2019.08.08
「仕事の息抜きは仕事」 FiNC 溝口勇児の仕事哲学

「仕事の息抜きは仕事」 FiNC 溝口勇児の仕事哲学

予防ヘルスケア×AIテクノロジー(人工知能)に特化したヘルステックベンチャー『FiNC Technologies』の代表取締役 CEO溝口勇児さん。創業7年、膨れ上がる周囲の期待、そしてプレッシャーとどう向き合ってきたのか。「仕事の息抜きは仕事」と語る、ストイックな仕事哲学がそこにはあったーー。

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FiNC 溝口勇児の仕事哲学
・プレッシャーのない状態が逆にストレス
・自ら逃げ道を断つ
・やってみて「好きになる」でもいい
・泥水を啜る覚悟
・365日、ワークハード
・「仲間集め」が9割
・到達困難な場所こそ、ゴールに掲げる

プレッシャーのない状態が逆にストレス

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創業7年で、一気に成長のステージを駆け上がってきたように見える『FiNC』。この7年間、膨れ上がる周囲の期待、そしてプレッシャーとどう向き合ってきたのか。こう問うと、まっすぐと目を見て、溝口さんは語ってくれた。

「今は、プレッシャーのない状態のほうが、逆に不安でストレスなんですよね」

彼が実践し続けてきたのは「どんな時も、自らにプレッシャーをかけ続ける」ということ。そのために、より大きなビジョン、実現したいことを周囲へと公言してきた。

「不言実行は優しく、有言実行は難しい、というのが僕の感覚です。前者は実現できなくても、誰にも知られることなく明日を迎えることができます。後者はリーダーの正しい姿勢だと僕は思っています。

これまでも胸にある想いを言葉にすることで、それを信じてくれる人がどんどん増えていきました。信じてくれる人が増えれば、それに応えようとする想いが強くなるのは当たり前のことです。また根っこの性格は怠け者かつ傷つきやすい僕は、公言することで増す責任がなければ、目の前の逆境や困難から逃げ出してしまっていたかもしれない。この循環こそ、原動力になったように思います」

そして、一呼吸置いて続けてくれた。

「だからこそ、有言実行できない自分がいたら、そんな自分を決して許せないだろうし、振り返った時にきっと人生を悔やむことになる。周りの期待に本気で応え、周囲やお客様との約束、自分に与えられた使命を果たしていく、それだけなんですよね」

自ら逃げ道を断つ

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彼にとって「期待される」ということは、プレッシャーであると同時に「自分に期待してくれる人がいる」という感謝が勝るのかもしれない。

「僕は社会の課題を解決しなければいけないんです。凡将である僕を異才だと信じてくれる仲間や支援者のためにも」

自分を逃げられない状況に追い込むためにも公言をしていく。創業当時、公言することの威力をまざまざと感じたそうだ。

「創業半年ぐらいの時ですかね。前職のオーナーから許可を得て、一人だけFiNCに引き入れた長い付き合いの社員の結婚式に参加しました。そこでご家族や友人、結婚相手から涙ながらに『彼をよろしくお願いします』とか『心の底から応援してます』といった言葉をたくさんいただきました」

それまで、どこか「解決したい課題が大きすぎて本当に自分なんかが実現できるのか」という不安があったという溝口さん。期待してくれている人のためにも、絶対にやり遂げたいと思ったと、当時を振り返る。

「スイッチが入ったんですよね。もうやるしかない。『願望』が『覚悟』に変わりました」

この原体験は、彼の想いを「夢」から「志」へと変えたのかもしれない。

「ヘルスケア領域の課題を解決する。小さかったら社会は変えられない。だからFiNCを必ず大きくする。期待は絶対に裏切らない。僕は幼少期から今日まで、ある意味で特別な環境で育ちましたが、なんというか、見えない何かにレールを敷かれた感覚があって。だからこそ今は思いや感情さえ超越した使命に突き動かされて生きています」

やってみて「好きになる」でもいい

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もうひとつ彼が「やるしかない」と決め、突き進む中で見つけた哲学があった。

「懸命に目の前のことに向き合ったことで得意になりました。得意になると多くの期待が寄せられるようになり、より好きになっていった。そうなると周囲から必要とされるようになり、そしてそれに応えようとすることで、いつしかヘルスケアやフィットネスの領域は誰にも負けないくらい詳しくなりました。詳しくなるとその領域の課題が明確に見えてきたんです。その好循環が巡りに巡るとやがて『その課題を自分が解決しなければいけない』といった想いが強くなり、それが結果として明確なビジョンに変わっていきました」

もともとフィットネストレーナーとしてファーストキャリアをスタートした溝口さん。フィットネス、ヘルスケア領域への思いは「やりながらどんどん高まった」と語る。

「『好きなことを仕事にしなさい』という考え方をよく見聞きします。ですが、やってみて初めて必要とされることで、好きになることもあります。後者が語られることは少なく、『一生懸命向き合った先に結果として好きになる』というケースがあることが見落とされてるような気がしています。

そういった意味でも、一歩踏み出してみることには大きな価値がある。目の前の「コト」に対して普通の人の何倍も懸命に向き合う。そうすれば道は必ず開けると僕は信じています」

泥水を啜る覚悟

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「あのままカッコつけてたら、今はなかったかもしれない」

創業当初、じつは会社を畳もうと思ったことがあったと明かしてくれた溝口さん。

「僕が外出から戻ると、さっき話した結婚を来月に控えた社員が通帳を見ながらうなだれていたんです。10万円くらいしか残っていない会社の預金残高を見て。当時社員は15人くらい。正直、人件費を支払うだけでも精一杯でした」

