これからの時代をどう生きるか――と、それ以前に目の前の「生きづらさ」とどう向き合っていくか。いじめられっ子、引きこもりだった過去を持つ起業家、家入一真さん。世の中の「小さな声」をすくい上げ、サービスや居場所を作り続ける彼の視点に迫った。
生き方のロールモデルのない時代を、どう生きるかー。
そんな問いに対し、SNSやネットで見かけるアドバイスは、どこか遠い世界の出来事のように感じる時がある。
副業で自分の可能性を広げる、好きなことに没頭すべき、もっと個として発信を――もちろん大切なことだと思う。
だけど、もっと手前にある日々の暮らし。目の前のことでいっぱいいっぱいになってしまったり、自分で自分を責めてしまったり。ふいに「生きづらさ」を感じたり。じつは声にならない声に、目を向けてみるべきなのかもしれない。
そのような時、家入一真さんのツイートが飛び込んできた。5年前のこのツイートが今また拡散されてはじめている。
就活という同調圧力の中で、追い詰められて、絶望し、死を選ぶ。もはや自殺では無く他殺。悲し過ぎる。就活に悩む子に、それでも頑張れ、なんて僕は言えない。就職なんてしなくても死にはしないよ。休学でもニートでも何でもいい、逃げて自ら余白を作らないと、追い詰められて人は簡単に死んでしまう。
— Kazuma Ieiri (@hbkr) 2013年4月16日
絶対のルールではないはずなのに「なんとかこのレールにしがみつかなければ」と自らを追い込んでしまう。その息苦しさは何も就活に限った話ではない。
家入一真さんといえば、paperboy&co.(現GMOペパボ)創業者であり、29歳当時、史上最年少でJASDAQ上場を経験。その後、東京都知事選への出馬、クラウドファンディング『CAMPFIRE』の立ち上げなど、常に注目を集め続けてきた。一貫しているのは、自身の「居場所がなかった」という原体験をもとに、居場所が見つけられない若者や埋もれてしまう「小さな声」と向き合い続けてきたこと。
未だに、いい大学に進学し、有名企業で働き、自分を押し殺してでもそこにしがみつくことが「舗装された安全の道」だと信じる親世代は多い。でも、僕らはもう、ひどく見通しが悪く、足元も覚束ないデコボコ道を歩き始めている。
時につまづき、行き先を見失い、それでも前を向くために――2018年の今、小さな声に灯をあて続ける、家入一真さんの言葉に耳を傾けたい。
僕らは何のために働くか。生き方や働き方に正解のない時代をどう生きるか。ここは編集部が掲げてきた大きなテーマだ。
SNSが当たり前となり、得られる情報が爆発的に増えた今。何を信じ、取り入れるか。家入さんはわずかに視線を落とし、静かに語ってくれた。ヒントは「鵜呑みにしない」ということ。
「あの人が言っていたから絶対に正しい…なんていうことはもう無いと思うんです。果たして本当にそうなのか、疑うところから始めてほしい。誰かの思考に依存しちゃいけない。“家入がこう言ってるから、こうしなきゃいけない”なんていうことは決してありません」
そう語る背景には過去のジレンマもある。ツイッターや著書、講演を通じ、発言の影響力が増すに連れ、フォロワーたちの思考依存、つまり「家入さんが言っているのだからそうすべき」「それが答え」と捉える若者たちがいたのだ。
「改めて発信をするだけでは無力だと感じるようになって。だから行動をしよう、世の中の当たり前を問い直していくために事例をつくっていこうと思うようになりました」
例えば、クラウドファンディングの使い方にも正解はない。
「CAMPFIREの広報である女性は、クラウドファンディングでお見合い相手を集め、無事に彼氏ができました。世の中的には戸惑う人がいるかもしれないけど、彼女が自分で考えてやったこと」
もちろん、全ての人がクラウドファンディングで成功をするわけではない。その前提はありつつ、家入さんは「多くの事例を見せていきたい」と語る。
「“それもアリなのか。自分も声をあげてみよう”と思ってもらえたら嬉しいというか。家入という人間も、中卒でひきこもりだった、いじめられていたという過去があって。その経験をもとに“今、こういうことやってるんだよ”とモデルとなって示しつづけていく。それしかないのだと思っています」
そんな家入さんの唯一ともいえる趣味が読書だ。どうやら経営や事業アイデアに活かす…ためのものではないようだ。
