2023年4月、26歳で史上最年少市長となった高島崚輔さん(兵庫県・芦屋市長)をはじめ、数々の著名人のスピーチを支えてきた千葉佳織さん。話し方トレーニングスタートアップ「カエカ」代表でもあり、自身初の著書も出版*。スピーチライターとしての活躍の先には、話し方トレーニングを社会浸透させる「志」があった――。
▼スピーチライター/カエカ 代表 千葉佳織さん初の自著
*『話し方の戦略 「結果を出せる人」が身につけている一生ものの思考と技術』(2024/4/26発売)
話し方トレーニングサービス「kaeka」
「kaeka」は経営者、政治家、社会人向けの話し方トレーニングサービス。AIによって「話し方」の強み・特徴・課題を数値化(kaeka score)し、個々に適したトレーニングを提供する。専属トレーナーが数ヶ月間にわたってサポートする「話し方のジム」。現在、toCサービスに加え、企業研修向けのtoBサービスも提供し、役員や管理職、リーダーシップ研修などでの導入も増加。特にビジョンやミッションの社内浸透、メンバーの熱意を高めるためのコミュニケーションなどのニーズに応えている。スタートアップ企業での導入では、投資家・VCとのコミュニケーション・プレゼン、メディアPR、スタートアップイベントピッチなどのトレーニングなどでの利用が多いという。その他、企業総会・新作発表会、国政選挙などでのスピーチ原稿の執筆・コンサルティングも実施している。2022年9月に1.2億円の資金調達。今後は人とテクノロジーの力を組み合わせた独自の「話し方トレーニングサービス」として社会浸透を目指す。特にスピーチライターの育成メソッドの確立・組織強化と同時に、オンライン上での口頭テストを通じた「言語力」「構成力」「話し方」など話す力の数値化・可視化によるトレーニングプログラムの質向上へ。デジタルを活用したさらなる学習機会の創出、ユーザー数の拡大を目指す。
▼第一弾『最年少市長誕生を支えたスピーチライターが解説「伝わる話し方」基本』はこちら
https://careerhack.en-japan.com/report/detail/1587
日本ではあまり馴染みのない「スピーチライター」ですが、そもそも千葉さんがスピーチライターを志したきっかけから伺ってもよろしいでしょうか。
私自身、15歳の頃から日本語のスピーチ、競技の弁論をやっており、それが原点になっています。もともと話すことはそれほど得意ではなく、むしろ苦手意識があったほうでした。ただ、だからこそ「人前で自信を持って話せる人ってカッコいいな」と、弁論の世界に飛び込みました。そこでは先輩からも後輩からも「言いたいことが全くわからない」「全然伝わってこない」「書き直し」と容赦ない指摘をもらい続け、とにかく磨かれたなと思います。たった1回、7分間のスピーチのために数十回と原稿を書き直し、深夜まで練習を繰り返していく。そういった高校生活を送りました。その結果、全国大会で3回優勝をし、そのうちの1回は内閣総理大臣賞を受賞することができました。
その時、自分の人生がカチッと大きく変わる音がしたんですよね。話し方を学習したことで、言いたいことが言える。そのままの私で生きていいんだ、と。どこか「安心」にも似た感覚がありました。
じつは弁論を始めた当初は「陰キャラだ」「地味だ」と言われ、悔しい思いをしたこともありました。ただ、全国大会で優勝するとみんなが賞賛をしてくれた。なかには「じつは私も弁論をやってみたかった」という人までいたんですよね。私にとってはこれはすごく強烈な体験で。みんなが「カッコ悪い」と思っていたものが「カッコいい」という価値観に一瞬で変わっていく。まだ世の中に浸透していないものに光を当て、より良くしていきたい。そういったゲームチェンジこそ、私のやりたいことなのだと実感をしました。
その後、新卒でDeNAに入社し、社内業務として「スピーチライティング」を手掛けていたと拝見しました。そこからなぜ、ご自身で起業しようと思ったのでしょうか。
