2022.07.15
俯瞰力を磨け。シナモンAI 堀田創さんと考える、AI時代に淘汰される人材・生き抜く人材

俯瞰力を磨け。シナモンAI 堀田創さんと考える、AI時代に淘汰される人材・生き抜く人材

AIベンチャー「シナモンAI」執行役員フューチャリストである堀田創さん。AI戦略におけるビジネス実装の決定版『ダブルハーベスト』主著者としても知られる。「2030年、AIは100兆ドルの産業になる」と解説してくれた堀田さん。すぐそこまで来ているAI時代、求められるスキルとマインドセットとは――。

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2030年、AIは「100兆ドル」の産業へ

堀田さんが共同創業されたシナモンAIですが、従業員が200名を超える拡大フェーズにあると伺いました。まずはその背景から伺ってもよろしいでしょうか。

前提として、AIが産業として拡大しており、その追い風があります。では、AIはどのくらいの市場規模に拡大していくか。ARK Investというアメリカのファンドのレポートによれば、2020年に「10.5兆ドル」だったAIの市場規模は、2030年に「108兆ドル」に拡大するとしています。

つまり、たった8年でAIは主力産業へと置き換わっていく、ということ。ここまでわかりやすく「AIが伸びる」と示唆されているわけです。同レポートによれば、2020年における「イノベーション以外の既存領域全て」をあわせて「94兆ドル」。それ以上の市場が生まれることになります。

ちなみに最近注目されているブロックチェーンでさえ、2030年の予測は「49兆ドル」。成長率は高いものの、AI領域の半分に過ぎません。明らかに「AIが前提となる社会」がすぐそこまで来ており、その波のなかにシナモンAIもいると捉えています。

※参考:日興アセットマネジメント ARK Invest 紹介ページ「Big Ideas 2022」より
https://www.nikkoam.com/files/sp/ark/docs/bigideas2022/all_BigIdeas2022_J.pdf

* ARK Invest(アーク・インベストメント・マネジメント・エルエルシー)…"破壊的イノベーション"への投資に特化した運用会社。フロリダを本拠地とし、アナリストの多くがテクノロジー企業などの出身者で構成される。

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シナモンAI 執行役員フューチャリスト 堀田創
シリアル・アントレプレナー。25歳で慶應義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程修了、工学博士。レコメンデーションエンジン、ニューラルネットワーク等の研究に従事。2005年、2006年にはIPA未踏ソフトウェア創造事業に2度採択された。2005年より株式会社シリウステクノロジーズに参画し、位置連動型広告配信システムAdLocalの開発を担当。在学中にネイキッドテクノロジーを創業、その後同社をmixiに売却。日本において3回企業売却を経験。その後、AI-OCR・音声認識・自然言語処理(NLP)など、人工知能のビジネスソリューションを提供するAIベンチャー「シナモンAI」を共同創業、執行役員を務める。著書に『ダブルハーベスト──勝ち続ける仕組みをつくるAI時代の戦略デザイン』『チームが自然に生まれ変わる──「らしさ」を極めるリーダーシップ』がある。

日本企業の「垂直統合」を強みに変える

いわゆる「AI時代」が到来するというわけですね。そういったなか、大手を中心に日本企業はどう戦っていくといいのでしょうか。

AI戦略のデザイン、ビジネス実装については『ダブルハーベスト』にも書いたのですが、私は日本企業にこそ勝機があると思っています。

というのも、日本がこれまで得意としてきたいわゆる「垂直統合」、単一の企業・グループが全てを担うビジネスモデルを強みに変えることができるのがAI戦略だからです。

例えば、「CSの電話がすごく丁寧」「商品がすごく良かった」「届くまで早かった」「次もまた買いたい」といったUX向上は、幅広いオペレーションの複合体によって成されるもの。それを全て自社でやれている場合、ビジョンやフィロソフィーだけではなく、データを含めて統一することができるわけです。

もし仮に「ビジネスのゴールを、サービス全体に対する満足度評価において、顧客から連続で高評価をもらうことに置こう」とした場合、全領域の社内ツールにもフィロソフィーが反映されたほうがいい。オペレーションの最適化、AIの最適化により、AIの学習効率も上がっていく。これがE2E(end-to-end)でのバリュー発揮、全体最適化につながります。。セールス領域だけに特化したCRMツールだけでは、この世界観は実現されていかないわけですよね。

AIの最適化が進むプロセスとして、例えば先ほどの例でいうと「まずはコールセンターの一部業務でAIが活用できそう」から始まり、「コールセンター業務がほぼAI化できる」となり、次の工程である「ロジスティックスにも統合できそうだ」と社内連携が組まれていく。そう考えると、日本企業の方がじつはDXに取り組むための土壌が豊かだと考えています。

もう一つ、少し別の視点で、AI時代に日本企業が有利だと思う理由として、コングロマリット系のビジネスのあり方があります。例えば、「家の設備も、家電も含めて、とにかくすごく快適で健康的な生活を送りたい」とした時、日本企業って意外と実現できるポテンシャルがあるわけですよね。IoTで家と家電がつながることはもちろん、AIが健康状態を把握し、食べるもの、必要な運動量を教えてくれたり、病院にいくべきタイミングを知らせてくれたり、いわゆる「健康を守る生活」を日本の家電メーカーさんなら今後提供ができるかもしれない。世界でそういうことができる企業は多くありません。日本のコングロマリット思想は「選択と集中」の観点で見るとネガティブに受け取られることも多かったですが、じつは包括的なアプローチが取れる、全体最適の考え方からすると良いこともたくさんあります。もしかしたら東洋医学の発想にも近いのかもしれません。西洋的な発想だと「ここに痛みがあるので、それを取り除くためにそこを治癒します」という部分最適の発想。東洋は「カラダ全体のめぐり」の話をしていく。それと同じようにビジネスにおいても、ビジョンドリブンで「人の営み全体のめぐり」を扱い、あらゆるデータを全てAIに繋げられる家電メーカーさんは世界をリードする存在になり得ると思っています。

