2023.02.06
Amazonの死角!生鮮流通DXで生まれるビジネスチャンス|フーディソンの挑戦が切り拓く新市場

Amazonの死角!生鮮流通DXで生まれるビジネスチャンス|フーディソンの挑戦が切り拓く新市場

鮮魚をはじめとする「生鮮流通」にイノベーションを起こすフーディソン。2022年12月に新規上場を果たした同社。特に収益の柱である飲食店向けEC『魚ポチ』の成長が著しい。フーディソン 代表の山本徹さんは「おそらく大手ECだとマネができない」と語る。その理由とはーー。

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第1弾|フーディソン 飛躍的成長の裏側。「私は経営者失格だった」10億円調達後の赤字、コロナ禍、そして上場へ

スマホで鮮魚を仕入れられる『魚ポチ』が変えた業界の常識

2022年12月に新規上場を果たしたフーディソン。2023年3月期の決算予想は売上50.2億円、売上総利益18.8億円を見込む。

彼らが提供するのは生鮮流通プラットフォーム事業。あくまでもtoB/toC/HR各サービスの連携・シナジーから成るが、売上の66%を占め、主力となっている飲食店向け生鮮品仕入れEC『魚ポチ』の成長が著しい。

月間の平均アクティブユーザーは4,000店舗近くに上り、その数は右肩上がりで増えている。彼らはいかにしてそのビジネスモデルを確立していったのか。フーディソンの代表取締役CEOの山本徹さんに伺った。

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毎月4,000店舗近くが利用し、活用が進む『魚ポチ』。スマホひとつで鮮魚が注文でき、深夜3時までの注文で翌日には届く。ビジネスモデルはマーケットプレイス型ではなく、自社で仕入れ、粗利を乗せて販売する卸売りモデル。「最近だと、市場に行ける地域の方にも利用いただいています。ほとんど市場での購入価格と差がなく、早朝に市場まで行く手間がかからないのが使っていただく理由に。また、物理的に市場まで行けず、スーパーさんで購入するしか選択肢がなかった方の利用も増えているところ。市場価格なのでメリットがあり、種類も豊富なので使っていただけています」と山本さん。

大手プラットフォーマーが攻めてこない「際(キワ)」はどこか?

「飲食店がスマホで鮮魚を仕入れられ、翌日には届くようにする」一見、シンプルなECサービスだが、『魚ポチ』だからこそ実現できている仕組み。なぜ、大手ECは攻められないのか。そこにはフーディソンが考えるベンチャーとしての戦い方があった。

もともと『魚ポチ』は水産業界における「情報の非対称性」の課題感から始めたサービスですが、当然、Amazonをはじめ、影響力のあるプラットフォーマーがどの領域を攻めてくるか「際」はすごく意識しました。

Amazonでいえば、本からECをスタートし、あらゆるものに裾野を広げていますよね。ただ、なぜ生鮮品、特に鮮魚には来ないのか。そこにはやりにくいこと、やれない理由があるからだと考えました。

まず鮮魚の場合、毎日水揚げ量が変動します。工場でいえば、毎日生産量が変わるようなものなので、非常に生産管理がしにくい。さらに2日間ぐらいで商品価値を失ってしまうので在庫管理もしづらい。つまり、すこく短いスパンで適切に、その都度マッチングをしていく必要があり、非常に手間がかかるわけです。ここは参入する上で大きな壁になります。

ただ、やろうと思えば、不可能ではありません。たとえば、Amazonにおける物流センターのシステムを水産に応用しようと考えた時、特殊性はあるものの、商品コード、価格、在庫数などのデータ・情報は同じ。オペレーションも指示書をもとにスタッフが梱包し、発送する。大枠の仕組みは活用できなくもないわけです。

ただ、それらはあらゆる商品がデジタル化されているからこそできること。その点、鮮魚はあらゆる情報がデジタル化されていない/デジタル化しにくい特性があります。ここに「際」があると考えました。

