2013.03.28
音大卒でエンジニア!? ―カヤック・Google・Labitで経験を積んだ新多真琴のエンジニア観。

音大卒でエンジニア!? ―カヤック・Google・Labitで経験を積んだ新多真琴のエンジニア観。

サウンドデザイナー/ソフトウェアデベロッパーという肩書を持つ音大出身エンジニア・新多真琴さん。この春に大学を卒業した彼女が進路として選択したのは、DeNAのエンジニア職だという。アーティストとしての道ではなく、エンジニアとして生きる道を選んだ彼女のエンジニア観に迫る。

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“音大生”דエンジニア”

“音大生”がエンジニアになる―。
そんな話を聞いたことのある人は、果たしてどれくらいいるだろう?しかもコンピュータ音楽を創作するだけでなく、複数のウェブプログラミング言語を駆使する女性ときた。

今回お話を伺ったのは、国立音楽大学をこの春卒業した新多真琴さん。

高校のピアノ科を卒業後、国立音楽大学 音楽文化デザイン学科 コンピュータ音楽系に進学。大学1年時の夏休みにProcessingと出会ったことを機にプログラミングを始め、その後カヤックやGoogleのインターンに参加してきた経歴を持つ彼女。最近では、鶴田浩之氏が率いるLabitに協力し、『すごい時間割』のiOS版の開発に携わってきた経験の持ち主なのだ。

そんな彼女が大学の卒業制作として手がけたのが、『テンスウリズム』というライフログアプリケーション。

異色の経歴を歩んでいる新多さんに、これまでの経験や『テンスウリズム』の開発秘話、そして、エンジニアとして生きる道を選んだ彼女自身のエンジニア観について話を伺った。

師匠は、《リズムシシリーズ》の生みの親。

― まずはじめに、音大生でありながらプログラミングを学ばれたきっかけは何だったのでしょうか?


いきなりでアレなんですが、以前CAREER HACKでも取り上げられていた、《リズムシシリーズ》作者の成瀬さん(成瀬つばさ氏)に勧めてもらったのがきっかけなんですよ。


― なんと、成瀬さんがきっかけだったんですね!


成瀬さんは学科の先輩にあたるのですが、私にとって師匠のような存在ですね(笑)1年生の夏休み前に、「プログラミングを勉強してみようかな…」と口にしたところ、Processingを薦めてもらったんです。その後、自身の制作に合わせていろんな言語を少しずつ触っていきました。


― なるほど。その後、カヤックにインターンとして参加されるわけですね。


そうですね。実はカヤックにインターンできることになったのも、成瀬さんとカヤックのご縁があった関係で…(笑)



― こちらも成瀬さんがきっかけで(笑)それは素晴らしいご縁ですね。


本当にこのご縁には感謝しています。カヤックでは4カ月のインターン期間中に、「ピンに聞いてみよう!」というサイネージのプログラミングをお手伝いさせていただいたり、iOSアプリの制作やメンテナンスを行ったりしていました。また、『エピブロタイピング』という社内向けタイピングアプリや、 『SPACE777』というインタラクティブコンテンツのサウンドを制作する機会にも恵まれました。


― その後、Googleのインターンも経験され、カンファレンスや勉強会などに積極的に参加れていたそうですね。


自分の興味がエンジニアリングというものに向いていた、ということもありましたが、「自分ってどのくらいの価値があるんだろう?」っていう思いが、心のどこかにあったんじゃないかと今では思います。

当時はカンファレンスや勉強会に行っても、「私はここにいていいんだろうか?」と少し不安になることもあったんです。でも、自分から《Software Developer/Sound Designer》と記した名刺を作って「いま音大に通っているんです」と自己紹介すると、多くの人に興味を持ってもらえました。小さなことなんですが、そうした経験ができたことで、私も『エンジニアコミュニティの一員』になれる気がして、自ら積極的にイベントへ足を運ぶきっかけになったように思います。

卒業制作は心から愛してあげられるアプリに。

― そして今春、大学を卒業されるとのことですが、卒業制作に『テンスウリズム』というアプリの開発をされたと。


はい。『テンスウリズム』は「1日を100点満点で記録する」ライフログアプリです。カヤックのディレクターである近藤と、デザイナーの山﨑、そして開発担当の私、3人のチームで開発しました。2月にローンチして、現在も絶賛アップデート中です!


― 『テンスウリズム』について、もう少し詳しく教えてもらえますか?


