2018.05.18
NewsPicks 佐々木紀彦と考える、コンテンツ黄金時代を生き抜く7つの人材要件

NewsPicks 佐々木紀彦と考える、コンテンツ黄金時代を生き抜く7つの人材要件

余剰時間の増加、5Gの普及、モバイル動画の台頭…2020年以降、コンテンツの流通・消費量が爆発的に増えていく。いわゆる“コンテンツ黄金時代”の到来だ。そんな時代を生き抜く人材とは? メディアビジネスに有料課金モデルで風穴を明けるNewsPicks、佐々木紀彦さんにお話を伺った。

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激動の「コンテンツ黄金時代」をサバイブせよ

NewsPicksの勢いがとまらない。2018年2月時点で会員数300万人(内有料会員6万人)を突破した。特に注目されているのがオリジナルの動画コンテンツ。起業リアリティーショー『メイクマネー』が大きな反響を呼んだ。

12人の挑戦者が「NewsPicksオールスターズ」にアイデアをプレゼン。賞金1000万円の獲得を目指す。後日談は記事化され、さらにドキュメンタリーとして事業も追い続けていくそうだ。動画や記事といった「枠」を超えたプロジェクト型コンテンツと言っていいだろう。

+++新時代の起業リアリティショー。辛辣なコメントなども余すことなく伝え、話題となった。

「これまではテレビ・新聞・雑誌・ネット…とコンテンツの領域、人材は分断していました。それが融合し、つながっていく時代になる。NewsPicksはその流れを先駆けて仕掛けたい」

そのとき課題となるのが、領域を越えて活躍するクリエイターたちの存在だ。

コンテンツ、ビジネス、テクノロジーのプロが集い、新しい生態系を創る。
(引用)【佐々木紀彦】編集長退任の報告と、CCOとしてやりたいこと

CCO就任時、こう記した佐々木さん。自身も編集者としてキャリアを越境して活躍する。そんな彼と共に「コンテンツビジネスの未来を切り拓く人材」について考えてみたい。

コンテンツ黄金時代を生き抜く7つの人材要件
1. プロジェクト型のコンテンツづくり
2. できるだけ多くの「師匠」と出会える環境へ
3. まずは1分野を深く掘り、そこから掛け算を
4. 古きに学ぶ
5. 良いコンテンツには主観がある
6. 新聞を読まない
7. ビジネスとクリエイティブの融合

1. プロジェクト型のコンテンツづくり

+++【佐々木紀彦(ささき・のりひこ)】NewsPicks 最高コンテンツ責任者(CCO:チーフ・コンテンツ・オフィサー)。1979年福岡県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業、スタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2012年11月、「東洋経済オンライン」編集長に就任。2014年7月にNewsPicksへ移籍。最新著書に『日本3.0』。ほかに『米国製エリートは本当にすごいのか?』『5年後、メディアは稼げるか』、共著に『ポスト平成のキャリア戦略』の著作がある。

特にコンテンツのつくり手にとって、スキル要件の定義が難しい。鍵となるのが、”柔軟に表現手段を拡張できるかどうか”―。


Netflixのクリエイターたちは、かなり面白い作品のつくり方をするそうです。監督の作家性や才能に依存するのではなく、全員でディスカッションしながら進めていく。つまりチームで作品をつくっている。日本でも、監督の力量に依存しない、新しい「ヒット作品を生み出しつづける仕組み」を構築していべきだと考えています。

ここはウェブメディアでも同じことが言えるのかもしれません。たとえば、NewsPicksではオリジナル記事に関し、記者とデザイナーがタッグを組み、ディスカッションをしながら記事をつくります。記者がイベントや動画コンテンツを企画してもいいし、デザイナーが記事を書いてもいい。職能を広げていくことも推奨しています。

重要なのは、コンテンツに応じて、表現手法を使い分けていくこと。私も今、まさに映像について学んでいる最中ですが、発見が多く、すごくおもしろいですね。奥が深い世界です。


つまり、自分が何屋であるか/何屋になるか、既成概念にとらわれる必要はないということ。キャリアの可能性を広げるヒントは”好奇心”にあるようだ。


何よりも強いのは、時代やテクノロジーの変化に対し、どんどん適応していける人だと思います。過去のやり方に慣れている人で、「面倒だからやりたくない」と感じるようなら、もう難しい。嫌々やっても新しいノウハウを吸収できませんから。「こういった作り方もあるのか。面白いね」と好奇心に溢れている人は、年齢や経験に関係なく、どんどん活躍の場を広げていけると思います。まさにクリエーターにとって黄金時代です。

2. できるだけ多くの「師匠」と出会える環境へ

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佐々木さんが紹介してくれたのは、プロジェクト型の作品づくり。そのメリットのひとつは、”多くの師匠との出会い”にもある。


