2023.10.04
学生起業の失敗を経て、30歳でIPO社長に。アイデミー社 社長 石川聡彦が大切にした「人に頼る力」

学生起業の失敗を経て、30歳でIPO社長に。アイデミー社 社長 石川聡彦が大切にした「人に頼る力」

2023年6月、創業9年目でIPO(新規上場)を果たしたアイデミー。AI活用・DX推進における“内製化ニーズ”に応える「デジタル人材育成」を主軸に、飛躍的な成長を続ける。代表を務めるのは、30歳にしてIPO社長となった石川聡彦さんだ。いかにして彼は同事業に可能性を見出し、伸ばすことができたのか。そこには、学生起業家時代の失敗、そして考え方のシフトがあった――。

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アイデミーについて
「先端技術を、経済実装する。」をミッションに掲げ、企業のデジタル変革(DX)に伴走するアイデミー。2014年6月、東京大学工学部に在学中だった石川聡彦氏により創業。当初は「お弁当デリバリー」をはじめ、さまざまな事業に挑戦。その後、石川氏自身、専攻の水処理の研究に機械学習による解析を応用したことを原体験に「AI/DXに関するデジタル人材育成」に着目。個人向けのオンラインプログラミングスクールから始め、法人向けオンラインDXラーニングへと展開する。
企業変革の基盤となるDX推進およびAI/DX内製化を支援するプロダクト・ソリューション事業によって、2023年6月に新規上場。伴走型支援、さらに研究領域のデータ活用促進、GX領域の人材育成支援等も開始へ。DX推進、ChatGPTをはじめとする生成AIの普及、人的資本経営、リスキリングへの投資、デジタルスキル標準化、GX推進など企業のAI/DX内製化ニーズに応え、事業成長を続ける。

『Aidemy Business』
デジタル人材育成支援のためのオンラインDXラーニング「AI/DXプロダクト」

『Aidemy Practice』
デジタル時代に必要なDX・ITスキルを実戦形式で学ぶ「AI/DXプロダクト」

『Modeloy』
デジタル変革をコンサルティング型で伴走支援する「AI/DXソリューション」

『Aidemy GX』
デジタル技術による業務改善・コスト削減、新規事業創出の事業革新と、脱炭素を目指すGX(グリーントランスフォーメーション)を同時推進していく上で欠かせない「GX人材育成」を行うサービス

『Lab Bank』
2023年7月31日にリリースされた新サービス。マテリアルズ・インフォマティクス、研究開発領域に特化したマネジメントサービス。研究データのデジタル化や一元管理を実現し、企業のDXを推進する。

『Aidemy Premium』
個人向けプログラミングスクール・デジタル人材育成支援「AI/DXリスキリング」

「事業アイデアは自分で考えるもの」は間違いだった

IPO社長に、上場に至るまでに立たされた苦境=ハードシングスについて伺う連載企画なのですが、石川さんが一番苦しかった時期でいうといつ頃でしょうか。

正直、都合の悪いことは忘れてしまう性格ではあるのですが(笑)強いて一番辛かった時期で言うと、最初に起業した2014年からの3年間でしょうか。じつはもともと拡大可能性の大きい領域、IT・デジタルの領域でスタートアップしたいと考え、「お弁当デリバリー」事業をはじめ、あらゆるサービスを試行錯誤したのですが、ことごとく上手くいきませんでした。

21歳で起業して24歳、学生時代に起業したものの何も結果を残せず、ただ時間だけが経ってしまった。

学生起業はそれなりに目立つので同級生たちも「頑張ってるね。応援してるよ」と言ってくれていて。ただ、結果が出ないと誰も何も言わなくなり、みんな大企業に就職していくわけですよね。高いお給料をもらって、社会人としての遊びも覚えていって(笑)ただ、自分だけが取り残されていく。自信も無くなっていく。危機感しかありませんでした。

よく先輩起業家で「起業が失敗するのは、心が折れた時」と言う方がいますが、まさにそうで。じつはその頃「いいところから内定が出たら就職しようかな」と就職活動もしていました。そういう意味でも2017年4月頃が辛かった時期のピーク。当然、まだ「Aidemy シリーズ」のアイデアもありませんでした。

そこから、どのようにしてもう一度スタートアップに挑戦できたのでしょうか。

ベンチャーキャピタルからのシードでの資金調達は大きな転機だったと思います。スタートアップのコミュニティにアクセスできるようになるとネットワークが広がり、自分の耳に入ってくる情報にも変化がありました。2017年6月のIVS神戸にスタッフとして参加したのですが、刺激をもらえた。そこから、いかにサービスをスケールアップするか、ファイナンスはどう考えるべきか。日々先輩起業家たちの話を聞くことができる環境になりました。何より「根拠のない自信」をもらえたように思います。

大前研一さんの有名な言葉で、人間が変わるには「時間配分を変える」「住む場所を変える」「付き合う人を変える」しかない、一番意味がないのは「決意を新たにすること」とありますが、まさにその通りで。

もう一つ、ベンチャーキャピタルの方から「AIマーケットで勝負しよう」とアイデアをもらうことができた。それが「デジタル人材の育成」というテーマに繋がっていきました。

今振り返ると、最初の3年間は「自分で考えること」を重視しすぎていた。決めるのは自分ですが、アイデアも自分で考えるものと決めつけていた。ここは大きな反省点でした。

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1992年生まれ。東京大学工学部卒。在学中の2014年に創業し、2017年6月に社名変更。同年12月20日、エンジニア向けAIプログラミング学習サービス「Aidemy」正式版をリリース。著書に『人工知能プログラミングのための数学がわかる本』(KADOKAWA社/2018年)などがある。2023年6月、新規上場を果たす。

