2024.05.08
社会人1年目で抱えた「ワクワクできない」葛藤。DeNAの社内プロジェクトで見つけた、私の生きる道

社会人1年目で抱えた「ワクワクできない」葛藤。DeNAの社内プロジェクトで見つけた、私の生きる道

「新卒1年目は周りがキラキラして見えたし、ワクワクできない葛藤もありました」そう語ってくれた千葉佳織さん。第一志望だったアナウンサー試験は不合格。新卒入社したDeNAでも1年目は葛藤を抱えていたという。DeNAの社内プロジェクトで切り拓いたのは「スピーチ」という強み、そして起業という選択だった。

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▼スピーチライター/カエカ 代表 千葉佳織さん初の自著
『話し方の戦略 「結果を出せる人」が身につけている一生ものの思考と技術』(2024/4/26発売)

▼千葉佳織さんのインタビュー記事 第1弾・第2弾はこちら
【第1弾】その話、相手の心に届いてる?
【第2弾】「話し方トレーニング」に込めた思い

「KPI」の意味もわからなかった新卒1年目

今回は千葉さんの「新人時代」をテーマに伺いたいのですが、どういった新卒1年目を過ごされたのでしょうか。

2017年に新卒でDeNAに入社したのですが、とくに新卒1年目はすごく葛藤がありましたね。もともと「人生をかけてアナウンサーになること」を就職活動のゴールにし、大学4年間を注いできたのですが、試験はすべて不合格。大きな挫折を経験し、全く何もわからないIT業界、DeNAへの就職を決めました。

DeNAですが、新卒1年目でも「起業していました」「メガベンチャーでインターンしていました」「事業づくりがしたいです」みたいなすごい人たちばかり。そういったなかでインターネットビジネスや事業のことを何も知らない、私のような社員はすごく珍しい。そもそも社内で飛び交う言葉の意味さえわかりませんでした。「え?KPIってなに?」というレベルで(笑)

何よりも戸惑ったのが「既存の枠にとらわれない挑戦が求められる」というカルチャーです。それまで弁論大会にしても、アナウンサー試験にしても「既にある枠組み・ルールの中でいかに1位を獲得していくか」という競争だったので、価値観が全く違うわけですよね。どう思考していいのか、すごく悩みましたし「どんどん新しいことやっていいよ」と言われても、どうやってやるんだろう?と。今思えば全く起業家っぽくない人間でした。同期はすぐに先輩や上司のフィードバックをキャッチアップし、どんどん活躍していくなか、そもそも就活に失敗した劣等感であったり、付いていくことができていない焦りだったり、そのあたりが大きかったように思います。

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スピーチライター/株式会社カエカ代表取締役 千葉佳織
15歳から弁論を始め、全国弁論大会3度優勝、内閣総理大臣賞受賞。慶應義塾大学卒業後DeNAに入社。人事部所属時に同社初のスピーチライター業務を立ち上げ、登壇社員の育成、社長のスピーチ執筆など部署横断的に課題解決に取り組む。2019年株式会社カエカを設立、話し方トレーニングサービス「kaeka」の運営を行い、経営者、政治家、社会人の話す力を数値化し、話し方を改善するサービスをこれまで5,000人以上に提供している。また、企業総会や国政選挙などでスピーチ原稿の執筆にも取り組む。2023年、東洋経済新報社「すごいベンチャー100」、Forbes JAPAN「次代を担う新星たち 2024年注目の日本発スタートアップ100選」に選出。著書に『話し方の戦略』。

制約ナシで書き出した「挑戦したいこと」

その葛藤が1年目ですよね。2年目はどう過ごされたのでしょうか。

1年目の後半くらいで、ある時、吹っ切れたんですよね。「このままじゃまずい」「自分ってうまくできていない」「実現したいことができてない」といろんなものが溜まっていた。そこで、あらゆる制約を取り払って「私は何に挑戦したいんだ」「人生をどうしたいんだ」と考えてみることにしました。今でも覚えているのですが、渋谷の道玄坂上にあるコメダ珈琲でA4用紙を広げ、ひたすら「挑戦したいことのキーワード」を書き出していって。じつはそれまで、過去にやってきた「弁論」や「スピーチ」に関することは、DeNAでの仕事と結びつけられていませんでした。インターネットの世界でスピーチライティングの経験は活かせないだろうと勝手に思い込んでいて。ただ、いったん全ての制約条件を取っ払って考えてみようとした時、やはりスピーチや話し方に携わる何かがしたいのだと、私なりのブレないテーマを見つけることができました。

ちょうどDeNAでも副業が解禁となったタイミング。そうだ、まずはスピーチトレーナーの副業に挑戦してみようと考えました。社外で実績を作りつつ、入社2年目でDeNAでの社内プロジェクトとして「スピーチライティング業務」を提案し、任せてもらえることになりました。すごく寛容な会社だったので「やってみなよ」と。そこから人事に異動し、新卒採用・社内のスピーチライター/トレーナープロジェクトを兼務し、2019年には自ら起業をすることにしました。

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新卒1年目を振り返り「今振り返ると、当時は自分の強みが活かせていない、わくわくできていない、歯車が全くかみ合っていない感覚があり、マインド的には自暴自棄に近かったですね」と語ってくれた千葉さん。「ただ、だからこそ「もうこれ以上の底はない」「これだけ悔しい思いをしたし、ダメでも耐性がついた」「底にいるからあとは上がるだけ」とチャレンジしやすくなったように思います」

