渋谷の街に彗星のごとく現れた、ド派手な電子工作ユニット『ギャル電』。「ギャル」と「電子工作」という両極端な要素を融合させることで見つけた表現、そして彼女たちが起こそうとしている革命とは?
ド派手な見た目のふたり組が、これまたド派手なギラギラアイテムを身につけて渋谷の街を練り歩く。その様子がたびたび目撃され、SNSやメディアを巻き込んで話題となっている。
思わず目を奪われてしまう彼女たちの名前は『ギャル電』。
「ギャルが電子工作する時代!」を合言葉に活動している電子工作ユニットだ。
「ギャル」と「電子工作」という、相容れない(ように見える)ふたつの要素を融合させているのがマオさん(左)とキョウコさん(右)だ。
彼女たちが『ギャル電』の活動を通じて起こそうとしている革命とは?
その活動を通じて見えてきたのは、「つくる」ということでこれからの時代をサヴァイブする、ポジティブなカウンター精神だった。
― 「ギャル」と「電子工作」って相容れないイメージがあるのですが、おふたりにとって『ギャル電』はどんな存在ですか?
キョウコ:
私にとってはバンドみたいなものですね。楽器とか演奏するわけじゃないけど、負けないくらいカッコいいのが『ギャル電』です。バンドやるとモテるじゃないですか。
自分たちが「カッケー!」って思えるものを作って、渋谷のクラブで目立ちまくる。それでいろんな人に「電子工作って実はめっちゃおもしろいことができるんだよ」って伝えたいんです。
マオ:
私にとっては「自分」そのものですね。人っていつも、どこかで本当の自分を抑えながら生きてる気がして。でも『ギャル電』は「ギャル」である自分も、「電(でん)」である自分も、全部さらけ出すことができるので、一番の居場所だなって思います。
キョウコ:
「電(でん)である自分」ってすごいパワーワード出たね(笑)
― お二人の個性が強く反映された活動と言えそうですね、そのパーソナリティが、どう形成されたかも知りたいのですが、多感だった中高生の頃、どんな子どもでしたか?
マオ:
出身は静岡なんですが、9歳から18歳までタイで過ごしていました。たしか5歳くらいのとき、ガングロ全盛期で。衝撃でしたね。「カッケー!」って。
― なぜ、ガングロのギャルのことをかっこいいと?
マオ:
私はハーフということもあって、もともと肌が黒いし、コンプレックスがあったんですよね。そのコンプレックスをすべてポジティブに変えているのがガングロギャルだなって。これになるしかない!と。そこからずっとギャルを目指しています。
キョウコ:
私の場合、じつは「ギャル」のカルチャーは通ってきてないんですよね。アンダーグラウンドなカルチャーやファッションは好きだったけど。
むしろ学生時代ってギャルとかヤンキーとかが苦手な隠キャラに近くて。私はSF小説とかばっかり読んでるヘンなヤツだったから「陽キャラとは絶対仲良くなれないなー」っていうひねくれ者だったと思います。ちょうどインターネットが普及してきた頃で「インターネット最高。私が最先端だ。お前ら全員ダサい」って思ってたし。
でも、今になって考えてみると、上から目線ですけど、ギャルやヤンキーは結構すごいなって(笑)「自分はこれが好き」って主張できるって純粋にカッコいいですよ。大人でもむずかしいのにすげぇなって。マオもタイで暮らしながらギャルをやってたっていう変わり者で、めっちゃ尊敬していて。
マオ:
タイで暮らしながら『Popteen』とか『Ranzuki』とか日本のギャル雑誌をゲットして、研究してましたね(笑)。あたり前ですが、タイにギャルってほとんどいないんですよ。だからめちゃくちゃ珍しがられたし、写真を撮られることもけっこうありました。「何、あの生き物?」って感じ。
べつにイジメられたりはしなかったけど、本当の意味で私を理解してくれている人っていないだろうなという気持ちはどこかにあったかもしれません。
だから、ちょっと孤独感はありましたね。ただ、自分と違う人と関わることで、おもしろい発見があったりするから、それはそれでよかったのかな。
― おふたりの共通項として、学生時代にある種の疎外感だったり、孤独がとなりにあったのかなって。
マオ:
それはあったかもしれないですね。私は完全にインターネットに救われたと思っていて。日本のギャル情報を仕入れるためにはネットしか手段がなかった。ギャルのSNSとかYouTubeとかは常にチェックしてましたね。
キョウコ:
私は音楽と本が好きで、それが心のよりどころになっていた部分があったと思います。SF小説が好きで『ニューロマンサー』とか最高ですよね。世界がどんどん崩壊していって、ちょっとずる賢くてイケてる人たちしか生き残れない。その世界観を、私自身の学生生活に投影していたのかもしれない。もちろん自分は生き残る側の人間だと思っていたけど…いま思うとそれは勘違いで真っ先に死ぬタイプですよね(笑)
― そういったおふたりの価値観に大きな影響を与えた体験、ターニングポイントもあったのでしょうか?
