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ライゾマティクス 真鍋大度の軌跡|サラリーマン時代を経て、無名の青年が世界を魅了するまで。

2017-01-16

ライゾマティクス 真鍋大度の軌跡|サラリーマン時代を経て、無名の青年が世界を魅了するまで。

メディアアート作品によって、ライブ演出などを手がける真鍋大度さん。日本を代表するトップクリエイターにも無名時代はあった。漫画喫茶で作業し、作品DVDを手に営業したことも。無名の新人はいかに世界が注目するクリエイターになったのか?その軌跡を辿る。

真鍋大度はどう世界に認められるクリエイターになったのか。

※2016年10月25日に開催された「UI Crunch U25」よりレポート記事をお届けします。

日本を代表するトップクリエイター、真鍋大度さん(Rhizomatiks Research)。

女性3人組のテクノポップユニット《Perfume》のライブ演出サポートや、《リオデジャネイロオリンピック》のフラッグハンドオーバーセレモニー演出など、メディアアート作品で世界を沸かせ続けている。

多くのクリエイターが憧れる真鍋さんだが、そのキャリアは必ずしも順風満帆だったわけではなく、現在に至るまで多くの努力を重ねてきた。いったいどのように世界に認められるクリエイターになったのか。

その軌跡から見えてきたのは、手段にこだわらず、泥臭く動き、発信すること。そして狂ったほどに「つくる」ということに情熱を傾けていく覚悟だった。

クリエイターになりたいわけではなかった。知られざるサラリーマン時代

真鍋さんは東京理科大学の卒業生。あまり知られていないが数学科を卒業した後、ファーストキャリアは大手電機メーカーのシステムエンジニア。いわゆる、普通のサラリーマン生活を送っていたのだ。


「新卒で入社した大手電機メーカーではシステムエンジニアとして、防災システムの設計を行っていました。担当したのは、トンネルの中にカメラを100台以上設置し、リモートで制御するための通信プロトコルやUI(ユーザーインターフェイス)の設計など。ただ、UIと聞いて想像するようなイケてることは全くやってなくて。大きなボタンが何個か置いてあるようなシステム。設計期間も長いですし、何度もテストしなければならない、地味な仕事でした。」


防災システムの仕事を24歳まで続けた後、真鍋さんは次なる道を歩み始める。

当時、世間はビットバレーに代表されるようなITバブル全盛の時代。その流れに乗っかり、真鍋さんもWebサイトのコンテンツ作成を手がけるITベンチャーに転職することに。


「大手電機メーカーと比べると、ベンチャーの仕事は小さなチームですぐに結果が出ます。いわば真逆の存在だったんです。当時の自分にはそれが新しいエンジニアの仕事だと思いました。ただ、『クリエイターになりたい』という思いは全くありませんでしたね。」


もともとC言語とJavaでのプログラミングしかできなかった真鍋さんだが、Flash全盛の時代にはFlashを学ぶこともあった。クリエイターというより、エンジニアとしてのキャリアを歩んでいたが、「作品づくり」に興味が切り替わっていったのはIAMAS(国際情報芸術アカデミー)に入学するタイミングだ。


「(メーカー時代に)カメラを制御することはすごく面白いなと思っていたんです。そういったものが何か作品にならないかずっと頭の中で考えていました。振り返ると、2年ごとに興味の対象が変わっていますね。IAMASに在籍していたときは、サウンドのシグナルプロセッシング系の処理に興味があった。その2年後にはOpenCVや画像解析系に興味が移り、その後、いまでいうIoT(Internet of Thing)で使われているようなセンサーに興味を持つようになりました。」


どの領域においても数学の知識をベースにほぼゼロから知識を身につけていったという真鍋さん。どのように知識、そして技術を学んでいたのか、驚きのエピソードを教えてくれた。


「(仕事が終わったあとなど)漫画喫茶にソフトを持ち込んで勉強していました。そもそもほとんど会社に住んでいて、ちょっとリッチに寝ようと思ったら漫画喫茶に行く。ライゾマを立ち上げてからも5年ぐらい、35歳頃ぐらいまで会社が家みたいな感じでしたね。」


泥臭く、がむしゃらに。自分を認めてもらうための発信。

真鍋大度さん


2006年、真鍋大度さんは東京理科大学の同級生であった斎藤精一さん、千葉秀憲さんと共にライゾマティクスを立ち上げる。しかし、当時はメディアアートという言葉が一般的でない時代。会社の立ち上げてからしばらくは売上も上がらず、暗中模索の日々が続いた。