資金が底を尽きる寸前。その原因は溝口さん本人のプライドにあったと振り返る。

「仕事を選んでいたんです。大きなビジョンを掲げてはじめた起業でしたから、カッコつけていたんでしょうね。わかりやすいところだと、コンサルの仕事や労働集約的な仕事はやらないとか。依頼はたくさん来ていたのに全て断っていました」

苦笑いを浮かべてこう語ってくれた。

「今思えば、ちっぽけなプライドですよね。従業員を抱える経営者として第一にやるべきは事業を存続させること。意思決定の局面において、自分自身の変なプライドは邪魔になる。泥水を啜ってでも、這ってでも事業を成功させる。その感情がより強くなった出来事でもありました」

365日、ワークハード

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創業期を経て、2014年から2017年。まさに『FiNC』が飛躍的に拡大した時期。

オンラインサービス『FiNCダイエット家庭教師』のリリース、シリーズA、Bと総額10億円以上の資金調達、テレビなどでも頻繁に取り上げられるようになった。

当時、彼はどんな風景を見てきたのか。

「起業家の最大の誘惑は、あまりにも小さなことに満足してしまうことです。当時のFiNCや僕は、身の丈を遥かにこえた世の中からの評価があったように思います。ただ、ずっと自分に言い聞かせてきたのは“気を抜いてはいけない”ということ。ベンチャーなんて、気を抜けば一瞬で失敗してしまう」

そして愚直に続けたのは「ワークハード」だ。

「僕は昔から異常なほど働いていました。それが重圧に抗う唯一の方法でした。息抜きする暇なんて全くなかったし、そもそも仕事をしていないとすぐに不安でいっぱいになってしまうんです。

今は時代も変わったのであまり大きな声では言えませんが、当時は早朝から深夜まで当たり前のように仕事をしていました。サービスは改善点ばかり。新たなサービスを作るにはまだまだ資金も足りない。やることがありすぎて、胡坐をかいてる暇はありませんでした」

この時期を経たことは、彼にとって大きな財産になっている。

「仕事に集中でき、振り返るとすごく健全だったと思います。僕たちは“ビジネスとしての期待度”ではなく、本当にサービスを必要としてくれているお客さまのほうを向くべきと改めて気づくことができた。そんな時期だったと思います」

「仲間集め」が9割

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また、『FiNC』の急成長を語る上で欠かせないのが、超一流と呼べるような人材が続々とジョインしていったこと。仲間集めに関しても溝口さんの哲学が垣間見える。

「ベンチャーは、仲間集めの旅だと思うんです。意思決定に多大な影響を与えるのは経営チームの器によるところが大きいです。だからこそ経営者としての今の自分や今のチームで本当にゴールに辿り着けるのか、という問いを常に自分に投げています」

その威力が発揮されるのは、大きなリスクを取る時だ。

「強力な経営チームがいれば、より大きなリスクをとれる。たとえば、資金面でギリギリを攻めていくような意思決定が必要な場合、「このチームなら大丈夫」と思えるかどうか。例えば、ソフトバンクの孫正義さんがFiNCにCFOとして参画してくれたと仮定するなら戦略は大きく変わりますよね。経営チームの器はそれだけ戦略に影響を与えます」

その言葉を体現するように、アクセルを踏み続けた。2014年には元みずほ銀行常務の乗松氏や、2015年には元ゴールドマン・サックス証券の本部長だった小泉氏などエース級のメンバーが続々とFiNCにジョインをしている。

到達困難な場所こそ、ゴールに掲げる

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なぜ、「超一流」ともいえる人材がFiNCというチームに加わりたくなるのか。そこには溝口さんが掲げる大きなビジョンと考え方があるのかもしれない。

「僕たちが掲げているのは『一生に一度のかけがえのない人生の成功をサポートする』というビジョンです。極端にいえば、ヘルスケア領域だけで相対的に勝っても、健康の課題の全てが解決されるわけではない。だから競合という発想で物事を考えたことはありません」

本気で課題を解決していく。そのためには他社と戦うのではなく、手を取り合う必要があると溝口さんは考えている。

「同じ領域で戦っている企業はもちろん、社会をより良くしたい、そう考えている人たちとは究極全員で仲間になって歩んだほうがいい。たまに足を引っ張り合う姿を目にすることがありますが、それを見ると悲しくなります。『みんなで一緒にがんばろうぜ!』って僕は思うんです。抽象化すれば、皆が社会の良好な発展に寄与しようといった同じ目標に向かってるわけですから、それぞれが役割を分担をし、今持っている武器を使って最大限のパフォーマンスを発揮していく。そうなれば社会の課題の解決スピードはもっと加速しますよね」

そして取材の最後、「FiNCの構想として、今はどのくらいの地点にいるか」という問いに対してこう続けてくれた。

「1%くらいですかね。ようやくスタートを切れた、というくらいですね。たとえば、貨車って押しても動き始めるまで大変じゃないですか。ただ、動き始めたら速い。ようやく貨車を組み立て終わり、そして押し続けて、今少しずつ動き始めたところです。ここからの動きは速いですよ。ぜひご期待いただければと思います」

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(おわり)

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編集 = 白石勝也
取材 / 文 = 長谷川純菜


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