそれが普通ですよね。だからこそ、すぐ誰かに頼ることができたり、助けを求めることができたりするのは「幸せ」なんじゃないか?ということが発端にありました。

それで人間の幸せに関して調べてみたら、すごい興味深い調査があって。じつは「お金をどれだけ持っているか」「どんな仕事をしているか」って「幸せ」にはほとんど関係がないらしいんです。

自分が楽しい仕事をしても、家庭がうまくいかず、友だちとも仲が悪ければ心が荒む。そして、どれだけ稼ごうが幸せになれない。もうみんな気づいていることかもしれないですよね。

立ち返ってみると「まわりの人間関係」が大切なんじゃないか。みんなそれを自然と求めていることというのがぼくの仮説で、いまの時代におけるコミュニティの価値なんじゃないかと思っています。


― 具体的には、どんな活動をしているんですか?


たとえば、品川区には区民農園があるので、みんなで借りて採れたての野菜を誰かの家で料理して食べたり。あとは引っ越しもメンバー同士でサポートしたり、週末に掘りすぎたサツマイモをお裾分けしたり。あ、机をDIYしたいときに工具を借りたりするということもありましたね。


植原正太郎さん_MKN


― いわゆる「地域のつながり」を、東京のど真ん中、若い人でもう一度つくるイメージでしょうか。


近いですね。最近だと地方移住が大きなキーワードになって、そういう取り組みも増えていますが、みんながみんな、地方移住できるわけではありません。

そこで、あらためて「東京」について考えたとき、日本を動かす原動力があって。ただ、暮らしでいえば、破綻している部分も少なくない。だからこそ東京の暮らしを手作りして、アップデートしたいんです。実験して広げていく。ぼくにいたっては、結婚しても武蔵小山に住み続け、武蔵小山で子どもを育てるというところまでいければと思っています。MKNのメンバーの誰かに子どもができれば、子育てを手伝ってあげたいし、僕の子どもも面倒みてほしいなと。まぁ、いま、彼女いないんですけど(笑)

そろそろ「コミュニティエディター」って名乗る?

― その他、チカラを入れている活動だと、どういったものがありますか?


「88」という、1988年生まれのメンバーが集まったコミュニティも5年前からやっています。出身も違えば、バックボーンも違う。ライター、デザイナー、官僚、農家、学校の先生…いろんな職種のいろんな仲間が集まっていて、おもしろいことになっています。普段は楽しく飲んだり、どこかに出かけたりということをやっていますが、20代の後半になって互いに仕事上でやりとりが生まれたり、コラボが生まれたりしています。フリーランスの人間も多いので、お互いに協力してひとつの仕事を受けたりしやすくするために「一般社団法人 八八」も立ち上げました。

植原正太郎さん_88

88の活動を通じて「だるまづくり」を体験。メンバーのひとりの実家がだるま屋さんで、そのプロデュースに取り組むことを検討中。
「88年生まれが仕事でつながるネットワーク/プラットフォーム」を構築。現在、社団法人化も進めるなど活動が本格化している。


― イベント運営でいえば「SOW!政治」だったり「PIZZAX」だったり…本当に数えきれないくらい活動をされていて。


やりたいことを夢中になっていたら…という感じ。じつは「こういった働き方をしたい」と思ってやってきたわけではないんですよね。


― 肩書きとしては、どういったものになるのでしょう?


正直、自分でもわかりません(笑)どう名乗ろうか、いつも困っています。

ただ、「人と人をつないで、関係を築き、何か生み出す」ということは言えると思います。ひとつ思いついたのが「コミュニティエディター」という肩書。なにかのモノやコトを選んだり、集めたり、媒体として形にするエディターという仕事。僕は人と人をコミュニティを通じて繋げて、新しい価値を生み出す役割。こういった部分はハマる気がして。コミュニティーエディターと名乗ろうかどうしようか…今まさにドギマギしているところです(笑)

もしかしたら「コミュニティづくり」は天職?

植原正太郎さん


― 「人と人をつなぐ」「場やコミュニティをつくる」というところで価値を発揮し、仕事にも結びついているのがすごいですよね。はじめから仕事としてやっていこうと思っていたのでしょうか?


