2022年11月、東証グロース市場上場を果たしたウェルプレイド・ライゼスト。「eスポーツ総合商社」を謳う彼らだが、なぜ、eスポーツ業界で国内初の上場に至ることができたのか。同社代表である谷田優也さんを直撃。そこには彼ら自身のゲーム愛、そして「熱狂」から生まれる人間ドラマへのまなざしがあった。
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・2021年に「ウェルプレイド社」「ライゼスト社」が合併して誕生
・2022年11月東証グロース市場上場 ※2022年10月期決算は昨対比売上高122%、営業益164%
・eスポーツイベントにおける企画・運営事業を展開。プロリーグからコミュニティイベントまで年間100件・30タイトル以上を運営。eスポーツ・ゲームイベント・動画コンテンツに特化したノウハウを有し、専門人材が在籍。熱量の高いコミュニティの支持を得る企画・運営に強みを持つ。
・その他、ゲーム実況者・ストリーマー・プロゲーマーに特化してサポートするMCNサービス「OC GAMES」、ゲームを軸としたインフルエンサーマーケティングなど、新たな事業領域も手掛けている。
eスポーツ業界におけるIPOは国内初と伺いました。ウェルプレイド・ライゼストがIPOできた要因はどこにあると思いますか。
こう言うと身も蓋もないかもしれませんが、eスポーツはビジネスとしても価値があると信じた、その価値を疑わなかった、この領域において本気で上場を目指した、という部分に尽きる気がしています。
私たちでいえば「eスポーツの力を信じ、価値を創造し、世界を変えていく」をミッションに掲げているのですが、業界全体の発展に寄与したい、もっとゲームに市民権を得たいと上場にこだわった部分が大きかったと思います。
ウェルプレイド・ライゼストが提供している価値、そのコアや強みはどこにありますか。
選ばれている理由でいうと、あらゆるジャンルのゲームのイベント運営に、高いクオリティで対応ができる。ここは一つあると思います。盛り上がるeスポーツイベントを運営するためには、単なる配信技術・通常のイベント運営ノウハウだけでは足りないんですよね。文脈やツボを押さえた企画が必要。さらに適切なキャスティング、カメラワークなどの魅せ方、スロー・リプレイ・舞台演出など含め、さまざま求められるのですが、これらに応えられるのは私たちの強みです。
そして毎年膨大な数のゲームタイトルがリリースされ、アップデートもあります。3ヶ月〜半年くらいでトレンドが変化していくなか、それらをキャッチアップし、ルールなども進化させながら、企画を立てていて。その時々、最適な「解」を出していくことはそう簡単ではないですし、パブリッシャー(ゲームメーカー)さんもイベント運営は対応しきれないところ。だからこそ、私たちの仕事に価値が生まれているのだと思います。そういった意味だと、激しいトレンドの変化にも対応できる組織、「人」の力はすごく大きいですね。
いわば「わかっている人たち」がやらないと上手くいかないと。ちなみにどういった方々が社員として在籍しているのでしょうか。
それでいうと「フォートナイト」「PUBG: BATTLEGROUNDS」「荒野行動」「ストリートファイターV」など有名タイトルの国内トップクラスのプレイヤーが在籍していたりもします。そういったメンバーだからこそできるカメラワークや演出などもあって。そういったプレイヤー以外も、ゲーム愛のあるいわばゲーマー社員ばかりなので、そのつながりからユニークな解説者やプレイヤーの発掘・キャスティングができることも。ここも私たちならではだと思います。
先の話にあったパブリッシャーサイドとeスポーツ運営サイドの協力関係性も、ここ数年で生まれた新たなものと言えるでしょうか。
そうですね。まず大前提、ゲームの遊び方が大きく変化していて。これまでゲームの世界でいうと「パッケージソフトの売り切り」が主流でしたが、いったん無料で遊んでもらった上で、課金してもらうサブスクへのシフトが進んでいます。つまり「どう明日もゲームを遊び続けてもらうか」が重要になる。eスポーツは、このゲームの外側にある「明日も遊び続ける理由づくり」になる。たとえば、友だちができたり、コミュニティの絆が生まれたり。それこそ極めていけば、賞金がもらえるようなプロへの道も拓けていく。さらに好きなコミュニティリーダーに会える、おもしろいYouTuberを見つけてファンになる。単純に見て楽しむ。そんなエンタメコンテンツとしての広がりもあります。
