2013.03.07
《デザイン あ》《テクネ》に携わる若手映像作家・細金卓矢に学ぶ、時代に流されない映像制作の秘訣。

《デザイン あ》《テクネ》に携わる若手映像作家・細金卓矢に学ぶ、時代に流されない映像制作の秘訣。

国内外で注目を集めた『Vanishing Point』やNHK Eテレ『デザイン あ』の映像作品、ローソン『ほかほかおでんのうた』。これらの映像制作のディレクションを担当したのが気鋭の映像作家・細金卓矢さんだ。彼の生みだす“古びない”映像の裏にある考えやクリエイティブ観に迫った。

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注目作品を連発する若手映像作家の旗手。


2010年に発表された『Vanishing Point』というミュージックビデオをご存知だろうか?ウェブ上に公開された途端に世界中からアクセスを集め、国内外で非常に高い評価を得た映像作品だ。

これを制作したのが、新進気鋭の映像作家(Motion Director)細金卓矢さん。2010年度文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞の『四畳半神話体系』エンディング映像、最近ではNHK Eテレ『デザイン あ』『テクネ 映像の教室』にて流れるムービーや、ローソン『ほかほかおでんのうた』など、数々の作品を手がけている。


Flashの実験サイトが流行していた2004年頃から独学で制作を始めたという細金さん。今やCG/実写/アニメーションと多方面で精力的に作品を発表している彼は、いかにして多くの人々の心を揺さぶる映像を生み出しているのか。若手映像作家の仕事から、時代に流されない映像制作の秘訣に迫った。

映像制作とは“パラメータ”となる要素をどう付与していくかの作業。

― まず始めに、細金さんが“映像制作”というものをどう捉えているのか伺えればと思います。


私自身は制作活動を「一つの作品の時間軸に対して、“パラメータ”となる要素をどのように付与していくか」というものだと考えています。

そもそも映像芸術は「映画制作」といった分野から発展してきた側面があり、映像単体というよりも、音楽など別の要素との密接な関係があります。つまり一つのタイムラインがあって、そこに画や音といった構成要素をパラメータとして割り当てていくことによって、映像作品が生まれるわけです。

作品の構成要素となるパラメータは、“画”や“音”だけではありません。例えばゲームの話で言えば、物理的な“振動”というパラメータを付けることもできます。《NINTENDO64》から一般的になった振動することのできるコントローラーがありますが、これらによってゲームにおけるパラメーターは、“画”や“音”以外に、触覚を刺激する“振動”を獲得したわけです。それによって表現の幅はとても広がったと思います。

問題は、生理的な快感に寄り添えるかどうか。

― 細金さんはCGや実写、アニメーションなどさまざまな手法で作品を作っていますよね。そこに細金さんなりの考えやこだわりがあったりするのでしょうか?


僕自身は“どの表現手法を取るか”はそこまで重視していなくて、それ以前に“生理的な快感に寄り添えるかどうか”ということのほうが重要だと思っているんです。

「現在のトレンドに沿ったものに…」「芸術的な文脈を踏まえて…」というような難しいことはあまり考えず、生理的に“気持ちがいいか”を重視する。語弊があるかもしれませんが、「5歳児が見ても楽しめる要素で構成されているか」ということが大事なんじゃないかと考えていますね。

見る人の“生理的な快感”に寄り添っていくようにすれば、相手のバックグラウンドをそこまで意識しなくても、良い映像が作れるんじゃないかと。


― なるほど、見る人の“生理的な快感”を引き出す映像を目指す、と。そう考えるようになったきっかけというか、何か影響を受けたものなどありますか?


