2022.10.28
セーフィー 佐渡島隆平が語る「PMF」の舞台裏。僕らはただ「便利」を追求し続けた

セーフィー 佐渡島隆平が語る「PMF」の舞台裏。僕らはただ「便利」を追求し続けた

防犯・監視カメラの「クラウド録画」を当たり前にーー。ソニーグループ出身の3名で2014年に創業、2021年9月には東証マザーズ(当時)に上場し、「現場DX」を推進するセーフィー。いかにマーケットリーダーとなれたのか。そしてなぜ、大手各社と手を組むことができたのか。代表である佐渡島隆平さんに伺った。

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セーフィー株式会社
防犯カメラ・監視カメラの「クラウド録画サービス」におけるマーケットリーダー。もともと防犯・監視カメラは「レコーダー」へのハードディスク録画が主流だったなか、「クラウド録画」の仕組みに置き換え、防犯・監視カメラ業界のデファクトスタンダードに。創業以来、オリックス、関西電力、キヤノンマーケティングジャパン、NECキャピタルソリューション、セコム等の大手各社から資金調達、そして資本業務提携を行い、2021年9月には東証マザーズ(当時)に上場。建設業界でいえば「鹿島建設」を筆頭にほとんどの大手ゼネコンにおける建設現場監視にセーフィー社製品が利用されている。さらにIT・通信、小売・サービス、不動産、医療・保育、流通、飲食店、行政、製造・メーカー、金融等、あらゆる業種業態において導入が進み、「現場DX」を推進している。

>>>前編はこちら『最初のハードウェア共同開発で課題に直面…約6000万円の損失。「セーフィー」PMF前夜は暗闇だった』

2012年から構想。来たる「データ駆動型社会」を見据えて

今でこそ当たり前になった防犯・監視カメラの「クラウド録画」。彼らはいつ、どのように着想を得たのか。時は2012年まで遡るーー。

2012年当時、ソニーのグループ会社で働いていたのですが、ちょうどディープラーニングが注目され始めた頃。コンピュータリソースさえあれば大量のインサイトが抽出できる、もしくはそれが予見できていました。

またハイプ・サイクル*において、世の中は「データ駆動型社会」に振れていくだろうと。要するにエッジAIが普及し、あらゆるデータがリアルタイムで溜まり続けていく。そこに顧客ニーズが掛け算されるプラットフォームが構築できれば、一気に産業として発展していくだろうと考えました。

* ガートナー社が毎年発表している、テクノロジーやアプリケーションが時間の経過とともにどのように進化するかを視覚的に説明したもの。「黎明期」「ピーク期」「幻滅期」「啓発期」「生産性の安定期」の5つのフェーズで示される。

それは「ハードウェアとソフトウェアの主従関係」が変わることを意味した。

それまでのハードウェアは「買った瞬間」が最新の状態であり、ソフトウェアも組み込まれていましたが、いわば「おまけ的」な存在でした。そうではなく、ある意味、クラウドをOSとして見立て、クラウドドリブンでハードウェアが動く仕組みに置き換えていく。

そうすることでコスト面でコントロールが効きやすくなり、セキュリティの観点からもデータ抽出直後に暗号化でき、堅く防御できるはず。さらに一番大きな変化だと感じたのが拡張性です。常にアプリケーションがアップデートされ、どんどん賢くなっていく。そんなクラウドに対応したカメラOSを作り、いろいろなメーカーに使ってもらえるようなオープンなプラットフォームを構想していました。

近い将来、あらゆるカメラデバイスにGPU(Graphics Processing Unit)とエッジコンピューティングは実装されていくはず。ただ、実際にビジネスとして立ち上がるのは5G環境が整い、GPUのコストが一気に下がる「2021年から5年間ほど」と見立てていました。その産業構造が大きく変わるタイミングまで待っていたら、乗り遅れてしまう。そこで。わかりやすく「クラウド録画」のニーズがある防犯・監視カメラの市場をまずは取っていこうと考えました。

