2023.03.20
キャッシュ残10万円でも信じ抜いた「eスポーツ」の価値。ウェルプレイド・ライゼスト上場の舞台裏

キャッシュ残10万円でも信じ抜いた「eスポーツ」の価値。ウェルプレイド・ライゼスト上場の舞台裏

「これまでeスポーツの価値を疑ったことは一度もなくて。ビジネスとしての価値も証明したい」こう語ってくれた、ウェルプレイド・ライゼスト代表の谷田優也さん。ゲームプレイ・観戦の熱狂に魅せられ、2015年11月創業。2022年12月、eスポーツ業界で初上場を果たした。そこに至るハードシングスに迫った。

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ウェルプレイド・ライゼストについて

・2021年に「ウェルプレイド社」「ライゼスト社」が合併して誕生
・2022年11月東証グロース市場上場 ※2022年10月期決算は昨対比売上高122%、営業益164%
・eスポーツイベントにおける企画・運営事業を展開。プロリーグからコミュニティイベントまで年間100件・30タイトル以上を運営。eスポーツ・ゲームイベント・動画コンテンツに特化したノウハウを有し、専門人材が在籍。熱量の高いコミュニティの支持を得る企画・運営に強みを持つ。
・その他、ゲーム実況者・ストリーマー・プロゲーマーに特化してサポートするMCNサービス「OC GAMES」、ゲームを軸としたインフルエンサーマーケティングなど、新たな事業領域も手掛けている。

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キャッシュ残10万円でも、その価値を疑わなかった

まずは2015年、前身となるウェルプレイド創業当時のお話から伺わせてください。当時は「eスポーツ」という言葉もなかった時代ですよね。そもそもビジネスとして成り立ったのでしょうか。

創業1年目はeスポーツの仕事はほとんどありませんでしたね。前身の「ウェルプレイド」はゲーム業界の出身者で立ち上げたのですが、それぞれ出向したり、個人で案件を取ってきたり、とりあえず自分たちの「食いぶち」を稼ぐみたいなことで、なんとかその日その日を凌いでいました。

当時、資本金100万円で会社を立ち上げたのですが、その1/3を「これは俺たちの覚悟だ」とか言いながら、応援したいゲーム大会のスポンサーになるために使っちゃったりもして。ぜんぜん経営として成り立っていなかったと思います。

そこからどのようにして事業化していくことができたのでしょうか?

夜であったり、仕事の合間だったり、とにかくゲームイベントの企画書を書き続け、運営を受託するための提案をしていきました。そこから少しずつ大会やイベントの参加者も増え、パブリッシャー(ゲームメーカー)さん、スポンサーさん、有名プレイヤーさんにご協力いただけるようになっていきましたね。

そこからメイン事業であるeスポーツイベントの企画・運営につながっていくと。ビジネスとしての可能性を感じた分岐点、出来事などあれば教えてください。

2017年に、かなり大規模なゲーム大会の運営を任せてもらえたのですが、それは分岐点だった気がします。ただ、資金がショート寸前までいった最大のピンチでもあったんですよね。

地方予選から行う大会だったのですが、地方のイベント会場を借り、そこにPC500台を搬入して。お金も手間もすごくかかって。イベントという事業の性質上、会場費にしても、機材レンタルにしても、あらゆるものが先払いなんですよ。

当時は与信力がなく、銀行からの借り入れがてきず、当然全て自己資金で事前に用意するしかない。「まぁそのイベントがうまくいけば翌月には入金だろう」と呑気に考え、会社の銀行口座に残るキャッシュが10万円を切るかどうか、本当にギリギリまで先払いで使ってしまいました。というか、使わなければイベントが開催できなかったので。

で、蓋をあけてみると、受け取れた手形は「約束手形」。改めて確認してみると「入金が10ヶ月先になります」と。これは何?と思いましたよね。恥ずかしい話ですが、そもそも「約束手形」というものの存在自体を知らなくて。盛り上がったイベントとは裏腹に、このままでは社員の給料も、もろもろの請求も支払えない。これが黒字倒産の瞬間か…と思いましたね。あのまま倒産していてもおかしくない、しくじりだったと思います。

どのようにしてそのピンチをのりこえたのでしょうか。

その時は「約束手形をなんとか今すぐ現金に変えられないか」と奔走して。何とか手筈を整え、凌ぐことができました。ただ、結果的に得られたはずの利益をかなり失ってしまった。経営者失格ですよね。

ただ、これは単純に自分の経営者としての力不足なだけであって、事業をやめようと思うようなハードシングスではなかったかなと思います。そういった意味で言えば、これまでeスポーツの価値を疑ったことは一度もなくて。創業から7年経ちましたが、今だとメジャースポーツに並ぶくらいの価値を感じてくれる人が増え、素直にうれしさを感じている、というのが今だと思います。

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コロナ禍で「合併」と「上場」を同時にやりきる

その後、ビジネスとしては順調に成長していったのでしょうか。

そうですね。時代の追い風もあり、さまざまな課題はありつつも、事業としては拡大してきました。ただ、2020年に「eスポーツ」が流行語大賞にノミネートされたのですが、その時は焦りのほうがあったかもしれません。その名の通り一時的な「流行」で終わらせてはいけないぞ、と。

そういった思いもあり、上場しようと?

