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なぜメルカリは、プロダクトチームのリソースを90%以上もUS版に割くのか?

2017-01-05

なぜメルカリは、プロダクトチームのリソースを90%以上もUS版に割くのか?

国内外で驚異的な成長を続けるメルカリ。今回ご紹介するのは、US版メルカリのプロダクトマネジメントを手がける伊豫健夫さんによる講演のレポート。なぜメルカリはプロダクトチームにおけるリソースの9割以上をUSに割くのか?そして、重点を置く目標+指標「OKR」をどう設定しているのか?


[プロフィール]伊豫健夫(Takeo Iyo)
大学卒業後、松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)、株式会社野村総合研究所を経て、2006年に株式会社リクルート入社。中長期戦略策定および次世代メディア開発等、大小問わず多数のプロジェクトを牽引し、2015年3月株式会社メルカリに参画。国内プロダクトの領域強化等を担当したのち、以降は一貫してUS版メルカリのプロダクトマネジメントを担当。US発新機能の多数投入、マーケティング部門を統合した施策展開など、USにおけるプロダクトプレゼンスの成長を支える。2016年8月執行役員就任。

USにリソースを割くことで、余計な議論は起こりにくくなる。

※2016年10月に開催された「Japan Product Manager Conference 2016」よりレポート記事をお届けします。

現在、メルカリの日米合計ダウンロード数は6,000万(日本4,000万、米国2,000万※2016年12月2日ニュースリリース)。ダウンロード数でいえば日本のほうが倍だが、プロダクトチームの人員配分は日本向け1割、米国向け9割とかなり特徴的だ。極端にも思える体制の背景を伊豫さんはこう語る。


「まず、サービス開発は基本的にUS先行で、高速な改善を実行しているのが私たちのやり方です。USを先行する理由は、異国の地でサービスを成長させるためには、施策の大小を問わずに、どれだけ速く・継続的に改善サイクルを回せるかが極めて重要だと思っているからです」

「では、なぜ人員の9割をUSに割くか。ひとつは物理的にさまざまな施策に挑戦できるということ。そして二つ目に、組織として考える優先度が個々人に浸透し、行動レベルまで迷いがなくなること。もちろん日本版も大切だけれど、今やるべきなのはUSだよね、という共通の価値観が生まれる。このことで余計な議論がなくなるのが非常に大きなメリットです」


つまり全てにおいてUSファーストであるということ。USに振り切ることで、サービス・機能開発にしても日本版との余計な比較や優先順位付けを無くし、やるべきことを明確にする。US版にて成果が出た施策を日本版で採用するなど、その方針は徹底される。アメリカの市場で勝てるサービスを。こういった空気が社内で統一されているというわけだ。


メルカリ_伊豫健夫さん


大きな目標、シンプルな指標 - OKRを見るべき理由

続いて伊豫さんが言及したのは目標+指標についてだ。メルカリでは、目標設定の際にOKR(Objective Key Result)を採用する。

1つのO(目標)に対して3つから4つのKR(指標)を設定する手法で、日本でも取り入れているチームが増えてきた。特にメルカリが重要視するのは、KRを極めてシンプルにわかりやすく設定する、ということ。

たとえば、”US事業をもっと成長させる”という粒度の大きなOに対して、“月間GMV(流通総額)をXにする。その内訳として継続率をAに、出品数をBに、という具合にKRを設定するというのだ。

メルカリ_伊豫健夫さん


「KRをシンプルにすることもメリットは2つあります。まず、プロダクトチーム全員が同じ目線で仕事できること。具体的には、同じ言葉をみんなが発している状態です。PMとして物事を進めていくときに、チームの目線がバラバラだとその調整だけでかなり時間がかかり、なかなか前進しません。ですが、いま僕らは何を目指しているのか、共有ができていれば、非常に話が早いです」

「もうひとつのメリットは施策が細かくならないこと。PMをやっていると、いろんな手を打っているのにいまいち大きく響かないということがあると思います。ですが、目標は大きく、KRがわかりやすく設定されていれば、インパクトの強い打ち手に集中することができると思います」


メルカリ_伊豫健夫さん


このOKRの設定方法によって、PMはより自分の担当領域に没頭しやすくなっているという。


「基本的にメルカリでは、1プロジェクトに1人のPMがつきます。そしてPMは各KRの達成に対して全責任を負う。メルカリってひとつのアプリなのにどうしてそんなにたくさんPMがいるのかという質問をいただくこともありますが、持ち場を明確化し、それぞれが没頭することで、全体として高いパフォーマンスをあげられると考えているためです」


