2013.02.27
自分にとっての“成功”をどう定義すべきか?―ネット寺院開祖 松本紹圭師のライフキャリア論[1]

自分にとっての“成功”をどう定義すべきか?―ネット寺院開祖 松本紹圭師のライフキャリア論[1]

いい会社に入って出世をすれば、それなりの人生が約束される―そんな価値観が通用しなくなった今、我々はいかにして“充実した人生”を見つければいいのだろう?東大出身のMBAホルダーであり、WEB寺院「彼岸寺」を開設した異色の僧侶 松本紹圭さんは、現代を「真の意味で、自分の人生を生きられる時代」だと言う―。

0 0 32 0

現代は、“生きにくい時代”なのか?

良い会社に入って、出世をすれば、それなりの人生が約束される。

そんな価値観が過去のものとなった今、“いかに自分なりの充実した人生を見つけるか?”という問いは、あらゆる人にとって、避けては通れないものとなっているように思う。

そしてそれは、“豊かさとは何か?” “幸せとは何か?”という問いに、自分なりの答えを導き出すことだと言い換えることもできるだろう。

“WEB/IT/ゲーム業界での幸せなキャリアを考える”ことを目的に立ち上がったCAREER HACK。幸せなキャリアを考えるに当たって、幸せな人生を考えないわけにはいかない。

そこで今回は、これからの時代における“幸せな人生”とは何か、という問いについて、改めて考えてみたいと思う。

お話を伺うのは、東京大学出身、MBAホルダーという異色の経歴を持つ“お坊さん” 松本紹圭さん。

松本さんは 浄土真宗本願寺派 光明寺に所属しながら、志を同じくする仲間とともに、インターネット寺院「虚空山 彼岸寺」を開設。さらには音楽イベント「誰そ彼」カフェ「ツナガルオテラ 神谷町オープンテラス」など、従来の仏教のイメージに捉われない、イノベーティブな活動を行なっている。


Higanji_SS


2012年からは、現在の社会におけるお寺の運営と住職のあり方を学ぶ、お坊さんのための人材養成プログラム「未来の住職塾」をスタート。仏教界だけでなく、広く一般の人からの注目も集めている。

人の生き方について教えを説く仏教を、新しい時代にあわせた形へと柔軟に再考している松本さん。今を生きる私たちにとって非常に重要な考え方やヒントを、分かりやすい言葉で語ってくださった。

自分と周囲の人の人生を、“自分で”引き受ける。

― 終身雇用が成り立たなくなるなど、いま、従来の価値基準が揺らいできていますよね。それによって、これまであまり深く考える必要のなかった“どう生きるべきか?”という問題が、あらゆる人にとって重要な問いになってきているように思えます。


ええ、分かります。仏教というのは、その“どう生きるべきか?”という問いに対して、考えるヒントを与えてくれるような存在でもあります。

言い方によっては、“フィクションがない宗教”というか、“心のサイエンス”と呼ぶべきものだと言えますね。とらえどころのない問題に対して、昔から培われた“ものの見方”を教示するのも仏教の重要な役割の一つです。


― 心のサイエンスというのは、とても面白い表現ですね。人間の心のメカニズムとどう付き合っていけばいいのか、方法論を説くのが仏教だと。


その方法論を学んでおられる松本さんが、今という時代をどう生きるべきだとお考えなのか、気になります。

私自身は、今という時代を、より深く“自分に向き合う”ことができる時代だと感じています。“自分の生き方ってこれでいいのだろうか?”という問いに気がつきやすい時代です。



今、社会が行き詰まってきていることに、もう多くの人が気づいていると思うんですよね。そしてそれは景気の良し悪しのような、時代サイクルのレベルの話ではないと思うんです。

右肩上がりの経済成長というものが、実は幻想にすぎないこと。経済を刺激するために何兆円と使って、バブルの熱狂が返ってくるのか、という疑問。そもそも返ってくるべきものなのか、という疑念。

今の時代として見えてきているのは、これまでの“幻想”が壊れてきているということです。現在の経済社会というのは、ある種の“共同幻想”によって成り立っているシステムであるわけですが、その共同幻想が、完全にとは言わないまでも、部分的に崩れ始めている。感性の鋭い方とお話していると、それは強く感じます。実際、そうした感覚が生じたことで、都市部から地方に移る方も少なくないですしね。

共同幻想が崩れてきて、「じゃあ、これからの社会をどうしようか」と、若い人は“自分たちでなんとかしないといけない”と、そう思い始めている時代だと思います。ですから、そういう意味では、自分自身のキャリアを考える際に、システムの側で用意されたものの中から選ぶのではなくて、自分の人生と周りの人たちの幸せを“自分で”引き受けなくてはならない、とするようなマインドセットの転換期がきているとも言えると思います。


― 価値観というか、自分の人生の何に重きを置くのか、その軸が多くの人の中で変わってきているのかもしれませんね。個人的にも、社会という大きなものの存在を捉えることが難しくなってきて、むしろ、自分の目の届く範囲の小さなコミュニティであったり家族であったり、そういうところに貢献することのほうが大事だという感覚が芽生えつつあります。


企業の中でも、仕事のデキる人がどんどんフリーランスになっている、という話もよく耳にしますね。仮に会社に残っていたとしても、今やっていることがたまたま自分にとって意味があるからそうしているだけで。

キャリアに対するイメージが、“上にあがっていく”というものではなくなってきているのでしょうね。いわゆる“成功”というものが多様化していると言ってもいいかもしれない。言い方をかえれば、多くの人が「自分にとっての成功って何だろう」ということをきちんと考え始めている。

他の人と年収を比較して、「オレのほうが上だ!」ということの無意味さに、気づける人は気がついていますよね。


(つづく)
▼インタビュー第2回はこちら
“幸せを掴もうとしない”ことで始まる、幸せな人生―ネット寺院開祖 松本紹圭師のライフキャリア論[2]


編集 = CAREER HACK


関連記事

特集記事

お問い合わせ
取材のご依頼やサイトに関する
お問い合わせはこちらから