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AI時代に淘汰される人材の共通項

近年だと、そういった大企業とベンチャーのアライアンスも活発だと感じます。それもビジョンドリブンで、より包括的なサービスを提供していく流れと言えそうですね。

そうですね。やはり数兆円規模の市場を取りにいこうと考えたら、大企業にこそ機会とチャンスがある。足りないところを埋める意味で、ベンチャーと共存していく流れはあると思います。ただ、ここが難しいところでもあるのですが、そういった全体最適、戦略デザインの「絵」を描ける人材が少ない。裏を返せば、そこが今後より求められていくと考えています。

まず明らかな世の中の流れとして、一人の人間が幅広くカバーすることが大切になっていますよね。簡単に言えば、「僕は技術者ではないので、技術のことはわかりません」という人はほとんど淘汰されてしまうし、同じように「僕は技術者なのでビジネスはわかりません」という人も必要とされない。こんなことがひたすら起こる世の中になると思っています。

前提として「専門性」そのものが、かなり幅広くカバーした上でしか成り立たないものになってきていて。例えば、2008年頃に私が研究していたニューラルネットワークは、もともと心理学と認知科学、神経科学の融合から起きた分野で、当時は人工知能とは別のものと見なされていました。それが2012年頃に「むしろこっちがAIなんじゃないか」となり始め、2015年にResNet*が出てきたわけです。つまり今が2022年なので、実務で使えるニューラルネットワークについて最も詳しい人でもたった7年間しかやっていない。つまり「数十年来の職人」がほとんどいない領域。現在、注目されているブロックチェーンにしても似た状況にあります。メインとなる技術にせよ、産業にせよ、ここまで短いスパンで変化していくわけなので「自分がやってきたこと」はありつつ、柔軟に移ることができるか。逆説的ですが、フットワークの軽い人がむしろ専門性を出しやすいのだと思います。

*Microsoft Researchによって提案されたニューラルネットワーク・画像認識分野のモデル

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AI時代に求められるのは「リーダーシップ」と「俯瞰力」

AI時代においては専門性の発揮の仕方が変わる、ということですね。そういった中でも、特に大切になるスキルや考え方はあるのでしょうか。

今後身につけていくべきは「いろんなもの/ことが俯瞰で見えている」という能力、そしてリーダーシップを発揮するポジションを取る。むしろそこにしか、本質的な価値提供ができる場所はないと思っています。

まずAI時代にどういった部分が求められていくか。大きく2軸あり、マトリクスで表現できると考えています。横軸が「連携の重要性」、縦軸が「環境変化」です。

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例えば、法律事務所やコンサルティングファームなどは連携の重要性が低く、個人個人のパフォーマンスが重要だったりするわけです。

そのなかでも経営コンサルティングは「環境変化が大きい」領域。不景気になるなどした時、今までワークしていたビジネスプロセスがワークしなくなってしまう。

そして、右下には「工場」などが当てはまります。ここは完全にプロセス主義。とにかくしっかりみんなが連携し、プロセスを守ってくれればいい。環境変化が少なく、プロセスが定義できます。一方で左上のコンサルは成果主義。環境変化は大きいけれど、売り上げを上げることがすごく大事で、個人の評価と成果と結びつけばいいモデルです。

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そして、一番重要なのが、AIがメイン産業になったとき、どこにプロットされるか。

プロセスが定義できない上に、成果でも評価ができない領域。環境変化が大きく、さらに連携も重要なエリア。AI戦略が求められるDXは全てここにプロットされます。

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すべてのビジネスパーソンは「成果主義か、プロセス主義か」という二元的な捉え方をしていますが、もうその発想はシフトさせていかなければいけない。なぜなら、AIがメイン産業となったとき、一番市場から求められるのも、この領域の人材になるからです。そこで求められるのが、トランスフォーメーションに強い新しい形の「リーダーシップ」です。わたしはこれを「トランスフォーマティブ・リーダーシップ」とよんでいます

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いろんな人と連携しなきゃいけない。そのためにも俯瞰して全体が見えている必要がある。営業も、リサーチャーも、エンジニアも、品質管理も、データも、CSも、いろんな人と連携し、1つのことを成し遂げる。ただ、その成し遂げたことがすごかったのか、すごくなかったのか、よくわからないということが起きるわけですよね。 その中で最も重要なのが、リーダーシップです。ビジョンドリブンでいろんな人を引っ張っていって、みんなが楽しんでる状況を作っていけるかどうか。

そのためには、技術、ビジネスモデル、コミュニケーション、エンタープライズのダイナミックス…これら「深い理解」が複数で求められていく。それだけのことを同時にやらなきゃいけない世の中がやってきます。

当然、簡単ではないですが、エキサイティングであることは間違いないですよね。失敗するかどうかは、本当にどうでもいい話。チーム連帯こそが全てなので、極端にいえば「うまくいかなかったので責任を取ります」という話は全くフィットしない。そんなことよりも、自身はもちろん「果敢にチャレンジしようよ」とまわりをエンカレッジできるか。何が起きるかわからないからこそ、OODAループ(ウーダループ)と呼ばれたりしますが、いま何が起きてるか正確に把握し、起きていることと理想と現実のギャップを分析できるか。そういった部分含めての「リーダーシップ」と「俯瞰力」を身につけていく。まずはこのメンタリティを身につけることが、これからのキャリアにとって最も重要になるはずです。

(おわり)


取材 / 文 = 白石勝也


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