2022.12.21
「勝ち目はない」と言われても、決意は揺るがなかった。プログリット 岡田祥吾が貫く情熱ドリブンの経営哲学

「勝ち目はない」と言われても、決意は揺るがなかった。プログリット 岡田祥吾が貫く情熱ドリブンの経営哲学

2022年9月に上場を果たした、英語コーチングサービス運営の「プログリット」。創業6年でのスピード上場となった同社だが、上場に至るまでの困難をどう乗り越えてきたのか。そこには代表 岡田祥吾さんの「逆境」を力に変える情熱ドリブンの経営哲学があった――。

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英語コーチングサービス「プログリット(PROGRIT)」概要
・コンセプトは「人の力とテクノロジーの力を融合させ、英語学習に革新を起こす」
・その特徴は「短期集中で成果を出す」に特化していること
・効率的な学習のためのコンサルティングとコーチングを融合
・膨大な学習データをもとに顧客にあう最適な学習プログラムを提供
・コンサルタントが顧客と対話&コーチングし、高いモチベーションで学習を続けられる
・2020年6月、シャドーイング特化型サブスクサービス「シャドテン」提供を開始。2022年6月には累計20万添削を突破し、順調な成長を続けている

「勝ち目はない」と言われても、決意は揺るがなかった。

2016年創業と業界では後発となるプログリットだが、なぜ競合ひしめく英語学習領域で起業したのか。そのきっかけから伺うことができた。

よく聞かれるのですが、僕らは事業を理屈や論理で考えたわけではなくて。とにかく「日本で最も良い英語サービスをつくれば必ず勝てるはずだし、日本をより良くすることができるだろう」と考え、事業ドメインを決めました。なので、創業前には競合分析もしていなければ、市場規模なども調べていませんでした。

今振り返ると、それがむしろ良かったのかもしれない。というのも、前提に理屈や論理がなかったので、どのような壁も「無理だ」とは考えず、「必ず乗り越えられるはずだ」と信じて突き進むことができたからです。

もちろん、いろいろな方から「なぜ、わざわざ競合サービスが多いレッドオーシャンに突っ込むのか」「勝ち目はない」「無謀だ」と反論をもらうこともありました。ただ、私たちにその言葉は全く刺さりませんでした。なぜなら、パッションでしか動いていなかったからです(笑)

そもそも、もともと私自身、英語が苦手だったのですが、英語ができるようになり、人生が大きく変わった体験から生まれた事業でもあります。周りを見渡しても、私と同じように英語学習で苦しんでいる人たちばかり。膨大なお金を投資したのに、10年経っても何も変わらない。そういった方がゴロゴロいるのが今の日本ですよね。だからこそ「本当に英語力が伸びるサービス」をつくれば、それだけで日本を変えられる。そう信じて起業をしましたし、今でもその思いは変わっていません。

+++「共同創業者の山碕峻太郎(現取締役副社長)とも徹底的に議論して、起業するなら「とにかく自分たちが情熱を注ぎ抜けることをやろう。パッションが持てることを事業にしよう」と誓ったところからスタートしたのがプログリットでした」と語る岡田さん。

これまでの英語学習サービスが向き合ってこなかった事実

創業から現在に至るまで、黒字経営にこだわってきたプログリット。これだけ多くの英語学習サービスがあるなかで、なぜ彼らはビジネスを伸ばすことができたのか。

短期間で必ず英語を話せるようになりたい、そういった方々のために、正しい努力の方法、そしてそのモチベーションの維持に愚直に向き合ってきた結果が今につながっているのではないかと思います。

身も蓋もない話ですが、本当に英語力を伸ばすためには、自分で努力する以外に方法はありません。ただ、この事実に対し、これまでの英語学習サービスはほとんど正面から向き合ってこなかったのではないかと感じました。つまり、教室やオンラインなどで「英語を教える時間」を価値として提供し、必ずしも「英語ができるようになる」という成果にコミットはしていなかった。ここに着目し、いかにモチベーション高く、効率的に英語学習に取り組めるか。そして「本当に英語ができるようになる」までやり抜けるか。そのためのコンサルティングとコーチングを融合させた『プログリット(PROGRIT)』が誕生しました。

