2016.10.18
マネジメントはAIやロボットと共生していく。今、ミレニアル世代がリーダーシップを学ぶべき理由|横石崇

マネジメントはAIやロボットと共生していく。今、ミレニアル世代がリーダーシップを学ぶべき理由|横石崇

僕らはこれから直面する。着実に仕事を奪われていく未来に──試算(※1)では、今後10~20年で日本の労働人口の49%がAIやロボットで代替可能だという。働き盛りに差し掛かった僕らはどうすればサバイブできる?「新しい働き方の祭典」を主催する横石崇が重視するのは「次世代型リーダーシップ」だった。

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働き方のスイッチを切り替える音が、聞こえた

今年が2016年だから、19年後の未来の話だ。

あなたはちょっとエラくなったり、あるいは転職したりしているかもしれない。いずれにせよ、もし2035年にも「働き続けたい」と考えるならば、今回お届けする記事はひとつの道標になるはずだ。お話を伺ってきた30歳の僕にとっては、意識の片隅で「スイッチが切り替わる音」を聞いた瞬間だった。

築地市場の移転や東京オリンピックが(きっと)終わって、僕らが次のステージを生き始めた2035年。厚生労働省がまとめた報告書によれば、多くの企業は「プロジェクト型」の組織形態を取っているらしい。僕らは抱え込み型の「正社員」としてではなく、各プロジェクトごとに招集され、業務を進める働き方をしていると予想が立っている。

TWDW_横石崇さん


「それが幸か不幸かはさておき、プロジェクトベースの働き方やフリーランスとしての動きが求められる時代には、次世代型リーダーシップが必要だと思って注目しています」


コミュニティを軸にしたマーケティング戦略をはじめ、企業の組織開発や人材育成などを手がける「& Co.」代表取締役の横石崇さんは言う。横石さんは勤労感謝の日の前後7日間を通して、渋谷ヒカリエで働き方にまつわるトークセッション&ワークショップを行う「Tokyo Work Design Week」を主催して5年目になる。今年の全体テーマは「リーダー」だ。

リーダーと聞くと、僕の頭には高校時代の生徒会長や、新卒で勤めた会社のパワフルな部長の姿が浮かぶ。あんな人になれるのか、どうも自信が持てない。

「……必要とはいえ、その、次世代型リーダーシップは誰もが養える能力なのですか」

横石さんは「できると思う」と答えてくれた。でも、どうやって?……その話をする前に、まずはいくつかの“未来の働き方”に目を光らせなくてはならない。

(※1:野村総合研究所 「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に~601種の職業ごとに、コンピューター技術による代替確率を試算~」https://www.nri.com/jp/news/2015/151202_1.aspx


[プロフィール]
横石 崇 & Co.代表取締役/TWDWオーガナイザー
NHKなどで「若者がつくる未来」の象徴として取り上げられた、のべ1万人を越える参加者が集まる、新しい働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」代表。1978年生まれ、多摩美術大学卒。テレビ局・新聞社・雑誌社・ポータルサイトなど様々なメディアサービスにまつわる新規事業開発を手がけるほか、コミュニティを軸にしたマーケティング戦略に注力。企業の組織開発や人材育成に携わるなど、クリエーティブ・オーガナイゼーション・カンパニーの会社経営者として9年目を迎える。2016年5月より「& Co.,Ltd(株式会社アンドコー)」を新設。2014年より、WIRED[日本版]のコミュニティ・コントリビューションを行う。[TWDW]http://www.twdw.jp/

マネジメントはAIやロボットと共生していく

会社の研修で学んだような「リーダーシップ」は一旦忘れるべきなのだろう。冒頭で書いた野村総合研究所の話を引けば、僕らはこれから「AIやロボットと共生する働き方」を考えなくてはならず、中でも大きく変わるのはマネジメントだと横石さんは言う。

横石 従来のマネジメント職が務める仕事は、AIやロボットに任せてしまえるものが多くなるはずです。すでにベン・ウェイバー(※2)の“People Analytics”のように、誰と会話し、それがどれだけ業績に関与したかといった職場コミュニケーションや生産性管理などのデータをつかって科学しながら、新しい組織マネージメントスタイルをつくる取り組みが始まっています。身近なものでも、たとえば、クラウド会計の『freee』や名刺管理の『Sansan』といった経営企画・管理をドライブさせるような便利なツールも次々に生まれている。すると、それらを管理したり、やりくりしていたマネージャーや中間管理職という仕事がなくなり、極論を言えば自分たちで管理する必要さえなくなります。マネージメントのクラウド化と言ってもいいかもしれません。


僕らがリーダーになる頃には、働き方だけでなく、コミュニケーションや情報の管理もAIとロボットが担うようになっている。つまり、それらの仕事をするためにリーダーに求められていた能力やマネジメント手法は通用しなくなっている可能性が高いということだろう。

(※2:米企業「Humanyze」社の社長兼CEO。MITメディアラボ客員研究員。社員に取り付けたセンサーデータと関連データを掛け合わせ、職場環境の改善策などを導き出す“People Analytics”を推進。著書に『職場の人間科学』(早川書房)がある)

これからは「マネージングプレイヤー」が主流になる

その潮流に「大企業勤めのミレニアル世代」は危機感を抱き始めているようだ。横石さんはクリエイティブエージェンシーのロフトワークと共催で、『100年つかえるリーダーシップ』という体験プログラムを、20代〜30代の選抜された参加者30名と先日実施したばかりだった。

プログラムではワークショップを「チャレンジ」と呼び、2日間にわたって5つの課題に挑んだ。参加者の多くは大手の広告代理店、通信会社、鉄道会社などに勤めており、アンケートでは7割が「トップダウン型のマネジメント」で働いていた。