魚介類の名称、大きさ・重さ、捕れた場所・日、重さあたりの価格…これらの情報のデジタル化から、自分たちでやっていく。そこで得たデータを利活用することでビジネスを大きくしていく。インターネットが普及した時、さまざまな業界で起きたことが、これからは水産でも起きるはず。そのなかで「鮮魚情報のデジタル化」を自分たちで押さえることができれば、メインプレイヤーになれると考えました。

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フーディソンの代表取締役CEOの山本徹さん

生鮮品における「物流」に変革を

鮮魚のあらゆる情報をデジタル化する。そのデータを利活用し、ビジネスをスケールさせるーー。ここに勝機を見出したものの、実現はそう簡単なことではなかった。

言葉で「鮮魚のあらゆる情報をデジタル化する」と言うのは簡単ですが、実際に進めていくとなると、ハードルは非常に高いものでした。

というのも、情報のデジタル化を突き詰めると、人の手による労働集約的な出荷業務を含む「物流」全般を変えていく必要があるとわかったからです。そうしなければ規模がスケールせず、収益化も難しい。

たとえば、『魚ポチ』経由で飲食店さんから「サワラ」の注文が入ったとします。ただ、その先の市場(いちば)では大雑把に言うと、

・サワラを選ぶ(どの魚がサワラかわかる)
・重さを量って正しく値付けをする
・伝票に必要な情報を記載する
・到着地までに必要な量の氷を用意する
・それらを「サワラ」と一緒に発泡スチロール箱に詰めて梱包する
・発送の手配をする

といった出荷業務が発生するわけです。もし、経験豊富な仲卸さんしかこれらに対応できないとなれば、汎用性がなく、今までとほとんど変わらない。LINEを活用するケースがありますが、注文と受付だけがデジタル化されたところで、その後の梱包業務に活用されなければ意味がありません。

まして知見のある限られた仲卸さんしか対応できないのであれば、対応できる件数、出荷時間も決まっているなか、新規の注文は受け付けられない。それでは当然ビジネスとしてスケールしません。

そうではなく、たとえ「サワラ」がわからない人でも、仕事ができる仕組みにする。先の工程をいかに自動化し、属人性をなくしていけるか。ここに私たちとしては力を入れてきました。

たとえば、注文情報は全てデジタル化され、システムから指示書が出力されます。毎回出荷するごとに魚の重さを量る「量り売り」が一般的なのですが、それらも機械で行い、魚にQRコードで紐付けていく。そうすることで誰でも魚の種類、重さ、価格がわかり、スキルがなくても指示書ベースの作業ができるわけです。

こういったオペレーションレベルから組み上げていくことで、業務を効率化し、出荷コストが削減できてはじめて、スケールと収益性が実現できる。ここが私たちの強みの源泉。極端にいえば、人材不足が続くなか、たとえば日本語が読めなくても作業できるレベルにしていければと考えています。

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独自開発したシステム・計量器を導入し、出荷業務の効率化・一般化を行っている。
(フーディソン 2022年12月16日『事業計画及び成長可能性に関する事項』より)

業界の「敵」にではなく「仲間」に

単純なデジタル活用ではなく、市場における業務フローの変革に入り込んでいる強みを持つフーディソン。テクノロジーの活用が進んでいなかった水産業界において、なぜ彼らは存在感を発揮できているのだろう。

「業界を壊す」といったスタンスで取り組んでいたら、業界関係者から理解が得られず、失敗していたはず。そうではなく、あくまでも一緒に業界をアップデートしていく「味方」であること。ここはすごく大切にしてきたところだと思います。

特に水産業は毎日取引が発生するため「人」と「人」との信頼関係こそが大事。起業前もまずは市場に出入りして、顔を覚えてもらうところがスタートでした。今も月1回は市場に行って、出荷現場の把握をしていますし、そういった積み重ね、長い時間軸で課題を解決していくように取り組んできたことは大きかったかもしれません。