+++『プログリット(PROGRIT)』が目指すのは、「本当に短期間で英語ができるようになること」だと語る岡田さん。「そのために高いモチベーションを維持し、学習し続けられるようにプロのコンサルタントがお客様と対話していきます。「そもそもなぜ英語を学びたいのか」という動機づけやコーチングを行なっていくのが特徴です。また、お客様の膨大な学習データをもとに、属性、目的などから最適な学習プログラムを提供しています」

「君たちは成功する」瀧本哲史氏との出会い、そして別れ

ただ、決して彼らも順風満帆だったわけではない。特に起業から半年ほどは誰からも見向きもされず、事業も伸び悩んだと岡田さんは振り返る。ただ一人、彼らの可能性を信じて出資した人物が、エンジェル投資家の瀧本哲史氏だった。

2017年4月、一番はじめに出資をいただいたのが、投資家の瀧本哲史さんでした。当時はオフィスもなく、私と共同創業者を除けば社員は1人だけ。本当に何もなかった私たちに何の迷いもなく、その場で出資を即決してくれました。今でもなぜ出資いただけたか、不思議なのですが、とにかく「君たちは成功する」と言ってくださって。そこから瀧本さんが亡くなるまで毎月メンターとしてアドバイスをいただくようになりました。

アドバイスといっても特別なことではなくて。「事業が伸びてきたので、来月までに1人採用しましょう」とか「研修プログラムを全部マニュアルに落としてきてください」など、ちょっとした相談だったり、今やるべきことの確認だったり。それらを愚直に実行し、気づいたら採用速度が上がり、社員も増え、事業を軌道に乗せることができました。

じつは上場に関しても瀧本さんの一言がきっかけで、明確に意識するようになったんですよね。ある日突然「それで、いつ上場するんですか?」と。もともと自己資金でスタートし、瀧本さん以外に株主はおらず、黒字も出ていたので上場についてそれまで全く考えていませんでした。

ただ、瀧本さんから「英語領域は多くの企業が参入しているにも関わらず、上場企業が数えるほど。上場で得られる信頼性やブランドを使って成長したほうがいい。いかに質の高いサービスをやっていても認知されなければ意味がない」とアドバイスをいただき、その日から上場が私たちの目標になり、ずっとこだわってきました。瀧本さんと一緒に上場を祝えなかったことは残念ですが、彼との約束を一つやり遂げられたように思っています。

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異常なほど高い「従業員エンゲージメント」に抱いた危機感

そして、2018年以降「上場」に向け、組織変革にも着手していったという岡田さん。それまでのサークルに近い雰囲気だった組織から、ビジョン達成のためにやり抜く骨太な組織へ。

上場を目指すようになり、最も危機感を抱いた瞬間は「従業員のエンゲージメントが高すぎた時」ですね。創業時から従業員のモチベーションは組織にとってすごく大事だと考えていて。社員約20名の頃から『モチベーションクラウド』を導入していたのですが、2018年頃、狂っているとしか思えない高い数字が出てしまったんです。

エンゲージメントが高くて何が問題なのか。そう思われるかもしれませんが、明らかに度を超えていた。要するに、当時の従業員にとって会社は「職場」ではなく「サークル」に近い感覚になっていたんです。大変さや苦しさをほとんど感じることなく、楽しさだけがあり、それでも会社はどんどん成長していく。

もちろん楽しむことは大事です。ただ、仕事には当然苦しいこともあります。僕がつくりたかったのは、みんなで世の中を変えるために必死になり、がんばり抜く、やり抜く組織だったはず。でも、現実はそうなっていませんでした。

今は良くてもこのまま上場を目指していけば、どこかで必ず組織が崩壊し、失敗してしまう。まるでいつか爆発する爆弾を抱えているような危機感に襲われました。その時から意識的に厳しいメッセージを従業員に出すようになりましたし、ミッション、バリューなどを一新しました。ここは大きな転換点だったと思います。

+++「世界で自由に活躍できる人を増やす」をミッションに掲げるプログリット。独自の「FIVE GRIT」をバリューに掲げており、サービス同様に「GRIT=やり抜く」ことを貫く。