+++

ソニーグループでの新規事業として「クラウドカメラ」を手掛ける選択肢は無かったのだろうか。

当時のカメラ開発の主流は、あくまで「その瞬間をキレイな映像で撮る」付加価値の追求にありました。言ってしまえば、防犯・監視カメラは注力すべき商材ではなかった。

また、ソニーグループでやるとなれば当然、自社のカメラやチップへこだわらざるを得ない。製品ラインアップも決まっており、仮にGoが出たとしてもリリースまでに相当な時間がかかってしまう。何よりソニーグループでは他社のカメラも含めて活用できる「オープンなプラットフォーム」の構築は難しい。そこで上司にも相談した上で、ソニーからの出資を受け、同じ志を持つ2人と独立することになりました。

+++ソニーのグループ会社時代に、顔認識システムを用いた事業開発を行なっていた佐渡島さん。機械学習したアルゴリズムにおけるライセンス事業を手掛けるも「全くスケールしなかった」という。「読み取った顔がゾンビになったり、メイクのシュミレーションができたり。エンターテイメントとして面白かったのですが、決まった領域にしかアプローチできず、解決できる課題も小さいものでした」と当時を振り返る。

自社でカメラの開発はしない

クラウドに対応したカメラOSをつくり、オープンなプラットフォームをつくる。この構想の実現に向け、最初に決めたのは「自社でカメラの開発は行わない」というシンプルな戦略だった。

当時から市場に優れたハードウェアが多く出回っていましたし、そこでは勝負ができないとわかっていました。在庫を抱えるリスクも大きい。一方で、数万台、いずれ数十万台ものカメラから送られてくる膨大なデータ量を抱えきれるクラウドシステム、プラットフォームを構築できるメーカーはあるか。ケイパビリティ(開発能力やリソース)があるか。そう考えた時、自分たちにこそチャンスがあると考えました。

そこで私たちは自社が開発したソフトウェアモジュールをメーカーに無料配布していきました。ただ、当然、オンプレとの比較でいえば、そっちの方が短期的には儲かるので、メーカーがクラウドカメラを積極的に売るメリットはあまりありませんでした。

なので、私たちは自分たちでも営業部門を持ち、どんどんお客様を開拓していった。そこで「不」を見つけて解消していきました。あらゆる業態・業種の企業に営業して「便利だ」と認めてもらった上で大手企業に参入してもらい、拡販していく。ひたすらこの繰り返しでしたし、今もそうですね。

彼ら自身、積極的にクラウドカメラを販売していけば、当然バッティングする大手メーカー製品もあったはず。なぜ、対立せず、次々と手を組むことができたのだろう。

どういった瞬間に、大手メーカーが「スタートアップと組もう」となるのか。「このまま並行したら勝ち目がないかも」「血みどろの戦いになるかも」と思ってもらえた時なんですよね。そう思ってもらうのもシンプルで、スタートアップである自分たちがPMF(プロダクトマーケットフィット)をやり切れているか。

大手メーカーにとって、自分たち以外のプロダクトが市場でどんどん売れていく様子を目の当たりにすれば自然と「一緒にやりたい」となるはず。私たちとしても対立するのではなく、「むしろ一緒にやりましょう」と手を組んでいく。そうすることで新しい産業を共につくっていこうと考えました。メーカーとしてはハードに差異化ポイントをおけるし、リカーリング*でも売れる。こうして敵から味方に変えていくことができたのだと思います。

* 定期的・継続的にサービスを購入してもらい、長期にわたり利益を得られるビジネスモデル

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そのプロダクトは、顧客ニーズに応え切れているか

いかに大手メーカーに「このまま戦うより、手を組んだほうが得」と思わせられるか。その本質は「顧客のニーズに応えきること」にあると佐渡島さんはいう。

お客様にとって使いやすいか。インサイトに踏み込んだプロダクトであるか。極端にいえば、そこしか問われていないのだと思います。

技術の隆盛、ハイプ・サイクルにおいて次に何が来るのか、誰もがもうわかっていることですよね。PMFはどんな順番で起こるか、どの業界が伸びるか、競合はどこか、SaaSのメトリクスで…LTVで…と、いろいろな議論がありますが、それらは全て重要じゃないと私個人は考えています。シンプルに「使いやすいサービス」か。それが出た瞬間、業界の景色は一変するか。動画配信がYouTubeによって世の中に広まり、ポケットコンピューターも「ザウルス」ではなく「iPhone」が出た瞬間に一気に花開いたように。