そもそもPMとは何者であるべきか。

PMの役割、担当領域は企業によってさまざまだ。ともすると「何でも屋」のようにもなりかねない。

そういったなか、メルカリでの役割は明確だ。

・案件の仕様策定はすべて担当
・自分でSQLを叩いて分析
→報告を不要にするダッシュボード文化

ここからはより細かく見ていきたい。

伊豫さんはまずPMの役割を下図のように示した。

メルカリ_伊豫健夫さん


「実線で囲っている4つの役割に関しては、各実務を遂行することに加え、マネジメントを行うという要素が加わります。点線で囲っている2つの役割については、PMが直接手を動かすのではなく、チームメンバーに任せる範囲。これでわかるように、PMの仕事には自分が手を動かすものとリーダー的に指揮をとるものの二面性がある。ここにPMが極めて忙しい理由があります」


上記の図からわかるように、メルカリにおけるPMの守備範囲はかなり広い。企画とディレクションに関しても「何をやりたいだけではなく、それをどのように実現するか」まで細かく示すそうだ。

たとえば、ある機能を実現するためのDBやテーブル構成について「新規でつくるべきか、分けてつくるべきか」といった部分まで示していくこともある。当然、エンジニアリングの観点も加わるため、PMの一存で決まるわけではないが、「自分の意図を込める」ことに意義を見出す。

また、リリース後の分析においても基本的には自分でデータを出すことが前提。単純にクエリから出たデータで事足りず、もう少し高度に解析したいとなった場合においては、ビジネスインテリジェンスチームのサポートを借りることも多いそうだ。

そして、伊豫さんは「ダッシュボード文化」が深く浸透していることに触れた。業務の中で「あらたまって担当役員に報告」といったフローがないのも大きな特徴。そこにあるのは、ダッシュボードでの最小限な報告のみだ(実際に使用しているダッシュボードはChartioで、SQLを書けば結果をビジュアライズしてくれる)。

メルカリ_伊豫健夫さん


プロジェクトをコーディネートするのがPMの役割。管理職ではない。


「メルカリのPMは、管理職という意識をほとんど持っていません」


管理ではなくコーディネート。この視点を保つためにメルカリで心がけていることのひとつが、オープンコミュニケーションだ。Slackの使い方ひとつとっても、驚くことに、少し前までは特別な事情を除いて、プライベートチャンネルの新設が禁止されていたほど。

すべてオープンにしておき、「必要な情報は自分でとりにいく」という姿勢を重視する。まさに個々人の高い自発性に期待し、信頼をおく組織のあり方といえるだろう。

同時に、伊豫さんのチームはUS版も日本版も開発を手がける。海外拠点がある場合におけるチームのコーディネートにとって大切なことが共有された。

[1]適切な人に任せる
「チームメンバーの得意分野をきちんと知る」「得意分野を言葉にする」ということもPMの重要な仕事。その上で日本とアメリカそれぞれが担当する領域を境界線で区切り、適宜ミーティングでフォローするというやり方を取る。

[2]とにかく足繁く現地に通う
メルカリは海外出張を強く推奨しており、都度目的やコストパフォーマンスを求めない。特に短期間での勝負になるときには、直接担当者と会ってコミュニケーションを取ることが推奨されている。

[3]バイリンガルを採用する
最後はバイリンガルを採用すること。特に自分たちで異国の地に根を生やしていこうという最初の段階で、現地を仕切る役割については、バイリンガルであることが極めて重要だという。将来的に現地の方に代わってゆけばよいという考えだ。

組織にありがちな「3大PM阻害要因」

講演の終盤、伊豫さんが語ったのは「組織そのものがプロダクトに真摯であるべき」ということ。上述の役割を担える優秀なPMがどれだけいたとしても、組織がProduct Orientedでなければなんの意味もなさない。

最後に伊豫さんは「Product Orientedな組織づくり・文化」を阻害する具体的な要因と、そうならないために「PMが活躍しやすい土壌をつくるための取り組み」を話してくれた。

端的に余計なもの3つ。それは「説得」「ツッコミ」「心配」だ。

まず、説得を減らすために、メルカリでは大胆な権限委譲を行い、承認会議をなくした。次に、ツッコミを減らすために、それぞれの担当プロジェクトを優先するというルールを敷く。最後に、心配を減らすために、とにかくABテストを行って決めるという文化を浸透させている。

日本のスタートアップにおいてここまでPMにおける役割・定義、活躍のための条件が言語化されたケースはあまりなかったのではないだろうか。その情報量、オープンな話に45分という講演時間はあっという間に感じられた。

もちろん組織や提供するプロダクトによってPMの役割は変わる。ただ、メルカリが日米で快進撃を続ける背景に、伊豫さんが語ったメルカリ流のプロダクトマネジメントの役割、組織のあり方が大きく影響していることは間違いない。日本から世界を狙っていく、多くの企業・スタートアップの参考となるはずだ。




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