2018.07.06
100年後も存続するために――パナソニックの危機感が生んだ、若手人材支援

100年後も存続するために――パナソニックの危機感が生んだ、若手人材支援

パナソニックによるU35を支援する取り組みがスタートしてから1周年。コワーキング複合施設『100BANCH』では常時約30プロジェクトが稼働する。なぜパナソニックは渋谷に施設を構え、若い世代を支援する? そこには「新しい風」を取り込みたいという狙いがあった。

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パナソニックが渋谷につくる実験区『100BANCH』

パナソニックの創業者 松下幸之助は15歳の頃、電灯に照らされた大通りを走る電車を見て、電気を生業とすることを心に決めたと言う。

大きな夢と野心をもって自宅の 「ガレージ」で創業したのが23歳の頃。そこから100年を迎えたこの時代にも、若い世代の野心的な挑戦から、イノベーションのタネが生まれてくるはず。

そんな思いから『100BANCH』は創設された。


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100BANCHは、2018年にパナソニックが創業100周年を迎えることを機に構想がスタート、これからの時代を担う若い世代とともに、次の100年につながる新しい価値の創造に取り組むための施設。公募で集められた若い世代のプロジェクトチームに対して、各分野のトップランナーによるメンタリングの機会を提供、この場所での活動を支援している。常時約30プロジェクトが進行している。1Fはカフェ・カンパニーが企画・運営する未来に向け新たな食の体験を探求するカフェスペース「KITCHEN」、2Fは様々なプロジェクトが同時多発的に展開するプロジェクトメンバーのためのワークスペース「GARAGE」、3Fはパナソニックが次の100年を創り出すためのコラボレーションスペース「LOFT」がある。


パナソニックはなぜ渋谷に拠点を構え。若者を支援しているのか?

100BANCHプロジェクトの中核を担う則武里恵さんに伺った。


[プロフィール] 則武里恵|パナソニック株式会社 コーポレート戦略本部 経営企画部 未来戦略室 100BANCH推進プロジェクト
岐阜県生まれ。神戸大学国際文化学部で途上国におけるコミュニティー開発を学ぶ。パナソニックに入社後、広報として社内広報、マスコミ向け広報、IR、展示会、イベントの企画・運営など、さまざまなブランディング活動を担当。2016年2月より100周年プロジェクトを担当し、2017年7月、渋谷に「未来をつくる実験区 100BANCH」を立ち上げる。

100年後も誰かの役に立ちたい。パナソニック変革のとき

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― なぜパナソニックが渋谷で若い人たちの活動を支援しているんでしょうか。


新しいことをしたいと思ったときに、パナソニック社内だけではなく、社外を巻き込んでいく必要があると思っていました。

パナソニックが100周年を迎え、次の100年をどうするか考えていました。パナソニックとしても今のままではいけない。次の100年というスパンで考えたときに家電というものもあるかないかすらわからない。家電があったとしても、現在の使われ方とは違う使い方になっているはずです。いまはない形で価値創造しないといけない。

それがなにかを考えるとき、いまわたしたちがみている世界だけでは不十分。人びとの生活に不可欠なものが研ぎ澄まされていったときに、次の世代に喜んでもらえるものが作れるんだと思います。100BANCHではその種を作っている若い世代を支援しています。パナソニックのメンバーはいますぐにそのよさに気づかないかもしれないけど、将来必要となったときに何らかのかたちでつながってくるのだと思います。


― 一見パナソニックの既存事業とは関係のなさそうな100BANCHプロジェクト。社内での承認を得るのは大変だったんじゃないでしょうか。


これまでまったくやったことのない試みだったので、承認を得るのに難しかったところはあります。ただ、経営陣にも次の時代をつくるためにはこのままではいけないという危機感があり、次の時代につながる新しい取り組みとして、応援してくれています。いままでのずっと右肩上がりの時代でもないし、ものが人を幸せにする時代も日本は終わっているんじゃないかという話もある。ものづくりの会社だけど、次の100年はどうすれば人の役に立てるのか。100周年は、根本的な会社の存在意義を考える機会でした。

あと、若い人にとってパナソニックは遠い存在だよね、という話も社員からありました。社内で若い社員とのディスカッションの場があったのですが、そもそも若い人とパナソニックって接点がないよね、とか、このままでは時代の価値観についていけないんじゃないかという話があがってきた。若い世代との接点をつくりたいという合意形成は前提にあったことも、プロジェクトが社内で調整できた理由だと思います。

チャレンジに限界なんてない。社員にも気づいて欲しい

― パナソニック社内の人たちにとって100BANCHはどう写っているのでしょうか?


「100BANCH」というワードを見たり聞いたりしたことはあっても、活動内容や目的を理解している人はまだ多くないかもしれません。100BANCHでの取り組みはパナソニックの活動の中でも最も極にあるものだと思っています。「パナソニックの既存事業と接点のないことをなぜやるんだ?」と疑問に思って当然。でも一方でやっちゃダメではないんです。私は「これもパナソニックの取り組みじゃない?」って思います。これくらい大きなことをまだ成果がでるかわからないことを支援できる懐の深く大きな会社だと。ここまでやってもいいんだよっていう置き石をパナソニックの社員にも見せたいんです。

100BANCHにいる人たちに比べたら、パナソニック社内にいる人たちは保守的で安定志向。やらないほうが得だと思ったら危険な橋は渡らないという計算もできる。でも彼らは、高い技術力を持っていたり、ものすごいチーム力を発揮できる人たちです。そして根底にはものづくりが好きだという思いを持っています。

100BANCHにいるメンバーに活動の理由を聞くと「面白いからやってるんだ」「世の中をこうしたいんだ」とビジョナリーに語ってくれます。そういうタイプはパナソニック社内にもいますが、あまり表に出てこない。若い人が中心になって実行している例も多くはないと思います。だから、100BANCHで楽しそうに好きなことをやっている人の様子をみて、「自分もやりたい」と思う人が増えることを期待しています。

3ヶ月で作り上げるスピード感や、感受性、世の中に向けているアンテナの高さなど、100BANCHのメンバーから学べることはたくさんある。そういった社内には無い価値観に触れることが、いずれパナソニックの力になると思っています。

社会にインパクトを与えるために

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ー 今後、パナソニックと100BANCHでのコラボを促進していくのでしょうか?


パナソニック社員が100BANCHにきて、プロジェクトメンバーと一緒になにかをやってくれたら嬉しいと思っています。これまでも社員と100BANCHメンバーの交流会やアイデアソンなど、交流の機会をつくってきました。今後も両社の接点をできるだけ創出したいです。

パナソニックはチームプレーで規模の大きなことを動かすときに力を発揮する会社。100BANCHのプロジェクトメンバーはビジョンベースでつくりたい世界をもって柔軟に動ける。いまは両極端にありそうな、パナソニックと100BANCHが一緒にやりたいと思ったときに社会的インパクトを大きくするんじゃないかと思っています。例えば、なにかを量産するときもパナソニックの人にとって当たり前のことが、100BANCHメンバーにとっては貴重な知識や経験だということもたくさんある。互いに強みを提供し補い合えば、すごく可能性があるんじゃないでしょうか。


文 = 大塚康平


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