クリエイターの世界には師弟関係があっていいことだと思うのですが、師匠が固定されてしまうのは良くないかもしれません。なぜなら1人にしか師事できない場合、相性が悪ければやめるしか選択肢がない。好きだったとしても、その師匠の流儀やスタイルしか学べず、コピーにしかなりません。

プロジェクト型であれば、多様な経験が積むことができます。「あの師匠はこう言っていたけど、この師匠は別の手法を使っているなあ」という感じで、引き出しを増やせます。時には自分が師匠となり、弟子に教えてみることでマネジメントの視点を学ぶのもいいですね。

そう考えると、コンテンツの制作現場において一番良くないのは「終身雇用」や「年功序列」など、固定化される仕組みを持ち込むこと。成長機会をつくるためには、流動的な組織のほうがいいのです。日本にコンテンツ黄金時代をもたらすには、今の硬直的な組織体制を変えて、みなの才能が発揮されやすいようにしていかないといけません。

3. まずは1分野を深く掘り、そこから掛け算を

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続いて、スキルセットの考え方について。キャリアの浅いうちは1つの分野で突き抜けることが重要だ。


メディアアーティストの落合陽一さんも仰っていることですが、1つ、ある領域に特化していく。特に若いうちは深く没頭する時間を持つべきだと考えています。突き抜けてこそはじめて、そこに存在する体系や構造を見つけ出すことができる。それは必ず他の領域でも応用ができます。

その軸を元に、スキルを掛け算していくとより希少価値が高まっていく。元リクルートで和田中学校校長を務めた藤原和博さんもおっしゃっていたことですが、1/100の人材になり、それを3回掛け合わせることで、1万分の1の人材になっていく。

私の話をすると、大学時代は経済を学んで、東洋経済に入社してからはビジネス領域をカバーし、今も経済メディアにいます。私の組み合わせは「経済・ビジネス×編集(コンテンツ化する能力)」かもしれません。

4. 古きに学ぶ

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モバイル動画をはじめ、コンテンツとその作り方に新しいフォーマットが求められていく時代。意外にも佐々木さんは「古いものに学ぶことが多い」と語る。


新しいものをつくろうと考えた時、流行にばかりくいついていたら、後追いしかできません。だからこそ、世界の最先端の事例に学びつつ、伝統的なコンテンツの創り方にも学んでいく。過去を否定しがちですが、絶対に良いものはあります。過去の財産の中から、どれを使うか、どれを捨てるか。取捨選別を的確に出来る能力こそが重要になってくるはず。

じつは未だに過去のメディアにおける話を書籍で学んだり、昔からコンテンツの業界にいる方々に話を聞いたりして、いいアイデアは現代にリバイバルして使っていたりもしますね。とくに明治初期の新聞勃興期、大正の雑誌誕生期、戦後のテレビ普及期などの節目には、現代にも通じる貴重なアイディアがたくさん転がっています。

5. 良いコンテンツには主観がある

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そして良いコンテンツに欠かせないのが「主観」だ。これは編集者出身の佐々木さんならではの視点といえるかもしれない。


新しいコンテンツを考えていく時、いろんな角度から「自分が面白いと思えるポイント」を見つけ、深堀していく。そのほうが絶対良いコンテンツに仕上がっていくと思います。なぜなら、思い入れがありますし、工夫をしていくから。

人との出会いも同じで、自分が面白いと思う人に出会ったら、積極的にコミュニケーションを取っていく。大事なのは、自分の好き嫌いに忠実になること。極端にいえば、人物としてそこまで好きになれなかったとしても、その人のアイデアが好きであるとか、特定領域の知見が好きでもいい。自分は何を面白いと感じ、何をつまらないと思うのか。そのために自分の意見や価値観、美意識のようなものを持ってないといけない。

ただし、頑固おやじになってはいけません。「クリティカルシンキング」と呼ばれたりしますが、自分自身の固定観念をつねに疑っていく、既存の常識を疑っていく、枠組みを疑うような問いを投げかけていくことが大事です。

それと、コンテンツやコミュニケーションで大切なのは、論理的な正解に拘りすぎないことです。ただ、論理的に伝えるだけでは人に物事は伝わりません。アリストテレスは『弁論術』の中で、人に伝えるには、ロゴス(論理)、パトス(感情)、エトス(徳)の3要素を意識すべきだと記していますが、この中で、見落としがちなのが、エトス(徳)です。

声色や文体、服装を含め、話す内容や相手に応じて表現を変えていく。たたずまいや姿勢を含め、意識してみてもいいのかもしれません。私もいつもタートルネックばかり着ていてはいけないですね(笑)。