たとえば、初期の『魚ポチ』は「FAX注文」もOKにしていて。お寿司屋さんを経営されている方など、ご年配の方も多いわけです。なかなかスマホやPCに馴染みのない方もいるだろうと。FAXからはじめてもらって、うまくいった体験を通じ、次はお店の若いスタッフがECで注文する、次はご自身でもECでやってみようとなる。そういった形で段階を踏むようにしていきました。

これは市場のみなさんとの関係性も同じ。この業界にテクノロジーで入っていくと言うと「市場を飛ばして、産直(漁師との直接取り引き)を行なうのか」と言われがちなのですが、そうではありません。むしろ市場はこれからも必要な存在。というのも、水揚げされる魚は、急に増えたり、減ったりするわけですよね。すると消費地の近くで一時的な保管場所が必ず必要になる。そうでなければ、消費地に一定量ずつ提供ができなくなってしまう。そういった市場の存在意義、価値を高めるためにも、既存の市場を含めてソフトウェアとデジタル化された情報で補強していく。そういったプラスの役割を担っていければと考えています。

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2011年、前職のエス・エム・エスを退職後、起業のテーマを探すなかで「水産業界の課題」に目を向けた山本さん。「たまたま岩手県に行った際、現地でサンマ漁をしている方が居酒屋さんにいてお話する機会があって。「全く儲からない。息子にも継がせられない」という話を聞き、調べていくなかで水産業界の課題を解決したいと起業しました」

鮮魚ECはピースのひとつ。見据えるのは、業界全体を幸せにするプラットフォーム

続いて伺えたのが、今後の展開、構想について。

今回『魚ポチ』の話をメインでさせていただきましたが、長期的な視点として、生産流通のプラットフォームにおいて魚に適正な価値をつけ、消費者に販売できる仕組みをつくりたいと考えています。

『魚ポチ』は、情報をデジタル化する技術や出荷するシステム、顧客・サプライヤーネットワークをもったプラットフォームの基盤。それを補強する上で、魚を適正価格で売る機能として実店舗である『sakana bacca』、人材の観点から流通事業者を支援する『フード人材バンク』という位置づけ。各サービスでマネタイズしつつ、流通プラットフォームを構築していく。そのために新しいサービスにもチャレンジしたいですし、必要なパーツを組み上げていければと思います。

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(フーディソン 2022年12月16日『事業計画及び成長可能性に関する事項』より)

そして、その先に見据えるのは、水産業をはじめとする生鮮流通が抱える大きな課題の解決だーー。

これまでの水産業をはじめとする生鮮流通の世界でいえば、各プレイヤーが一生懸命頑張っているものの、それだけでは到底解決しようがない構造的な問題がありました。

魚を捕る「生産」と、それを売る「販売」がうまく連携できていない、生産サイドと流通・販売サイドの分断に課題の本質があるのだと私たちは考えています。生産サイドは水揚げし、市場で値付けをしますが、その先はいくらで誰に売られているのか、知る由もありません。当然、その魚をどんな人たちが食べているかもわからない。たくさん水揚げできたとしても、たくさん買ってもらえるものなのか、あまり買ってもらえていないのかさえわからないということ。

たとえば、電化製品のように「顧客ニーズを踏まえて売れるものを作る」といったことができれば、この課題は解決されていくはず。今は何を作るべきなのか、そして何を売るべきなのか、考えながら売れる仕組みをどう構築していくか。そのためのサプライチェーンのデジタル化と効率化だと捉えています。どこで何がどれだけ生産されているか、どこにそれらの消費があるのか、全国にある細かなニーズの把握やマッチングは、デジタルが得意とするところ。それらを実現し、業界全体に関わる全ての人がWIN-WINになる、そんなプラットフォームをつくっていければと思います。

(おわり)


第1弾|フーディソン 飛躍的成長の裏側。「私は経営者失格だった」10億円調達後の赤字、コロナ禍、そして上場へ


取材 / 文 = 白石勝也


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