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デザイナーと経営者が対等に対話するためにーーサイバーエージェント、デザイナー兼執行役員の視点

2018-07-26

デザイナーと経営者が対等に対話するためにーーサイバーエージェント、デザイナー兼執行役員の視点

デザイン経営の実践、このテーマで思い浮かんだのがサイバーエージェントだ。同社は経営でデザインを重視。約2年前にデザイナー出身の佐藤洋介氏が執行役員に就任した。クリエイティブ統括室立ち上げ、AbemaTVやAWA等のメディアデザインを統括。彼らの事例からデザイナーと経営者の理想の関係性を探る。


【連載】デザイン経営の実践
2018年5月に特許庁より発表された『デザイン経営宣言』。そこには「デザインは、企業が⼤切にしている価値、それを実現しようとする意志を表現する営みである。(中略)その価値や意志を徹底させ、それが⼀貫したメッセージとして伝わることで、他の企業では代替できないと顧客が思うブランド価値が⽣まれる。さらに、デザインは、イノベーションを実現する⼒になる。」と記載されている。実際の現場で、どのように進めていけばいいのか。そのヒントを探るべく、デザインの視点や思考を経営に取り入れ、実践している企業に学ぶ、シリーズ連載企画です。

[目次]
 ・「デザイナーの経営参画」を当たり前に
 ・「クリエイティブ」の前では経営者もデザイナーも対等
 ・単にデザイナーを出世させればいいわけじゃない
 ・コミュニケーションを諦めない
 ・誰よりもサービスを使い込む「藤田晋」という経営者
 ・転機は2015年ーー市場の評価が全社の目線を底上げした
 ・デザイナーのリソースは、全社のクリエイティブ推進のためのもの
 ・一流のクリエイティブやアートに触れる「一流の日」
 ・デザイナーが経営層に名を連ねることの意味

「デザイナーの経営参画」を当たり前に

2015年、クリエイティブ統括室を立ち上げ、執行役員に抜擢された佐藤洋介さん。もともと現場あがりのデザイナーである。

なぜ彼はサイバーエージェントという日本を代表するIT企業の執行役員に名を連ねるに至ったのか。


「社長の藤田が作りたいもの、頭の中に思い描いている抽象的なものを様々な表現で具体化し、クリエイティブを見て経営判断がしやすい状態を最速で用意するとともに、クリエイティブとして“成立させる”という役割があります」
(引用「サイバーエージェントのクリエイティブ力を引き上げる執行役員の1年」)


デザインの役割を重視し、経営判断に活かしていく。キーワードは「デザイナーと経営者との対話」にあった。


「クリエイティブ」の前では経営者もデザイナーも対等

佐藤さん

弊社の場合、どうしても創業社長である「藤田晋」という存在が大きく見られがち。ただ、クリエイティブの前では、じつはかなりフラットで対等な関係だと思っています。

経営者が強すぎてもダメだし、デザイナーが強すぎてもダメ。理想は、どちらにも寄り過ぎないこと。

「経営陣がデザインを理解すべき」というのはよく聞く話ですが、それだけではなく、デザイナーも経営のことを理解していく必要があります。当然、お互いがお互いのレベル、スキル面で対等になれるわけではないので、リスペクトを持って歩み寄っていくことが欠かせません。

単にデザイナーを出世させればいいわけじゃない

私が危惧しているのが、「デザイナーの立場はいつも弱い」「デザイナーをもっと引き上げるべき」といった論調になりがちなこと。

気をつけなければいけないのは、単に「デザイナーの地位向上」を叫び、ポジションを引き上げただけでは、決して上手くいかないということ。

たとえば、デザイナーが率いたプロジェクトで大きな実績が出たとします。じゃあポジションを引き上げよう、経営を任せようというのは少し無理がある。そこに必要なのは経営層として同じ目線で思考し、意思決定をサポートできるだけの「信用」が加わってこそだと捉えています。

そのためにデザイナーができることとしては、アウトプットを通じ、とにかく信用を積み上げていくこと。デザイナーに限った話ではありませんが、お互いに信頼しあってこそ、納得できるものが生み出せる。これが理想の関係性だと思います。

コミュニケーションを諦めない

その時、すごく重要になるのが、コミュニケーションを諦めないということ。どうしても「言語や価値観が違いすぎる」「分かち合えない生き物だ」と、どちらかが諦めてしまいがち。それでもなお、決して諦めることなく、お互いが課題の根本をつきとめ、徹底的に話し合っていく。根性論のように聞こえるかもしれませんが、この経営者とデザイナーが見えている景色のギャップを埋められるよう、働きかけ続けることは、どの企業でも誰でもできるはずなんです。

当然、クリエイターは表現者でもあるので、自分の好みや意思、こだわりをアウトプットに反映していくもの。どうしても折れることができない部分もあります。

また、デザインのトレンドやルールなども変わるので理解してもらうことが必要で。どこまでそれを貫くべきか、経営判断として、何を優先させるべきか、ここはある種の駆け引きだと思っています。

余談ですが、2013年頃から普及した「フラットデザイン」を藤田に理解してもらうのに苦労した記憶がありますね。初めはAppleのガイドラインをもとに説明したのですが「すごく地味だね」と一蹴されてしまって(笑)当時のサービスデザインの主流はいわゆるスキューモフィズム全盛期で、とにかく派手な装飾が決め手となっていた節があるので、当たり前のフィードバックだったと思います。なので後日改めて、フラットデザインによって解決する開発工数の削減などビジネス的なメリットと、実際に自社プロダクトをフラットデザイン化したモックを作って利点を伝えたところ理解を得ることができました。むしろもっとフラットデザインを進めるべきとなって「なんで今までのデザインはごちゃごちゃした感じだったのか?」と言われましたね(笑)

