ABEMAの人気恋愛番組『今日、好きになりました。』や『私たち結婚しました』の制作に携わる吉澤美玖さん。現在、新卒入社5年目、いまでこそ番組の屋台骨である彼女だが、新人時代には数々の失敗経験がある。なんど失敗しても、できることから一つずつ行動に移し成長してきた彼女の新人時代に迫る。
【連載】ぼくらの新人時代
「新人時代をどう過ごしていましたか?」テック業界のトップランナーたちに、こんな質問を投げかけてみる新企画がスタート。その名も、「ぼくらの新人時代」。知識もスキルも経験も、なにもない新人時代。彼ら彼女らは”何者でもない自分”とどう向き合い、いかにして自分の現状と未来を定め、どんなスタンスで学んできたのか。そこには私たちにとって重要な学びが詰まっていた。
吉澤さんのキャリア遍歴
▼入社1年目:
ビデオの立ち上げメンバーとして参画
メディアプランナーとして主にコンテンツ設計・運用を担当
▼入社2年目:
宣伝プロデュースグループ
ABEMA NEWS、バラエティ番組全般のプロモーションを担当
▼入社3年目:
制作局 プロジェクトマネージャーとして「GENERATIONS高校TV」「恋する♥週末ホームステイ」ほかを担当
▼入社4~5年目:
制作局 マーケティングプロデューサー兼プロジェクトマネージャーとして「私たち結婚しました」「今日、好きになりました。」を担当
入社1年目、当時「ABEMA」の新機能だった「ビデオ※」の立ち上げチームに配属された吉澤美玖さん。「ABEMA」が開局してちょうど1年、さらなる利用者の拡大に向けて核となる新機能「ビデオ」の設計がミッション。重要なミッションを遂行する上で、彼女のマインドを大きく変えた出来事とは。
※ビデオ...見逃した番組や人気作品をいつでも好きなだけ観ることができるオンデマンド機能。また、「ABEMA」のプレミアムプラン「ABEMAプレミアム」(月額960円)に登録すると、ここでしか見られない限定コンテンツのほか、話題のドラマやアニメの先行配信、日本独占配信の海外作品など、いつでもどこでも好きな時に全作品を見放題。
入社してすぐ、「ビデオ」の利用者を伸ばすミッションを任されたのですが、「自らの責任で成果を出す」という意識が足りず、失敗してしまったことがありました。
ちょうどゴールデンウィーク期間中、「ABEMA」では特番や目玉コンテンツが目白押しになるタイミングで。「ビデオ」を訴求する施策を実行できたら、利用者を増やすことができるチャンスがありました。ですが、私は“まだ1年目”という甘えもあり、大きなアクションをとらずに連休を過ごしてしまったんです...。
休み明け、上司に呼び出されてこう言われました。「ユーザーにとっては入社1年目も、入社10年目も関係ない。どうして1年目のレベルに仕事を合わせないといけないの?」と。
実は私が思考停止して何もしていない間、上司はいろいろな施策を実行して打ち、ウラで成果につなげてくれていたんです。
そのとき、「まだ1年目だし...」「配属○○日目だし...」と自分に言い訳つくって、責任感を持てていなかった自分にハッとしました。
「ものづくりに携わりたい、良い番組、良いコンテンツをつくって、いろんな人に楽しんでもらいたい」と思って入社したのに...。1年目の新人気分でいた自分自身にものすごくがっかりしました。
1年目だから、新人だから、と自分で自分の責任範囲を狭めちゃいけない。“「ビデオ」を背負う者”として覚悟を持って、きちんとユーザーに向き合っていこうと決意しました。
それから、あらゆる施策を企画し、利用者数の拡大に貢献した吉澤さん。全社内の優秀新人賞も受賞した。1年目から成果を出すために、どういった工夫をしたのだろう。
実行した施策のほとんどは、自分ひとりで完結できるものではありません。また、経験も知識もない自分だけの考えで施策を考えても限度があると思っていたので、知見のある先輩方のチカラを借りることを心がけていました。
制作局の先輩や、編成、宣伝など…。あらゆる部署の人にアポを取って相談に乗って。実際に協力してくださる先輩も多く、感謝の気持ちでいっぱいでした。これだけの人にご協力いただけたのも、自分がサービスに対して向き合う姿勢を先輩方に伝えることができたからなのかなと思っています。
「何でも相談して」といったところで、自分のなかだけで考え、なかなか相談に来ない新人も多い。そこには「こんなレベルの低い質問していいのか」など不安もある。吉澤さんはどうだったのだろう。
もともとの性格だと、私も質問したり相談することは苦手な方です。ただ、それは自分都合だなとも思っています。ユーザーを第一に考えた時、何をすべきか。一年目の自分の頭だけで案を出すより、いろいろな経験している人の意見をもらったり、真似たほうがいい。自分だけで考えたアウトプットにしない。それがユーザーにとって一番いいものになると思って、どんどん聞くようになりました。
2年目からは異動し、番組宣伝の部署へ。YouTube、Twitter、記事コンテンツなど、いろんなアプローチで、番組の視聴数アップ、認知拡大に貢献。その時、心がけていたこととは。
ニュース番組のプロモーションを担当していたときに考えていたのは、「ABEMA」を知らない人に「ABEMAってこんな情報を発信しているんだ」と番組を見る価値を感じてもらえる状態をつくることでした。