ゲームのことを考える人、時間が増えれば、結果として熱量が高まり、プレイヤーも増えていくはず。そうすれば、課金などによる収益向上に貢献ができます。このゲームをやっていてよかった、好きで良かったと思える機会を提供していく。
つまりパブリッシャーさんからしても、eスポーツはマーケティングにおいてどんどん必要な存在になっていて。頼れるプロであるか。ここも一つ大きな「選ばれる理由」だと思います。
eスポーツ全体でいうと市場そのものも拡大していると言えるのでしょうか。
もうすごく盛り上がっていると思います。わかりやすいところでいえば、配信技研*が出しているデータで、2022年10月のライブ配信視聴ランキングだと、名だたるVTuberを押さえてトップ5をゲーム配信者が独占しています。トップの人だけで見ても、世界における月間累計「3.5億分」の可処分時間を獲得している。それだけの時間が「ゲーム実況を見る」に費やされていること自体がすごいことですよね。
(*)配信技研…https://www.giken.tv/news?offset=1668063072087
さらに2023年6月には、IOCの国際大会「オリンピックeスポーツウイーク」が開催される予定になっていたり、国内でいえば2021年7月に日清食品さんがeスポーツチーム「ZETA DIVISION」のスポンサーになったり。もういわゆる普通のスポーツと肩を並べるくらいの人気、注目度になっていると言っていいと思います。
エンタメビジネスといった観点で見てもまだまだポテンシャルはあります。たとえば、著名なタレントさんや女優さんがプロゲーマーとチームを組んで戦う大会が開かれたりもしていて。あまりゲームに親しんでこなかったライト層も「見て楽しむ」機会が増えています。テレビやネット配信でも、比較的ローコストで、熱量があり、おもしろい番組として仕上げられる。そういった意味でもエンタメの中心的存在になっていくと考えています。
最後に、多くのeスポーツイベントを手掛けてきた谷田さんに伺いたいのですが、人々の「熱狂」はどう生まれるか。その本質は何か。もしこれまでの経験から思う部分があれば教えてください。
結局、人は人にしか感動しない生き物だと思うんですよね。どの業界にも通じると思うのですが、eスポーツのシーンを支えているのも、狂気としか言いようのない時間をゲームに注ぎ、その先にようやく咲く「小さな花」みたいなところがあって。それらが感じられた時、そのプレイヤーを心から尊敬するし、熱狂が生まれる気がします。僕自身の話でいえば、プロゲーマーである「ときどさん」が「EVO2017」で優勝した時、普段は絶対泣かないですけど、さすがに泣きましたよね。そこに至る努力やプロセスを知っていたから。そして、対戦相手がどんな人かも知っていたので自然と涙が出てきたというか。
コロナ禍でいえば、それまで世界中を飛び回り、大会に参加していた日本人プレイヤーが自宅にいなければいけない状態で、何を考え、何をしてきたか。どれだけの練習をこなしてきたか。そして再びオフラインでも大会が行われるようになり、どういった活躍を見せてくれるか。すごく想像しやすい状況にもなっています。こういった環境もたとえ物理的な距離があっても「熱狂」を後押ししてくれる。
そして、勝負の世界なので、みんながみんな勝てるわけではない。努力が報われない「儚さ」も「熱狂」が生まれる条件といえるのかもしれません。99%は報われない、ただ、その先にあるわずか「1%」を追い求める勇姿に感情移入していく。
だから、僕らがこだわっているのも、人のストーリーを見せること、つくることだったりします。そういった意味でいうとすでに影響力を持っている人たちやインフルエンサーたちだけで成立するコンテンツが、必ずしも素晴らしいエンタメになるわけではないのかもしれません。
(おわり)
取材 / 文 = 白石勝也
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