「クラウド録画サービス」におけるマーケットリーダーであるセーフィー。2021年9月に東証マザーズ(当時)に上場し、躍進を続ける。今でこそ当たり前になった「クラウドカメラ」という産業を生み出し、「現場DX」を推進する彼らだが、3年以上におよび「スケールの兆しさえ見えない暗黒の時代」があった!?
セーフィー株式会社
防犯カメラ・監視カメラの「クラウド録画サービス」におけるマーケットリーダー。もともと防犯・監視カメラは「レコーダー」へのハードディスク録画が主流だったなか、「クラウド録画」の仕組みに置き換え、防犯・監視カメラ業界のデファクトスタンダードに。創業以来、オリックス、関西電力、キヤノンマーケティングジャパン、NECキャピタルソリューション、セコム等の大手各社から資金調達、そして資本業務提携を行い、2021年9月には東証マザーズ(当時)に上場。建設業界でいえば「鹿島建設」を筆頭にほとんどの大手ゼネコンにおける建設現場監視にセーフィー社製品が利用されている。さらにIT・通信、小売・サービス、不動産、医療・保育、流通、飲食店、行政、製造・メーカー、金融等、あらゆる業種業態において導入が進み、「現場DX」を推進している。
>>>後編はこちら『セーフィー 佐渡島隆平が語る「PMF」の舞台裏。僕らはただ「便利」を追求し続けた』
ハードシングスをテーマとした連載企画。2014年に創業したセーフィーだが、上場に至るまで最も大変だった時期、出来事について代表である佐渡島隆平さんに伺えた。
はじめの3年間は、資金はギリギリ、ハードウェアも不具合だらけで失望される。何をやっていいかわからず、すごくつらかったですね。
じつは2015年に初めて「クラウドカメラ」をメーカーさんと共同開発でつくったのですが、「Wi-Fiにつながらない」という不具合でほとんどがゴミになってしまった。1台約2万円、3000台ほどつくっていたので、単純計算でも6000万円の損失。それによってしばらく資金もギリギリの状態でした。
BtoCで当たらず、BtoBの営業もしたことがない。無作為にいろいろな業種・業態の人と会っては途方にくれる。毎日、自らドリルを持って設置工事しにいって「こんなビジネス、一生スケールしないよな」と暗黒の時代を過ごした記憶があります。
ただ、繰り返し行なってきた「不具合対応」が突破口につながっていくことになる。
当時、オフィスに倉庫をつくり、検品したり、出荷したり、設置工事も自分たちでいくようになっていて。現場に足繁く通うなかで、不満・不安・不足・不便・不快・不都合など、お客様の「不」に向き合い、解決を推進していくようになりました。
ソフトウェアの世界からだけではなく、業界のサプライチェーン構造の中で、自分たちはどの立ち位置にいるのか。どう定義できるのか。サプライチェーンを何度も見直して、コストに見合うスキームを作っていって。そういったなかでの不具合対応で、たまたま建設現場の方から、
「手づくりしたボックスのなかにクラウドカメラを入れて使っている。鉄筋の細かい状態まで含めて鮮明に見えて素晴らしい。このカメラを建設現場の工程検査で使いたい」
といった声をいただけた。私も現場に行って、ひたすら何が求められているのか、どういったシーンで使いたいのか、徹底的に聞いていきました。真夏には熱で壊れて返ってきたり、やはりWi-Fiがつながらず、ルーターを載せるようにしたり。
そういったことを何度も何度も繰り返し、改善して磨いたプロダクトをもとにどんどん他の建設現場にも営業してまわって行きました。そうしていくなかで監督・検査作業に使いたい、災害現場で使いたい、といただけるようになるなど需要が生まれて行きました。
何よりも大きかったのは、オリックスさんをはじめ、大手パートナー企業、みなさんとの連携だと思います。おそらく当初は「この人たちがやっていることは本当に跳ねるのか」と思っていたはず(笑)ただ、一緒にお客様開拓をし、ゼネコン各社さんでの導入も決まっていった。そこから出資いただいたり、部門をかけて注力いただいたりして、建設現場において大きくスケールしていきました。