いえ、仕事としてやっていたわけではなく、結果的にですね。グリーンズに参加させてもらって、人と出会ったり、やりたいことが増えてきて。

ただ、もともと「コミュニティをつくりたがる」という性格はあったかもしれません。じつは小学生の頃、4回も転校していて。そのたびに新しいコミュニティに放り込まれて、見知らぬみんなの前で自己紹介してきたんですよ。それがイヤでイヤで仕方がありませんでした。既にできあがったコミュニティが苦手だからこそ、自分で新しいコミュニティをつくりたい。そっちのほうが友だちを作りやすかったというのもあるかもしれませんね。

― どう友だちをつくるか、ある意味で、自分を守るための方法だったということかもしれませんね。


それはそうかもしれませんね。ただエゴからスタートしたコミュニティをづくりも、だんだんと「人のため」に変わっていって。MKNにしても、みんなが「ご近所さん」を求めていたからこそ続いているのだと思いますし、「88」にしても遊びでも仕事でも一緒に楽しめる気心の知れた仲間をみんなが欲していた。

グリーンズでやらせてもらっている「greenz people」も、グリーンズ的な価値観を共有できる「仲間」や「場」「縁」が求められていたと思っています。

…ただ、まぁやってみたらたまたま必要とされていたことがほとんど。いわゆる「マーケットイン」的な発想ではないですね。まずは自分がやりたいかどうか、ここが大切。縁を生み出している感覚がすごくうれしいんですよ。やたらと縁結びをしたがる親戚みたいな感じですね(笑)

興味と「発揮できる価値」のかけ算で仕事はおもしろくなる!

植原正太郎さん


― まずは「身近なところ」のプロジェクトに取り組まれている印象があり、とてもおもしろいです。それは意図的なのでしょうか?


自然とそうなった部分が大きいですね。マインドの変化もあって。まずはなによりも「自分が自分らしくあること」そのものが社会のためなるんじゃないかといった感覚が出てきたかもしれません。

もともと学生時代は「寝ている暇があったら社会課題を解決するために活動すべき」みたいなマインドがあって。めちゃくちゃ意識高い系の学生でした(笑)

もちろんそれはそれでとても重要なことですが、「課題を解決しなければいけない」「目標達成しなければいけない」「人に褒め称えられることしなければいけない」といったことは一度すべて忘れて、穏やかに心地よく生きることを考えてみる。自分の暮らし方、持続的な働き方に目を向けていく。
こういった人が増えていけば、必ず社会は良い方向にいくのではないかと思うようになってきました。


― どうすれば「自分らしく」あれるか、ここに悩む人も少なくないと思います。特に若いうちはやりたい仕事ができなかったり、そもそもやりたいことがなかったり。


ヘンに「やるべきことが見つからない」と苦しむなら、「ないものはない」と割り切って「心地良く過ごせたらいい」というくらいの心持ちでいいのかもしれません。

みなさんも経験あるかもしれませんが、学生の頃にはよく「夢を持て」とか「自分の軸を持て」とか言われたし、変なプレッシャーに苦しんでいた時期もあって。でも、社会人5年目になった今、ある程度は自分の力量・関心・テーマにしたいことの解像度が上がってきた。そして、できることも増えてきて。


― やりたいことがない時、まずは何でもやってみるべきだと思いますか? やりたくないことも、スキルを得るためと割り切ったり。


うーん…「やりたいこと」を我慢して割り切った仕事をしているうちに、やりたかったはずのことにモヤがかかってわからなくなったりってこともありますよね。逆にいきなり「やりたいこと」に飛び込んだら、自分自身の実力が足らず、現実とのギャップで挫折してしまったり…正直、そこはいろいろですよね。


― であれば…どうすれば「やりたいこと」と「仕事」をリンクさせていけると思いますか?


自分のことを考えると、今はめちゃくちゃ仕事が楽しいんですよね。それは「興味があるテーマ」と「発揮できる価値」のかけ算があるからだと思うんです。

グリーンズのようなソーシャルグッドをテーマにした仕事に就きつつ、「人をつなげる。コミュニティをつくる」という自分がドライブする、つまり価値を発揮できることが掛け合わさっている。自分の性格やクセ、原体験など心の声にちゃんと耳を傾けることで、今、少しずつ自分に発揮できる価値が見えてきたともいえます。

もちろん、いろいろな仕事があるなか、人生を通じてやり遂げたい仕事に、ただ待っているだけで出会えることはないと思います。だからこそ、自分にウソのないこと、納得できることをやってみる。動けば動くほど状況は変わりますし、そこからやりたいことが出てくるのかもしれない。当然、ぼく自身もライフワークと呼べるような仕事や働き方を探しているし、つくっている途中ですし、まだまだここからですね。


― どのように人生において取り組むテーマを見つけるか。それを仕事にするか。たくさんのヒントがいただけました。それぞれの活動の広がり、そしてグリーンズの展開、ともに楽しみにしています。本日はありがとうございました!


文 = 白石勝也
編集 = 新國翔大


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