毎日の自分を100点満点で採点し、それをライフログとして記録していけるものです。

初期構想を持っていた近藤の「1日の自分に点数をつけていくことで、点数の低い自分も愛せるように」というコンセプトを大きな柱に開発していきました。

余談ですが、自分たちで『テンスウリズム』を使ったり、使ってくださっている人たちの毎日のテンスウをみていたりすると、「人生は50点に集約されていく」のではないかと感じているんです。

人生に波があるように、毎日が全く同じではなくて、テンスウの高い日もあれば低い日ももちろんあると思います。その波の平均はきっと50点くらいなんだろうけど、毎日テンスウをつけることで、自分の目線が上がっていって平均は変わらないけど、50点の質が変わっていくんじゃないかと。そんないい影響を『テンスウリズム』で与えていけたらいいなと思っています。


― 素晴らしいコンセプトですね。ちなみに、どうして卒業制作にアプリ開発を選ばれたんですか?


これまでも、多くのアプリケーションやサービスの開発に携わってきましたが、どうしても「お手伝いしただけ…」という感覚が強かったんですよね。なんていうんでしょう、自分が“心から愛してあげられるアプリ”を自分の手で生みだしたかったんです。

期間としては1年ほどかけ、代官山の蔦屋書店なんかで週末開発を行なっていました。使用している言語は主にObjective-CとRubyです。

わからないことがあれば周りにいるエンジニアの友人たちを捕まえて、アドバイスをもらいながら開発していったのですが、フロントエンドからバックエンドまで、すべてイチから自分で開発して形にできたことはやっぱり自信になりました。


― 音楽的な要素は取り入れられたのでしょうか?


いえ、『テンスウ“リズム”』と言ってはいますが、実は“音”の要素が入ってないんですよ…。開発段階では、学生時代に勉強してきた“音”を、アプリの要素として絡めたいという思いは強くあったのですが、ユーザーにとって、ライフログアプリに“音”という要素がどれだけ必要とされているのか、開発段階では測りきれなかったんです。



例えば、スクロールするとテンスウに合わせたオリジナルの音が生成されるなど、“音”の要素を取り入れていく可能性はありますが、ローンチ段階では日々のテンスウに応じて“色”が変わる仕様にし、“音”の要素はない状態でリリースしています。

ただ当時のように、本気で仕様を検討したり、試行錯誤したりしながら、ユーザーの立場になってサービスを考える機会を得られたのは本当に貴重な経験でした。これからも開発は続けていくので、楽しく使っていただけたら、とても幸せです。

アーティストとしてではなく、エンジニアとして生きていく理由。

― 春からはどのような進路に進まれるのですか?


DeNAにエンジニアとして入社する予定です。


― なんと!新多さんの経歴を考えると、表現者になるという可能性もあったと思いますが、どうして、エンジニアの道を志したんですか?


確かに、卒業した学科やこれまでの経験から、自分で何かを表現するアーティストを目指すという道も、もちろんあったと思うんです。私の所属していた学科は主に音楽作品の創作を行っているので、在学中に、いくつかの音楽作品や、openFrameworksを使ったインスタレーションなどを制作してみたりもしました。

でもやっぱり、人と一緒に何かを生みだして、それを改善してより良いものにしていくという、エンジニアの仕事に惹かれたんです。



また、アプリケーションやテクノロジーの可能性を強く感じたことも一因かもしれません。

例えばクラシック音楽のように、コンサート会場などの“決まった場所”で、“目と耳が固定された状態”で楽しむ音楽、いわゆる“生(ライブ)で楽しむ音楽”が人に与える感動の大きさには、計り知れないものがあります。一方で、WEBで配信されるコンテンツの場合、見聴きするには場所を選びませんし、何かの片手間で楽しむこともできます。そのせいか、WEBコンテンツとして配信されるものは、一度見てただ「ふーん」という感想で終わってしまうことも多いような気がします。

こうした、現状、WEBに置き換えることで薄まってしまっている感動を、アプリケーションやテクノロジーを駆使することで、より大きく増幅させることができるんじゃないか。そんなエンジニアリングができるようになれば、とも思っています。


― 今後、どんなことに携わっていきたいと?


DeNAはゲーム分野だけではなく、音楽やECなど、幅広いサービスを提供している企業ですが、一つのサービスに注力するよりも、それぞれのサービスの基盤となっているプラットフォームに関わるお仕事ができたらいいなと思っています。とにかくまずは、3年くらいのタームで一人前のエンジニアになりたい。これまでの知識や経験をゼロに戻すつもりでイチから頑張ろうと思います。

加えて、エンジニアコミュニティに貢献できる人にすごく憧れを持っています。YAPC::Asia TokyoというPerlのカンファレンスに、スタッフとして参加したしたとき、様々なエンジニアの方と接する機会があったのですが、自分のスキルを、自分が属するコミュニティや技術の発展に還元できる人ってすごくかっこいいなと心から思えて。育てていただいた、エンジニアという生き方の魅力を教えてくれた先輩方やコミュニティに対して、何かしらの貢献ができるエンジニアになりたいです。


― 学生時代に様々な経験をされてきたからこそ、エンジニアという職業に対するリスペクトが生まれるのでしょうね。本日はありがとうございました!今後のご活躍も楽しみにしてます!



(おわり)


編集 = 松尾彰大


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