「小説」のように生きる覚悟

ちなみに「スピーチライターとしての副業」はスムーズに見つかったのでしょうか。

最初は全くダメでした(笑)スピーチライターとして活躍されている方、話し方のコーチやコンサルタントをされている方、複数名に会いに行って「弟子入りさせてください」とお願いしたのですが、お断りをいただきました。「そういう育成はしていない」「教育できない領域」「アナウンサー試験に落ちるような人はプロにはなれない」と厳しい言葉をいただくこともありました。

ただ、お一人だけ私が本気だとわかると「ある高校にスピーチの授業をしにいく」「そこで10分の枠をあげるからスピーチしてみますか?」と言ってもらうことができました。「これは人生を変える瞬間だ」「これを逃したらもう次はない」と覚悟し、その高校でのスピーチに臨みました。終わってから、その先生から「本当にすばらしかった。私よりも上手い」「ぜひスピーチの講座をやってほしい」と評価いただき、副業でのお仕事をいただくことができたんです。今思うとこれが一番最初のスピーチライターとしての仕事でした。あの体験がなければ、また変わった人生になっていたかもしれません。

ちなみにその高校ではどういった話をされたのでしょうか?

オーダーは「高校生に希望を与えられる話」というざっくりしたものでした。なので、私の「人生」について話をしました。弁論大会で優勝するなど途中までは夢に真っ直ぐ向かっていたものの、大学4年間を費やして臨んだアナウンサー試験に落ち、やりたかったことができなくなり、心が空っぽだったこと。大きな挫折、葛藤、弱さ、全てをさらけ出しました。私の弱いところは全てあなたたちにさらけ出す。だから、あなたたちもさらけ出していこう。小説のような人生を歩もうといったメッセージだったと記憶しています。

ちょうどその頃、DeNAでも小説関連の仕事をしており、ある小説家の方と「作品だけではなく、どう自身のファンになってもらうか」というディスカッションもしていたんですよね。「きらびやかな部分では誰も応援してくれない」「人生の葛藤を出す」「小説のように生きていく覚悟を持つ」と。これもスピーチと仕事、そして私の生き方がリンクした場面だったかもしれません。

葛藤や挫折が一切なく、全てが順風満帆な人はほとんどいないですよね。胸を打つ部分は「弱さ」をさらけ出したときに生まれるもの。ただ「弱み」を話すだけで終わらないためにも人生の深堀りをし、ストーリーとして構成する。じつは「kaeka*」でもそのような人生やキャリアの棚卸しから行うことも多いです。

kaeka*…千葉さんが代表を務める「カエカ」が提供する、経営者、政治家、社会人向けの話し方トレーニングサービス。AIによって話し方の強みや課題を数値化(kaeka score)し、個々に適したトレーニングプログラムを提供する。専属トレーナーが数ヶ月間にわたって伴走する「パーソナルジムの話し方・スピーチ版」。

ある起業家の方が「kaeka」のトレーニングを受けてくださった時、「何度も話をするなかで覚悟が決まった」「自分がこれを目指すべきだと確信できた」「誰に何を批判されようが原点に立ち戻って話せる」というフィードバックをいただくことができました。実際、資金調達をし、今まさにチャレンジされているところ。ストーリーを見つけ、語れるようになる。それは自分が何者であり、何を大切しているのか。自分も気づいていなかった「自分」にどんどん近づいていくことなのだと思います。

「諦めない」「対等」「褒める」を大切に

最後に、仕事で大切にされていることについて教えてください。

すごくシンプルですが、1番は「諦めないこと」です。私たちが運営している「話し方トレーニングのスタートアップ」はおそらく日本で唯一。すごくポジティブな言葉もあれば、過去には「そんなものでビジネスできるのか」と批判をいただくこともありました。それをバネに行動に変えられるか、打ちひしがれて歩みを止めてしまうのか。その差は諦めてしまうかどうか。なので、どのような逆境も、諦めずにやり続ける。語り続ける。これは自分の中で決めていることでもあります。

もう一つ、組織運営で大切にしていることかもしれませんが、コミュニケーションの会社なので「対等であること」は強く意識しています。年齢、性別、役職など関係なく、役割を分担し、フラット、オープンにしていく。

最後に、新人の方向けにも、マネジメントをする方向けにも、参考にしていただけそうなところだと「褒める」というアクションはすごく大切にしています。よく誤解されるのですが、「褒める」は相手に気持ち良くなってもらうために行うのではなく、「求める行動」の再現性を高めるためにやるもの。「そういった行動を取ってほしい」という意思表示でもあり、改善点を伝えることと同じくらい価値があること。受け取る側も「褒められてうれしい」で終わるのではなく、何が褒められているか=評価され、再現を求められているか?と考えてみるのもおすすめです。

もし人を褒める時「照れてしまって褒められない」といった場合、それは「自分都合」ですよね。そうではなく、相手に期待するアクションや成果に向き合えば「照れ」はなく、より具体的な「褒めるポイント」も見つかるはず。新人のみなさんのトレーニングやコーチを担当する方はもちろん、受ける側のみなさんもぜひ意識してみていただければと思います。

(おわり)


▼スピーチライター/カエカ 代表 千葉佳織さん初の自著
『話し方の戦略 「結果を出せる人」が身につけている一生ものの思考と技術』(2024/4/26発売)

▼千葉佳織さんのインタビュー記事 第1弾・第2弾はこちら
【第1弾】その話、相手の心に届いてる?
【第2弾】「話し方トレーニング」に込めた思い


取材 / 文 = 白石勝也


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