6. 新聞を読まない

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自分の意見、主観を持つ。そのための「情報との向き合い方」とは。


浅く広く知っていることの価値は、どんどん下がっていくと考えています。新聞離れが進んでいるのも、モバイルシフトだけが原因ではなく、単なるファクトよりも、分析や解説、その背後にあるストーリーをほしい人が増えているからでしょう。ニューヨークタイムズなど海外の新聞は、日本で言う雑誌記事のような読ませる記事が多くあります。

私個人でいえば、若いときから新聞を読む習慣がほとんどありません。海外の新聞のデジタル版にはよく目を通しますが、日本の新聞記事はNewsPicksやツイッターを通じて読むくらいです。それよりも週刊文春と週刊新潮を読むことが多いですね。今、日本人が何に興味を持っているのか。どこに関心があるのか、ゴシップを含めて、大きな流れが掴むことができます。


特に佐々木さんが、情報インプットで意識していることとは―。


1つのことを深く知っていく。情報の軸だけじゃなく、人軸でも見ていくようにしています。NewsPicksもそうですが、どのような人が、どのような理由で、その記事をpickしているか、チェックをしていくのもいいですね。一人の好きな人を通じて、何かを広げていく方が、深く知れる時代なのかもしれません。

キャリア設計と同じように、情報収集でも、とにかく好きな人やテーマを突き詰めていくスタイルのほうが、結果として、身になる知識が付くように感じます。留学時代には、一生でもっとも文章を読みましたが、好きな著者を見つけたら、同じ著者の本や論文や記事をかたっぱしから読んでいました。とにかくのめり込んでいく性格なのです。

今も、信頼出来る人の読んでる書籍や、おすすめしてくれた本を必ず読むようにしています。先日も2人の方に薦められた『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?~経営における「アート」と「サイエンス」~ 』(光文社新書)という本を読んでみたら、すごくおもしろくて。なぜ、アートや美意識が、これからのビジネスにおいて大事か、鋭く指摘されています。

7. ビジネスとクリエイティブの融合

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「ビジネスに答えのない時代、アートやクリエイティブ、コンテンツの価値が増していく」と語ってくれた佐々木さん。最後に伺えたのが、ビジネスとクリエイティブが適切に融合していくべきという考え方だ。同時に、そこには気をつけるべきポイントがある。


ビジネス的な利害がクリエイティブを壊してしまう、忖度させてしまう悪い例があります。メディアでいえば、広告記事か、編集記事か、といった問題。編集と広告がしっかり分離されていないメディアでは、経営陣やセールス部門の人間が「この表現は広告主である企業の気分を害すかもしれないから止めてほしい」と制作部門に話をすることがあります。こうしたカルチャーではクリエイティビティやジャーナリズムが死んでしまいます。解決策は明確で、編集と広告の部門を分ける、そしてどこまで関与するか、明確化することです。

どの部門が、何にどこまで関与するか。互いの取り決めと理解があれば、そこまでビジネスとクリエイティブは離れる必要はありません。

一方で、クリエイターやジャーナリストが自分たちのやりたい放題にやっていいわけでもありません。クリエイティブ部門が「私たちはこれ作りたい」と単独で突っ走っても、誰にも見られないものでは意味がありません。読者や視聴者を無視した一人よがりのコンテンツばかりでビジネスとして機能しなければ、その会社は潰れていきます。経営陣や全体を統括するリーダーが、クリエイティブとジャーナリズムとビジネスを理解し、どれだけ適切な指摘が出来るか。「もっとこうしたら、あなたの作品は人に見られるようになる」「こう工夫したら、社会からより高い評価を得られる」と新しい視点をもたらす。こういったアドバイスは決して悪ではありません。

映像の世界だとプロデューサーがその役割を担っていますよね。いい例だと感じたのが映画プロデューサーの川村元気さん。映画製作には「企画」「制作」「宣伝(マーケティング)」の3工程がありますが、川村さんは自分が強いのは「企画」と「宣伝(マーケティング)」と語っていました。監督と作品、スタッフを決めたら、制作現場に足を運ぶことはほとんどないそうです。

確かにプロデューサーが毎日現場にきて「こうしろ、ああしろ」と細かく言っていたら、現場としては萎えてしまいますよね。関与すべきではないのではなく、どこのプロセスで関与するか。どういうクオリティーの関与をするか、これこそが重要なのだと思います。

いい意味で、クリエイターとジャーナリストを放牧しながら、持続的なビジネスモデルをつくるために、しっかり口を出すときは出して全体最適を創り出す。その絶妙なバランスをとれるリーダーこそが、コンテンツ黄金時代を創り出すために不可欠なのだと思います。

[撮影]大塚 康平


文 = 野村愛
編集 = 白石勝也


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