映像…というわけではないんですが、以前、フランスのミュージシャンのDaft Punkのライブで衝撃を受けたんですよ。

彼らのライブは音楽だけでなく、空間演出も素晴らしいんです。ステージにLEDを敷き詰めたバカでかいピラミッドを組んで、とにかく発光させている。単純に、強烈に眩しくて、デカいんです。

それを体験したとき、「人間は強い刺激を与えれば興奮するんだ」という至極当然の事実を再認識できたんです。

極論、デカくて眩しくて目に刺激を与え続けるだけで、人を感動させられるんだと。技術や小手先でどうこうするのとは比べものにならない、“直接的な刺激”が持つ圧倒的なパワーを痛感しました。


― なるほど。その体験が映像制作にも活かされていると。


もちろん、表示されるデバイスがコンピュータだと限界はありますが、最終的にはフラッシュを目に焚き付ければいいんだと(笑)

CMなんかでも、キャッチコピーの連呼が効果的だとか、チラシも文字がデカければいい、みたいな元も子もない話があるじゃないですか。あれに近い感覚ですね。僕はそれを映像の領域で、ちょっときれいめのスタンスでやっているつもりです。

“先進性を排除する”―古びない映像に共通するポイント。

― 細金さんは今後、どのような映像を制作していきたいとお考えなんですか?


時代を経ても“陳腐化しない”映像でしょうか。例えば、作家の星新一さんは時代性を排除した作品を残していますよね。作中に出てくる固有名詞を排除し、抽象的な表現を用いることで、時代の変遷による陳腐化を免れている。僕自身は映像における、そんな作品づくりを目指しています。

そのような理想を持っている一方で、当然ながら、広告など時代性を出さざるを得ない作品を制作する機会もあります。その時には、賞味期限が短いと割り切った上で制作する必要があると考えています。


― 陳腐化を免れるというお話を、より具体的に伺えますか?


いま2000年代前半にリリースされた映像を見ると、どれも古くさい作品だと感じたりしませんか?


― たしかに。表現方法の洗練度も機材のスペックも、今と比べると格段に低いわけですしね。


たしかにそれもありますが、一方で、表現や機材が新しければいいのかというと、そういう問題でもないと思います。「最先端の技術を使っている」ということを良さの源泉に置いてしまうと後々「当時としては凄かった」と回収されてしまいがちです。時代の指標として、そういったものは楽しいですが、作品の良さは、それとはまた別のところで担保したいと思っています。

またゲームの例になってしまいますが、2000年以前にプレイステーションで発売されたゲームの中で、一線を画し、陳腐化を免れているものとして最初に思い浮かぶのが、《I.Q》《ビブリボン》という作品です。

その2作品の特徴は、ソフト・ハードの両面でかなり余裕を持って制作していること。勝負しているところが他のゲームと違うんです。

技術的に背伸びしてギリギリを狙っていない分、後から見た時に「今だったらここもっとこうなるのになぁ」というところが少ないんですね。その時代に使える道具を「いかに効果的に使うか」に注力している。そのため、時代を経ても陳腐化しにくい作品になったのだと思います。


― 現代に置き換えると、どのような映像が陳腐化を免れるのでしょうか?


友人に、菅原そうたさん(SOTA)という映像作家がいるんですが、彼の自主制作作品はまさに“陳腐化しないもの”だと言えるんじゃないでしょうか。《gdgd妖精's(ぐだぐだフェアリーズ)》というアニメの企画・監督・キャラクターデザインを担当する、いま注目あびている映像作家です。



逆説的ですが、“かっこいい”作品のほうが、時代とともにどうしても“時代感”を伴ってしまいがちなんじゃないかと思います。この作品も、実は技術的に結構レベルの高い処理をしているんですが、“時代性”や“先進性”といったものを、表現として徹底的に排除してますよね。

同じノリでやっているのが、この《スペースシャワーTV》のジングルです。



― “宇宙”で“シャワー”……


バックには、Macのデフォルトの壁紙を使ってる(笑)でもこのような映像こそ、ずっと価値を持ち続ける映像作品だと思いますね。


― 「映像」という切り口から普段聞けないお話を伺えました。今後のご活躍も楽しみにしています!ありがとうございました。


編集 = 松尾彰大


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