それはありましたね。「eスポーツは上場するだけの価値あるビジネスだ」と証明したいし、しなければならない。そこから本格的に上場を目指すことにしました。

実際、ステイホームが叫ばれるコロナ禍のなか、オンラインでイベントを開催できるeスポーツは相性が良かったと思います。オフラインイベントが軒並み制限されるなか、たくさんの企業がeスポーツのイベントに目を向けてくれるようになった。ここは大きかったと思います。それまで「一生懸命、ゲームのイベントなんてやってもね…」みたいな、少し冷ややかな目で見られることもあったのですが、世間の見る目が一気に変わったような気がします。

2021年には「ウェルプレイド社」「ライゼスト社」が合併していますが、これも上場を見据えてのことだったのでしょうか。

もちろんそれはあります。ただ、より大きな視点でいえば、個々の会社でしかできなかったことを組み合わせれば、1+1が3にも4にもなる。お互いが個別にやっていたら5年かかりそうな成長を、同時にやれば半分の時間で実現できるかもしれない。結果、上場への挑戦、その土台に一緒に立てるはず。同じ世界を目指すのであれば、共にチャレンジしようと合併の話が進んでいきました。

もともと「ライゼスト」側の代表だった古澤明仁(現:ウェルプレイド・ライゼスト共同代表)さんとは交流もあったのでしょうか。

そうですね。たまに飲みに行ってこの業界の未来について語り合ったりもしていて。同じ志を持っていることは知っていました。なので「上場」は合併について話を進めるひとつのきっかけだったように思います。

そう考えると2021年の合併、2022年の上場、いずれもコロナ禍で実現されたと。

たぶんこの2つを同時にコロナ禍に経験した会社って他にはほとんど無いんじゃないですかね(笑)まぁ正直けっこう大変で。出社が制限され、リモートでのコミュニケーションになり、もちろん実務的な壁も多くあって。様々な決め事や目標が増えていくタフな状況のなか、社員には本当に頑張ってもらったと思います。

合併に関して言えば、それぞれの企業文化やカルチャーがあり、誇りを持っているなか、それらをどうリモートで融合させていくか。いかにその2社の社員のエネルギーが失われないようにするか。どうすればお互いが公平でリスペクトし合っていることが示せるか。どうやったら対等に思ってもらえるか。ここはかなり大切にした部分でした。たとえば、社名はお互いの「ウェルプレイド」と「ライゼスト」を組み合わせて命名したのですが、まるで必殺技のような「ウェルプレイド・ライゼスト」という社名は、それが背景だったりします。規模では比較になりませんが、スクウェア・エニックスさんのケースも参考にして(笑)。もう一つ「ライゼスト」の代表だった古澤に共同代表になってもらったのも、お互いをリスペクトし合っている証でもありました

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未知の領域に対する決断こそがハードシングス

ここまでの道のりを振り返ってみて、谷田さんが思う「ハードシングス」とは?

うーん、なんでしょうね。「未知の領域に対する決断」その怖さと向き合うこと、それがハードシングスなのかなと思っています。あらためて経営者って決断の連続だと思うのですが、自分でも見たことのない、経験したことのない世界で、いろいろ決めないといけない。どれだけ考えても答えのない場面で、困難な決断をしないといけなくて。ただ、その決断こそが強烈な経験値になり、成長につながっていくのだと思っています。

確かに前例もなく、ロジックや経験では決断しきれないこともありそうです。そういった時、谷田さんは何をよりどころに決断するのでしょうか。

これはすごくシンプルで、「心がワクワクする方を選ぶ」と決めています。簡単に実現できることは、安全かもしれないけど、おもしろくない。ある意味で、再現性がない方を選ぶと言ってもいいかもしれないです。たとえば、カヤックからの出資、そして合併、コロナ禍での上場、これはおそらく再現しようと思っても二度と再現できない(笑)それらも根っこにあったのは、ワクワクする純粋な気持ちだったなと今振り返ると思います。

そもそもeスポーツでのビジネスが未知の領域。そういった意味でも、ウェルプレイド・ライゼストでは、経営者に限らず、事業部長や取締役なども含め、多くの「未知の領域」での決断機会を提供していけるといいなと思っています。それこそまさに挑戦しているということですし、その機会によって成長だったり、組織自体の強さだったりにつなげていければと思います。

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取材 / 文 = 白石勝也


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