キョウコ:
私は、ポールダンスを習いはじめて価値観がガラッと変わった経験があるんですよね。いろいろとポッキリ折られた。
もともと自分とは違うジャンルの人に対し、羨んだり、妬んだり、あのグループは自分より上だとか下だとか、思っちゃう気持ちってずっとあって。
でも、実際に自分がその世界に飛び込んでみるとぜんぜん違ってた。上も下もなくて、ただ価値観が違うだけっていうのを身体で感じることができました。
あの経験がなければたぶん『ギャル電』もやってなかったんじゃないかな。いま思うと、学生時代にギャルやヤンキーを目の敵にしてたのってコンプレックスとか憧れがあったからなんですよ。
ポールダンスを通して、ド派手なカルチャーに身を置いてみたとき、そこにいる人たちは別に暗いキャラをバカにしたり、敵視したりしてるわけじゃない。交流してみると、誤解が解消して、何か新しいものが生まれるきっかけになったりもして。
私は田舎者が都会に出てキラキラな人たちのコミュニティに入っていくので「アーバン修行」って呼んでるんですけどね(笑)
イケてるダンス教室の体験レッスンなんてお金払って恥をかきにいくみたいなもんですから。「何か変わらなければ」って思ってるなら、アーバン修行はすごく効果がある。もし悩んでいる人がいたら、ぜんぜん違うコミュニティに入ってみて、心をぽっきり折られてこいってカンジですね。
マオ:
私はもしかしたら今まさにターニングポイントなのかもしれません。つい最近まで、大学院か就職かですごく迷ってたんです。ただ、最終的には大学院に進むことに決めました。決め手は「勉強できるうちに思いっきりやっておきたい」って思ったから。
私はこれまで、学業で頑張ってきたと思います。きっかけは、小さいころハーフだからっていうのもあって一時期バカにされた事があって。
でも、勉強ができるってなったら、周囲にすごく褒めてもらえた。それが嬉しくて、ずっと勉強はがんばってきたつもり。見た目を自由にしても、文句を言わせない。そのために根本的なところがちゃんとしてないといけないなって。
エンジニアを目指して勉強してるのですが「どうせ女だからできないだろう」って雰囲気はまだまだあるし。そういう偏見を超えてやりたい。がんばればできるって見せつけてやりたい。こういう反骨精神は原動力になっていますね。
― ありがとうございます。ここから実際につくってる「モノ」の話を。ギャル電のつくるものってどこか懐かしさがあるというか、バカバカしいけどカッコいい、絶妙なラインをついている気がします。
キョウコ:
そう言ってもらえるはうれしいですね。先日つくった「光る大五郎」っていうのがあって。基本的にはろくでなしなんで、上品じゃない文化が好き。その象徴って言ったら4リットルペットボトル焼酎だろうと。これを光らせたら最高じゃね?って。
マオ:
私としては『鏡月』を推したんですよね。大五郎はサグすぎ(※)ない?って。鏡月なら大学生も飲んでるし、ギリセーフかなって(笑)
(※)サグい:悪いヤツ、ワルっぽいといった意味
キョウコ:
そうそう、けっこう話し合ったよね。『ビッグマン』ともすごく迷ったし。ただ、インパクトと知名度含めて『大五郎』に決まった。イベントに「光る大五郎」を引っさげて、お客さんに無理やり振る舞うという(笑)
― なにをつくるか、発想はどこから湧いてくるのでしょう?
マオ:
ふたりで話あっていくなかでってカンジですね。とくにキョウコさんが持っているカルチャーの知識や愛はハンパじゃない。話してるだけでも本当におもしろい。私が着てる服をキョウコさんが見て「それって20年くらい前にも流行ったよ」「組み合わせてなんかできないかな」みたいな、そういう感じ。
キョウコ:
私もすごい新鮮なんですよ。こっちが当たり前だと思ってるカルチャーのベースみたいなものを「新しい」って言ってくれるから。私、デコトラって好きで、ああゆうヤンキーカルチャーを電子工作で再現しようとして。そしたら「最高にカッコいいですね」ってマオがいってくれる。たぶん、知ってる人にとっては「ダサい」とか「あり得ない」ってなっちゃうと思うんだけど。
マオ:
普通に「かわいい」「カッコいい」って思うんですよね。ヘンな先入観とかないから。派手だし、見たことないし、やべーって。ただ、そのままだとやっぱり少しダサいので「今っぽさ」をプラスしてアップデートさせるって感じですね。
― 最後におふたりのこれからの野望について教えてください。
キョウコ:
シンギュラリティってあるじゃないですか。人工知能が人間の能力を超えていくっていうやつ。それを早めたいんですよね。その先にはもしかしたら世界って結構ぶっ壊れてるんじゃないかなって思うんですよね。だから、ギャルが電子工作することで世界が一回滅びたらいいねっていう話をしてますね(笑)。いったん滅びて、またそこから新しい世界をはじめようぜって。だから、ポジティブな世界崩壊を目指してますね。
それこそ、私が好きなサイバーパンク小説みたいな世界になったら最高じゃないですか。私は路地裏で違法に人体改造する闇医者のババアになりたいな(笑)
だから今のうちからやることいっぱいあるんですよ。世界崩壊のあと生き残れるように、体鍛えたり、植物の育て方とか火のおこし方とか学んだり。
マオ:
私は渋谷路地裏で、ギャルたちにLEDを売りさばきたいな。その頃にはたぶんLEDみたいな刺激が強いものって違法になっちゃってるんで。
キョウコ:
近未来の世界、路地裏で店を構えるなら渋谷しかないね。
マオ:
そう思うと、これからもっともっと渋谷をアツくしていかなきゃですね(笑)
編集後記
最後は独特のユーモアを交えつつ語ってくれた(目はマジだった?)、『ギャル電』のおふたり。最高にロックでカッコいい女性たちだった。取材では、彼女たちが抱えてきた孤独感や社会への葛藤なども垣間見えた。
ただ、電子工作は彼女たちのそんな思いを体現するものとはまた少し違うのかもしれない。どこまで楽しく、そして前向きなパワーをものづくりへとぶつけていく。バカバカしくも真剣につくり、発信をしていく。カルチャーや価値観の違いなど、軽々と「ウェーイ!」と乗り越えて。たとえば、世界が荒廃した近未来、彼女たちはニヤリと笑い、新しい革命に向けた発明を続けているに違いない。
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