「本を読むことで今自分が見えてる世界なんて小さいんだなってことに気付かされるというか。それなりに日本のIT業界で長いことやってきて、いろんなことがわかったような錯覚に陥ることがあるんですけど、全然そんなことはない。世の中、知らないことばかり」
好奇心を枯らさないと言い換えてもいいだろう。
「エンジェル投資家をやっているのも、いろいろなビジネスや業界について知れるからというのが大きいのかもしれません。例えば、葬儀業界のスタートアップが出資先だったら、僕は葬儀業界のこと、世の中のことが知れます」
ここ最近では、日本最大級の地域特化型クラウドファンディングサービスとして『FAAVO by CAMPFIRE』をスタート。自ら地方に足を運ぶ機会も多い。
「最近だとIT業界の人たちより、地方に行って、おばちゃんだったり、議員さんだったりと話をしていることのほうが多い。ふらっと地元のスナックに入って世間話をしたり。そっちのほうが自分の知らなかったことと出会える気がします」
働き方や生き方のルールが変わる時代、時に「成長し続けなければ淘汰される」と強迫観念に近い感情を抱くこともある。もしそれをつらいと感じるならば、違う道があってもいいのかもしれない。
「弱い人が弱いままでも生きていける、そんなプラットフォームはどうすればつくれるか、どうしてもそっちのほうに頭がいくんですよね。僕には辛い状況にある人に向かって戦おうよとは言えない。よく"優しい”と言われるのですが…でも、人に厳しいことを言って、自分が傷つきたくないだけなのかもしれない。弱さからくる優しさなのかもしれません」
ただ、そんな家入さんの「利己」からくる優しさは「利他」へとつながっているとも言える。
「自分だけで力強く生きていくよりも、みんなで協力し合ったり、楽しんでいたり、それを少し外から見ているのが好きなんですよね。例えば、CAMPFIREをつくってなければ出会わなかった人たち、生まれなかったであろう会話が生まれていく。そのことを誇らしく思うというか、自分としてはただただ嬉しい。楽しそうなみんなを見ていることで得られる自己満足なのだと思います」
じつは経営者になってからも「まわりと馴染めない自分」という性格は変わっていないという家入さん。孤独感もある。ただ、それは決して悪い感情ではない。
「いかに自分が無力で、一人ぼっちか、思い知らされることもあります。ただ、僕は孤独や寂しさはそんなに悪いものではないんじゃないかと思っていて。受け入れているのかもしれません」
人との関わり、出会い、そして別れについて。
「それなりにIT業界に長くいて、出会いや別れを繰り返してきました。そうすると今自分が置かれている状況が一人ぼっちなのか、みんなに囲まれているのか、よくわからない。たくさんの人たちが僕の横を通り過ぎていく感覚に近いといいますか。一人だけど、独りじゃない。誰とでもいつかまた会えるんじゃないかっていう不思議な感覚があります」
この捉え方は、社員たちの退職と向き合う時のスタンスにも表れている。
「社員が辞める時、もちろん寂しいのですが、永遠の別れというわけではなく、また一緒に働くかもしれない。あとから本人に“あの場があったからこそ今の自分がある”と言われたりすることも増えてきました。最近だと10年以上前に講演を聞いてくれた子もいて。一方で、経営者として、その場に留まりたいと思わせられなかったのは僕の敗北でしかない。残りたいと思ってもらえるような環境がつくれず、申し訳ない気持ちのほうが大きいです」
もう一つ、家入さんにとってツイッターも孤独を紛らわせてくれるツールになっているようだ。家入さんにとってのツイッターとは―。
「ツイッターは深夜のコンビニみたいな感覚かもしれません。よく朝方まで起きていたりするんですけど、3時とか4時でもつぶやいている人がいて。コンビニって深夜に行っても必ず店員さんはいますよね。なんなら立ち読みしている人もいて。そういうのを見ると“あぁよかった。世界に僕一人じゃなかった”と安心するというか。引きこもっていた頃、誰とも会わないから、もしかしたらこの世界に僕一人しかいないんじゃないかと本気で不安になることがあって、よく深夜のコンビニに行ってたんですよね」
そしてもう一つ、ツイッターには「過去の自分」を残しておく意味もある。