たとえば、ニュースは他のジャンルと比べて対象となる視聴者が幅広いです。誰もが見る可能性のあるコンテンツだからこそ、「ABEMAのニュース番組を見る必要性を、まず知ってもらうこと」が重要だと考えました。
そのためには、あらゆる場所で「ABEMAのニュース」に触れる機会を増やすこと、そして「この情報はABEMAでしか見れない」と見に来る理由をつくることを意識しました。
番組情報をTwitterで広めるときもあれば、番組内容を要約した記事を公開したり。ひろゆきさんのようなYouTubeで人気の方は、YouTubeにその方が出演している動画を短い動画に編集してアップしたり...。どのメディアで、どういった形で広めていくべきかを常に考えて、戦略を立てていました。
もうひとつ、番組のプロモーションをする上で、重要になるのが番組制作チームとの連携。最初は一方通行のコミュニケーションになってしまったという。
最初は、番組制作チームがどういう考えをもって、どういう進め方で番組をつくっているのかをきちんと理解していないまま、「こんなプロモーションがしたい」と要望を伝えてしまっていました。番組制作チームからしたら、実現できないことを普通に言ってしまっていたので、かなりご迷惑をかけたと思います..。
一緒に仕事をする番組制作チームの方々が、どんな思いで番組をつくっているのか、番組をつくるのにどれだけの人や時間がかかっているのか。相手のことを理解するためにも、スタジオに足を運ぶようになりました。プロモーションをするだけなら、直接的に必要なことではないかもしれません。それでも、地道に足を運ぶことで、関係構築も次第にできてきて、仕事を進めやすくなりました。
入社3年目からは制作局に異動し、番組の視聴数などの数字成果に責任を負う「番組プロジェクトマネージャー」に転身した吉澤さん。バラエティ番組を担当するも、社外のさまざまな関係者とのコミュニケーションに苦戦。前任から引き継いだ仕事をこなすのに精一杯だったという。
じつはこの3年目が一番挫折したタイミングだったかもしれません。もともと番組の制作に携わりたいと思っていたので、念願の異動だったのですが、最初は本当になにもできなくて...。
とくに自分の力不足を感じたのは、社外のプロフェッショナルな方々とのコミュニケーションでした。たとえば、番組に出演する方々が所属する事務所との連携や、社外の番組制作スタッフの方とのコミュニケーションなど…。
1~2年目までは社内の人たちとの仕事が中心でしたが、さまざまな立場の方がいるなかで、お互いのメリットを考えつつ、私は自身の持つミッションを遂行していく。そのバランス感覚、交渉力が全く足りておらず、先輩の後ろ盾がないとうまく進められないことも多々あって、「自分はいったい何をやってるんだろう…」と無力さを感じることも少なくありませんでした。
そして5年目の現在、吉澤さんは「ABEMA」の人気恋愛番組「今日、好きになりました。」や「私たち結婚しました」を担当。番組プロジェクトマネージャーとしてだけでなく、マーケティングプロデューサーとして、さらに大きなミッションも担う。3年目、バラエティ番組を担当していた時の挫折は、現在の飛躍につながっていった。
3年目の終盤、当時の上司と振り返り面談をしたときに「この1年、何もできなかった」と改めて痛感して、とても悔しかったことを今でも鮮明に覚えています。
その当時の私は、新しい仕事に挑戦して、苦手なことにも向き合ってきたつもりでした。しかし、前任の番組担当者と比べてなにか新しいチャレンジができたかというと、なにもできていないし、大きな成果も生み出せていない。必死に1年を過ごしてきたけれど、結局マイナスをゼロにしていただけだったんです。
自分になにが足りないのか、どうしたら足りないものを埋められるのか。最初は「ないもの」にばかり目が向いていました。でも、ある時上司にこう言われたんです。「この組織は、全員がなにかのスペシャリスト。絶対に“吉澤だから”できることがあるはずだ」と。
とくに番組制作は「このスキルがあればできる」というものではなく、それぞれの経験、考え方、構築してきた人脈・信頼などが個々にあって、それが番組に活きてくる。そういう意味だと捉えました。
その言葉をもらってから、足りない何かを埋めるために頑張るよりも、自分だからこそできること、自分がやったら一番よくなるものってなんだろう?と考えるようになりました。
上司とも相談をしながら、入社4年目からは、より自分の経験や強みの活きる恋愛番組の担当をさせていただくことに。私と同世代であるF1がターゲットの番組だと、自分の経験や感覚が生かせることも増えますし、新卒から今までにかけて、サービス部門や宣伝部門など様々な角度から「ABEMA」に携わることができたので、私だからこそ練れる戦略が活かせる環境になりました。
もしもいま足りないなにかを埋めるために頑張っている人がいたら、ぜひ「自分の経験や強み」にも一度目を向けてみるのをオススメしたいです。
(おわり)
取材 / 文 = 野村愛
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