TWDW_横石崇さん


横石 これからは「プレイングマネージャー」ではなく「マネージングプレイヤー」にシフトしていくのではないか、という流れがあります。マネージングという機能よりも、プレイヤーに対して価値が置かれるようになる。いまマネージメントのことを勉強するよりも、プレイヤーであり続けるために必要なことを経験しながら、若い世代は身につけた方がいい。


このシフトは組織のあり方にも変化をもたらすだろう。トップダウンを始めとする「ツリー型」から、個々のプレイヤーがプロジェクトをマネージングしながら相互に働く、いわゆる「リゾーム型」へ組織が変わっていく流れを予感させる。そして、横石さんはこの流れに合わせて、仕事は「役職志向」ではなく「役割志向」になっていくとも言う。

肩書きに限定されるのではなく、仮に横石さんならば「プランニング」「ウェブ開発」「司会業」といったように、個性に紐付いた「役割」を増やすことで、プロジェクトベースの仕事に参加しやすく(あるいは招集されやすく)なっていくのだ。現にいま、横石さんは大手電機メーカーの事業部に「コミュニケーションとチーム作りのサポート」としてプロジェクト参画しているが、それも横石さんが担える「役割」のひとつでしかない。

リーダーシップを可視化する「5パート+1ベース」

ここで一旦、話を整理しよう。まずは、僕らがリーダーになる頃には、従来のマネジメントやリーダーシップの手法が通用しなくなる可能性が高い。それから、仕事はプロジェクトベースになり、個々人が役割で集まったプレイヤーとして働くようにシフトする。

この2つの変化に対応し、より良く仕事を進めるために、横石さんは「次世代型リーダーシップ」が必要だと考えているのだ。

横石 次世代型リーダーシップに必要なのは、交渉力、観察力、共感力、表現力、実行力。そして、創造力がすべてのベースに置かれます。中でも重要なのは共感力。昔ながらの「リーダーシップ」は、数値などの達成したい具体的な成果に向けて「みんな、あっちだ!」と走らせるようなことでした。ただ、現代は答えがわからず、複雑で正解もないことをやっているケースも多い。余白のある仕事で求められるのは「課題解決」ではなく「問題発見」で、最初に問題をいかに見つけ出せるかです。その問いに対して、どうやって人を動かし、巻き込んでいくかを考えると、共感する/してもらう力が何より大切になるわけです。


たとえば、新規プロジェクトでチームビルディングをする際には、ディスカッションを通じてお互いを「観察」し、相手に「共感」しながら進めていく。プロトタイプを作って実験するならば、まずは「実行」して手を動かすことが大切になってくる。

そして、どうやらリーダーシップという言葉の意味合いも、従来とは少し異なっているように感じる。「チームを率いてまとめる」だけではなく、「プロジェクトをより良く能動的に進める」ために必要な能力とも取れそうだ。

次世代型リーダーシップに必要とされる要素

次世代型リーダーシップは修羅場で磨かれる

TWDW_横石崇さん


では、共感力をはじめとして、次世代型リーダーシップは誰もが養える職能なのだろうか? 横石さんは「できると思う」と答えた。なぜなら、日本人はそもそも「リーダーになる教育を受けていない」からだ。

横石 教育を受けていないどころか、ロールプレイングすらしていない。立場が人を作るという話もありますが、10〜20年で49%の職能がなくなるということは、その反面で”ヒマ”が増え、仕事も減る。すると、リーダーシップを養えるチャンスの「修羅場」を体験できる機会も減ってしまうことになる。だからこそ『100年つかえるリーダーシップ』では、自分たちでリーダーシップを磨くための修羅場=チャレンジを作って挑戦したわけです。


次世代型リーダーシップに必要な「5パート+1ベース」を理解した上で、実際の職場だけでなく、ワークショップなどでの“模擬修羅場”を経験すれば、大なり小なりの成長は望める。だからこそ、横石さんは今年の「Tokyo Work Design Week」から、その一歩を始めようと考えたようだ。

横石 ちょうど今年はアメリカ大統領選だったり、東京都知事が交代したりとリーダーをめぐるトピックスが多かったですよね。それにもかかわらず、みんな変わらずリーダーにはなりたがらないし、「リーダーについて考えてみよう」という話すら起こらない。だから、7日間のプログラムを通じて「リーダー/リーダーシップとは何か」を見つめるのは豊かなことだなと思ったんです。実践でリーダーシップを発揮している人の言葉を生で聞く機会って、自分の会社にいる上司以外でもあまりないものですし、それだけでもやる価値があるのかなと。


トークセッションの一部を紹介すると、予防医学研究者である石川善樹さんを招き、「ビジネスネットワークの未来を語る」といったテーマを掲げている。そのほか、多面的に「リーダー」を考えるきっかけとなるセッションも控えている。

2035年、19年後の未来を想像するのはどうにも難しい(だって、iPhoneが発売されてまだ10年も経っていないのだ)。けれど、優秀な若手は次々育ち、AIはすくすく賢くなり、僕らは嫌でも歳を取る。これから中核を担うミレニアル世代をはじめ、新しいリーダーシップをインストールして運用するのは、きっと未来を生き抜くための備えになると信じている。


▼TOKYO WORK DESIGN WEEK 2016
http://www.twdw.jp/

▼サテライトプログラム 「イノベーターたちの、未来を変える仲間探し」 TWDW×CAREER HACK
http://careerhack.connpass.com/event/42789/


文 = 長谷川賢人


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