なので、僕らとしても「全ての映像がクラウドにあがる」その新たなサービス、プロダクトがどうあるべきか。お客様と向き合って、「不」を解決する。ここにひたすらフォーカスをしてきました。

その中でいい事例が出てきたら、自分たちだけで儲けようとするのではなく、大手メーカーとやらせていただき、より早く産業を大きくしていく。彼らが僕らのようなスタートアップと手を組む理由も、資金力や技術力ではないですよね。どこまで深くインサイトを見にいけているか。お客様が解決したい不をサクッと解決できるプロダクトであり、買ってもらえているか。ここに尽きるのだと思います。

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自社でのカメラ開発はしないが、メーカーと共同でサービス提供するセーフィー。「この領域は、ハードの開発、工事、お客様の目的に応じたカスタマイズとサプライチェーンがすごく広くて深い」と佐渡島さんは語る。「その上で徹底してやっているのが、お客様と現場でPoC(概念検証)しながら、実際に買って頂けるところまで磨き込むこと。ハードウェアもアジャイルで提供できることが強み。むしろそうしないとより深い「不」が拾えない。現場で拾えた「不」を解消するための製品をメーカーさんと作り、そこに準じたアプリケーションを即座に提供する。参入しやすい状況をつくる。このサイクルを高速で回しています」

「選択と集中」のために、無数の選択肢を試しまくる

そしてもう一つ、彼らが取ったユニークな戦略が「集中すべきプロダクトを1つに絞らない」というものだった。

合理的に考えたら、スタートアップは1つのプロダクトに集中し、それを大きくしていくべきですよね。ハードウェアでいえばミニマムのオーダー数も多く、コストもかかる。営業のパイプラインで見ても、同時多発的に営業はできない。なので豊富なラインナップを揃えていくのは無謀ともいえます。

ただ、顧客のニーズに沿って考えると、建設現場には建設現場のカメラ、飲食店は飲食店のカメラ、マンションにはマンションのカメラ…と、当然求められる製品はバラバラになってくるわけです。

さらに私たちのように全く新しいハードウエア産業構造を作ろうとすると、どこで当たるか正直分からない。僕は当初「自宅のホームカメラ」としてスケールすると思っていたが全くダメでした(笑)

なので、私たちは建設現場用のスケールしたカメラでベースを築きつつ、多面的に展開する戦略を取ってきました。よく世の中で「選択と集中」と言われますが、そもそも多面的にプロダクトがあるからこそ、選択ができるわけですよね。そこから、当たりそうなところを集中的に取り組み、結果が出る。単に集中だけしてもマーケットのニーズは拾えません。

なので、PMFを真剣に考えれば考えるほど、多様なニーズを全て洗い、知った上で、選択し、集中しなければチャンスを逃し、会社は大きくなっていかない。ただ、ギリギリを超えてまで選択肢を広げると立ち行かなくなってしまうので、「ここに集中しよう」が選べるまで広げ切って、さらに耐え抜けるか。

また、建設現場にフィットする製品が売れたものの、その一つのプロダクトをただ大きくしていっても「業界全体の不」を解決しきれないことにも気がつきました。

たとえば、あくまでも例ですが、「屋外だけではなく、内装工事でも使いたい」「もっと小さいサイズで作れないか」と要望をいただき、それに応えていくとして。ただ、当然、深いインサイトから生まれたプロダクトではないので、必ずしも内装のニーズにフィットしないこともあります。そこから、さらに内装だけではなく、配管工事などでも使えないか、別のニーズを探りにいくわけです。

たとえゴミになってしまったとしても、まずは1000台くらいアジャイルでVer.1のハードウェアを作り、顧客を見つけるためだけに使っていく。そこからインサイトに近いところでVer.2に持っていき拡販をする。結局、一発で大当たりするハードウェアなんてほとんど存在しないわけです。同時に業界のインサイトを深く掘りに行かないと、そもそも高収益につながらず、業界でのカバレッジもとれない。そういった意味でも多面的に取り組んだ上で集中するポイントを定めていくことは非常に大事だったと思います。

(おわり)


取材 / 文 = 白石勝也


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