DeNAはすごく寛容で、私が「社内でスピーチライティング業務を行いたい」と提案したら、どんどんやらせてもらえましたし、やりがいもありました。同時に「話し方の学習はビジネスシーンでも効果的なんだ」「こんなにもたくさんの人に喜んでもらえるんだ」と実感したんですよね。それまでの私の人生を振り返ってみると、いつも話し方の学習・トレーニングに助けられてきました。「話し方」で人生を豊かにしてもらえた。恩返しではないですが、それを後世に残していくところまでチャレンジしたい。体系化したプログラムを作り、1日でも早く社会浸透させたい。そのために起業し、大きな会社を作っていく決意をしました。
私自身、運が良くてたまたま「話し方」を学べる環境であっただけですし、偶然上手くなっただけという感覚がすごくあって。田舎で生まれ、そこに学ぶ機会が偶然あって、人生を豊かにしてもらえた。そういった恩恵を受けた人間として、社会に広げていくこと、選択肢に出会える人を一人でも増やすことが自分自身の幸せにもなる。人生観に近いかもしれませんが、人はいつか死んでしまうし、きっと自分の幸福だけを追求しても、私の場合、自身の喜びにはならないんですよね。歴史の中に残るような文化を創造して死にたい。この思いは変わらずにあって「それなら死ぬまでに早く動かないと」と、2019年に起業しました。
「文化として社会浸透させたい」というのは、どういった状態を指すのでしょうか。
それでいうと、社会全体で「話し方のトレーニング」が当たり前に取り組むものになるくらい浸透させたいと考えています。強制ではなく「やった方がいい」「もっとやりたい」と能動的に向き合うような空気感、話し方について学ぶことにわくわくする、そういった状態になるといいなと思っています。
おそらく、世の中で起こっている問題のほとんどはコミュニケーションによるもの。もし、そうなのであれば、基本である「話し方」「伝え方」を変えることができれば経済、政治、社会全体が良い方向に変わっていくと信じています。
当然、創業当時、社内のスピーチトレーナーは私一人でしたが、今ではエンジニア、塾講師、広告代理店…さまざまなバックグラウンドのメンバーが入社し、プロとして活躍をしています。もちろん、これまで個人経営の話し方スクールは多くありましたが、「話し方のトレーニング」の社会浸透を目指すスタートアップはおそらくなかったはず。この新しい領域を「カエカ」というチームで切り拓いていければと思います。
最後に、千葉さんにとっての仕事とは何か、伺わせてください。
私にとって仕事とは「生きている意味を作り出す活動」だと思います。
あらためて自分の幸せは、自分の中だけでいいのか?それはいつか消えてなくなってしまうのではないか?という感覚がすごくあるんですよね。それなら「人にどう還元できるか」「自分がいなくなっても、ポジティブなものを後世に残し続けられるか」にこそ、私は生きがいを感じるのだと思います。
後世へのバトンをつなぐといったような思いの原点には何があるのでしょうか。
もともと母方の実家がお寺だったこともあり、私が死んだあとのことも自然と考えてしまうのかもしれないですね。この考え方は、過去に触れた様々なものから、私のなかに息づいているのかも。ただ、こういった話も起業するタイミングで、人生を深堀りしていくなかで「点」と「点」を結ぼうとして見つかったテーマ。弁論に出会い、さまざまな壁があり、いろんな人に会ってきた私だけの人生なので「せっかくならこういう使命を持って歩んでいこう」と決めたに過ぎないのだと思います。多くの起業家や政治家の方と出会ってきましたが、私はすごく平凡。ただ、だからこそ向き合える使命があるとも思っています。その使命を達成する上でベストソリューションが「仕事」です。自分だけではできないことを他のプロフェッショナルと、1日8時間以上も使いながら向き合える。これってすごく楽しいこと。これからもそういった挑戦をしていきたいなと思います。
近日「第3弾記事」公開予定!お楽しみに!
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取材 / 文 = 白石勝也
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