大きな学びとしては、デザイナーは指摘の意図を考え、判断できるだけの材料を揃えていく。経営者はデザイナーにただの感想ではなく、意図を伝える。そして対話し続けていく。ここに尽きると思います。

誰よりもサービスを使い込む「藤田晋」という経営者

佐藤さん

あたり前のことではありますが、社長の藤田からデザインに対する意見をもらうことがあります。そこには鋭い「ユーザー視点」があるんですね。私たちはどうしてもデザイナー視点で物事を考えてしまいがちなので、常に気づきがあります。

例えば、あるサービスで「白黒」と「カラフルなもの」2パターンを持っていった時のこと。僕は自分の好みで「白いシンプルなもののほうがいいと考えています」と提案をしました。ちょうどミニマルなデザインがトレンドで、かなり“硬い筋”だと思っていました。

でも、藤田からは「それだと寂しすぎる」とフィードバックが。一見すると藤田の主観にも思えるのですが、その視点は鋭いんですよね。なぜなら、誰よりもサービスを使い込んでいるから。細部にいたるまで、いちユーザーとして触れ合っている。だからこそ、藤田のファーストインプレッションには説得力がある。

藤田は会社の誰よりもAbemaTVを見ているし、AWAにしてもヘビーユーザーです。もちろん、HIPHOPや麻雀が好きだというのもあるかもしれませんが(笑)、藤田は経営者でもあり、サービスをよく知るユーザーの一人でもあるんだと思います。

転機は2015年ーー市場の評価が全社の目線を底上げした

佐藤さん

いま振り返ると「経営判断としてデザインを強化しよう」となったのは、2015年が一つ起点になったかもしれません。

当時、『ガールフレンド(仮)』というサービスが会員数600万人を突破するといった成果を上げた。市場からの評価を紐解くと、デザインやテクノロジーのクオリティにありました。

そこから「会社全体でプロダクトのクオリティを上げていこう」と。特に藤田の意識がクリエイティブに向いていくきっかけになったと思います。

ブログでも書いているのですが、ちょうど世の中的にもスマホシフトがいよいよ本格的に進んでいる時でした。

具体的にいえば、サイバーエージェントグループのミッションステートメントに「クリエイティブで勝負する」という一文が追加された。

大きかったのは、「その意識を持たないとサイバーエージェントの社員として恥ずかしいよね」といった機運が生まれたこと。デザイナーだけではなく、セールス職も、バックオフィスも、エンジニアも。当然、子会社の社長を含めて、「クリエイティブについて意識する」といったタイミングだったと思います。

デザイナーのリソースは、全社のクリエイティブ推進のためのもの

もちろん、社員全員がクリエイティブに理解を持つというのは難しいことです。例えば、2015年当時でいえば、デザイン勉強会をやったら「そんなことしている暇があれば手を動したほうが良い」と思う人もいたでしょうし、おもしろいものを作りたくてサイドワーク的なものを別部署のデザイナーと進めていたら「うちのリソースで何してるんですか?」と指摘されたり(笑)

今では「リソースは個人のプロマネのものではなく、全社のクリエイティブ推進のためのもの」があたり前になったのですが、理解を得るまで1〜2年くらいかかりましたね。

一流のクリエイティブやアートに触れる「一流の日」

その甲斐もあって、今ではかなり「デザインに対する投資」にも理解が得られるようになったと思います。

例えば、「一流のモノづくりをするためには 、一流のモノに触れるべき」ということで、アート展やデザイン展にデザイナーのみんなで行く「一流の日」をいう取り組みをしています。平日のお昼に道玄坂にバスを用意し、それに乗ると一流のモノを見に行けると。今までメディア芸術祭や、グッドデザイン賞の展示を見に行きました。

デザイナーって本当に素直で、真面目な人が多いんです。だから「平日の空いている時間に、業務を中抜けして展示を観に行く」という後ろめたさに対して、「会社が用意したバスが出発してしまう」という大義名分を作ってあげる。他にもデザインに対する投資を沢山行っていますが、一貫しているのは「デザイナー」という特性を理解し、潜在的なニーズを汲み取って最適なサポートをしてあげるということ。こちらから歩み寄るんです。デザイナーは声が小さいですから。

デザイナーが経営層に名を連ねることの意味

佐藤さん

おそらくサイバーエージェントほどの規模で、デザイナーが執行役員に名前を連ねているケースはほとんどないのではないと思います。じつは就任当初、私自身、執行役員とは名ばかりで、何をすべきか、どうあるべきか、ほとんど軸を持てていなかったと思います。

今でも覚えているのが、社外取締役の中村から「もし、藤田が経営判断を間違えたらどうする?」と聞かれ、何も言えなくて。どこか藤田が絶対的なトップで、間違えるはずがないとたかをくくっていた。仮に誤った判断をしても、自分には気付けない可能性がある。

そしてアドバイスをいただいたのが「藤田が君を執行役員にしたということは、彼の見えない部分のクオリティは任せたという意味だ」と。

要は会社経営とは一人で成り立たせるものではないからこそ、「藤田晋」に見えていない部分、例えば、私ならクリエイティブに責任を負っていくということ。サービスのクオリティはもちろん、クリエイターの採用や育成、人材のマネジメントなどに責任を持つことで、藤田をより重要な経営の意思決定に専念させていく。

執行役員となって大きく変わったのは、サイバーエージェントの生命線でもあるクリエイティブを自分が担っているだという自覚かもしれません。ここは強く意識をしていますし、現状維持ではなく、飛躍をさせていく。ぜひこれからのサイバーエージェントのクリエイティブにも期待をいただければと思います。



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