「ツイッターはその時、その時、考えていることをつぶやいています。過去を遡って“自分はこんな事を考えていたのか”と思考を辿ることもあって。考えが変わってもいってもいいから残しておく。ツイート直後に“本当にそうなのか?”と自問自答することも多い。特にお酒が入っている時はひどい(笑)つぶやいた瞬間、すごく後悔しています。でも、過去のツイートは消さない。その瞬間は、間違いなくそれを正しいと思ってつぶやいているのだから、その自分も受けとめなきゃな、と。よく過去のツイートを引っ張ってきて、揚げ足を取ってくる人もいますが、気にする必要はなくて。死んだおばあちゃんも生前によく「一真、ツイ消しは甘えだよ」と言って…無いか(笑)」
ここ数年、働き方についても見直すようになったという家入さん。いかに無理をしない状態でいられるか。
「仕事と生活の境界線をいかになくすか、考えるようにしているかもしれません。オンとオフのスイッチをはっきりさせてしまうと切り替える時、心に負荷がかかってしまう。休日でオフを堪能しすぎると、オンに戻りたくなくなってしまうというか。会社に行くのがつらいと感じてしまうから、オンとオフの中間、曜日の感覚がなくなるような働き方がいいのかもしれません」
無理をしないで働く、そのためには職場の人間関係も重要だ。
「働く上でも”僕はこういう人間ですよ”という、ありのままのを開示した上で付き合っていける関係性のほうがいいと思っています。それは仕事であってもプライベートであっても。お互いが一人の人間であることを受け入れ合う、受け入れ合える会社にしたい。もちろん経営者として果たないといけない役割はあります。ただ、何者かでなければならない、演じなきゃいけないというのは常に怯えているようなもので。無理して演じ続けていくと、しんどくなり、続けられなくなったら本末転倒です」
2017年8月にはCAMPFIREとして新たなサービス『polca』をリリースした。個人と個人がつながる小さな経済圏で気軽にお金を集めたり、誰かを支援したりができる。家入さんは『polca』について「フレンドファンディング」であり、「コミュニティサービス」だと語る。
"身近な友人や会社の同僚、サークルの仲間、地域のつながりなど、緩やかに閉じられたコミュニティ、個人と個人が繋がり合う小さな経済圏の中で、気軽にお金を集めたり誰かを支援したりする仕組みは出来ないか?というアイデアから、ポルカは生まれました。クラウドからフレンドファンディングへ。「お金”で”もっとなめらかに、お金”を”もっとなめらかに。」をビジョンに、お金がコミュニケーションと共に流通する、個人を中心とした、小さく、そしてやさしい経済圏をつくっていきます”
(引用元)
フレンドファンディング polca リリース!
ポイントとなるのが「お金がコミュニケーションと共に流通する」という部分だ。さまざまなモノ・コトの価値が可視化され、お金のあり方が変わる時代―。
「今、この時代におけるお金とは何か?みたいなことはよく自問自答しています。もうお金は単に消費のためのツールではないのだと思います。ここ数年、コミュニケーションツールとしてのお金について考えていて。その可能性をこれからも探っていきたいと思います」
本屋に行くと「金を稼ぐ」「金を貯める」本ばかりで、「いかに金を使うか」なんてのはなかなか無いよね。経済成長期はそれで良かったのかもしれないけど、経済が成熟して今後低度成長しか見込めない時代には、お金をどう使うかが重要になる。クリエイティブな消費を考える。
— Kazuma Ieiri (@hbkr) 2013年7月30日
小さな声をすくい上げる、家入一真 7つの視点
1. 僕の言うことを鵜呑みにしちゃいけない
2. 世の中は、まだまだ知らないことばかり
3. 弱い人が弱いまま生きられるようにしたい
4. 一人だけど、独りじゃない
5. オンとオフのスイッチをつくらない
6. ツイッターで過去の自分と会う
7. お金をコミュニケーションツールに
photo by Kohei Otsuka
4月から新社会人となるみなさんに、仕事にとって大切なこと、役立つ体験談などをお届けします。どんなに活躍している人もはじめはみんな新人。新たなスタートラインに立つ時、壁にぶつかったとき、ぜひこれらの記事を参考にしてみてください!
経営者たちの「現在に至るまでの困難=ハードシングス」をテーマにした連載特集。HARD THINGS STORY(リーダーたちの迷いと決断)と題し、経営者たちが経験したさまざまな壁、困難、そして試練に迫ります。
Notionナシでは生きられない!そんなNotionを愛する人々、チームのケースをお届け。