はじめの4年ほどは、どこに「不」があるのか、その発見にすごく労力を使っていたように思います。本来、自分たちはソフトウェアだけを書き、メーカーからパッと製品ができあがってきて、お客様に簡単に設置してもらう…みたいなことが理想でしたが、全くそうはなりませんでしたね(笑)
クラウドに対応したカメラOSによるオープンなプラットフォームを。そういった構想をもとに起業した佐渡島さん。理想は描きつつ、目の前では現場に足繁く通う日々。なぜ、折れずに向き合い続けられたのだろう。
シンプルに「好奇心」が勝っていたというのはあるかもしれません。私たちは「映像から未来をつくる」を掲げているのですが、あらゆるモノ、人がリアルタイムデータを基に判断できるようになれば、社会の構造が大きく変わるはず。
当然、私たちがやらなくても、いつか誰かがやるかもしれない。ただ、自分たちがやったほうがおもしろい。そう思えていたので、折れることは無かったですね。
もうひとつ、続けられたのは、お客様の「不」が目の前にあり、そこに応えられるとわかっていたからです。監視カメラが必要な現場は、多かれ少なかれ、毎日作業に重労働が含まれているケースが多いわけです。
たとえば、北海道帯広の酪農農家さんでいえば、マイナス10℃~20℃、寒くてどうしようもない真夜中でも、何百頭という牛を飼ってたら、毎日のようにお産に立ち会わなければいけません。一頭も見過ごせないので、目視で見てまわっていた。もし、「こたつ」のなかからクラウドカメラでチェックができれば、どれだけ楽になるか。こういった課題を目の前で解決できる。そこにはやっていく価値がありますよね。
加えて「この産業を一緒につくっていこう」という従業員、株主、大手パートナー企業のみなさんを含む「仲間」がいたことも大きかったと思います。クラウドカメラにしても、いずれGAFAMのようなテック企業がやってきて同じようなことをやるかもしれない。そこに日本企業として対抗ができるか。
少なくとも画像処理関連の技術、ゲームやカメラでいえば、日本のお家芸といってもいい。品川から新横浜エリアにはソニーやキヤノンをはじめ、メーカーが拠点を置いていますし、画像処理のエンジニアリングという観点でみれば世界の産業集積地。その価値を、輸出していきたい。まだまだ自分たちにもできることがあるし、もっとできるはず。やり抜かなければ生きていけない。そんな思いもどこかにあった気がします。
当時のハードシングスを振り返り、佐渡島さんは「顧客の不」に比べれば大したものではないと笑顔で語る。
社会の課題、そこに向き合っている人たちの不、すべての労力から考えたら、僕らがやってることはプログラム書いて、ハードウェアを送り出し…と、正直大したことはやってないわけですよね。
そういった意味でいうと、社会で一番重荷を背負っている人たちと一番近くで向き合い、一緒に作っていく。そこが一番簡単そうで大変なところなので、ハードシングスの本質だったのかなと思います。
逆説的に言うと、一番スケールしないことを徹底することが大事で。「DoorDash」は自分たちでひたすらデリバリーしていたと言うし、「Airbnb」も自分たちの部屋を貸すところからスタートしたといいます。
こういった最もスケールしないことを徹底してやり抜き、最後に見つかった顧客のインサイトこそがスケールの鍵になっていく。セーフィーでも結果的に、建設現場で起きている事象は、警備でも、プラントでも、小売でも、あらゆる場所で起きていることが見えてきた。そこを見つけていくドラクエの旅みたいな感じかもしれません。
当然、「お金が無くなります」「チームが上手くいきません」「お客さんが悲鳴をあげています」と、いろいろなことが同時多発的に起きますが、それらも一つひとつの課題に過ぎなくて。ひたすら「スケールしないポイント」をやっていけばやっていくほど開けて、スケールするポイントが見えてくる。それはすごい面白いなと思っています。
>>>後編はこちら『セーフィー 佐渡島隆平が語る「PMF」の舞台裏。僕らはただ「便利」を追求し続けた』
取材 / 編集 = 白石勝也
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