プロダクトを作り込む前に、ニーズを探る

そこからどうサービスとしての「Aidemy」を立ち上げられたのでしょうか。

プロトタイプのローンチ前に集客をし、ニーズがあったらプロダクトを作るみたいなやり方でスタートアップし、比較的マーケットインな考え方かもしれないです。いきなりプロダクトを作り込むのではなく、初めは完全にマーケットインの発想で、そもそもニーズがあるのか探りにいきました。プロダクトを作り込む前から、AI・デジタル技術を学ぶニーズがあるなと気づくことができました。

参加料5000円・2時間の「AI勉強会」を企画し、イベント集客ツールで募集をかけたところ、すぐに50名の枠が埋まって。その次は「2か月集中のAIトレーニング」を企画したのですが、それもすぐに埋まった。これがAidemy Premium(個人向け事業)の原型となりました。

市販教材を使いながら、slack・ビデオチャットでサポートするサービスを作ってプレスリリースを打ち、10名の受講者を集めることができました。

僕を含めた学生3人で見よう見まねでとにかくコンテンツに落とし込んでいく。20に満たない数ではあるものの、リーンで立ち上げられた。じつは今も当時作ったコンテンツは残っており、学習に活かせるものとなっています。

それが2017年にローンチした個人向けサービスであると。そこから、どのような経緯で法人向けにも展開したのでしょうか。

2018年に法人向けサービスをローンチしているのですが、これも法人ニーズがあったから、というのが答えになると思います。じつは個人向けサービスを提供していくなかで領収書に「法人名」が書いてあるものがあったんですよね。法人の予算で学んでくれている人がいるのか…と。

もともと学生時代に研究でAIを学ぶのに苦労したのがアイデミーの原体験なので、学生ユーザーが多い仮説を立てていましたが、フタを開けてみたら社会人が7割だった。さらに製造業の方を中心に、リアルなアセットを持つ会社さんも多くて。お客様の反応から、現在のサービスになっていきました。

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自分の物差しでは「測れないもの」がある

石川さんにとって当時の苦境=ハードシングスは今振り返ってみて、どのようなものだったと捉えていますか?

シンプルに、できればない方がいいものですよね(笑)ただ、ピンチはチャンスとは良く言ったものだなと思います。失敗したり、後悔したりするようなことは無数にありますし、その時は本当に「人生が終わった」というくらいすごく暗い気持ちになりますが、3ヶ月ぐらい経つと解決できている、もしくは解決の糸口が見つかってるケースが多い。「次は同じような失敗をしないようにしよう」と新しい武器を手に入れられるものだと思います。

最初に起業した頃と比べてご自身の中に、どういった変化があったと思いますか。

自分にとってのコンフォート空間から出ていけるようになった、ということがあるかもしれません。そうすることで、自分の物差しの尺度が広がっていった感覚があります。

例えば、よくアイデミーは「大人が多いスタートアップですよね」と言っていただくのですが、実際、50代や40代の方も多く、プロフェッショナルに支えられています。

もちろん年齢は重要ではないと思いますが、正直にお話すると、当初、自分よりも年上の方々を採用する時、すごく怖かったんですよね。僕からすれば、経験豊富な大先輩。主導権を握られ、会社をめちゃくちゃにされたらどうしようとか(笑)活躍いただけるか、馴染んでいただけるか。心配性なだけかもしれませんが、多くの気掛かりがあるなか、ジョインいただきました。結果的に、そういった方々のおかげで事業を伸ばすことができ、今となっては感謝しかありません。

それまで、自分と同い年、年下のメンバーでチームを作ることが、自分にとってすごく楽で。ある意味、コンフォート空間でもありました。ただ、それでは会社を成長させる事はできないと。

とはいえ、プロフェッショナルな方々を面接させていただくと、どの方も素晴らしく思えるし、どの方も不安に思えてきてしまう。給与額が妥当か、本当に求めるスキルをお持ちか、僕にはよくわかりませんでした。

なので、外部のアドバイザーに面談に同席してもらって、ご質問いただいたりしました。そうすることで、僕にない物差しを補完いただき、候補者の方にとっても魅力として伝えられる。あとは、僕自身で、アイデミーが、どれだけ信頼できる会社か、誠意を持って伝えていく。社長の意思決定が重要な局面もありますが、適切なアドバイザー、適切に評価できる方に協力いただく。ここは大切にしてきたことですが、創業当初にはなかった部分だと思います。

「自分のいない世界」と「自分がいた世界」に差分を

最後に、そもそもの起業を志した理由、思いの源泉について伺わせてください。

多くの方が20歳くらいで考えるようなことだと思いますが、とにかく大きなことがしたい、教科書に名前が載るような人になりたい、自分の生きた痕跡を残したいと(笑)そして最も世の中にインパクトを与えられると思ったのが起業でした。

要するに、「自分が生きていなかった世界線」と「自分の生きた世界線」の差分を極大化したかった。「自分ならできる」と本気で考えていましたし、まわりから見れば、鼻持ちならない学生だったと思います。これも根拠のない自信ですね。

ちょうど大学に入ったのが、Facebookが世界中で使われ始めたタイミングでもありました。大学発スタートアップでも、コミュニケーションのあり方を変えられる。ITサービスで、世界を変えられる。その姿を見て、自分でも作りたいと。この思いは今でも変わっていませんし、当然、まだまだ道半ば。アイデミーで実現していければと思います。

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アイデミー特集 第2弾を近日公開!お楽しみに!
「深刻な「AI人材」不足、どう解決する!? 石川聡彦の視点」


取材 / 文 = 白石勝也


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