コロナ禍で「会社の未来」を示せなかった反省

こうして順調な成長を続けていくかに見えたプログリット。コロナ禍によって再び困難を迎えることになる。

コロナ禍によって海外渡航が禁止されるなど「短期間で英語を確実に習得したい」といった需要が急激に落ち込み、売上は伸び悩み、経営としても危機的な状況になっていきました。

当然、大きな時代の流れでいえば、少子高齢化が進む日本において、海外に目を向け、英語を学びたい人は増加傾向にある。一方で、2020年4月頃でいえば、コロナがいつ収束するか全くわからない状況でもありました。

そういった影響もあり、2020年から2021年にかけては従業員の退職も続いていきました。みんなが伝えてくる退職理由はバラバラでしたが、きっと心のなかの本音でいえば、会社に未来が感じられなかったのではないかと思っています。おそらく先が全く見えない状況で、モチベーションを保つのが難しかったのだと想像しています。

私自身、社会人になってから、災害や金融危機など含め、社会全体が危機的な状況に直面したのは初めてのことでした。もちろん需要は必ず戻ってくると信じていましたし、みんなの前では自信を持って話をしていたつもりでした。ただ、一人になった時には「本当に大丈夫だろうか」と信じきれない自分もいた。正直、経営者としては右往左往しており、うまく舵取りができなかったように思いますし、従業員のみんなにはそういった迷いも伝わってしまっていたかもしれない。経営者として不甲斐ないですし、申し訳ない気持ちがありました。

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逆境が僕らを強くしてくれた。

同時に「コロナ禍は会社を大きく成長させるきっかけになった」と岡田さんは振り返る。

これは結果論ですが、コロナ禍を経て、私たちは筋肉質で強い組織になったと思います。コロナ禍によって図らずも既存サービスの売上が下がってしまった。そういったなか、できることといえば「新たな収益基盤をつくること」と「コスト削減」でした。

前者の新サービスでいえば、2020年6月に『シャドテン』をリリースし、より気軽に英語を学習したい方々から支持が得られ、新たな顧客開拓につながりました。また、サブスクリプションモデルなので、今後、安定した収益基盤に育っていく見通しです。

そして、後者の「コスト削減」でいえば、これまでにない徹底した見直しを行ないました。数百円単位の備品から、広告宣伝費などまで、リスト化し、断捨離をしていきました。業者さんにお願いしていた掃除も自分たちでやる。オフィスの観葉植物のレンタルをやめる。もっといえば、加湿器のサイズも一回り小さいものに切り替えたりもして(笑)

どこに、どういったコストが発生しているのか。経営陣含め、いかにコスト管理が重要か、共通認識を作ることができ、すごく良い機会になりました。もしかするとコロナ禍がなければ、もっと早く上場できたかもしれませんが、それまでの甘いコスト管理でやっていたら、どこかで大きな落とし穴に落ちていたかもしれない。今の会社で上場を迎えられたのは、良かったと思っています。

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調子が良くて楽しい時ほど、成長はしていない

そして最後に伺えたのが、岡田さんにとっての「ハードシングス」とはーー。

改めて考えてみたのですが、正直、私が向き合ってきたことは全て「ハードシングス」ではなくて。困難なことがあっても「なかなか渋いな」くらいの感覚しかないというか。もちろん、事業上のリスクなど悲観的に考えることはありますが、根でいえばすごく楽観的なんですよね。

おそらく、どれだけ困難なことがあっても、それは自分や会社が成長していくための糧になる。これまでの経験から、困難にぶつかった時にこそ成長ができ、自分にとって素晴らしい時間になっているんですよね。逆に言えば、調子が良くて、楽しい時ほど成長していないと思います。

私自身、飛び抜けて頭がいいわけでもなく、特別な才能がある人間でもありません。ただ、粘り強くやり続けてさえいれば、最終的にはうまくいく。ただ単に運がいいというのもあると思いますが、振り返ってみると大学入試にせよ、就職面接にせよ、直前まで粘って準備したことが試験に出たりもして(笑)ゲームセットの瞬間まで勝負はわからないもの。コールド負けしそうでも、必ず勝てると信じてやり抜けば、ひっくり返せるはず。そう思えば、きっと乗り越えられない困難はないのだと思います。

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(おわり)


取材 / 文 = 白石勝也


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