「当時のライゾマはwebがメインでした。まだライゾマに入っていなかった石橋素さんと営業をけっこうやっていましたね。RFIDの技術が登場したタイミングですぐに作品をつくり、それをDVDに焼いて企業をまわったり。ただ、反応はあまり良くなくて。いろいろな会社から『スゴいけど、その技術、どうやってお金にするの?』と言われ続けました。まぁそれはそうだよなっていう感じですけど(笑)」


フライング・ロータス(テクノロジーを駆使したステージパフォーマンスで知られるアーティスト)の誕生日会に呼ばれた際には、自分で考えたデバイスを売り込んだこともあったというから驚きだ。

そんな苦難の日々から一転、世界中からの問い合わせがくることに。引き金のなったのがこの一本の動画だった。



音楽信号を変換して低周波刺激で顔の筋肉を制御するというもの。その技術力、クレイジーな発想が瞬く間に世界中に広がり、多くの反響が巻き起こった。


「Wiiリモコンが登場した2005年くらいのタイミングで、デバイスをハックするのが流行ったんですよね。自分もWiiリモコンをハックしてDJする動画を公開してみたら、ちょっとだけ話題になって。その後、自分の身体を使って、顔に電子刺激を流して表情を変える動画をYoutubeに公開したら、すごい勢いで拡散されました。まだSNSがmixiしかない時代に1週間で100万ビューくらい。この動画がきっかけで3000〜4000件のオファーが来ました。」


ユニークな問い合わせのひとつをご紹介すると、「あなたの技術を検死に使いたい」と現役の検死医からメッセージが届いたこともあったという。

そして世界的に知られるメディアアーティスト、ザッカリー・リバーマンからコラボレーションの依頼が舞い込んだ。


「ザッカリー・リーバーマンから連絡が来たんですけど、『とりあえず来たら分かる』ってアルスエレクトロニカのニューイヤーイベントに呼び出されたんですよ。そんな状態のまま指定された場所に行ったら、ビルが建っていて、詳細を聞くことができました。『3日間でビルのファサードに取り付けられたLEDの制御ソフトと制御パターン、さらにそこで流す音楽を作ることになったから手伝ってほしい』という依頼で。スピード感がすごいですよね。その案件が上手くいったことで定期的に発注をしてもらえるようになりました。」


世間的に(日本と言い換えてもいいだろう)その技術や発想が理解されず、苦しんだ真鍋さんは自らの発信によって道を切り拓いた。

そして現在、パリ・コレクションやミラノ国際博覧会といった国際的なイベントの演出を中心にほとんど海外の仕事になっているそうだ。

加えて、国際的な祭典やイベントなど「超特殊な現場案件」とは別に、ぶっちゃけ話として「フィーが一番高いのはコンサルティングの案件」といった言及もあった。


「(コンサルの仕事は)時給換算したら一番高いと思います。しかしそればかりだと感覚が鈍ってしまうので、プログラムを書く現場の仕事も引き続きやっていきたいですね。」


UI Crunch U25

熱心に真鍋さんの話に耳を傾ける参加者たち。25歳以下限定ということで若い熱気に溢れていた。

人を感動させたい。そのために見たことのないものを見せる。

現在のデザインにおける潮流を見ていくと、「どれだけ役に立つデザインか」と「質の高いエンタメにお金を払うか」もしかしたら両極端に振れているのかもしれない。こういった問題提起に対し、真鍋さんは独自の視点でこう語ってくれた。


「僕は『便利になる』ツールを作ることには興味がないんですよ。人を感動させたり、新しい価値観を提示することが好きなんです。

エンタメはお客さんの方を向いてやらないといけないですが、アートは自分の興味が中心にあります。さっきの顔に電気を流している動画に関してはアート寄りというか、自分の興味のあることをやって、お客さんに垣間見てもらうみたいな感じですね。」


そして、話題は真鍋さんが注目しているテクノロジーへ。


「ARとドローンはまだ伸びしろがあると思っています。ドローンにしても、数千台という規模で飛んだらまた全然違うことになるし、ARもより高い精度で出来る様になれば違う表現が生まれるはずです。」


真鍋さんのお話から伺えたのは、アートやエンタメといった「定義」が必ずしも重要なわけではなく、何を実現したいかということだ。


「人を感動させるためには、見たことのないものを見せるのが一番なんです。もちろん期待されているものは見せなきゃいけないですけど、見たことないものを見たときに人は「わぁ」ってなることが多い。それを作るためには、常に新しいネタを作らないといけないですね。」


リスクをおそれずにどれだけ挑戦ができるか。泥臭いものづくり、発信ができるか。真鍋さんのお話からその覚悟が問われているように感じた。世界中のライバルたちはいま、この瞬間もチャレンジし続けている。あとは自身がどれだけの熱量で挑めるか、真摯に向き合っていきたい。



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